「えっ?来栖と手合わせ?いいよ。」
この日、来栖と無名が手合わせすることになったが、本気で手合わせするわけではない。というのもこれは最上が頼んだもので、無名が海門で使っていたスピンカートリッジの蒸気筒での戦い方を一部参考にしたいからである。
来栖は木刀、無名は弾の入ってない蒸気筒である。本気でやってもらわないのは、純粋に参考にならないからだ。残念ながら本気の無名の動きは最上には真似出来ない。
最上は普段刀と蒸気筒を携帯しているが、勿論近接で蒸気筒を使うことはない。普段使っている蒸気筒では、蒸気を送る管が邪魔で取り回しが悪く、近距離なら間違いなく刀の方が良いからである。それでも無名の戦い方を参考にしたいのは、蒸気筒を使っている時に急接近された時対策である。持ち前のセンスで、何を使っても戦う事の出来る無名の戦い方は参考に丁度いい。
刀は歴史があるため色々な流派が存在しているが、蒸気筒でぶん殴る戦い方など、カバネ相手しかしていない武士達で発展する訳がないのだ。ぶん殴っても殺せないので、そもそもぶん殴るという発想がなかったというべきか。過去に来栖が生駒をどついてはいるが、技術として体系化されているわけではない。
来栖と無名は6割くらいでと言われた為、準備運動のような手合わせを始めた。
「これ最上さんに向いてないと思うんだけど。」
「臂力が弱いから向いてはいないな。まあ蒸気筒を使ってる時に、少し使うくらいならいいんじゃないか?」
「そりゃそうだけど、スピンカートリッジに持ち替えるわけでもないんでしょ?」
「持ち替えんだろうな。蒸気筒に持ち替える時は後衛まで下がるから、安定して使える今の蒸気筒の方がいい筈だ。」
「実は私対策だったりして。」
「それはないな。あいつが正々堂々お前に挑むものか。勝てない戦いは基本的にしない。それにお前対策なら己とやらせる必要がない。最上がお前と手合わせした方が意味がある。」
「そういうもん?」
「例えば己を最上が殺すと決めたら、刀で挑まず毒とか盛ってくるぞ。きっと。」
「えぇ〜。武士としてそれで良いの?」
「あいつにそんな安い矜持はない。目的の為なら手段は選ばない。」
のんびりと喋っているが、二人とも激しく打ち合っており、互いのリズムに釣られてどんどん早くなってきている。
「こら!もう少しゆっくり!」
「はぁい。」
「むっ。中々難しいな。」
暫く打ち合った後、最上に声をかけられて手合わせは終了した。
「で?これなんのためにやったの?」
「他の武士達もそうだが、蒸気筒を使っている時に高所とかから予期せぬ襲撃を受けた場合に使える手段が欲しくてな。防ぐ、叩く、距離をとる。くらいの動きを身につけておけば、前衛が戻るなり他の武士が仕留めるなり出来るだろ。ある程度体系化して訓練しとかんと咄嗟に動けないからな。」
「でも私の戦い方スピンカートリッジのやり方だよ?」
「連撃するなら、スピンカートリッジの様に管の接続のないものが望ましいが、連撃するつもりはないから大丈夫だ。受けてから攻撃に入る動きを見たかったんだ。無名殿の動きは無駄がなくて美しいからな。」
「えっ?そうかな?えへへ。」
「カバネリの身体能力に関係なく、無名殿の動きは最適化されていて、最早才能以外では言い表せない。」
「やけに褒めるな?」
「そうか?お前の剣術も素晴らしいが、それは元々流派として確立されたものを昇華させたものだ。だが無名殿は大体何を持たせても直ぐに最適な動きをする。これを才能と呼ばずに何という?惜しむらくは言語化が難しい事だな。」
「えへへ。褒められた。」
(教えるのが下手だと言われているがな。)
「凡そわかったから、後は基礎に出来そうな動きに落とし込んで反復練習だな。使えそうなら武士達にも教える。」
「ふむ。興味があるんだが。」
「お前には必要ない。お前は刀だけ極めてろ。」
「あっはっは!じゃあ折角だしもう少し本気で手合わせしよっか。」
「怪我しない程度にな。」
来栖と無名の手合わせの傍ら、最上は基礎への落とし込みに勤しんだ。来栖達は高速で打ち合っており、その二人を見て最上は、やっぱりこいつらとは戦いたくないなと再認識した。
数日して基礎への落とし込みを終え、瓜生を付き合わせてさらに動きを最適化させ、武士達に受け流し方や引き打ちを教える事となった。とはいえあくまでも緊急時の使い方であり、積極的に使うものではないため護身術に近いものである。訓練風景を見た無名などは
「もっとパッとしてトントンピってした方がいいんじゃない?」
と口にして、瓜生に一蹴されていた。
説明も理解出来ないが、恐らく理解出来ても実現不可能な動きであるので、最上も理解を放棄した。
武士達に先んじて狩方衆に教えたところ、なかなか反応が良く狩方衆からの意見も少しばかり反映されている。
武士達に教えた際に、いっそ刀つけようぜとの意見が出たため、銃剣スタイルが確立され、蒸気筒に取り付けられる銃剣が開発された。既に無名は飛び出し式の銃剣を使っているが、武士達のものは後付け方式である。銃剣は無闇に振り回せば危険な為、狩方衆と武士の一部に配備され、試験期間が設けられることになった。
最上は蒸気筒を負い紐で襷掛けにしていることから、銃剣は邪魔になる為採用しなかった。銃剣を携帯するだけしても良いのだが、銃剣を持つくらいなら二本差しにしろと、来栖と道元から大変不評であった。とはいえ最上の体格で二本差しで蒸気筒まで背負うと、見た目がガチャガチャしており非常に戦いにくそうな上、最上も重いから嫌とのことで変更は無しとなった。さらに銃床での打撃が人一倍軽いとケチをつけられた為、問題のない程度に銃床を切り詰め、内部を削って軽量化を図る暴挙に出た。打撃を捨てたのである。
「お前が考えた戦い方をお前が放棄してどうする。」
「軽い軽いとケチをつけたのはお前らだろ。だったら軽量化して速く動けるようにした方がましだ。受け流して離脱する。」
ただでさえ、ひと回り小さく軽くなった蒸気筒を軽くしたことで、最上の蒸気筒は今顕金駅に存在する蒸気筒の中で最軽量となった。吉備土などは旧型の蒸気筒の銃床に金属を付けた為、顕金駅で最重量の蒸気筒である。勿論吉備土の蒸気筒も新型と同じくライフリングが刻まれている為、有効射程は格段に伸びているものとなっている。
他駅に出荷される蒸気筒は新型のみであるが、顕金駅の武士達では鈴木や生駒に相談してカスタマイズされたものが流行ることになった。
狩方衆は元々画一的な装備で戦力が均一化していたこともあり、新型の蒸気筒に銃剣を付けるか否かくらいの独自性にとどまった。行商の都合もあるため、標準装備を好んで使ってくれるところが最上にとっても助かるところである。
高速で打ち合う無名達と戦いたくない理由はスピードだけならついてけるけど(純粋な速さなら来栖より速いので)威力が段違いなのでw
銃剣後付け方式の理由は、既存の蒸気筒を少し改造すれば使える様にするため。いちいち蒸気筒から作ってられないので。
今ちょっと長いの書いてます。小話よりってだけで3、4話構成位になる予定。