【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

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南海道 3

その日、蓬莱城から無名を引き抜いた甲鉄城は出発の準備をしていた。

 

「無名殿。付き合わせて悪いな。」

 

「別にいいよ。今回危ないんでしょ?詳しく知らないけど。」

 

「道中説明しよう。」

 

行商の商品となる武器や日用品等が次々と積み込まれ着々と準備が進む中、生駒が無名の見送りに近寄って来たのを見て、無名は生駒へと近寄って行く。

 

「無名。最上さんの言うことちゃんと聞くんだぞ。」

 

「わかってるよ。それに私最上さんに迷惑かけたことないもん。生駒じゃないんだから大丈夫だよ。」

 

「ぐっ…!…怪我するなよ。ちゃんと帰ってこいよ。」

 

「わかってるって。」

 

無名はそっけなく答えているが、頬を染めてそっぽを向いており、照れているのが丸わかりで、生駒に着いてきた鰍が微笑ましく見守っていた。

 

(まあ我々が帰る前に蓬莱城に応援に来てもらう予定だから、迎えに来てもらう形になるんだがな。)

 

などとちらりと思いながら最上は甲鉄城に乗車した。

 

 

まず目指すは、備前の下津井駅である。

道中立ち寄る駅で行商を行いつつ、一行は進んで行く。

 

「あの駅の三味線凄かったねぇ。」

 

「あの領主は三味線が好きらしいな。まあ習い事としては割と一般的ではある。高位な家の女人であれば琴が多いが、三味線は民人にも広く親しまれているから、曲も色々あるな。」

 

「最上さん三味線弾ける?」

 

「…音階はできる。」

 

「それ弾ける内に入らねぇだろ。」

 

最上の言い訳に瓜生はせせら笑った。

 

「仕方ないだろう。私にそういう才能は皆無なんだ。運指は合ってるはずなんだが、何故か下手らしい。母上に匙を投げられた。」

 

最上は芸術方面の才能は皆無なのだ。図面はひけても絵は描けぬ。運指は出来ていてもリズムが合わぬ。知識はあれど歌は下手。と結構壊滅的なのである。

 

「顕金駅じゃ三味線とか聞いたことないね。菖蒲さんがお琴弾いてたくらいかなぁ。」

 

「まだ余裕がないからだろうな。確か鯉さんは弾けると言っていたぞ。うちに三味線ならあるから今度弾いてもらえばいい。」

 

「そっか。教えてもらおうかなぁ。」

 

「なんだ。無名はそういうの興味あんのか?」

 

「いいじゃん別に。」

 

最上、瓜生、無名は相性は悪くない為、道中は中々和気藹々とした雰囲気で、戦力においては、普段の面子に無名が追加されている為、危ない場面もなく安全な旅路であった。

 

 

備前下津井駅にて

 

「最上ー!」

 

検閲所でぴょこぴょこしながら、一行を出迎えたのは山本であった。

 

「山本殿。今はまだ。」

 

「おっと失礼。身体検査後領主への謁見になります。」

 

「承知した。」

 

「最上さんお堅ーい。いいじゃん。友達なんでしょ。」

 

「無名殿。そういう問題ではないんだ。」

 

最上は無名に注意するが、甲鉄城の面子は顕金駅で山本を見ていたし、下津井駅の者達は、甲鉄城の到着を検閲所でそわそわと待つ山本を見ていたのであまり気にしていないのだが、公私混同はしたくないらしい。

 

下津井駅で領主から話を聞くも、やはり詳しいことはわからなかった。新たに得られた情報としては、莊衛と見られる学者は、顕金駅の面子が海門にいた頃には、多度津駅に居たということである。

 

下津井駅には3日程滞在し、次は高松駅を目指すことになった。

なお、瓜生の中で山本の呼び名はわんころになった。瓜生や無名にすらにこにこと寄ってくる姿は、正しくわんこであったのだ。菖蒲や吉備土と違うタイプの善人に、瓜生はちょっと苦手意識を持った為、山本が来るとそそくさと逃げるようになっていた。

 

山本は懐っこい犬のような男であるが、しっかりと武士であるので菖蒲や吉備土程の慈悲深さは無く、必要があれば見捨てることも、殺すこともできる犬なのである。ただ楽天的で天然気質なので、勉学はできるが馬鹿に見える勿体無い男であった。

 

多度津の件を、世間話でもする様に話す山本を見て瓜生も無名も、なるほど顕金駅にいない種類の人間だなと思った。

 

下津井駅からだと高松駅より多度津駅の方が近いのだが、情報もなしに突撃する気はなく、高松駅へと向かっていた一行は、道中の八十場駅にて高松駅の駿城で逃げることの出来た多度津駅の武士を見つけることが出来た。

 

「あんた達顕金駅の人達か。東雲様を殺しにきたのか?」

 

男は憔悴した様子で最上達に問いかけた。

 

「東雲殿を?ここにいらっしゃるなら話を聞きたい。多度津駅が落ちたと聞いて、様子を窺いに来ただけだ。」

 

「あんた達もカバネリとやらを使ってるんだよな。恐ろしい。あんなもの。よく平気な顔をしてられる。あんた達は人間か?実はカバネリだったりするのか?」

 

顔色を真っ白にして男はガタガタと震えている。この男から話を聞く為に最上に同行していたのは、狩方衆が1人と流民上がりの一之瀬という男である。

 

「今ここにいる我々は人間だ。」

 

「嘘だ!言うだけならなんとでも言える!」

 

男があまりにも疑うので、最終的に全員が一度半裸になる事態にはなったが、とりあえず話は出来るくらいに落ち着いた。

 

男は多度津駅で審議司をしていた久保治郎と名乗った。

 

「久保殿は東雲殿の行方をご存知か?話を聞きたいのだ。」

 

「東雲様なら多度津駅だよ。」

 

「んっ?カバネにのまれたと聞いているが誤報か?」

 

「いや。東雲様がカバネリなんだ。」

 

「はっ?東雲殿ご本人が?」

 

最上達は驚愕した。海門の景之は生駒と同じくカバネに変異する途中でカバネリにとどまっただけで、カバネリになろうと思ってなった訳ではない。領主が、自ら望んでカバネリになったというのは予想していなかった。

 

そしてふと気がついた。山本を助けたカバネリは、山本の話からするに東雲ではない。多度津の領主ならば、山本が知らずとも城主は知っていた筈だ。城主と共に礼を言ったという話であったので、城主が東雲に気が付かぬわけがない。

 

「久保殿。多度津にいた学者については知っているか?」

 

「非重(あらた)と言ったか…。あの男のせいだ。あの男が来てからおかしくなったのだ。最初は城内からちらほら武士が消えていった。東雲様の側近ばかりだったから、密命でもおびているのかと思ってたんだ。気がついたら大西殿がカバネリになっていた。その後もどんどん人が減って、木村殿もカバネリになっていた。木村殿がカバネリになってからは暫くはなにもなかったんだ。大西殿や木村殿が駿城に乗れば、死人が出ることなく運行出来ていた。」

 

話を聞いている最上達は、背を冷や汗が伝っていた。東雲、大西、木村と既に3体のカバネリが判明したのだ。鵺を入れて4体が確定してしまった。

 

(非重?莊衛ではないのか?)

 

「その頃には顕金駅の話もこちらに入ってきていた。出雲の顕金。讃岐の多度津と呼ばれる日も来るかなんて、ふざけたことをぬかしたりしていた。だが大西殿と木村殿だけでは足りなかったんだろう。また城内から人が消え始めた。そして家老の多田様までカバネリに…」

 

(待て待て!武士だけで4体いるぞ⁉︎)

 

「私が非番だったあの日、大西殿が急におかしくなった。あれではカバネと同じではないか。大西殿を抑えようとした木村殿がやられたと思ったら、今度は木村殿まで…。大西殿や木村殿に噛まれた者がカバネになって、駅内はカバネで溢れた。大西殿と木村殿は少ししたら大人しくなったようだが、人喰いなど…あぁ!恐ろしい!」

 

現状を聞く限り、大西と木村は生駒と同じような暴走の仕方である。そしてここまでの話では東雲を顕金駅が殺しに来る必要はない。

 

「東雲殿と多田殿はどうされた?」

 

「城門を閉じられた。私は操車場に逃げたが、城に向かった者達は締め出されていた。高松の駿城で脱出する時、城の閉じられた門の前に、押し寄せる民人とカバネを見た。…そして気がついたら城門のあたりに城ほどの化け物が…。周囲の人やカバネを取り込んでどんどん大きくなって…ああ!ああ!あんなもの!」

 

「久保殿。落ち着いて下さい。」

 

頭を抱えて大声を上げる久保の背を、最上はゆっくりと摩ってやる。

 

「何故?何が違うのだ?顕金駅と多度津駅!何が!何が違ったというのだ!お前達だってカバネリを使っているのに!何が!」

 

久保の声はどんどん大きくなっていく。久保がぎょろりと背を摩る最上を見上げた。

 

「あんな化け物!殺してしまえ!人の皮を被った化け物だ!殺せ!殺してしまえ!」

 

久保は最上に掴みかかり、殺せと喚き立てる。ぎりぎりと肩を握り、血走った目で最上を見ている。さらに喚こうとしたところで、久保の後ろから一之瀬がすっと腕を回して、裸絞めで絞め落とした。

 

「最上様ご無事ですか?」

 

「ああ。問題ない。最後はあれだが、非常に価値のある情報だったな。一之瀬介抱してやれ。それと情報料だ。渡しておけ。」

 

「承知しました。」

 

最上は狩方衆を連れて久保の長屋を離れた。

 

「おい。狩方衆はカバネリを作るのにそんなに人が消えるのか?」

 

「適合するかは賭けではありますが、あの男は審議司でしょう。あの男が認識できるほど人が減っているのは変ですね。あの薬をそんなに用意出来るわけがありません。残っていたとして1回分…2回分が精々でしょう。新たに作成するには、大量のカバネとカバネの心臓核が必要な筈。それを多度津で用意出来るとは思えません。」

 

「…お前意外と知ってるな?」

 

「そういうものだというのは。しかし恙衆以外は技術的なことは知りませんよ。」

 

「そうか。ところで非重とは?」

 

「あぁ。莊衛様ですね。非重莊衛というのです。」

 

「結局あのジジイか。聞く限りあのジジイめ相当に頭がいいようだな。というか何者なんだ?」

 

「帰化された方と言うことしか存じません。世界で最もカバネの謎に肉薄する男と自称しておりましたね。実際詳しかったですし。」

 

「帰化?…世界で最も?日の本ではなく?」

 

「はい。」

 

「アレクセイ・リヒテル?」

 

「は?」

 

「アレクセイ・リヒテルが日本に…もしかして莊衛はアレクセイ・リヒテルなのか?高尚な理由ではなく、あの性格だ…国を追われた?だからわざわざ日本に?アレクセイ・リヒテルが日本に来ておきながら、金剛郭に行かなかった理由…。」

 

「あの…最上様?」

 

「莊衛が何処から来たのか知っているか?」

 

「いえ。私が狩方衆に入った頃には既におりましたので。」

 

「そうか。わかった。」

 

ここにきて莊衛がアレクセイ・リヒテルである可能性が急浮上した。アレクセイ・リヒテル以外にカバネの研究者が日本に来た等と聞いたことはないし、莊衛は帰化人だというではないか。そして散々疑問であった訪日理由。

 

(やっぱり実験場ではないのか⁉︎…生駒には黙っておこう…。)

 

とりあえず生駒にこの推測は黙っておくことにした。なにせ生駒はアレクセイ・リヒテルに夢を見ているので。

 




莊衛=アレクセイ・リヒテル?
ってなって"あいぇええー!"ってなりました。作者です。無名ちゃんが表紙の小説版は時系列が八代の後なので、アニメ軸のみで進めて読むのを後回しにしてまして、ちょっと確認したいことがあってパラ見したら、帰化人って…お前…。
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