【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

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明るい短い話。

長いのに手こずっております。


【小話】舞と詩

その日の朝議では、指示事項を終えた道元がそういえばと切り出した。

 

「今後他駅と交流する際に、もてなすのに誰か猿楽でも朗詠でもできる者はおらんか?吟剣詩舞でもいいが。」

 

場は静まりかえり、ちろりちろりと視線を回す。そもそも最上以外全員が下侍であったので、舞や詩など人様に見せられる程の腕前の者はいないのだ。

 

「あの…。最上様は出来ないのでしょうか?」

 

そろりと倉之助が挙手して発言したが

 

「最上君はそういう才能は皆無だ。」

 

道元がバッサリ切り捨てた。道元の横で最上が俯き、両手で顔を覆って耳まで真っ赤にしふるふると震えている。

 

(できないんだ…。)

(ていうか才能皆無って。)

 

「最上君にやらせるくらいなら、君達を一から鍛えた方がましだ。」

 

(そこまで?)

(上侍の嗜みではないのか?)

 

来栖達は、舞や詩を宴席で披露する上侍を警備がてら何度も拝んでいるし、年嵩の者の内、当時家格があった者は少しばかり嗜んだこともあるくらいで、家格のある武士にとって一般的な教養でもある。それを最上が一切できないというのは、非常に不可思議であちらこちらから最上に視線がいくが、ふと視界に入った菖蒲も苦笑いをしている。余程才能がないらしい。

 

「わ…私は好きですよ。最上の朗詠。」

 

「やめて下さい!情けは無用です!」

 

最上は更に前屈みになり、そのまま額が床についた。菖蒲の優しい言葉が、最上の傷を抉ったらしい。哀れなり。

 

「最上君は置いといて、君達の中から何人か候補を出しなさい。私が教えよう。」

 

来栖達は、教養が少しばかりある者や、内輪の酒飲みでお遊びで上侍の真似事をして上手かったと思う者を選出した。最上は額ずいたままピクリともしなかった。さながら屍である。

 

朝議が終わり、菖蒲が退室し、道元が最上に声をかけて共に下がって行った。

 

「最上様そんなに才能ないのか…。」

 

「まああれ見たらそうとしか思えんが…。」

 

上侍の中には、来栖達から見てもあまり上手くはない者もいないではなかったが、あの反応からするとそれ以下なのだろう。それこそ道元が鍛えてやらせるという選択肢がなくなるほどには。

 

「雪かきに次いで我々が頑張るものができたな。」

 

政は簡単には追いつけそうにないし、戦いにおいても来栖と最上以外に白刃戦ができる武士はいないのだ。折角最上が出来ないものがあるのだから、自分達が頑張ろうと来栖の配下は気合いを入れた。

 

ここで最上を嘲笑わないあたりが、圧倒的に善人と言える。態度のでかい年下が、上侍なら出来て当然であろう教養の一部を修めていないのだから、笑っても不思議ではない中、ならばそれは自分達がやるべきだとやる気が満ち満ちた。

 

とりあえず楽を奏でられる者がいないので、朗詠と吟剣詩舞を数名が道元に教わることとなった。仁助は年嵩で元々は少し家格のある家で、少しばかりかじったことがあった事から、一番習得が早く道元が手を叩いて喜んでいた。道元に教えられた者達は、とりあえずお披露目できる範囲の者と、もう少し努力が必要な者にわけられたが、才能皆無の判定を受けた者は誰一人おらず、参加した者全員が、自分達に芸事が向いているとは思っていないが、才能皆無の判定を受けた最上はいったいどうなっているのかと首を傾げた。

 

 

朝議後の廊下にて

 

「最上君はあれだな。来栖君と手合わせでも披露すれば良い。」

 

「うう…。申し訳ありません。なにか映える約束動作を考えておきます。」

 

最上は、あからさまに落ち込んでへちょりとしていた。

 

「まあ他の武士達にも色々やらせるのは良いことだ。なんでもかんでも君で済ませてはよくないしな。…ふっ。」

 

「思い出し笑いやめて下さい!」

 

「そうですね。負担は分散しなくてはいけませんね。…ふふっ。」

 

「菖蒲様っ…。」

 

最上は顔を覆って立ち止まってしまった。また耳まで真っ赤になっている。

 

最上は、上侍にとって一般教養といっていい、舞や詩が出来ないのはとてつもなく恥ずかしいのだ。下侍であった来栖達に、立場ある者はこうあるべし、と示すように振る舞っているというのに、舞や詩が苦手どころか才能皆無と知られてしまった。

 

菖蒲は顔を真っ赤にして怒ったり、恥ずかしそうにしている最上をみて、大変嬉しく思っている。甲鉄城にいた時など、子供扱いした時くらいは、もう元服していると少し拗ねた顔を見せはしたが、基本的に菖蒲に子供っぽいところは見せてくれなかったので、今回は大変貴重な機会なのだ。

 

「最上。今度華道でも共にしますか?」

 

「既に母上に花が無駄と言われております。」

 

「ぶはっ!華道も駄目かね!」

 

「ええっと…では茶道はどうですか?」

 

「それならば。」

 

「歌詠み会でもするかね?」

 

「道元様!」

 

「はっはっはっ。冗談だよ。茶が気管に入ってしまう。」

 

「道元!様!」

 

その日は珍しく廊下が騒がしかった。




ホモ君は芸術方面が壊滅的。
光の甲鉄城の武士達は、ホモ君に出来ない事は俺たちが頑張るぞ!って張り切っているので馬鹿にはされないけど、恥ずかしいもんは恥ずかしい。
堅将様の子飼いみたいな扱いだったので、宴席でも近くに侍るだけでそういう役回りではなかった。実は堅将様もこんなレベルでできない事は知らない。自己申告で苦手であるとは伝えてあったけど、見せたことはなかった。
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