一行は多度津駅の直近まで来て、望遠鏡で多度津駅を確認していた。
「あー…。なんか海門を思い出す風景…。やだやだ。」
最上は望遠鏡を覗きながら愚痴を吐く。
多度津駅は城にカバネの光が集まっており、海門を思い起こさせる光景であった。そもそもカバネリは本来ならばカバネに襲われるはずで、カバネの巣窟となった駅にカバネリが居座っているなら、カバネを操れる可能性が高くなる。
「無名殿も瓜生もカバネリがカバネを操る術を知らんのか?」
「知らない。知ってたら使ってるよ。」
「俺も知らんな。知ってたら莊衛が喧しく歓喜してただろうが、そういうのはなかったしな。」
「ふむ。海門に続き多度津もか…。既知の技術ならまだしも、金剛郭崩壊時点で知らない技術を提供できるもんかな?しかも鵺や融合群体は女子の専売特許なのだろう?男のカバネリが使役するというのは、特性としてあり得るのか?」
「どうなんだろう。そもそも男のカバネリが珍しいって話だったんだよね。たぶん素材…?原料?が融合群体?だからかな。たぶん女の方が適合しやすいんじゃないかな。お針子衆も女の子ばっかりだったもの。まあ生駒のやり方なら男女は関係ないんだろうけど。」
「なるほど。ところでお針子衆とは?」
「滅火を筆頭にした女の子の部隊かな。その中から選別を受けてお試しがあるの。お試しがカバネリになる為の薬の投与だね。私がお試しを受ける前はまだ、投与する量とか速さとか研究中で、結構な数の子がお試しに耐えられなくてカバネになっちゃった。私がなる頃には良い感じの量とか、ある程度決まったみたいだけどね。」
「だというのに、女人は滅火と無名殿だけだったのか?」
「選別される前は、生身でカバネと戦うからね。やっぱり死んじゃったりが多くてさ。カバネリになった後に死んじゃった人もいるよ。」
「ふむ。そうか。」
「で?どうすんだこれ。」
「嫌だが…行くしかあるまい。」
多度津駅の跳ね橋は降りっぱなしになっており、駅に入ることは問題なく出来た。とはいえ突っ切って城まで行くのは自殺行為である。海門は坑道を通って行った為、カバネの数も限られていたが多度津駅は地理もわからぬのだ。
「向こうにその気があれば、来てもらおう。」
甲鉄城に白旗を立て、信号弾を打ち上げた。暫く様子を見るがカバネが襲ってくることはなく、何もないまま時が過ぎる。
「みんな食べられちゃってたりして。」
「…ないとは思うが…。とりあえず二刻待機とする!有事の際は全力で撤退するぞ!」
「ねぇ最上さん。私ちょっと調子悪いんだけど。海門の時と同じ感じ。」
「ふむ。海門の不調は指示をなんらかの形で受け取るというよりは、不安を受け取るとかの方だったか?」
「うーん。上手く言えないけどそんな感じ。」
最上が指示を出した後、一刻ほど待ちぼうけをしていたが、武士が1人民家の影から歩み出て、大きな声で問いかけてきた。
「何用か!」
「あれ。カバネリだよ。」
無名がひそりと最上に告げる。
「出雲国、顕金駅の家老!堀川最上と申す!東雲様に御目通り願いたい!不躾は承知なれど、近場までご足労いただければありがたい!」
「承知!暫し待たれよ!」
謁見の要求に対し返答した後、武士はまた民家の影に消えて行った。
「連れてきてくれるのかな?」
「いや。どうかな。できれば甲鉄城からの目視範囲で会いたいところだな。それが無理でも城との中間地点あたりが望ましい。」
更に一刻程たち日が暮れ始めた頃、武士が同じ民家の影から出てきた。
「応じよう!ただし謁見するのは堀川殿ただ1人!場所は城だ!条件が飲めぬなら謁見は無しだ!謁見内容がどうあれ、そちらが危害を加えなければ、こちらも危害を加えぬと誓おう!」
まさかの最上1人の要求である。しかも場所は城。カバネに囲まれた城に、カバネリ4体は確定なのだ。行くべきではない。行くべきではないが、これを断ると真意は聞けない。文のやり取りに手段を変更する手もあるが、あちらは危害を加えないと言っている。状況はどうあれ、武士がそう言っている以上、その申し出を蹴ったら文にも応じるかわからない。
「応じよう!暫し待たれよ!」
「お前まじか。」
「えぇ…。流石に助けには行けないよ?」
「ああ言われては武士としては応じる他ない。」
「武士ってわかんねぇわ。」
「ねー。」
瓜生と無名は呆れた視線を最上に向ける。そもそも初手で文を頼めば良かったと後悔したが、後悔先に立たずである。
「死んだらすまん。」
「すまんで済むかよ。」
「何もなければ夜明けまで待機。襲撃されたらすぐに逃げろ。私は気にするな。夜明けになっても戻らなければ死んだと思え。判断は瓜生に任せる。高松駅への報告は糸賀に頼む。」
「ほっ本当に行くんですか⁉︎」
「武士なら敵地に1人で文持ってったりもするだろ。」
「家老はそんなことしないし、機嫌損ねると叩き切られて首だけ帰ってくるやつでは?そもそも最上様そういう時代生きてないでしょう!」
「首だけ帰ってくる方がマシじゃねぇか?カバネになるのとかやめてくれよ?」
糸賀も瓜生もやめとけと顔にばっちり書いてあるが、口に出すだけでとっ捕まえようとまではしない。来栖の配下ならたぶん拘束される。
「では行ってくる。」
全員から呆れた視線を向けられながら、最上はひらりと甲鉄城から降りた。
「まさか応じるとは思わなかった。」
条件を出した側もこれである。
「其方の名前を伺っても?」
「これは失礼。木村平助だ。どうぞ此方へ。」
最上は木村の後に続いて歩いて行った。
「あいつまじで行ったよ。あいつ実は馬鹿だったりするか?」
「これ最上さん殺されたら私たち怒られる?」
「俺たち止めたし、知ったこっちゃねぇ。とりあえず待機だ待機。二班編成で警戒着くぞ。狩方衆は無名。それ以外は俺が指揮をとる。」
甲鉄城の面子はどやどやと配置についたり、車内に引っ込んだりし始めた。切り替えが早いのが甲鉄城の面子である。
一方木村と最上はひたすら駅内を歩いていた。
「怖くはないので?」
「怖いが?私はカバネリでもなければ、カバネリ相当の強さもない。とはいえ木村殿が単騎で駅内を移動している以上、カバネはそちらの指示に従うのだろう?」
「よくわかりますね。」
「海門でカバネリがカバネを用兵していた。そうでなければカバネリもカバネに襲われる筈だ。」
「そうでしたか。前例がありましたか。我々が騙し討ちするとは思わないので?」
「わざわざ私1人を?するならもっと人数を呼んで袋叩きにした方がいいだろう。そちらが危害を加えぬと言った以上信じる他ない。」
「そうですか。」
話す限り木村は普通の武士である。カバネリかどうかすらも、無名に教えられていなければわからなかったくらいである。
城に近づくにつれカバネの密度は高くなり、カバネの呻き声が周囲に響いている。木村がちらりと最上を窺うと、最上は顔色悪く周囲を警戒している。
(怖いというのは本心なんだな。しかし条件を飲まねば応じないとは言ったが、普通は条件を飲まないだろう。)
城内に入るとやはり海門と同じように、金属被膜の様なものがあちらこちらに張り巡らされている。
(ふむ。海門と同じだな。これはカバネリがやっているのか?)
情報を持ち帰れるかは不明だが、周囲の状況を確認しながら城内を進む。
謁見用の広間らしき襖の前で木村が足を止める。
「お連れしました!」
「…入れ。」
連れてくると思わなかったのか、少々間があったが応答があり、木村が襖を開いた。
広間の上座に東雲と思われる男が座り、向かって右側の少し手前に多田と思われる老人、その次に大西と見られる男、そして莊衛が座り、襖の横に若い男が1人。
(おい!もう1人いるが⁉︎もうお前もカバネリだろ!どうせ!)
もう最上は冷や汗だらだらである。
「おや。見た顔だな?なんといったか覚えておらんが、確かにあの時甲鉄城にいた奴だな。無名は元気にしておるか?鵺になったのに正気に戻っておるとは、大変興味深い。」
「非重殿。」
「あぁ。すまんすまん。」
「まさか本当にいらっしゃるとは思わなんだ。」
領主までこれである。
「応じていただき感謝します。前置きもなく申し訳ないが、東雲様は今後どうなさるおつもりか。」
「どうとは?」
「周囲の駅に危害を加えるつもりはおありか?」
「カバネは飢え過ぎれば流石に言うことを聞かなくなる。もう駅内に人はおらぬ。危害を加えぬと確約はできぬ。」
「そも、なにを守らせているのです?カバネで城を囲う必要はどこに?」
最上の発言を聞いて莊衛はくすりと笑う。
(くそジジイ笑ってんじゃねぇ!その首跳ね飛ばしてやろうか!)
心中で悪態を吐きつつ、ふと気がついた。海門では娘の深雪が心臓となる融合群体ではなかったかと。カバネに飲まれた駅でカバネを殺さず、さりとて捨てずに残る理由。
「まさか融合群体?奥方か?」
東雲の眉がピクリと反応した。
「だったらなんだろうか。」
「うちにもカバネリがおります。鵺になったことがある者です。鵺は非重殿から既に聞いておられると思いますが、カバネリによる融合群体です。その者が言うには、集まるカバネは不安な気持ちを、心臓部たる者に集めるのだとか。奥方に「黙れ。」
東雲が殺気立ち、それに釣られて莊衛以外の者達もビリビリと殺気立つ。
「妻はカバネリにはなれなんだ。であれば、まだカバネのまま生きてもらう他ない。」
「ならばせめて周囲の駅に危害を加えぬようにカバネの数を減らすことはできませんか。駅内に止まるうちはいいでしょう。周囲のカバネも取り込んで肥大化すれば、何をきっかけに暴発するかわかりません。」
「その辺りは非重に任せておる。」
「お言葉ですが非重殿は研究者です。あなたの奥方の良いように計らうとは思えません。」
「失礼だのう。奥方のこれは儂も初めて見る現象だ。お主に何がわかるのだ?儂より詳しいつもりか?」
「海門で見た。同じだ。最後は融合群体として駅を破壊した後消滅した。通常の融合群体と違ってバラける訳じゃない。消滅するんだ。」
「ほう。消滅。消滅とな?興味深い。」
「東雲殿。今ならまだ亡骸を弔うこともできますでしょう。奥方を消滅させるおつもりか?」
「今なら消滅しない確証はあるのか?其方が見たのは海門の一度きりなのだろう?今妻を殺したとして消滅しない確証はあるか?」
「…っ。」
「確証はないのだな?ならやはり非重に任せた方が希望はある。カバネリにしてもらうのだ。」
「は?…カバネリに?既にカバネとなった奥方を?」
「できない根拠はあるのか?」
「ありませんが。」
「非重は研究を続けておる。私は任せると決めた。変更はない。」
「奥方の維持は承知しました。外のカバネはどうなさるのです?先程も申しましたが、周囲のカバネも取り込んで肥大化させるおつもりか?周囲の駅も緊張を強いられております。」
「わかってないのう。それも込みで研究中じゃ。集まれば集まるほど誘導体が集まる。克城の時よりも誘導体の集まりが良い。新たな血漿の研究も進んでおる。」
「暴発は防げるのか?」
「それも研究中じゃ。」
(このくそジジイ!研究中って言えば根拠がなくても許されるというのか!)
「用件は以上か?なら疾く立ち去れ。」
「周囲の駅は緊張状態を強いられております。せめて周囲の駅に説明をすべきです。」
「のこのこ出て行って殺されるのはごめんだ。必要ならば瀬戸大橋でも落としてくれる。橋が落ちれば備前以北は関われまい。多田。」
東雲が多田の名を呼んだ瞬間、鯉口が切られる音が鳴り、最上の首に白刃が添えられた。
「ほう?動かんか。それとも動けなかったか?」
「こちらから危害を加えなければ、そちらは危害を加えぬとのことだった筈だ。今ここで私を殺せば利益より不利益の方が大きいと思うが?こちらは崩壊した金剛郭の渦中から死人なく脱出し、海門でもカバネリも融合群体も殺した実績があるのだからな。大人しく私を帰した方がいいのではないか?」
「冷や汗流しておるくせに、生意気な口をきく小僧だな。まあいい。失せろ。木村。連れていけ。」
「承知。堀川殿。こちらへ。」
「それでは失礼する。」
木村が開けた襖を潜り、襖が閉められた瞬間どっと最上の顔に汗が浮かぶ。
(首。飛ぶと思った。)
木村は、その様子を見てよくもまああそこまで喧嘩を売ったものだと思った。最上を先導し、暫く進んでから口を開いた。
「貴方が外のカバネをあそこまで気にする必要はありますか?」
「海門は我々が行く前より北陸連合軍が既に攻め込んでいた。海門程の要衝ではなくとも、外から見て明らかに異常なこの事態。いつまでも放置するとは思えない。阿波や土佐も備前に抜ける為にこの辺りを通過する。逆も然りだ。瀬戸大橋の件もある。非重の研究成果が出る前に襲撃されるぞ。白刃戦をする必要もない。海門と違ってこの辺りは平地だ。しかも砲撃で壊滅しようと構わぬ立地。とはいえそちらはカバネリがいる。泥沼の戦になるぞ。」
「ならばそう言えば良かったではないですか。」
「それこそ首が泣き別れだろう。脅しに他ならない。それに非重は全く信用ならん。金剛郭を落としたのはあいつの研究成果だ。鵺が磐戸駅を破壊するのを見て、大喜びしていた男だぞ。」
「そうですか。」
「聞きたいのだが、東雲殿の奥方は駅一つ捧げる程か?主君に死んでくれと言われれば、死ぬのが武士ではあるが。理由は相応必要だろう。」
「…そうですね。東雲様は若くして領主になられてから、大層苦労しておいででした。奥方様も早くから嫁ぎ、影からずっと支えておりました。我々も共に歩んで参りました。それぞれ先代からの恩も思い入れもありましょう。」
(なにやら他人事だな。自分は違うとでも言いたそうだが…。)
「ここを曲がれば駿城です。」
「案内の手間をかけて申し訳ない。感謝する。」
最上が軽く頭を下げてから、背を向け甲鉄城が見える位置まで進んだ。道中は日が落ちきりほぼ暗闇であったが、民家の先には甲鉄城からの灯りが向けられているのか、かなり明るくなっている。照らされている場所に踏み出し、甲鉄城が視界に入ったことで、少し気を抜いた瞬間後ろで鯉口が鳴る。咄嗟に刀を抜きつつ振り返ると、抜き切る前に木村の横薙ぎが最上の刀に激突した。深い位置で受けた上、まだ通り抜け切れていなかった民家の壁に背を押し付けられ、下がることも出来ずぎりぎりと刀が鳴る。
「木村殿!何故!」
「このまま帰したら、貴方達はどうするおつもりですか?様子見でしょうか?多度津を滅ぼして貰わねば困るのです。」
「何を言っておられる!」
「先程言いましたね。駅一つ捧げる程かと!私はそうは思ってない!私の妻子もカバネとなった!なのに何故!東雲様の奥方様だけを救わねばならぬ!今奥方様がカバネリとなったとて、それがなんだというのだ。何にもなりはすまい!ただでさえ我々を除いて325人も捧げておきながらまだ足りぬと言う!領主といえど、領地はカバネしか住まわぬ地と成り果てた!これ以上忠義は捧げられぬ!」
「ならば何故従っておられる!」
「私は殺すぞ。あの男を。この地獄を作ったあの男だけはこの手で!それまでは従うと決めた。だが中々多田様や大西殿が離れぬ。機を待っているのだ。」
「であればこちらに来い。」
「駄目だ。非重は人間だ。流れ弾などで死なれてはかなわない。必ずこの手で殺す。それに私も人喰いだ。もう戻れぬ。」
「だとして私に斬りかかることになんの意味がある。」
「堀川殿の立ち位置。駿城から見えているでしょう。私の刀の刃先も見えている筈だ。家老に危害を加えられておきながら、顕金駅は何もせずに様子見をなさいますか?日和見はさせぬ。東雲様には、貴方が東雲様と奥様を侮辱した故に、私が切り掛かったと説明しよう。」
「滅ぼしてほしいと言うならば教えてほしい。襖の横にいた若い男もカバネリか?」
「そうです。あれは好井忠政。蒸気筒が達者です。お気をつけて。」
甲鉄城から足音が近づいてきたのに木村も気がついたのか、スッと刀を引いて去って行った。
「仔犬!」
瓜生がたどり着いた時には木村の姿はなく、民家の壁に身体を預けたままの最上だけが残されていた。
小説のお針子衆がアニメにいなかったじゃないか!カバネリでもない女の子達が前線で戦うとか見たかったよ!なんか回想で女の子1人だけ描写あっただけじゃんね!いや狩方衆の軍隊感も好きだけども。
しかしカバネリは本当に話畳む気無かったんじゃねぇかってとっ散らかり方してますね。
よって色々と勝手に捏造してますので、お針子衆が気になる方は公式の小説版をどうぞ。
ホモ君大暴走(1人で謁見)会
ホ「武士ってそういうもんだろ?」
瓜「違うんじゃねぇか?」
糸「違うと思います。」
お前それ戦国時代じゃねぇかって状態。そも時代設定を江戸時代あたりとしてみてるので、そういうの無縁の世代しかいない。だって既に統一されてるし、駅同士でそんな無駄なことしないから。