菖蒲、道元、最上、来栖の4人で多度津駅の件を検討することになり、菖蒲の執務室にて人払いをした上で会議が行われた。
「カバネリ2名は確定。想定は4名とは随分な話ではありませんか?狩方衆でも3名ではありませんでしたか?」
「簡単に増やせるものではないでしょうが、2体を想定していて2体以上いるよりマシでしょう。最上君人員はどうする?」
困ったように頬に手を当て、少し首を傾けた菖蒲に、道元は首を横に振った後最上へと視線を移した。
「結論から申し上げれば、殲滅するなら現在の甲鉄城、蓬莱城の面子に加え来栖や来栖の配下も全員を入れねば足りません。流石に前衛を単騎運用するわけにも行きませんし、海門で景之殿が、カバネを使役していた方法は不明のままです。使役出来ない確証はありませんし、確定のカバネリ2体の内1体は武士です。元々の素体の実力次第でしょうが、来栖と無名殿が単騎で討てるかもわかりません。」
「確かに。例えば最上がカバネリになったら、底上げされた能力次第ではあるが単騎はかなり厳しいと言える。それも正面から来ればというのが前提だがな。」
「来栖と無名殿がそれぞれ単騎で相手をできても、それ以外のカバネリが同時に来たら厳しいと言わざるを得ません。同時に駿城も守らなければならない以上、蓬莱城一城編成にしても人手不足ですね。カバネだけならあまり気にせずとも良い部分まで、気を払いながら駿城を守り続ける必要がありますから。私がカバネリ側なら態々主戦力と斬り合いませんよ。まず鎮守砲でも撃ち込むなり、やりようは沢山ありますしね。カバネリが死なずとも、人が一定数死ねば引かざるをえませんから。」
最上の言い分は物騒ではあるが、カバネリは人間同様思考回路が生きている以上、馬鹿みたいに突っ込んではこない。海門の景之も、正面から戦うことなく、自走臼砲なるかみを破壊することで玄路軍を崩壊させた。
「ふむ。生駒君はどうなのかね。金剛郭では中々活躍したのではなかったか?とはいえ流石に全員出すわけにはいかんし、高松駅にでも応援を頼もうか…。」
「生駒は黒血漿なる物の底上げがあれば構いませんが、現状では心もとないですね。手段を選ばなければまだ私でも殺せる筈です。白痴なカバネならばいいのですが、武士のカバネリ相手では少々厳しいかと。景之殿にも負けておりましたし。…高松駅ですか。鵺を見て心が折れていませんかね?」
「折れたところで駅を捨ておける訳でなし、少しばかり揺さぶれば協力は得られよう。」
「それに武士のカバネリが我々と敵対すると決まった訳ではありません。最初から攻勢に出るわけにはいきません。」
一番の問題はカバネリの立ち位置である。多度津がカバネにのまれた原因が、融合群体か鵺と判明しているため、武士のカバネリがどう考えているかがわからないのだ。
「そこが一番の問題です。話し合いに赴いて襲われるのは勘弁願いたいですね。…とはいえ話し合わないわけにもいきません。」
「どうあれ武士のカバネリがまともなら、少なくとも周囲の駅を頼るのではないか?」
「現状では下津井駅にそういった話は入っていないようですが、下津井は備前ですからね。やはり讃岐に行かねば情報も足りません。」
「そういえば生駒と無名さんはカバネに襲われるのでしたね。多度津駅にカバネリが居座るのは難しいでしょうか。」
「海門を考えれば、居座っている可能性もあります。」
「やはり情報が足りんか。」
そもそもが、山本のもたらした断片的なことしかわかっていないのだから、情報が足らないどころではない。
「しかし顕金駅から集められる情報には限りがあります。最低でも備前。できれば讃岐の駅で様子を窺いたいところです。情報収集なら蓬莱城の面子を連れて行くとむしろ邪魔です。数日なら抑えられるでしょうが、あまり長い間大人しくしているとも思えません。何より出雲をいつまでも空にしておくのも不安が残ります。」
「各駅との折衝も考えれば最上君は確定か。甲鉄城で情報収集後、蓬莱城を呼び寄せる形がいいだろう。」
「できれば来栖は欲しいです。カバネリに襲われては、瓜生と私だけでは死にます。」
ワザトリに襲撃されて敗走したことは記憶に新しい。カバネリともなれば敗走すら叶わないだろう。
「来栖君か…。無名君では駄目かね。」
道元は、来栖か無名のどちらかを遠出させるなら無名にしたいのだ。来栖への教育の件もあるが、なにより道元にとってはカバネリは恐ろしい。最上からも、無名が暴走した場合は来栖が必須と言われている。そうそう暴走などしないとは分かってはいるが、最上も来栖も不在で爆弾を二つも抱えたくはないのだ。
「無名殿ですか…。であれば残留する蓬莱城の運用を少し考えねば危険かと。蓬莱城に来栖を乗せますか?」
「己は構わない。生駒だけでは少々不安だ。」
「では甲鉄城に無名君を乗せて、情報収集に向かうということでいいかね。」
「その間の資金面はどうしますか?来栖に任せるのですか?」
「であれば私が蓬莱城で出るかね?」
「それは政の面で少々厳しいのではありませんか?周辺国の出雲への出入りが多いですから。」
「桔梗君と旭君を一時的に八代にやって、勘太郎を蓬莱城に乗せるか。」
「ふむ。それが一番いいですかね。」
桔梗と旭であれば簡単には舐められないし、一時的に八代駅の運営を任せることになんの不安もない。
「来栖君の配下に今まで以上に頑張って貰えば、とりあえず最上君不在はなんとかなるだろう。」
「まずは下津井駅経由で高松駅を目指します。高松駅での情報次第でその後を考えるしかありませんね。ところで道元様は多度津駅の領主のことは何かご存じですか?」
「東雲君だな。確か34になるのだったか。お父上が病弱で早くに後を継いでおったはずだ。東雲君は少々臆病な質で、年始の挨拶に来ると道中の心労でいつもぐったりしておった。だからこそカバネリという手段に頼るのもなくはないと思っておる。」
「まずは東雲殿の行方ですね。周辺の駅に逃げ延びてくれていれば、話は簡単にすみます。」
「東雲殿は高松駅の領主によく世話になっていたはずだ。やはり逃げ延びるなら高松駅だが、山本君の話では高松駅に多度津の領主がいるとは無かったな。」
「ですが山本殿はそこまで地位が高くないので、知らぬだけという場合もあります。まあ下津井を経由するので、そのあたりは領主に聞いてみましょう。下津井は砂糖の流通に噛んでいますから、讃岐のことは放置出来ない筈です。」
「あら。最上。そういえば山本さんと文のやり取りしているのですか?」
元々の情報提供先は山本であるが、山本と文のやり取りをしているのは今回の件で判明した。勿論、最上が顕金駅に不利益な情報を山本に流しているなどとは思っていない。私的にやり取りしているのを知って、菖蒲は微笑ましくなったのだ。
「ええ。9割どうでも良い話ですが。今回は、山本殿のお陰で多度津の件を知りました。」
「9割。」
「同僚が女に振られたとか、近所の猫が増えすぎて困っているとか、そんな話題が9割ですね。」
「最上は何を書くのですか?」
「……ご容赦下さい。」
最上は暫し間を置いてから、少し頬を染めて断りを入れた。自分の書いた内容が恥ずかしいらしい。
「あらあら。山本さんと同じようなことを書いているのですか?」
「黙秘します。」
「ふふふ。隠されると気になりますね。」
「私信なのですから内緒です。」
「菖蒲様。あまり揶揄うと最上が拗ねますよ。」
にこにこと迫る菖蒲を来栖が嗜めた。来栖としても、最上が困っている姿は面白いが、拗ねられては面倒なのだ。
「あら。ではやめておきましょう。ふふっ。」
最上は少々むすりとしたものの、会議は続きルート選定、道中の行商の為の商品、多度津周辺駅との交渉での許容範囲などの取り決めが行われた。
桔梗さんと旭は八代行き。
来栖及び来栖の配下は最終的に多度津に行くので、八代にいけるのが桔梗さんしかいないのよね。流石に行商はさせられないので八代で。