最上は鈴木に依頼していた物の受け取りに操車場に来ていた。
「最上サン。完成はしましたがこれでは有効射程がとってもショート。」
「接近戦で使用するから撃ち出す初速さえあれば問題ないよ。いつも手間をかけて申し訳ない。」
「最上サンはしっかりデザインしてから来るので、そんなに手間じゃありまセン。」
「そう言っていただけると気が楽だ。それでは失礼。」
去って行く最上を、少し離れたところから見ていた生駒がむすりとしているので鰍は生駒に声をかけた。
「どうしたの?」
「前は俺に依頼してくれてたのに、最近は鈴木さんにばっかり…。」
「蓬莱城が出かけてる時間長いからじゃない?」
「そうかなぁ。」
生駒はいまいち納得のいっていない顔で首を傾げた。
生駒は最上に頼られなくて拗ねているのだ。最上は武士の中では一番蒸気技術に詳しく、企画書などの持ち込みにも真摯に対応してくれる。却下する場合も生駒にきちんと却下理由を説明してくれるし、生駒が感情的になっても落ち着くまで待ってくれる。生駒の中で最上は割と好意的な人物なのだ。
生駒は頼られたがりな一面がある。
なんでもかんでも頼られたい訳ではないが、カバネを殺すための蒸気技術については別である。鈴木の技術が評価されることに異論はないが、好意的な人物に得意分野で頼られたい気持ちがかなりあるのだ。
最上は城に戻ると来栖の執務室へと向かった。
「来栖。手は空いてる…か…。空いてないな。悪かった。」
断りなく襖を開けると、来栖の机には書類がいくらか溜まっており、来栖は参考書物らしき物と睨めっこをしていた。最上は直ぐに襖を閉めた。
「待て。最上!待ってくれ。」
最上が閉めた襖が直ぐに開き、来栖に腕を掴まれた。余程逃したくないらしい。
「これがわからんのだ。」
机まで連れてこられて、書類を確認すると来栖が見ていた書物では解決しない内容であった。来栖は菖蒲との婚約が決まってから、今まで以上に道元から書類を任されている。単純に量が増えるというより、難しい内容のものが多くなっているのだ。
まだ他駅との交渉事などは、護衛として聞いているだけであるが、もう少し書類仕事ができるようになれば、そういったことも少しずつやらせていく予定である。
「来栖。読むならそれじゃない。こっちだ。」
机の脇に積まれた本の山から、一冊取り出して机に置いてやる。
「助かる。」
「書棚があるんだから仕舞え。積むんじゃない。」
「直ぐ使う羽目になるから仕方がないんだ。」
来栖は別に片付けの出来ないタイプではない。たが道元から振られる仕事が参考書物がないと難しいことが多く、一度仕舞ってもまた直ぐ必要になるため、致し方なく執務時間中は出しっぱなしにしているのだ。
「…。なら分類ごとに積んでおいてやろう。」
「助かる。で?なんの用事だったんだ?」
最上がぱたぱたと分類別に書物を積み直していると、来栖が先程机に置いた書物片手に最上を窺う。
「これの使用感を見るのに、軽く手合わせしたかっただけだ。別に今日じゃなくて良い。」
最上が左手首をぽんと叩くと、ガチャっと音がして左前腕に小さい弓が展開した。
「なんだそれは?」
「暗器みたいなものだ。」
「カバネ相手に必要か?それは。」
「その検証はまだこれからだな。お前に不要なのは間違いないが、私や瓜生は使うかもしれん。まあ投網砲と違って前衛しか…というか私と瓜生くらいしか使わないと思う。」
「…先日の敗走はそんなに堪えたか?」
「そりゃそうだ。今まで瓜生と二人がかりでお前に勝てないのを放置していたつけだ。そのせいで3人死んだ。少なくとも1人は死ななくてよかった筈だ。前衛を請け負っている以上放置すべき問題じゃなかった。」
「己はお前に負けたくなかった。先日負けたのは堪えたぞ。」
「…あんな初見殺しで勝ってもな。でも剣術単体は諦めたって言ってるだろ。諦めたからこうやって小細工を模索してるんだ。」
「実戦なら死んでいた。負けは負けだ。小細工だろうとなんだろうと勝ちは勝ちだろう。己が戦うことでお前に負けたら立場がないではないか。散々無名達と手合わせさせられていたのにお前1人に負けた。己は初見殺しの小細工を使われようと勝てなければならない。お前だって己にそうあれと望んでいるだろう。」
「…なんだ。意外と気にしてたんだな。」
「当たり前だ。…それとお前は自分で理解してないようだから言っておくがお前は己より速い。蒸気筒を下ろして、ただ殺すことに全力を注いで、相討ち覚悟で初撃にかければ己に剣術単体で勝つ可能性はあるぞ。」
「…。」
「…何を赤くなっている。」
「べ…別に。お前の手は空いてないようだし失礼する。」
「あっ。おいっ。」
最上はすぱーんっと襖を閉めて廊下に逃げた。
来栖が先日の初見殺しの小細工で負けた事を気にしていたことも、最上を負けたくない相手と認識していたことも、意外と剣の腕を評価されていたことも全て予想外であった。正直に言えば歯牙にも掛けられてないと思っていた。
「そんなふうに言われたら、折角諦めたのに足掻きたくなってしまいそうだ。」
最上は顔をぎゅっと歪めつつ、深いため息を吐いてから気持ちを持ち直した。
足掻く暇などどこにもない。剣術の鍛錬よりもやるべきことはいくらでもある。自分は真っ当な剣士である必要はない。卑怯な手段だろうがカバネを殺せればいいのだ。
(これは今度カバネで試そう。)
暗器としての弓をパチリパチリと収納しながら、ほんの少しの寂寥感を感じつつ自分の執務室へと歩いて行った。
自分の執務室に取り残された来栖は、何故急に最上が怒ったのか分からず首を傾げていた。
ホモ君も男の子なので剣術で勝負できるなら剣術で勝負したい。身長伸びないし、非力(前衛メンバー比)だし、仕事忙しいしで諦めたのに、来栖に褒められたら頑張りたくなるだろぉ!馬鹿ぁ!って状態。
暗器の弓は毒を撃ち込むための物。色々試す気はなくて、初手からトリカブトを試します。矢に溝を掘って致死量の倍は突っ込んできます。
死ななくてもいいんです。動きさえ鈍れば殺せるから。
来栖とやりたかったのは動作確認と撃ち込み方の確認だけ。
来栖は何者にも勝てと望まれていると知っているから、融合群体とかみたいに物理的に単独でどうしようもないやつ以外に負ける気はなかった。初見殺しとはいえ正直ホモ君に負けたのめっちゃ悔しい。次は鞘で巻き取るなりして攻略してくるので、マジで初見殺しの効果しかない。ちなみにホモ君が初撃に全身全霊をかけても負けない。伊達に無名とばっかり手合わせしてない。原作来栖より強い。