【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

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敗走

その日顕金駅は大騒ぎであった。

甲鉄城の者が送ってきた伝書鳩が原因である。

 

『死者3名、重傷者6名、軽傷者10名。最上、瓜生の両名は重傷。安芸国府中駅にて治療及び隔離中。至急蓬莱城の派遣願う。』

 

顕金駅再興後初の大損害である。

甲鉄城は基本的に線路沿いのカバネを狩るが、蓬莱城のように態々血をまいて呼び集めたり、危険そうな場所に突っ込んだりはしない。まして最上と瓜生が退き際を誤るとも思えない。

 

伝書鳩につけられる長さの手紙の為、詳細は不明であったが最上と瓜生重傷の知らせを受けて、事態を重く見た菖蒲は蓬莱城の派遣にあたり、吉備土に代わり来栖を城主とし、民人上がりの武士に代わり服部や雅客等の元々の武士達を連れて行かせる決定をした。政に多大な支障が出ることになるが、背に腹は変えられないのだ。

 

 

蓬莱城が府中駅に着いたときには、甲鉄城の手紙に書かれた日付から既に3日が経過しており、重傷者以外は操車場にて甲鉄城と待機していた。蓬莱城から下車した来栖の元に、狩方衆の1人が駆け寄ってきた。

 

「何があった。報告しろ。」

 

「ワザトリです。府中駅手前の山間部にてカバネに取りつかれ、ワザトリ1体他カバネ6体に車両内部に侵入されました。カバネの内1体は扉を開ける知識を習得していました。ワザトリが入り込んだ側は車体が破壊されていましたが、他から入り込んだカバネは扉を開けていました。ワザトリについては、厩舎車両から外に叩き出す事には成功しましたが、討伐には至っておりません。重傷者6名については感染は認められておりません。」

 

「重傷者の詳細を報告しろ。」

 

「瓜生様は肋骨と左足骨折、最上様は袈裟懸けの刀傷でまだ予断を許さない状況です。他重傷者内一名はカバネに右手首を噛まれたことから、最上様が武士の刀を使い肘関節から切断。他3名はワザトリによる刀傷によるものです。」

 

「最上と瓜生が揃っていてやられる程か。」

 

「太刀使いのワザトリでした。…来栖様とお二人の手合わせを見ているようでした。」

 

「ワザトリを叩き出した場所はどの辺りだ?」

 

来栖の問いに狩方衆は地図を広げて対応し始めた。来栖の後ろで報告を聞いていた武士達は動揺した。なにせ来栖クラスのワザトリが潜んでいるのだ。

 

「おいおい。来栖みたいなワザトリが来るのかよ。蒸気筒当たるのか?」

 

「カバネリ相手みたいなもんだろ。蒸気筒が当たるとも思えないな。掃射筒の使用の方がいいだろうな。それでも気休めだが。というか扉を開ける?学習したのか…。」

 

「戦闘技術を習得できる頭はあるんだ。扉の開け方を習得した奴がいてもおかしくはない。」

 

「ワザトリは私と生駒と来栖が相手した方が良いよ。みんなはワザトリ以外に対応してくれれば大丈夫。」

 

無名の言い分に武士達は黙り込む。確かにカバネリや来栖相手に無傷で済むとは思えない。同格をぶつけるのが道理である。

 

 

蓬莱城は狩方衆から報告のあった地点の探索、探索で見つからない場合は血を入れた瓶を使う方針で固まった。来栖と無名が、瓜生からワザトリについて聞いておきたいと申し出た為、重傷者の入院している病院に数名で面会に行くことになった。

 

「悪りぃな。ご足労いただいて。」

 

「いや。お前達がやられた以上、己達が来るのは当然だ。ワザトリはそれほどだったか。」

 

「ありゃ無理だわ。忠犬に近い。俺が叩き斬られなかったのは奇跡だな。仔犬ちゃんは刀巻上げられて、袈裟懸けにばっさりやられてた。まだ死んでねぇみたいだけどな。」

 

「待て。最上が刀を巻上げられただと?」

 

「ああ。まだ甲鉄城の車内にブッ刺さってんじゃねぇの?仔犬ちゃんが後ろに跳ぶのがあとちょっと遅れてたら、胴体が泣き別れだったぜ。俺は胴体に蹴りくらって吹っ飛んだ。出たらまずいもんが出るかと思ったぜ。」

 

「よく車外に追い出せたな。」

 

「俺たちが殿をしながら、厩舎車両まで誘導して手投げの擲弾で叩き出した。叩き出す前に俺たちはやられたわけだが。車内だと掃射筒使えなくて参ったぜ。擲弾もどうかと思うけど死ぬよりましだ。仔犬ちゃんの馬はもう走れねぇかもしれねぇがな。馬なんか避難させてる余裕なかったからよ。」

 

「…。」

 

「言っとくが、野良カバネリ。お前じゃ無理だぜ。死にたくなけりゃ無名と忠犬に任せな。てめぇの泥臭い戦い方に付き合ってくれる奴じゃねぇ。黒血漿でもあるなら別だが。」

 

「俺だって「承知した。」

 

「来栖!」

 

「3人では連携が取りにくい。己達の手が塞がっている間、他にワザトリが来ないとも限らん。生駒はそちらの警戒を頼む。」

 

「〜っ…わかった。」

 

生駒は顔をぎゅっと歪めていたが、無名と来栖の速度についていけないのも確かであるので渋々引き下がった。

 

一方最上の病室には仁助と雅客が向かっていた。最上は点滴をされこんこんと眠りについていた。発熱しているようで顔には朱が差しており、苦しそうに呼吸をしている。カバネの所持している刀など碌なものではない。破傷風になる可能性もあるのだ。

 

「袈裟懸けの刀傷が一番の負傷です。意識は戻っています。発熱のせいで寝たり起きたりを繰り返している状況です。甲鉄城の方から輸血も受けました。あとはこの方の体力次第でしょう。」

 

「…分かりました。ありがとうございます。」

 

府中駅の医者から簡単な説明を受け、仁助は感謝を述べた。

 

なんだかんだで今まで最上は前衛を勤め上げてきた。ここに来てここまでの大怪我を負うことになるとは誰も想像していなかった。ワザトリ相手にころころと転がされているさまは何度も見てきた。だが致命傷を負うような真似はせずに、素直に吹き飛ばされたり、回避に注力していたのを知っている。

 

「仁助。最上様…大丈夫だよな。」

 

「わかりません。感染症になれば体力が持たないかもしれません。」

 

「…。」

 

意気消沈した仁助と雅客は来栖達に合流した。

 

「最上はどうだった?」

 

「まだなんとも。意識は戻っているそうですが、私達が病室にいった時には寝ていました。発熱もしてますし、感染症が心配ですね。まだ発熱してるとなれば少々怪しいので。」

 

「そうか。…今回のワザトリは厄介そうだ。己と無名が請け負う。他のカバネは任せるぞ。」

 

「「承知。」」

 

 

蓬莱城は甲鉄城の無傷の面子を加えて府中駅から、ワザトリの最終確認地点まで移動した。車上には来栖、無名、生駒が待機し、カバネの襲撃に備えていたものの襲撃は無く、無名が血の入った瓶を投擲する事が決まった。

 

「太刀使いのワザトリが来たらすぐに報告しろ。」

 

来栖の指示に甲鉄城の面子は頷き周囲に注意を払う。無名が瓶を投擲しカバネが集まりつつあるが、甲鉄城の面子からワザトリの報告は上がらない。

 

一日目はカバネの襲撃のみで、ワザトリを確認することは出来ず、不完全燃焼のまま府中駅に帰還することになった。府中駅には迷惑がられるのでは、と来栖は予想していたのだが予想を裏切り、府中駅からはワザトリ討伐までは滞在してくれと頼み込まれる事態だ。二軍面子である甲鉄城であるが、府中駅からすれば先日のカバネ狩り月間等と、狂ったことしながら快進撃を続ける顕金駅の駿城の内の一城が、敗走した相手であるので討伐してもらわねばおちおち安心して眠れもしないのだ。

 

仁助が雪の入った桶、雅客が食事を手に見舞いに行くと最上がぼんやりと意識を取り戻していた。

 

「最上様。目が覚めましたか。」

 

「雅客…仁助…。そうか蓬莱城が来ているのか…。」

 

発熱のためぼんやりしてはいるようだが、受け答えはしっかりしていたので雅客達はほっと息をついた。

府中駅は余程蓬莱城にも甲鉄城にも離れて欲しくないのか、氷室から雪まで提供してきた。きんきんに冷えた水で手拭いを濡らして最上の額にのっけてやる。

 

「…つめたい。」

 

「雪を貰いましたからね。」

 

「他に誰が、来ている?」

 

「吉備土の代わりに来栖が。民人上がりの代わりに俺たちが来てます。」

 

「…そうか。」

 

発熱によるもの以上に、最上の目は潤んでおり時折鼻を啜っているのを、雅客と仁助は暫く知らないふりをした。今顕金駅が出せる最高戦力で甲鉄城の尻拭いにきたのだ。甲鉄城が出払っている上で、最高戦力で臨むなど政を放棄しているとわかるだろう。しかも最上はワザトリに叩き斬られてまともに動けもしない。悔しくないわけがないのだ。

 

「折角起きたんですし、食事摂ってもらいますよ。」

 

「…いらない。食べたくない。」

 

「うるせぇ。いいから食え。」

 

熱が高いので食欲がないのは勿論分かるが、少しでも食べて回復してもらわなければならない。問答する時間が無駄だと雅客は却下の意を示した。

 

「ほら。起こしますよ。」

 

仁助は既に温くなった手拭いをどけて、最上をゆっくり起こした。雅客が粥を掬って口元に持っていっても口を開かないので、催促しようかと思ったが、最上は雅客の手をそっと押し返した。

 

「自分で食える。」

 

「ならいいですけど。」

 

「瓜生達は…どうしてる?」

 

最上はのろのろと匙を口に運びながら、雅客達にちらりと視線を向けた。仁助が瓜生達の負傷程度を報告しているのを聞いて、わかりやすくほっと息を吐いた。

 

「ワザトリについては、瓜生から来栖達が聞いていますが、最上様から言っておく事はありますか?」

 

「…あれはかつて美馬の率いた主戦派のカバネだ。…ぼろぼろだったが、備後の犬飼家の家紋のついた甲冑を着ていた。…はぁっ…今となっては甲冑を着ることなど殆どないし、犬飼家は娘しかいなかった筈だから間違いない。」

 

「主戦派…。」

 

仁助も雅客もぎくりとした。なにせ下侍一同は親族が主戦派であったから、下侍の身分に落とされているのだ。10年以上時を経て、かつての主戦派の侍が牙を剥いているのだ。

 

「しかし犬飼家の家紋なんてよく知ってましたね。」

 

「うちと交流があったみたいでな、一応記録で…ふぅ…見たことがある。交流があったのは立場が別れるまでの話だが…。」

 

「そうでしたか。…ところで最上様。手が止まってますが?」

 

「…うっ。」

 

まだ半分食べたかどうかといった程度であるが、指摘されても匙をすすめるのではなく、目を逸らすあたり限界なのだろう。

 

「どうしても無理なら後は雅客が食べますよ。」

 

「俺なんだ。…いいけど。」

 

最上からそろりと器を差し出され、仁助が回収して雅客の手に渡った。

 

「はい。鎮痛解熱剤です。飲んだら寝て下さい。ワザトリ討伐が終わったら

顕金駅に帰るんですから、体力回復に努めて下さいね。」

 

「ん。」

 

また熱が上がってきているのか、最上の顔は真っ赤であった。看病要員に看護師を連れてきているので、最上を横にして手拭いを乗せ直した後、仁助達は看護師と交代して退室した。

 




掃射筒は基本的に手持ちを想定されてないのでこういう時に使えません。吉備土なら手持ちで使えますが、甲鉄城に手持ちで使える力自慢はいません。今後甲鉄城車内にも台座が付きます。蓬莱城は金属被膜コーティング完了してるので車内には台座は付けません。
ナチュラルにワザトリ戦外されてしょんぼりな生駒。生駒はタンク的な戦い方するので、黒血漿ブーストないと技巧派相手には向いてないよね。

主戦派のワザトリ君(カンスト)
どノーマル装備で最初は戦線押してたらしいし、化け物なワザトリ君が産まれてもなんら不思議じゃないよね。流石に全員ワザトリには昇格しないけど、来栖パパとかワザトリになってたら怖いよね。カバネリクラスの来栖のパパだぞ。(出ません)

扉を開けるカバネちゃん(レア)
戦闘技術は習得できなかったけど、扉の開け方を習得した。ある意味ワザトリ。
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