1話目若干シリアス入って、2話目からはシリアス展開は一切無くなるはず。
10話以内には収めます。
ある日、夢を見た。
真っ白な空間に俺と不敵な笑みを浮かべる男の2人しか存在しない、不思議な夢を。
「―─明日、君が1番大切にしている物を貰いにいくね」
そう呟くと、その男は霧の様に消えていった。
その瞬間、頭の中に不快感を覚える音が聞こえ始めた。
ジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリ
聞き馴染みのある耳障りな音が鼓膜を刺激する。
手を伸ばし自身を苦しめる音の元凶を止めると、聞き慣れた声が聞こえてくる。
「晴人くん、そろそろ朝ごはん出来るよ〜!」
1階から聞こえた叔母さんの声で俺は夢から覚めた。
「今日ね、伊藤さんから沢山の梨を貰っちゃったのよ、お隣に住んでる果樹園やってるお爺ちゃんなんだけど、今年は豊作だからって何10個も貰っちゃってね、後で剥いてあげるから一緒に食べましょ。それでね…」
叔母さんはいつものようにマシンガントークを続ける、いつものように素っ気ない反応しか返さない俺に。
「…ごちそうさまでした。」
「はい、お粗末さまでした。」
食後のテンプレと化した言葉を交わし、叔母さんから食器を受け取り、台所にて食器を洗う。
片付けが終わり、テレビを見ながらゲラゲラ笑う叔母さんを横目に自身の部屋に戻ろうとリビングの扉に手をかける。
「あっ、そうだ晴人くん。」
「…」
「お昼に伊藤さんから庭でバーベキューやらないかって誘われてるんだけど、行く?」
「…俺はいいよ、大丈夫。」
そう、分かった…お昼ご飯冷蔵庫の中にあるから、と少し寂しそうに答える叔母さんを背に自室へと向かっていく、
「……まだ、駄目か。根気よくだよね、妹よ。」
1人で座るには大きすぎるサイズのソファーに腰かけ、今は亡き妹の遺影に視線を移した。
自室へ戻ると、1つの御守りを手に取り布団に横になる。
これで俺の1日は殆ど終わってしまう、学校へも行かず外にも出ず1人でずっとこうしている…1年前、母が不慮の事故で亡くなった、その日から。
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「母さん!行ってきます!」
「気を付けてね、行ってらっしゃい」
俺は見送りに来てくれた母さんに手を振り、急ぎ足で学校へ向かって行く。いつもより早く、駆け足で。
何故なら今日やっと、工作の授業で作っている造花が完成するからだ。
「母さん、喜んでくれるといいな」
そう呟き、楽しそうに笑うとより一層走る速さを上げていく。
その時の俺はもう一生母さんに会えなくなるなんて夢にも思っていなかった。
「じゃあな、ハル。また明日!」
「うん、また!」
学校が終わり、下校を共にしていた友人と別れると玄関の前で深呼吸をした。母さんへのプレゼントは何度かした事はあるが、自分で手作りした物を渡すのは初めてで緊張していたからだ。
「大丈夫、上手く作れた、絶対喜んでくれる、大丈夫」
自分に言い聞かせるように何度も呟くと、玄関に手をかけ、勢いよく戸を開く。
「ただいま〜母さん!晴人、帰りました!」
………………?
いつもなら直ぐに返ってくるはずの返事がない。
「母さ〜ん!」
「帰ってきたよ〜!」
「出掛けてるの〜?」
何度呼び掛けても母さんからの返事は返ってこなかった。
今は出掛けているのだろうと思い、1度自分の部屋へ戻ろうとする最中見つけてしまった。
階段下で頭部から血を流し倒れている母親を。
「……え…母さん?」
状況が飲み込めない。
「どうしたの?大丈夫?起きてよ、母さん」
何度声を掛けても体を揺すっても反応が無い。
「血が凄くいっぱい出てるよ…早く起きて治さないと」
もう動かない母親に声をかけ続けた。もう母さんが目を覚まさない事は多分分かっていた、けど認められなかった。ずっと声をかけ続ければ、体を揺すれば目を覚ましておかえりなさいと優しく言ってくれると信じなければどうにかなってしまいそうだったから。
結局俺は戸が空いている事を不審に思った近所の人が様子を見にきてくれるまで、とうに事切れていた母さんに声をかけ続けていた。
…母さんの葬式が終わり、叔母さんと生活をする事になった頃には俺の心には大きな穴が空いてしまった。
それが当時11歳だった頃の出来事だ。
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それから俺は全ての気力が無くなってしまった、母さんが亡くなってからの1ヶ月間は自分の意思で飲み食いすら出来なくなっていた。叔母さんが献身的に世話を焼いてくれなかったら俺は今生きていなかっただろう。
そして、この御守り。
母さんが俺の為に作ってくれた、最後の贈り物。これが俺に母さんが生きていた頃の、全てが楽しかった頃を思い出させてくれる。
この御守りと母さんとの思い出が俺に少しだけ生きる気力を分けてくれる。心に空いた穴を一瞬だけ埋めてくれる。
「…だけど、いつまでもこのままじゃ、ダメなんだよな…」
自分でも分かってる、早く立ち直らなきゃダメだと。
こんな無気力で自堕落な引きこもり生活を続けていたら天国の母さんも喜んでくれない事も、叔母さんや友人達にも心配や迷惑をかけ続ける事も、全部頭では分かってるんだ。
「…分かってるけど…もう少しだけ俺に時間を下さい。」
そんな自問自答を繰り返しながら俺の1日は終わっていく、いつも通りただただ心をすり減らしていくばかりの1日が。
また、夢を見た。
昨日見た夢と全く同じ場所で全く同じ表情を浮かべる男が俺に語りかけてくる。
「君が1番大切にしている物はこれなんだね…確かに彼女の残滓が見える、納得だ。」
机の引き出しに入れていたはずの御守りはいつの間にか彼の手の中にあった。
「…っ!返せ!」
手の中の御守りを興味深そうに見ている男に掴みかかろうと飛びかかるが、その行動を予想していたかのように躱されてしまう。
「危ないなぁ、君。何事も力づくってのは関心しないよ、僕は。」
「じゃあ昨日の約束通り、これ、貰っていくね。」
「ふざけるな!それは俺の…」
と、言い切る前にその男はまた霧の様に消えていってしまった。
そしてまた聞き慣れた不快音が鼓膜を襲う。
ジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジガチャン!
昨日よりも早く夢から覚めた俺は飛び起き、目覚まし時計を強く叩くと鼓膜を襲う音は消えていった。
「はぁっはぁ…夢だったのか、そうか」
先程まで見ていたのは悪夢だったのか。そう気付くと彼は安心感からか布団に倒れ込む。
「それにしても変わった夢だったな…一昨日も同じ様な夢を見た気が…」
慌てて飛び起きた反動と寝起き状態により半分も機能してない脳みそで夢の内容を少しずつ思い出していく。
『──明日の朝、君がもっとも大切にしている物を貰いに行くね』
『君が1番大切にしている物はこれなんだね…確かに彼女の残滓が見える、納得だ。』
『じゃあ昨日の約束通り、これ、貰っていくね。』
そうだ、夢の中で俺は変な男に母さんの形見の御守りを…
「まさか、な」
布団から離れることを拒む身体を起こし、御守りがある筈の机の引き出しを開け、御守りの存在を確認しようとしたが、そこに御守りはなく代わりに、1枚の手紙が入っていた。
「…嘘だろ、なんでない!それになんだこの手紙は!誰が、どうやってっ!」
慌てて周りを見回して見るが誰かが部屋に侵入した痕跡は全くなかった、窓ガラスの鍵も部屋の鍵も閉まったまま。
その他にも色々調べたが、何一つ昨日と変わっていた物は無かった。無くなった御守りとその代わりに入っていたこの手紙以外。焦りにより早くなった鼓動を深呼吸をし落ち着かせ椅子に腰掛け手紙を見る。
『御守りを返して欲しかったら僕の元に辿り着いてみなよ、ヒントは君達が埋めたタイムカプセルの中、だよ。』
俺はもう一度深呼吸した、冷静になるためだ。どうやって御守りを奪ったかとか、タイムカプセルを埋めたのを何で知っているかとか、今考えても分かる訳が無い。今やるべき事は御守りが無くなった事を叔母さんに相談して、警察を呼んでもらう事だ。俺が分からなくても警察ならどういう方法で盗まれたかの検討も着くはず…
『PS.この事は2人だけの秘密だよ。約束破ったら御守り、もう返さないから。』
これで他人に助けて貰うという案は無くなったな、最悪だ。
というか、この状況だとこの愉快犯の戯言に付き合うという選択肢しか無い訳だな。
…1年ぶりの外出がこんな形になるとは夢にも思わなかったが、母の形見を取り返す為に。そして。
「犯人を1発ぶん殴る為に…っ!」
ご覧頂きありがとうございました!
1週間に1〜2話を目標に書いていこうと思いますので、良ければ最後までお付き合いください。
多分…1週間に2話は書けないかも…初執筆だから、配分分からないんだ…