本編軸の来栖と同い年になりましたが身長伸びてません。もうこのままでいいかなって思ってます。
もうね。人増やさんと駅の運営が厳しくて仕方ない。
「最上君。結婚せんか?」
「どなたとです?」
共にいた服部は急な話題にギョッとしたが、最上は平然とした態度で道元に問い返した。
「倉吉駅の姫だな。」
「以前破談になったのでしたか?」
「そうだ。どうやら元々あった嫁入り話が流れた後、嫁入り先が決まらぬらしい。」
「何故です?倉吉駅の姫とあればいくらでも嫁ぎ先などあるでしょう。」
「大層な美姫であったが、2年前駅であった火災で顔が焼けてしまい、普段は面を付けて生活しているらしい。今となっては姫の護衛以外は寄り付かぬそうだ。」
「はあ…。二目と見られぬ程だと?」
「素顔をみせたら婚約者が裸足で逃げ出したそうだ。」
「護衛はついて来るのですか?」
「そのようだ。護衛の武士達の忠誠心は、顔が焼けたくらいでは失わなかったようだ。」
「ふむ。悪くないですね。武士の手が足りておりませんし。姫の不利益になるようなことはしないでしょう。婚姻で手を増やすのは良いですね。」
「だろう?顔合わせで君が逃げ出さなければ成立する婚姻だ。正直を言えば君の婚姻の手札はもう少しとっておきたいところではあるが、このままでは政が滞るのが目に見えているしな。」
米子駅、宍道駅を経由して伯耆の国の倉吉駅から届いた婚姻話は、顔合わせの日程まで直ぐに進んだ。姫の歳は菖蒲の二つ上で顔も焼けているとなれば、早く結婚させてしまいたいのだろう。20を越えれば行き遅れなのだ。倉吉駅の領主は、嫁入り先から破談されて直ぐに伯耆の国の駅で嫁入り先を探したそうだが、まだ金剛郭が崩壊する前で駿城の行き来もそれなりにあったため、瞬く間に姫の火傷の話が広がってしまった。倉吉駅は伯耆の国最大の駅である為、家格を考えるとそれなりに上位の武士の下にしか嫁げない。しかし回った噂のせいで全く取り合ってもらえなかった。今回顕金駅に手紙を出したのもダメ元であったので、顔合わせをしようという道元からの返信に領主は仰天した。
顔合わせが決まり、菖蒲と道元のどちらがついて行くかが一番揉めた。何せ婚姻とは政治手段である。まして今回は嫁の貰い手がない姫を引き取る形になるのだから、有利に関係性が結べるので道元が行きたい。菖蒲も領主の娘を貰うのだから、領主の私が行くべきとの主張であった。
先の理由も勿論あるが実のところ、取り残される方が一人で顕金駅を回さなければならないのだ。さらに二人ともあまり外に出る機会がないため、余所の駅に出歩きたいのもある。
「最上!私と叔父様のどちらが良いですか⁉︎」
「道元様で。」
即答であった。
「何故です⁉︎」
「いえ。本来なら菖蒲様の方が良いのでしょうが、顔の焼けた姫に会いに行くのに、お美しい菖蒲様を連れて行くというのはちょっと。」
「あっ。」
最上も政の都合上、残すなら道元の方が良いのだが、姫の事を考えれば菖蒲が最上を伴うのは気まずいのだ。
最上の一言で道元が顔合わせについて行くことが決まり、顕金駅再興から初めて最上も道元も不在となる。
甲鉄城出発の日
「良いですか菖蒲殿。我々が不在の間余所の駅と大きい契約は避けて下さい。万が一の際は滞在させて勘太郎に伝書鳩を飛ばして相談するなり、呼びつけるなりなさって下さい。これは菖蒲殿が力不足とかではなく、お父上も家老と相談の上決めていたからです。」
「わかっております。」
「菖蒲様。謁見の際の護衛は必ず来栖にして下さいね。私が同席している時は来栖以外の時もありましたが、不在ですので基本的に来栖を連れ歩いて下さい。謁見は必ず来栖を置いて下さいね。婚約もしておりますのでなにを言われても下げる必要はありません。雅客も一時的に引き上げてますから来栖が離れるときは、服部と雅客から絶対に離れないで下さい。」
「わかってます。」
残される側が出発する側からもの凄く心配されていた。
「もう。二人とも心配しすぎです。こちらの心配をしすぎて、あちらに失礼のないようにして下さいね。」
「はい。問題なければ結納まですませて来ます。来栖頼んだぞ。」
「政はともかく、護衛は必ず。」
「政はともかくではないんだが。まあいいか。」
道元達は城で菖蒲への挨拶をすませた後、甲鉄城で顕金駅を出発した。
一方倉吉駅では
「見合いなんてしても、どうせまた逃げ出すわ。お父様も諦めて下されば良いのに。」
「桔梗様。そのように仰ってはなりません。」
「見合いはなんの面にしようかしら。般若とかどう?」
「素顔を見る前に逃げ出しそうですね。」
「般若くらいで逃げ出したら笑ってやるわ。」
「その意気です。とはいえあまり笑ってはいけませんよ。」
倉吉絣に身を包んだ女性が、顔に般若の面を当てながらくすくすと笑う。護衛の男に一応嗜められているが、護衛の男も以前結納まですませた男が、桔梗の焼けた素顔を見て逃げ出し、桔梗が大層落ち込んでいたのを見ているので、また傷付く可能性のある見合いには否定的であった。桔梗は今年で20を越え、相手の目処もつかず行き遅れなどと言われてしまっているため、見合いをさせないわけにもいかぬのが苦しいところである。
見合いと言えば偶然を装い、姿を確認する程度が普通であるが、桔梗の事情から城で部屋を用意して席に着いた状態で顔を合わせることになっている。
見合い当日。
「旭!大変だわ!ちらっと覗いてきたけど私の見合い相手子供だわ!」
旭とは護衛の男の名前である。領主に謁見している道元達を覗きに行った桔梗は、小走りで見合いで使う予定の部屋へと戻ってきた。
「はしたないですよ。相手は17だそうですが。」
「あれで?鯖読んでないかしら。泣いたりしないわよね。未婚の家老って言うから、てっきり何か問題のある年寄りでも来ると思ってたのだけど。おかめにすれば良かったかしら。」
「桔梗様の素顔を確認しにきたのですから、面などどうでもよろしい。」
「逃げ出したらせせら笑ってやろうと思ってたのに。流石に可哀想よね。困ったわ。」
「17は充分大人です。笑ってやればよろしい。」
「旭ったら厳しいわね。でも17で家老ってよっぽど人が居ないのね。」
見合いのために準備した部屋にひと足先に入って領主は驚愕した。
(桔梗!何故般若なのだ!見合いと言っただろう!)
(どうせ素顔を見たら逃げるのだから、面などどうでもいいでしょう!)
(だからと言って般若はないだろう!)
領主と桔梗はひそひそと喧嘩しているが、とうとう道元達が来てしまった。
「顕金駅の牧野道元様、堀川最上様が参られました。」
襖が開いて道元も最上も困惑した。
((般若がいる…。))
一瞬困惑したものの、二人は案内に従って席に着いた。
「桔梗。面を外しなさい。」
「はい。」
般若の面の下から現れたのは、顔面の上半分が火傷で爛れ皮膚が変色している。
「…視力に問題はございますか?」
「は?」
「視力です。問題なく見えておりますか?」
「はい。問題ありません。」
(お医者様かな?)
領主と桔梗は困惑した。逃げ出すか泣き出すか、はたまた顔を歪めるかと覚悟していたが、じっくりと観察されて視力の心配をされている。
「最上君。問題は?」
「特にありません。」
「では話を進めよう。よろしいですな?」
「えっ!はい。桔梗。堀川殿と庭でも歩いてきなさい。」
「えっ?は…はい。」
困惑する桔梗は般若の面をつけて、最上を庭へと誘った。
「恐ろしくはないのですか?」
「般若の方が怖いですね。」
「そうですか。…家老だと聞いておりますが、随分お若いのですね。」
「カバネにのまれた当時、駿城に乗れた者しかおりませんから、どの役職も人手不足なのですよ。」
「顕金駅の方々はカバネと積極的に戦うと聞きましたが本当ですか?」
「ええ。この顔合わせが終われば、顕金駅で生産されている武器のお披露目の予定ですから、その時にカバネ殺しを家老の方に見せる予定になってます。」
「最上様も出るのですか?」
「勿論。カバネを引っ張って来るのが私の役目なので。」
「家老なのに⁉︎」
「ええ。人手不足なので。」
「私も見に行っていいですか?」
「えっ?どうでしょう。こちらとしては問題ありませんが、領主様に確認しないとなんとも。」
「じゃあ聞いてきますね!」
「あっ。」
桔梗は最上を庭に置き去りにして、領主にこっ酷く怒られたが、甲鉄城に乗ることは許可されたため、武器の実演販売のためのカバネ殺しに立ち会うことになった。護衛には必死に止められたが、顕金駅に嫁ぐのだから見ておきたいと言えば渋々承諾された。
「桔梗様。危険ですので、道元様から離れないで下さいね。」
「はい。わかりました。」
桔梗は般若の面のまま、甲鉄城に乗り込んだ。
(般若だ。)
(何故般若?)
ちらりちらりと視線は向けられたものの、なにぶん甲鉄城は忙しいため視線を向けたのは最初だけで、あとはそれぞれ自分に任された仕事にかかりきりになっていた。一通り武器のお披露目が終わり撤収となる頃には、特に桔梗がいることを気にしている者はいなかった。蓬莱城と違い、乗務員の間にはそれなりに距離があるので雑談することもなく黙々と作業に勤しんでいた。
瓜生は最上の嫁予定の女が般若の面をつけていたので、心の中で鬼嫁とあだ名をつけた。口に出すと最上どころか道元が怖いので口には出さない。機嫌を損ねると一番まずい相手は道元だと認識しているのだ。普段はおっさん等と呼んで無礼なことこの上ないが、こういう場面の空気は読むのである。
倉吉駅に戻ってから結納をすませて甲鉄城は引き上げて行った。
「大変だわ。旭。私の旦那様ちっちゃくて可愛いのに、凄かったわね。」
「ちっちゃくて可愛いとかご本人に言わないで下さいよ?侮辱です。あとまだ婚儀は終えてませんよ。」
「だって私より小さいんだもの。…いいじゃない。結納までしたんだし。」
実は桔梗は最上より2寸程背が高かった。身長の高い護衛達に囲まれて育った桔梗には、ちまっとした最上が可愛く見えた。夫というより弟に対する感情である。桔梗は機嫌が良さそうにしているが、つけている面は般若である。
桔梗の護衛の武士は、顕金駅で言うところの下侍、来栖達と同じ立場の武士である。元々上侍にあたる武士も護衛としていたのだが、顔が焼けてからあからさまに距離を取られたので護衛から外すこととなったのだ。残った護衛達は桔梗について顕金駅へとやってくる契約となっている。
倉吉駅には後継となる桔梗の兄がいる為、上侍の護衛は全員そちらに着いてしまったのだが、顕金駅としては上侍等扱いに困るのが必至であるので丁度いい。
桔梗は菖蒲と違い総領としての教育は受けていないが、顔さえ焼けていなければ、他駅の総領の下へ嫁ぐ予定であった為、家中の人事管理や家内文書の作成、総領が領主となり死亡した際に行うべき一時的な領主代理の教育を受けており、なにより菖蒲ほどのお人好しではなく、政に必要な非道に嫌悪感を抱くこともない。要は政の人手として評価されている。一時的な領主代理は家老がいる事が前提となっている為、一人でなんでも出来るような教育を受けている訳ではないのだが、今の顕金駅では充分な戦力なのだ。桔梗が特別有能というより、顕金駅の行政力の無さ故である。
桔梗に着いてくる護衛の武士達は年嵩の者が多く、幼少期にそれなりの教育を受けており、性格も顕金駅の武士達より道元達に近いものがある。顕金駅の武士達は来栖が護衛に引き上げられたことで、来栖が配下として抱え込み一致団結していた経緯があるが、桔梗の護衛は桔梗の兄が拾い集め上侍の下に付けたのである。善意というよりは護衛として真っ先に死ぬのは下侍からの方が良いという発想からで、下侍は上侍を守り、上侍は桔梗を守る構図である。
桔梗にとっては上侍は火事の際自分を守れなかった無能であり、燃え盛る炎の中助けに来た下侍達こそが護衛に相応しいとして、火災の後から下侍達を重用し、嫁入り先にも連れて行くべく教育も施した。火災の後兄の下にそそくさと侍った上侍を、兄は桔梗に戻そうとしていたが、"無能な薄情者など要りませぬ。"と断った。上侍達は桔梗を守れなかった無能として、こそこそと後ろ指をさされているが、家格が高いため降格等でとどまっている。
桔梗の護衛達は30人おり、10人ずつ3交代制であった。桔梗が教育した程度ではあるが役人となれる者が30人増える事となる。
後に桔梗は顕金駅の非公認の暗部を統括し、現在の護衛武士を主軸に、カバネではなく顕金駅に都合の悪い人間を人知れず消す存在となり、道元達に重宝されることになる。閨を共にしながら、消えてもらう相手の相談をするやべぇ夫婦となるのだが、未来の話である。
善人ばかりの顕金駅に外道をものともしない奴らがログインします。桔梗さん自体は物理面は特別強くないです。口は達者で思考は道元達寄り。必要なら人を殺す判断も見捨てる判断も、手段を選ばず人を殺す事も出来るタイプ。護衛武士達は普段は普通にお仕事してます。
綺麗なことは来栖の配下、汚ねぇことはホモ君の配下で分かれます。万が一キレイキレイする必要が出た時に、ホモ君の一派を消せば済む単純構成を道元様とホモ君が作ってます。
後の瓜生「似たもの夫婦だな。初見の時般若の面つけててヤベェ女だと思ったら、想像よりヤベェ女だった。」