【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

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南海道 9

「生駒。手合わせするぞ。」

 

「えっ?」

 

最上から生駒に手合わせの誘いである。

未だかつて生駒は最上と手合わせはしたことはない。いざという時に、生駒を殺せる可能性を高くしておくためとは、生駒は知らないが、最上が生駒と手合わせをする気がないのは生駒も気がついていた。

 

「多度津駅では武士が複数カバネリになっている。多田、大西、木村は刀使いだ。刀使いとの戦い方も慣れておけ。相手が来栖だけでは不十分だ。来栖は埒外だからな。」

 

「おい最上。」

 

「わかりました。お願いします。」

 

「本気で来い。」

 

生駒と最上の手合わせが始まると、心臓までは届かないものの、生駒は手足を袋竹刀でばしばし叩かれている。

 

「達磨にされるつもりか?」

 

「うっ!くっそ!」

 

生駒は最上が自他共に認める前衛最弱だから油断していた。カバネリである生駒達と違って、一撃でもまともに食らえば致命傷の中戦っているのだ。弱い訳がなかった。生駒は気分でムラっ気が酷い為、そもそも敵認定していない最上に無意識で遠慮している部分もある。

 

「仔犬ちゃんもっとやってやれ!野良カバネリ!何回手足落とされた?」

 

「うるさい!」

 

「くだらない野次に集中力を割くな。」

 

「いたっ!」

 

「ほらまた右手が飛んだぞ。」

 

最上は来栖と違って悪く言えば甚振っているような戦い方だ。そもそも非力であるから削っていくスタイルなのだが、側から見たら甚振っているようにしか見えない。

 

「生駒ー!もっとぱっちょんぴってしなきゃ!」

 

「わかんねぇって!なんだよ!ぱっちょんぴっ!いったぁ!」

 

「ほら首が飛んだぞ。死にたいのか?もっとちゃんと見ろ。不可視の攻撃などない。学習しろ。一度食らったら二度目は食らうな。」

 

「はいっ!」

 

「人が実現し得る動きの範疇だ。剣先を見るな。視線は胸元。胸元を見ていれば腕の動きは読める。足の動きも読める。カバネリの動体視力と反射神経なら反応できる筈だ。」

 

来栖が使わない足下への攻撃も飛んでくる為、何度も足を叩かれている。

 

「足が飛んだぞ。機動を削がれれば、滅多切りにされるぞ。足を止めるな。お前の間合いはもっと近いぞ。私の間合いの内側に入れ。」

 

最上にばんばん叩かれている生駒を見ながら無名は思った。

 

(なんだ最上さん強いじゃん。)

 

「ねぇ。来栖。なんで最上さん普段あんなころころ転がされてるの?」

 

「カバネは殆ど回避行動をしない。力強くで押し込んでくる。最上は目方が軽いし非力だからな。突進する様に攻撃されると引かざるを得ない。受けきれないからな。ワザトリの様な技術もあるカバネに押し込まれるとなおのことだ。要はカバネの臂力に振り回されている。生駒が押し込めば簡単に吹っ飛ぶぞ。生駒が遠慮してるからああなっている。まあ今回は刀使いのカバネリらしいから、刀使いとの戦い方を学ぶのは良いことだ。力押しで最上に勝っても意味はない。」

 

「ふーん。っていうか来栖だって刀じゃん。」

 

「ばっか。無名。忠犬は規格外だから学習にむかねぇんだよ。学習する前にぼこぼこだわ。段階踏まなきゃ野良カバネリには無理だ。野良カバネリにお前みたいな才能はねぇよ。」

 

「お前な。」

 

来栖がジト目で瓜生を睨んだ瞬間動きがあった。生駒が最上の右腕を捕まえて上に振り抜き、最上の足が簡単に地から離れた。柔道の様な投げ方ではない。カバネリの臂力に任せた力強くの投げである。生駒は最上の腕を掴んだままだ。

 

「生駒!手を離せ!」

 

来栖の怒声を聞いて生駒は、ぱっと手を離した。丁度山なりの頂点で離された為、最上は身体を捻ってなんとか着地した。叩きつけられたら下手をすれば半身不随である。

 

「あっ。す…すみません。」

 

「いや。構わない。」

 

「最上。肩は無事か。」

 

「抜けるかと思ったが大丈夫だ。もう腕を掴まれたか。目が慣れてきたのかな。」

 

右腕をぐるぐる回しながら最上は首を傾げる。

 

「さて。生駒もう一度だ。もう少し速度を上げるぞ。」

 

「えっ…。」

 

最上は全速力ではなかった。そもそも全速力ではべらべら喋れないので当然である。その日生駒は最上に散々叩かれた。

 

「生駒は強いやつと戦い過ぎたか?胴体への攻撃に慣れすぎたな。手足が疎かだ。姑息に削ってくる戦い方に慣れていない。カバネリだからと多少の負傷を気にしないのがよくないな。侍相手なら落としてくれと言っている様なものだ。もっと負傷に気をつけろ。」

 

「はい!」

 

「まだ視線が柄あたりに行きがちだ。見るのは胸元だ。全体を見ろ。腕を目で追うな。」

 

「でも、つい追っちゃうんです。」

 

「慣れるしかないな。相手の間合いを把握しろ。獲物の長さは見れば分かるだろう。お前は殆ど無手同然だ。足を動かせ。間合いの内側に入るんだ。相手の間合いで戦うな。…もうお前も私と同じように金属板仕込んだ方が良いんじゃないか?せめて小手は作っておけ。金属被膜刀を受けられる様な強度が良い。多少無理矢理でも小手で受けてしまえば間合いに入れる。間合いに入ったら出るな。間合いを切られたらお前が不利になる。」

 

「は…はい。」

 

生駒は初めてまともなアドバイスを貰った。来栖は遅いとか何処を見ているとか止まるな等と言うが、それはアドバイスではない。たぶん最上と同じような意味で言っていたんだろうがわかる訳がない。無名は言わずもがなである。

 

最上が生駒と手合わせしたがらないのはわかっているが、これからも最上が教えてくれないかなと思った。

 

最上はこれでいざというとき殺しにくくなるなぁと思ったが、生駒をこのままにして多度津駅で討たれる方が困るのだ。ただでさえ、カバネリ5体はかなり無理があるのだ。

 

「最上さん!生駒にぱっちょんぴっ見せるから、さっきのぐっさっしゅってやって!」

 

「無名!だからそれ伝わんねぇって!」

 

「………これか?」

 

無名のリクエストがどういうものか、言葉を理解するのではなく無名がぱっちょんぴっと言った時の動きを再現した。

 

「それ!」

 

「嘘だ!なんで伝わってるんですか⁉︎」

 

「いや。言葉では分からん。さっき無名殿が生駒に助言した時にやってた動きをしただけだ。」

 

「なんだ。よかった。あれで伝わったのかと…。」

 

生駒はほっと息を吐いた。

 

「はい!最上さん!全力で良いよ!」

 

「待て待て。それでは生駒が分からん。ゆっくりやるぞ。」

 

「えー!生駒!全力で良いよね!」

 

「良いわけあるか!」

 

「もう!わがままだなぁ。」

 

「無名殿。5割くらいで頼む。いくぞ。」

 

「いいよ。はい。ぱっ!ちょん!ぴっ!」

 

「ゔっ!」

 

無名のぴっの掛け声とともに最上の顎がかち上げられ、最上は足がちょっと地から浮いた後仰向けに転倒した。

 

「最上さぁあぁん!こら!無名!やり過ぎ!」

 

「最上さん避けてよぉ。」

 

「最上。無事か?」

 

「め…まわ…る。」

 

来栖が最上の上体を起こして声をかけるが、最上の頭はふらふらとしており、正面から最上の顔を覗き込んだ瓜生は首を横に振った。

 

「駄目だな。無名。こういうときは寸止めすんだよ。普通に殴るなよ。」

 

「えぇ…。だって来栖は避けるじゃん。」

 

「手本で本当に殴るやつがあるか。」

 

瓜生からも来栖からも注意され、無名はむくれながらそっぽを向いた。

 

「だってそんなやり方やったことないもん。」

 

「…確かに。俺いつも無名に手本見せてもらうとき、普通に投げられてたし殴られてた。」

 

「まあ、仔犬ちゃんも次からは避けるだろ。おら口あけろ。舌はかんでねぇな。」

 

「歯…いたい…あごいたい…。」

 

「とりあえず折れてねぇとは思うぞ。」

 

「最上横になってろ。あとは己がやろう。」

 

「…まかせた…。」

 

最上はそれ以降使いものにならなかったし、食事をとるのも苦労する羽目になった。

生駒はこの後来栖に散々叩かれ、無名からの理解不能なアドバイスが飛び、瓜生からの野次が飛び続けた。

 

周囲で見ていた他の駅の武士達はドン引きしていた。なにせ現在到着している駅の武士のうち腕に自信のある者は、最上に全員のされているのだ。

生駒の技術が伴っていないのは、見て明らかであったが、最上とやっていた時に力強くでぶん投げたり、来栖との手合わせは遠慮なく攻撃するので、臂力の強さや打たれ強さは伝わったし、最上より容赦なく生駒をボコボコにする来栖にびびっているのである。

 

生駒を一通りボコボコにした来栖は、無名と全力で手合わせもしたものだからドン引きも致し方ない。あちこちから

 

(目で追えない。)

(残像とか初めて見た。)

(武士の方は人間でいいんだよな?)

(衝撃波きた。おかしいだろ。)

 

などと囁かれていた。

 

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