【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

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先週は体調不良により更新ありませんでした。
まあ話のストックがなくなって来てるのもあるんですけどね。


【小話】柱

謹慎明けの樵人が一之進の稽古の為に最上の屋敷に行くとなにやら鯉の怒る声が聞こえてきた。

 

「まったく!こんな事をして最上様に怒られても知りませんからね!」

 

しょんぼりした子供達を縁側に正座させ鯉の指差す先には特になにも見当たらない。一之進達は正座をさせられているが、唯一二之介だけは使用人見習いの女子に抱かれていた。

 

「あの。どうしました?」

 

「ああ。樵人様。もうこんな時間でしたか。さっ一之進。支度してしまいなさい。」

 

「はい。」

 

しょんぼりとした一之進が一度屋敷の中へと入って行く。

 

「樵人様。見てください。」

 

鯉の指差す先は縁側の柱である。内側を指差しているので、縁側に少し乗り入れて覗いてみると、恐らく身長を刻んだであろう浅い線傷と歪に一、小、さ、二と書かれていた。上を見上げても最上の身長辺りやそれより下に傷はない。真っ新な柱にやってしまったらしい。せめて最上の身長記録でも刻まれていれば許されるかもしれないが、これは怒られるかもしれないなぁと樵人も思った。なにせ自分達の所為だが最近の最上はピリピリしている。

 

「ああ。これはもしかしたら最上様も怒るかもしれませんね。」

 

樵人が鯉の意見を肯定したことで、縁側に残された小太郎と小夜がさらにしょんぼりとしており、二之介はまだ理解出来る年ではないからか、使用人見習いの女子に抱かれきゃらきゃらと笑っていた。一之進達はあくまで最上の屋敷に居候している身分であり、小太郎と小夜は武士の子ですらない。武士の屋敷の柱に勝手に傷を付けたのだ。以前居た上侍達なら子供をそもそも引き取らないが、こんな事をしたら絶対許さないだろう。最上が怒るかどうかはよくわからないが、怒るとしてどこまで怒るかわからない。

 

顕金駅ができた時からある柱なのだろう。柱に年季を感じる為下手に削って消すわけにも行かない。飴色の柱をヤスリで削って消したとして、そこだけ色が変わってしまうだろう。

 

「まあ素直に謝りなさい。」

 

樵人にはそれしか言えないのである。とはいえ最上は帰宅時間が遅かったりするので、一之進達が謝るのが先か最上が気がつくのが先かわからない。

 

 

その日の夜、子供達が部屋に引き上げてから最上が帰宅した。鯉と穴子はとりあえず報告せねばと、部屋に向かう最上を引き止めて柱の前に連れて行って報告をした。最上はむすりと難しい顔をしていたが、これ以上やらせないようにとだけ言って部屋に引き上げた。とりあえず、子供達を叩き起こして折檻等とならなくて良かったと穴子達はホッと息を吐いた。

 

翌朝、朝食の席では最上は半分寝たままご飯を食べていた。いつもはちょっかいを出す小夜も、柱の件があるからかちらちらと最上を窺っているが、ちょっかいをかけるのを躊躇っていた。穴子にぺしりと肩を叩かれて、何度か起こされながら最上は朝食を終えた。席を立ち部屋から出て行こうとする最上の着流しの裾を小夜が握って引き止める。

 

「柱。傷つけてごめんなさい。」

 

まだ最上がなにも言ってないのに既に小夜はうるうると目に涙を溜めており、一之進と小太郎もすかさず頭を下げてごめんなさいと謝った。最上はまだ多少寝ぼけているので、一瞬なんのことかわからなかったが、そういえば昨日鯉さん達が報告してたなと思い至った。最上が思案していたところ、もの凄く怒っていて無視されたと思った小夜は、べしょべしょに泣きながら蚊の鳴くような声でもう一度ごめんなさいと謝った。

 

「小夜。離しなさい。別に怒ってはいない。ただしあれ以上やるな。」

 

それだけ言い置いて最上は部屋を出て行った。言葉の通り最上は別に怒ってはいないのだが、これで子供に伝わるかというと論外である。年上とばかり接しており、それなりに接する機会のある年下の無名は、こういう簡潔な応答で充分であるので最上は簡潔に応答をした。小夜どころか一之進達もこれは怒っていると判断したのは仕方ないところである。

 

穴子達は怒らなくて良かったと言葉の通り受け取ったが、子供達はそっけなくされたため怒っていると勘違いしていた。特段最上は怒ってもいなければ、普段からこんな感じであるのだが、怒られると思っていたからか子供達は言葉通り受け取らなかった。子供達は固まってしまった為、食器を片付けに厨に下がっていった穴子達も子供達の様子に気が付かなかった。

 

樵人から昨日の件の引き継ぎを受けていた雅客は、一之進の稽古に来てしょんぼりとしている子供達を見て、これは怒られたなと判断した。

 

「なんだ元気ないな。最上様に怒られたか?」

 

「怒ってないそうです。」

 

「ん?じゃあどうした?」

 

怒られてないのになぜしょんぼりしているのか分からず雅客は首を傾げた。

一之進が朝の状況を説明する中、小夜が鼻を啜りだした。

 

「おいおい。泣くなって。最上様は怒ってないって言ってたんだろ?」

 

雅客は小夜の頭を撫でながら言葉をかけるが、

 

「だって、おごっでたも"ん」

 

号泣した。雅客がおろおろしていると使用人見習いから冷たい目線を向けられた。騒ぎを聞きつけた穴子がやってきたので、朝の状況を聞くと怒っていないというし雅客には何がなんやら分からなかった。

 

穴子と鯉を交えて話したところ、最上の対応で子供達が勘違いしたということは判明したが、居候でしかない子供達に丁寧に対応しろと、最上に説明するのも違う気がするのだ。

 

最上は武士の子であるので、幼少期に泣けば武士の子が泣くんじゃないと怒られただろうし、一之進達が泣いていたら男子が泣くなと怒ってたかもしれない。女子の小夜に泣くんじゃないと怒らなかっただけ良いと思うべきか、子供の扱いを教えるべきか悩むところではある。朝の件は目線を合わせてあげるとか、頭を撫でるとかをしていればたぶん勘違いされなかった筈である。

 

機嫌を損ねた女子が、本当は怒っているのに別に怒ってないと言いながらぷりぷりしているのと違って、最上は本当に怒っていないようなので、最上の中で柱の件は終結しているかもしれないが、穴子か鯉が帰宅した最上に水を向ける程度に話をすることが決まった。

 

夜に随分と草臥れて帰宅した最上に、余計なことを言うのは憚られたが、伝えぬわけにもいかないと穴子から一之進達が勘違いしていることを伝えた。最上に何故かと聞き返されたので、一応一通り説明することになったが

 

「ふむ。女子の扱いは難しいな。鰍殿にでも引き取って貰うべきか?」

 

小夜ギャン泣き案件である。柱に傷を付けたから捨てられたと、泣く小夜の姿しか思い浮かばない。

 

最上からすれば、扱いの良くないうちにいるより、甲鉄城で面倒を見ていた鰍に使用人付きで引き継いだ方がいいだろうかと思ったのだが、穴子に違うと怒られ、頭の一つも撫でてやればいいのですと言われ、とりあえず納得した。

 

翌朝の朝食も前日と同じく小夜はちょっかいを出すことなく、ちらちらと最上を窺っていた。朝食が終わり、最上は小夜の頭を撫でるという穴子の指示を思い出し、小夜の頭を雑に撫でながらポカンとしてる小夜に

 

「もう一度言う。怒ってない。」

 

と言ってから席を立った。小夜は髪型が崩れたが、撫でられた頭に手をやり満足そうである。一部始終を見ていた一之進達は本当に怒ってなかったんだと納得した。

 

数日後、最上の在宅中に庭で棒切れを振り回していた小太郎が、棒切れから手を滑らせ雪見障子の硝子をカチ割り、最上からのお叱りを頂戴し、小太郎は涙目になり、側から見ていただけの小夜と二之介は泣いたし、一之進は成る程確かにこの間は怒っていなかったのだなと改めて思った。

 




ホモ君は子供の扱いが下手。泣いてる小夜ちゃんに、目線も合わせず頭も撫でずに言うだけ言って退室したら、そりゃ勘違いされるってものです。寝ぼけてなくてもこの対応です。

小夜ちゃん危機一髪。もう少しで鰍のお家に行かされるところでした。

穴子「違う。そうじゃない。」

まあそんなことしたら、キレた鰍と無名がギャン泣きしてる小夜ちゃん連れて執務室襲撃しますが。良かったな。命拾いしたぞ。

穴子達から報告された時にむすっとしてたのは、客を通す部屋から見えるところだからちょっと具合が悪いのと、削ればワンチャン…いやないな。みたいに考えてたから。まあ庭も畑に改造してるし、池には川魚なので当分客を呼ぶ予定はありません。個人宅に呼ぶとしたら、今のところ山本君くらいしか思い浮かばないしまあいいかの精神。
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