始業時間を過ぎても道元は登城して来ず、代わりに来たのは使用人であった。
「道元様が?ぎっくり腰?」
「はい。布団に逆戻り致しました。」
「うーん。わかった。」
使用人を帰してから最上は頭を抱えた。道元の仕事は、最上が甲鉄城で数日不在にできるのと同じように、数日余裕を持って進められている。こういう時に共倒れしないためだ。本来なら頭を抱える必要はないのだが、明日から甲鉄城は出かける予定があったのだ。最上は服部を呼びつけ、甲鉄城の面子に中止の連絡を頼み、菖蒲へと中止の報告をすることになった。
道元も最上も数日分余裕を持って仕事をしているため、道元が2、3日くらいおらずとも、甲鉄城で出掛けて問題ないといえばないのだが、2、3日で復帰する保証もなければ、有事の際は菖蒲1人で対応することになってしまうし、顕金駅が心配で集中出来ない中、カバネと戦うのは命とりであるので大人しく仕事を進める事にしたのだ。
顕金駅における政の最高戦力たる道元の不在は長引けば致命傷だ。せめて他駅と交渉ごとの出来る者が、最上以外にもいればここまでではないが、見渡す限りお人好しばかりで謀など到底できない者達ばかりである。甲鉄城規模の頃であればまだしも、顕金駅規模となると菖蒲だけに任せるわけにもいかないのだ。
道元のぎっくり腰は中々長引き5日を越えてもまだ復帰には至らない。余裕を持って進めていた分が殆どなくなり、それ以外でもそれなりに急いで決済が欲しいものというのは存在する。勿論最上の元へ持ち込まれるが、最上も道元の仕事は手に余る。その上こういう時に限って、余所の駅の駿城がきて面倒くさい交渉事があったり、別の日には余所の駅の城主と生駒が口論をして大騒ぎになったり、大鍛錬場で作業中の事故が起きたりと余計なことばかり起きたのだ。
服部は、本日持ち込んだ書類を最上が見て顔を引き攣らせたのを見た。暫くして茶を出しに最上の執務室を訪ねると、最上が書物片手に必死に書類を処理しており、イライラとしているのが一目瞭然であったので、茶だけスッと出してそそくさと執務室を後にした。部屋を出て行く時、最上に引き込まれた道元の補佐官から恨めしげに視線を向けられたが、補佐官と違って服部には仕事は手伝えないので仕方がないのだ。補佐官は道元が休んだその日から、最上の執務室に引っ張ってこられ、業務が終わるまで最上と2人きりで過ごしており、だんだん苛ついてきている最上を見て縮み上がっている。
6日目の朝議の場には、目の下にべったりと濃い隈を貼り付けた最上が現れ武士達はぎょっとした。隈がだんだん濃くなっていたのはわかっていたが、もう限界ですと書いてあるようだ。道元の席は未だ空席であり、菖蒲も疲れた顔をしている。道元の仕事の殆どは最上に流れているが、いくらかは菖蒲が引き取っていたのだ。来栖にも勿論最上の仕事の内から、簡単なものがいくらか流れたが、菖蒲にも最上にも教えている余裕はなく、とりあえず簡単な説明で済むほんの僅かばかり仕事が増えただけであった。
完全に最上がよれよれしているのを見て、武士達は先日の阿幸地の言葉を思い出していた。道元が居なければ屋台骨が脆いという話だ。
道元、勘太郎、最上は横並びで仕事をしていたように見えたので、ここまでとは思わなかったのだ。雪と放置された駿城のせいで最上が長期不在になったり、府中駅の後も家老の仕事を長期で抜けていたが、道元の機嫌は悪かったもののそれだけだった。勿論自分達に仕事がばんばん降りてきたがそれで片がついていた。最上も仕事を下ろすことはあるが、執務室を訪ねた時に頭を抱えてたり、書物を睨んでいたのを見る限り、道元の仕事は自分達に下ろせないものが多いのだろう。
八代駅は属領、小田駅は神西駅、速谷駅、宍道駅、久手駅と同盟を結び共同管理となっており、道元の仕事は顕金駅内の仕事ばかりではなく、対外的な仕事がかなり多い。そのため、同盟を結びたいだとか、傘下に入りたいだとかの申し出があれば道元が対応するのだ。管理しきれないので基本的にお断りではあるのだが、最上の結婚を機に倉吉駅とは名実共に同盟関係となっている。
最上は基本的に顕金駅内の仕事が多く、最上の仕事から本来やるべき武士達へ引き継ぎが成されれば、道元が行っている仕事が最上にも分割されるのだが、今現在は対外的な仕事は基本的に道元がしていたため、今回最上は多大な仕事の負荷を負った形である。他駅とのやり取りなど記録を見返さねばわからないし、同盟などをお断りするにしても、駅の規模や元々の顕金駅との関係性を考慮した内容のお断りの手紙を認めねばならないのだ。
7日目にしてやっと道元が仕事に復帰し、急遽先延ばしとなっていた甲鉄城の行商に最上が出発して行った。最上の仕事の余裕が少ない為、また武士達にばんばん仕事が下りたが、そもそも下ろしている仕事は本来武士達が処理するべき仕事なのだ。完全に下ろすと滞る可能性が高い為、未だ最上が担当しているだけで、そのうち武士達が全てやるようになるべき仕事である。
そんなよれよれになった状態で行くのかと、武士達も引き止めようとしたのだが
「金に余裕がない。」
この一言で手を離した。
最上や道元の中での金銭的余裕とはどの程度か全く想像がつかないが、最上の口から余裕がないと言われればどうしようもない。
最上と道元は後悔していた。
余裕があるからと、カバネ狩り月間などして金を使い込んだことを。
勿論それでもある程度の余裕を持って予算を計上していたが、まさか甲鉄城が大打撃を受ける予想はしていなかったのだ。行商も一時的に取りやめ、再開しても来栖が城主となっていたため、出費の割に収入はいまいちであった。
余裕がないと言っても、数日で予算が底をつくなどといった杜撰な管理はしていない。とはいえ顕金駅はまだまだ収容人員の枠は余らせまくっているので、いつ如何なる状況で民人が急増するかわからない。なにせ顕金駅から脱出した時の甲鉄城ような駿城がきたら、菖蒲は絶対に受け入れてしまうと断言できるので。500人位は急増しても飢えない状況でなければならない。
行商から戻った最上は、出発前と比べて顔色が少し良くなっていた。
(駅外に出て顔色が良くなるとは此は如何に)
(儲かったんじゃない?)
(事務仕事で溜まった鬱憤をカバネで晴らして来たとか?)
(まあ元気に戻ってきたなら何よりだな。)
八代に勘太郎を放出しているツケがどしどし来てます。勘太郎がいた場合、ホモ君はなんも気にせずお出かけするし、ホモ君が長期不在時も道元様はイライラせずに済みます。
道元様が処理する場合処理に10割リソースを割けますが、ホモ君の場合調べ物に5割くらいリソースを割いているので滞る。ホモ君の仕事を武士達に下ろした場合も同じです。
江戸時代ってあんまり腰痛なかったみたいですけど、全くないわけじゃないだろうし道元様長期離脱のために採用しました。