【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

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南海道 10

その日蓬莱城は、自走臼砲を借りてくる大豊駅の到着が遅れている為、偵察がてら多度津駅に来ていた。車両防衛の観点から、甲鉄城は高松駅に残し、蓬莱城の一城での偵察である。

 

「とりあえず今日は様子見だ。跳ね橋付近の状況の確認を最優先とする。絶対に無理はするなよ。」

 

偵察にはカバネリとかち合っても良いように、無名、生駒を主軸とした班と来栖を主軸とした班を編成し、最上と瓜生は車両防衛及び救援部隊である。

 

無名班は生駒と普段から組み慣れた来栖の配下の武士、来栖班は雅客と配下の武士、最上班は流民上がりの武士、瓜生は狩方衆がそれぞれ班員である。吉備土と服部は、残った武士をそれぞれ割り振って車両担当である。

 

「先に言っておくが、相手はカバネリだ。カバネみたいに馬鹿みたいには突っ込んでは来ない。私が敵にいたらどういう手を取るか考えろ。私が無名殿や来栖相手に正面から戦うと思うか?」

 

「それ自分で言ってて悲しくならんか?」

 

来栖は最上をじとりと見た。最上が自分に対して、正面から向かってこないことなど分かりきっているが、堂々と本人が言うことでもない。

 

「ならん。いいか?正々堂々戦ってくれると思うな。姑息な手を使うぞ?常に警戒しろ。臆病者は姑息な手を使う。」

 

「臆病者って言っちゃったよ。実は根に持ってます?生駒が克城の時に言ったこと。」

 

「すみません…。」

 

「違うが?お前らは馬鹿正直ばかりだ。馬鹿みたいに突っ込んでくるだけのカバネだけの場所とは違う。カバネリがいる。とはいえ兵はカバネだ。狩方衆程の統率力も戦術もない。なら正面からは戦わん。私なら絶対にだ。ちまちま削って、嫌がらせもして精神的に追いつめる。」

 

「姑息だ。いっそ潔いな。」

 

雅客や来栖がちょいちょい口を挟むが、最上は全く気にした様子はない。

 

「無理だと思ったら信号弾を上げろ。来栖や無名殿は周りに気を配れ、欠員は認めない。守れないと判断した時点で信号弾だ。無名殿はいいとして、来栖は搦手には弱そうだから雅客をつけた。雅客。周囲の警戒を怠るな。私が敵だと思えよ。」

 

「そんなにですか?」

 

「当たり前だ。相手は臆病な領主と経験豊富な家老がいる。いっそ道元様だと思っても良い。」

 

「いや。逆に想像できません。」

 

「ならやはり私だな。最大限警戒しろ。」

 

最上からしつこい程に、忠告をされ偵察部隊は送り出された。

 

来栖班は北方を担当し、道を進んでいく。北方は道幅が広く見通しは悪くない。カバネが時々襲ってはくるものの、大軍に襲われるわけでもなく順調に北進していた。

暫く北進したところで、真っ白な煙が漂ってきてカバネが多数襲撃してきた。

 

「目眩しか?互いに声を掛け合え!」

 

民家の間を抜けてきたのか、カバネは来栖の部隊の後方にも展開していた。

 

「来栖。引こう。」

 

「早すぎないか?まだ問題ないぞ。」

 

来栖が進行方向である北方を単独で抑えている為、後方の対応も問題なく出来ている。だが雅客は嫌な予感がしていた。確かに煙は目眩しになっており、互いに声を掛け合い位置を把握せねば危険ではあるが、現時点では大きな問題はない。決定的な危険がないからこそ疑わしい。最上ならこの程度では終わらない。そして仕掛けられた時点で、最大限に警戒すべきと感じている。

 

「これ以上仕掛けられたら対応できない。挟み討ちになってる時点で駄目だ。」

 

「わかった。雅客。信号弾はお前の判断で撃て。後退する!弾を惜しむな!」

 

雅客は来栖班の命運を託された。

 

 

一方無名班は西方に進行していた。北方と比べると道幅が狭く、障害物も多く置かれている。障害物は民人がいた時の名残りと言うよりは、態々配置されていると思われる位置取りである。

 

「無名は、最上さんが言ってた姑息な手?とか詳しいのか?」

 

「詳しくはないかな。」

 

「えっ。大丈夫なのか?」

 

「詳しくはないけどなんとなくわかるじゃん。生駒。そこ踏んだらだめだよ。」

 

「えっ?」

 

生駒が下を見ると、足元には紐が張られており、左右を見渡すと見づらい位置に小さい弓矢のような物が設置されていた。

 

「わっ!危ねぇ!無名!ちゃんと言えって!」

 

「言ったじゃん。あっ!生駒!駄目!」

 

生駒が足元の紐に驚いて数歩後ずさると、いく先には蓙が打ち捨てられている。無名の静止は間に合わず生駒が蓙を踏んだ。

 

 

蓬莱城では、北方と西方にも気を配っているが、一番警戒しているのは東方である。南方は跳ね橋であるのでそこまでではないが、東方は偵察部隊も出していない。カバネリが1人来るだけでも危険なのだ。なにせ最上も瓜生もカバネリと単騎で戦うのは中々厳しい。府中駅手前時のように車内ではないから、掃射筒での援護も受けられるが、相手の実力は未知数である。

 

多田、大西、木村の3人は刀を使うというのは既に分かっている。事前に得た情報では、大西はそれなりに剣の腕はあるようであるし、カバネリになって身体能力が底上げされたことを考えれば、来栖と同程度を想定しておくべきである。多田、木村はそこまでではないらしいが、生駒のような素人がとんでもなく強くなるのがカバネリである。警戒しておくに越したことはないのだ。

 

「北方!閃光弾確認!来栖達の方だ!」

 

「なんだと⁉︎」

 

吉備土の声を聞き、最上も車上へと上がる。吉備土の近くで双眼鏡を覗いていた武士から、双眼鏡を引ったくり来栖達の方を確認する。

 

煙で少々見通しは悪いが、煙の中で数名が膝をつき、来栖も少々押されている様に見える。しかし双眼鏡で確認できる限り、交戦しているカバネに異常に強そうな者も確認出来ない。

 

(来栖で苦戦するなら、無名殿くらいしか応援には出せんが何かおかしい。なんだ?なにがおきている…。)

 

「最上様!援護に行きましょう!」

 

「待て!状況確認が先だ!」

 

最上は双眼鏡で周囲を確認すると、目についたのは煙の発生源である。燃えていたのは夾竹桃の生木であった。

 

「夾竹桃だ!中毒症状が出てる!急いで回収するぞ!私の班はついてこい!瓜生!車両の防衛は任せる!」

 

最上は車上からひらりと降りて班員を連れて、北方へと走って向かう。

 

「あの煙は夾竹桃だ!回収の際は出来るだけ煙を吸うな!直ぐに離脱するぞ!視界が悪い!同士討ちするなよ!」

 

煙に囲まれた来栖達は、殆どのカバネを倒し切っており、そこまで乱戦にはならないだろうが中毒になっているものが動揺してこちらに撃って来ないとも限らない。

 

「来栖!南方から私の班が入るぞ!煙からの離脱を優先しろ!煙を吸うな!毒だ!」

 

声をかけてから最上達は煙の中に突入した。最上はカバネを切り捨てつつ最前線の来栖の元へと走る。班員が下がらねば来栖も下がれない。

 

最上の班員が来栖の班員を回収しつつ煙の中から後退して行く。前線に来栖と雅客が残っているが、来栖がとうとう膝を着いた。前衛をする以上運動量が多くかなり煙を吸っている様だ。来栖の前にはまだカバネが3体残っている。

 

最上は来栖を抜きつつ、カバネを1体蹴り倒し2体目の心臓に刀を突き入れる。

 

「雅客!援護は不要!来栖を連れて急いで下がれ!」

 

カバネがいなくとも最上では来栖と雅客を抱えることは出来ない。2人になんとかしてもらうしかないのだ。カバネはまだ残っている上、最上もあまり長居するわけにはいかない。

 

3体目は少々大柄でのしかかる様に突っ込んでくるが、最上は脇を抜けてカバネの脚の腱を切断する。蹴り倒した1体目が来栖達へと向かっていた為、背後から飛び掛かり蹴り倒しつつ心臓へと刀を突き立てた。刀を抜きつつ後退状況を確認すべく、視線を巡らせたところで脇道からカバネが走り出て来るのを確認し、横にずれて片腕を切り落とし心臓へと刀を突き入れた。

 

「…けほっ。」

(早く離脱しないとまずいな。)

 

最上は少々咳き込みつつ来栖達の後を追った。

 

「ワザトリだ!」

 

前を行く武士から声が上がる。煙の中で来栖がなんとか2合程打ち合ったが、来栖はまともに打ち合える状況ではない。ワザトリは来栖より大柄で今度は最上が蹴り倒せる体格ではない。

 

最上は即決した。

 

最上は全速力で駆け寄り、そのまま来栖を蹴り飛ばした。

 

「離脱しろ!」

 

ワザトリから振り下ろされる刀を後退して避け、顔面に散弾をお見舞いし、更に数歩下がって投網砲で捕獲。網に囚われもがくワザトリの心臓に刀を突き入れた。

 

(気持ち悪くなってきた。)

 

最上は煙の中で走り回り、カバネとも戦っているため、救助に向かった面子の中では一番煙を吸っている。来栖がまともに戦えない以上、蓬莱城まではもたせなければならない。

 

更にカバネを2体ほど切り捨てたあたりで最上も煙から抜け、殆どの者が単独歩行が怪しい来栖の班員と周囲を守る最上の班員と合流した。

 

「点呼!」

 

最上の号令で班員がそれぞれ点呼をし、全員が煙から離脱しているのを確認した。

 

「全員いるな!蓬莱城まで後退する!糸賀!先頭を行け!私が殿をする!」

 

脚の腱を切断したカバネが煙の中から飛び出してくるが、もう一度脇をすり抜けつつ脚の腱を切断し、転倒したところにとどめをさす。

 

最上が殿をしながらなんとか蓬莱城まで辿り着いたが、来栖の班員は嘔吐する者まで出ていた。

 

「吉備土。無名殿達が戻り次第駅外へ離脱する。警笛で呼び戻せ。」

 

「承知しました。」

 

来栖の班員は殆ど皮膚に炎症が見られ、眩暈や倦怠感を訴え、何名かは嘔吐までしている。最上も少しの気持ち悪さと倦怠感を感じており、カバネリに襲撃された時に戦える状況ではない。

 

「負傷状況の確認を優先しろ。介抱してたらカバネになりましたでは笑えんぞ。負傷状況を確認するのに服を脱がせたら、水で身体を洗い流させろ。」

 

指示を出した最上が車上に上がると同時に蓬莱城から無名班を呼び戻す為の警笛が鳴り響く。

 

「仔犬ちゃんは洗わんでいいのか?所々赤くなってんぞ?」

 

「万が一を考えればまだ無理だ。無名殿が戻ればそうさせてもらう。危うく偵察で飛車落ちするところだったな。」

 

炎症を起こしている場所が痒いのか、最上が顔をぽりぽりと掻きながらため息を吐く。

 

「忠犬が飛車なら、無名は角行か。」

 

「あちらが飛車角4枚持っているのが怖いが、その上で姑息な手を使われるのは中々厳しいな。」

 

「角行と香車は無事かな?」

 

「香車は生駒か。無事でいてもらわねば困っ「西方信号弾!」あ"ぁ?」

 

「俺が行くか?」

 

「頼む。瓜生が出るぞ!周囲警戒を怠るな!」

 

瓜生は車上から双眼鏡を覗いているが、無名班は建物の影で確認できない。

 

「見えねぇ。仕方ねぇな。」

 

瓜生は最上に双眼鏡をぽいと投げ渡し、車上から降りて班員を従えて行った。

 

「吉備土班!厳戒態勢!吉備土班以外は車両内に入れ!」

 

「北方からカバネが来ています!」

 

「だろうな!私だって追い討ちをかけるよ!北方以外も気を配れ!」

 

(くそっまだ気持ち悪い。)

 

最上もそれなりに煙を吸っており本調子ではない。だがここで来栖を出すわけにもいかないのだ。

 

「鎮守砲!発射準備!」

 

「鎮守砲⁉︎駅内ですよ⁉︎」

 

「言ってる場合か!照準急げよ!掃射筒も3、4両目は北方照準!」

 

吉備土は抗議しているが、鎮守砲に割り当てられているのは流民上がりの武士であるため、最上の指示通り鎮守砲は北方へと砲塔を回した。

 

「照準よし!」

 

「よし!鎮守砲!撃てぇ!」

 

最上の指示で鎮守砲が火を吹いた。北方から押し寄せるカバネに鎮守砲が着弾する。幅員の広い道であるが、鎮守砲はさらに周囲の民家も一部吹き飛ばした。

 

「二射目装填急げ!掃射筒はもう少し引きつけろ!」

 

「東方からもカバネが!」

 

「鎮守砲東方に照準!5両目の掃射筒は東方照準!」

 

「東方照準了解!」

 

「ちょっと最「糸賀以下5名戦線に戻ります!」

 

動揺する吉備土を余所に、水をかぶってきたのかびしょびしょのまま、最上の班員の一部が車上に上がってきた。

 

「東方だ!糸賀と山田は擲弾発射器用意!他は蒸気筒だ!擲弾を撃ち込んだ後私が前に出る!吉備土!うるさい!北方の指揮をとれ!やらんなら車内に引っ込んでろ!邪魔だ!」

 

「はっはい!」

 

吉備土は、まさか市街地にばかすか鎮守砲を撃ち込むと思っていなかった為、わたわたとしていたが最上に怒鳴りつけられて、そそくさと北方の指揮に移動した。

 

「鎮守砲照準よし!」

 

「よし!鎮守砲!撃てぇ!」

 

東方の幅員の狭い道を走って来たカバネが周囲の建物ごと吹き飛ぶが、後ろから押し寄せるカバネはそのまま前進してくる。

 

「歩荷!無名殿達はまだか!」

 

「まだ姿が確認できません!」

 

「東方!掃射筒撃て!」

 

「擲弾発射器準備完了しました!」

 

「掃射筒やめ!糸賀!撃て!」

 

糸賀の撃ち込んだ擲弾により、更にカバネを吹き飛ばす。

 

「糸賀!蒸気筒に持ち替えろ!一之瀬が来たらアレの準備をさせておけ!山田!もう少し引きつけろ。まだだ。」

 

「無名達確認!生駒以下3名が担がれてます!」

 

「山田!撃て!」

 

再度撃ち込まれた擲弾で東方のカバネはまばらになりつつある。

 

「山田も持ち替えろ!援護を頼む!糸賀!指揮権を譲渡する。」

 

「承知!」

 

最上は車上から降りてカバネを迎撃し始め、班員からの援護が飛ぶ。最上の班員は順次車上に上がり始め、援護射撃が増えていく。

 

「無名班全員収容!」

 

「最上様!上がって下さい!」

 

蓬莱城が動き始め、最上は急いで蓬莱城へと乗り込んだ。最上が前線を離れた為、掃射筒による掃射が開始された。最上が車上に上がる頃には蓬莱城はカバネを轢き殺しながら、跳ね橋を目指していた。

 

「一之瀬。準備は?」

 

「出来てます。」

 

一之瀬と呼ばれた武士は、蒸気弓を携えて車上で待機していた。

 

「適当に撃ち込んでおけ。」

 

「承知しました。」

 

一之瀬が撃ち込むのは火矢である。一之瀬が何度か火矢を撃ち込むと、じわじわと市街地が燃えていく。

 

「最上様!何故火付けを⁉︎」

 

吉備土が一之瀬のしていることに気がついて、慌てて駆け寄ってきた。

 

「嫌がらせだ。」

 

「嫌がらせって…。」

 

吉備土は愕然とした。いくら民人が死に絶えていたとしても、民家に火付け等するものではないし、今までの廃駅奪還の際もそんなことはしたことも、指示されたこともない。

 

「一之瀬。そろそろ終わりで良い。車内に戻るぞ。」

 

「はい。」

 

最上は吉備土の横を通って車内へと入っていき、一之瀬も吉備土を無視して車内へと戻っていった。蓬莱城も徐々に速度を上げていく。

 

「吉備土!早く中へ!」

 

歩荷に声をかけられて、吉備土も燃えゆく市街地に目をやった後、車内へと入っていった。

 




ホモ君は元々道元様から、領主は臆病な質だと聞いていた上、謁見の際に武士が勢揃いしていたので、臆病者の確信を得ています。東雲本人がカバネリである以上、謁見には大西か多田のどちらかだけを置いて、木村に立ち会わせればそれで充分なはずなのに、戦力の秘匿より安全を優先していたので。

夾竹桃でここまでの症状が出るかは、ぶっちゃけわかりません。口に入れたらやばいのはわかるんですがね。危ないから家庭で燃やすなっていうのは良く見るのでとりあえず採用。事件物の青酸カリとかクロロホルムくらいのつもりで見てください。(どっちも現実的ではないらしいので)
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