八十場駅で得た情報は、瓜生と無名にも共有された。更に莊衛についても確認したが、あれ以上の事はわからなかった。
「東雲ってやつがカバネリってこと、そいつはいつ知ったんだ?」
「わからんが、断言していたからにはそうなんだろう。あれ以上聞くのは無理だ。もしかしたら高松駅で聞けるかもしれん。」
「でもやっぱり最初は東雲って人じゃない?臆病な人なんでしょ?部下がしょっちゅうカバネになってたら、自分もやろうってならないでしょ。」
「まあそうだな。しかしカバネリ5体の計算になったぞ。1人1体?無理無理。」
「うーん。でもさ鵺なのかな?融合群体じゃなくて?」
「ん?」
「だって黒血漿がいるんだよ。持ってたかもしれないけどさ。勿体なくない?莊衛は折角研究場所確保したわけでしょ?その駅で黒血漿使うかな。」
「確かにそうだな。そうか。融合群体の可能性の方が高いか。」
「つうかカバネリ3体作るのに何人消費したのかね。」
「審議司の目から見て分かるほど、人が居なくなっていたようだからかなりの数だと思うがな。…生駒や景之殿のやり方を試した可能性もあるか?」
「その方があり得るだろ。薬でとりあえず1体確保できりゃそこまで危なくねぇし。恙所作るよりよっぽど楽だぜ。」
「そう考えると、生駒や景之殿方式はやはり中々の賭けだな。是非に何人消費したか知りたいところだ。…そういえば東雲殿は何がしたいんだろうか。」
「あ?」
「別に敵対せんなら討たんでいいしな。武士のカバネリが4体居たら自分達で駅内のカバネを殲滅可能だろう。」
実際問題、カバネリであるからという理由は殺す理由にはなり得ない。少なくとも顕金駅はそれを理由に出来ない。
久保から聞いた話が真実ならば、発端は事故みたいなものである。莊衛の思惑はわからないが、少なくとも事の前には下津井駅の駿城を助けたりはしているのだ。美馬の様に破滅を望んでいたとも思えない。
協力体制でも敷ければ、臆病な性格と言われている東雲は別としても、他は武士として戦って貰えるのだ。
城門を閉じて民人を締め出したのだって、城内の者を守る為カバネを入れないよう、早めに閉めたとしても不思議ではない。大西と木村が城外にいたのなら、城には東雲と多田のみだ。2人で守り切るのは無理がある。守る為には、強さの問題よりも人数の問題が大きい。
カバネリを作る為に大勢の生贄がいたとして、協力できるのならそれはそれだ。菖蒲、吉備土、生駒あたりは嫌がりそうではあるが、カバネリの為に武士を消費した件や、暴走の件をこちらが裁く権利もない。カバネリ4体が確定の相手と戦いたくないのもある。
高松駅にて
高松駅で領主への謁見は速やかに受理された。ただしカバネリは下車させないでくれとの条件付きである。
「感じ悪ぅい。」
「多度津の件で怖がっているんだろう。すまんな。」
「良いけど。何日も滞在とか嫌だよ。」
無名は下車を断られた為、ぷんぷんと怒っていた。ないとは思うが、無名は甲鉄城時代に出るなと言われたボイラー車両から出てきたことがあるため、目付け役として瓜生も車両に残し、武士や狩方衆は情報収集へと向かわせた。
最上の共は狩方衆と流民上がりの糸賀である。
「よく来てくれた。顕金駅の噂は予々聞いておる。多度津の件だな。」
高松駅の領主は機嫌良さそうに最上達に声をかけた。
「はい。ご領主様は東雲様と親交があったと聞いていますが、カバネリの件何かご存知ではないでしょうか。」
「東雲君がカバネリになって直ぐに一度来たきりだ。不治の病に冒された奥方を助ける術となるやも、などと言っていたな。」
「奥方ですか。」
「潜ませていた間諜から得た話では、奥方に試す前に武士達をカバネリにしておったようだな。200は消えておる。狂気の沙汰だな。」
「200?奥方は結局どうなったのでしょうか。」
「間諜からの最後の文には、まだ奥方に試しておらんようだとは書かれていた。200分の3だ。奥方に試せる訳がない。まあ間諜が知るのが200というだけで、実際はもっといるやもしれんな。」
「事の後、多度津からなにか連絡などはありませんか?」
「ないな。どうなっておるかもわからん。様子を見てこいと言っても、化け物を見た者達は首を縦に振らん。他の者達もその様子を見て尻込みしておる。君達が来たということは様子を見てきてくれると思っても?」
「そうですね。様子は見ますが対応するかはわかりかねます。」
「なんだと。」
にこにことしていた領主の顔が歪み、低い声で最上達を威圧する。
「少なくとも現状の戦力では無理がございますし、顕金駅から総戦力を出す利も現時点ではございませんから。それにそも敵対するかも判然としません。」
「奥方の為に200は贄にできる気狂いぞ!大西も木村も人を食うたと言う話ではないか!」
領主は、肘置きに手を叩きつけながら大声を出してくるが、最上はしれっとした顔で話を続ける。
「顕金駅は特に損もしておりませんので。」
「顕金駅は義侠心に富むと聞いていたが、見込み違いだったようだな。」
「義侠を謳った覚えはありませんね。戦うにも金がかかります。人材不足も深刻でございます故。」
「君の様な若輩者が、家老をしているくらいだ。さぞ人材不足だろうよ。」
「ええ。ええ。正しく。」
鼻を鳴らして見下す視線を投げてくる領主に対し、最上は薄ら笑って返すのみである。
「…はぁっ。よい。様子は見てきて貰えるのだな。」
「ええ。こちらも放置しておいて、南海道の四国に落ちられるのは、最終的には困ります。故に現在どうなっているのか、東雲殿が今後どうするおつもりかは知らねばなりません。」
「その言い方。こちらに得た情報を渡すかは別とも聞こえるが?」
「おや。そういうつもりはありませんが、カバネリが下車出来ぬとなると下津井駅や八十場駅の方が勝手が良いのは確かですね。」
「そちらのカバネリは安全なのだろうな。」
「ええ。顕金駅から脱出した頃からの付き合いでございますので。」
「わかった。下車は許可する。故にこちらにも情報を。」
「承知しました。」
高松駅の領主はため息を吐いて、カバネリの下車を了承した。そもそも高松駅側はきれる手札がないのだ。
多度津は甲鉄城が勝手に始末してくれるだろうくらいのつもりでいたし、伝え聞く菖蒲の性格や、以前吉備土が備中の新見駅から流民を現場判断で連れ帰ったことの噂などから、最悪渋られても押せばいけると思っていたのである。
家老の肩書きこそ名乗っているが、まだまだ子供に見える最上を見てこれは良いと思っていた。なにせ肩書きは家老なのだ。ちょっと威圧して約束させてしまえば、家老から確約がとれたことになるのだから。
操車場への帰り道、共をしていた2人は相変わらずなめられる最上を可哀想に思っていた。恐らく道元や勘太郎であれば、同じことを言っても無駄な威圧などされないだろう。
そして何より代わって交渉出来る者が居ないのが痛いところである。吉備土など押し切られてしまいそうだし、来栖も口は上手くない。樵人は意外と激しやすいので、向こうが大声を出したら大声で返しそうである。雅客は多少マシだがカバネリの下車までは勝ち取って来られない。
かといって、狩方衆や流民上がりはでしゃばる訳にはいかないし、お偉方の言葉遊びはやはり難しいのだ。
「無名殿。下車の許可がおりたぞ。」
「本当⁉︎瓜生。買い物行こう!」
「はいはい。」
瓜生は至極面倒くさそうではあるが、無名に手を引かれて下車して行った。
「瓜生のやつ。なんだかんだ面倒見いいな。」
「そうですね。」
糸賀は蓬莱城の体制を面白く思っていないが、無名個人はそこまでではない。生意気な口を聞くし、最上達上層部の人間に無礼な態度は多々あれど、生駒と違い安定した強さを持ち、非情な判断に理解があるからだ。生駒と一緒に居ると生駒の意を汲みがちであるが、ここに至るまでの態度を見る限り本来ならば瓜生や最上と近い感性と知れる。
高松駅には2日滞在した後、多度津駅へと向かうことが決まった。
現在で言うところの四国地方は、本州と地続きじゃないので、将来的には安全な生産拠点の立ち位置にしたい顕金駅。なのでぶっちゃけ四国地方に壊滅とかされると困る。
ちなみに武士達の性格的な話は、捏造に他なりませんが、本編2年前が舞台の方の小説から出来るだけ拾ってるつもりです。来栖が自分の後釜考えてる時に吉備土はお人好しすぎ、雅客は疑り深いが剣の腕がいまいち的な評価だったのと、樵人は一番(怒る方面で)感情的でしたので、大体そんな感じで書いてます。八代でも生駒達が勝手した時怒ってたの樵人よね。確か。
まあホモ君主体で書いてると樵人のそういうところは書けてないんですけどね。