車内では無名、生駒班の負傷者の確認と、来栖班の介抱が行われていた。
「無名殿。感染者はいそうか?」
「たぶんいないと思う。潜伏期間の可能性もあるから絶対じゃないけど。」
「悪いがここで経過観察を頼む。ところで信号弾を上げるほどとはなにがあった?」
「罠だよ。狩猟罠みたいなのが沢山あって、大体怪我の原因はそれ。全くやんなっちゃう。」
無名は腕を組んで深々とため息を吐いた。
「毒などは塗られていないのか?」
「現時点でそういった症状はありません。」
最上からの問いに、看護師が簡潔に回答した。最上は看護師の回答に頷き、周囲をぐるりと見回した。
来栖は未だ復活できておらず、びしょびしょのまま横たわっていた。来栖の班員も殆どが横たわり、座っている者は雅客と他1人だけであった。
「仔犬ちゃん。お前いい加減洗い流した方がいいぞ。さっきより酷くなってるぞ。」
「そうさせて貰おう。さっきからあちこち痛痒い。しかし偵察ですぐに撤退する羽目になるとはな。」
最上はぼやきながら負傷者が集まる車両を後にした。
蓬莱城に普段から乗っている面子は、今回の撤退に少なからず衝撃を受けた。
以前甲鉄城は敗走したことがあるが、蓬莱城はその経験はない。甲鉄城の敗走もワザトリによるもので、ワザトリが最上と瓜生より強かったからだ。今回顕金駅の殆どの戦力を注ぎ込んでいるにも関わらず、カバネリと戦うこともなく敗走している。
「最上様が言ってた通りになったな。」
雅客が深々とため息を吐いた。
「確かに臆病者は姑息な手を使うって言ってたな。まさかカバネリと戦うこともなく撤退とはなぁ。」
「しかし何故火付けなど…。」
歩荷は肩を落とし、吉備土は困惑しながら口を開く。
「見通し良くなっていいじゃねぇか。カバネを用兵してくる上、罠まで仕掛けて来るってのに、見通しも悪くちゃやってらんねぇだろ。今回ご丁寧に偵察の二班とも罠に引っかかってんだぞ?」
「だが…。」
「ならデカブツてめぇはなんか有効な策出せんのか?出せねぇなら黙ってな。死人出してまであの駅を綺麗なまま確保したい理由でもあるのか?ねぇだろ?」
瓜生はいかにも馬鹿にしていますと顔に書いているような薄ら笑いを浮かべながら鼻を鳴らす。普段甲鉄城に乗っている者達もじろりと吉備土を睨め付けている。
「ちょっと瓜生。やめなよ。」
無名が口を出し、瓜生はため息を吐いて口を閉じた。車内は少々居心地が悪く負傷者ではないものは、そそくさと別車両へと逃げて行く。
普段何やかんやと主張の激しい生駒は、珍しく周りの話を聞くだけであった。というのも罠に引っかかった筆頭だからである。あの罠にまた迎えられるのは勘弁願いたいのである。
顕金駅奪還前は、菖蒲が吉備土と同じスタンスであったから、最上は基本的に菖蒲の意にそうように計らっていたし、反するであろうことをいう時は態々悪ぶった態度であったので、最上が非道な人間のような立ち位置であり、吉備土はここまで周りにしらけた視線を向けられたことがなかった。
それどころか来栖の班員や無名達の班員すら、微妙な視線を吉備土に向けている。勿論焼かずに済むなら焼かない方が良いに決まっているが、罠にかかった側からすると火付けに文句は言えないのだ。罠に引っかかるだけでなく、救援要請をした以上また同じ事態は避けたい。
暫く微妙な雰囲気であった車両に最上が戻ってきた。手拭いで髪を拭きながら戻ってきた最上は、微妙な空気に首を傾げたがそのまま来栖の様子を見に行った。
「来栖。少しは良くなったか?」
「まだ気分が悪いが、少しマシになった。」
「それは重畳。お前なしでカバネリとやり合うつもりはないぞ。暫くそこで転がってろ。」
最上は立ち上がって指示を出す為に口を開いた。
「では「無名!怪我してるのか⁉︎」え?」
生駒が無名の足を見ており、無名の右足には血が伝っていた。
「え?そんなことないと思うけど…。あれ?」
周囲の武士は当然無名に注目した。確かに血が流れているが、血が伝うのは内腿であった。理解した瞬間視線を逸らす武士が多数の中、生駒は無名に近づこうとして、最上に蹴り倒された。
生駒を蹴り倒した最上は、急いで羽織を無名の腰に巻いて抱き上げた。
「ちょっと!」
「ゆっ侑那殿のところに行くぞ!」
「無名!そのまま行くぞ!」
「え!え⁉︎なんで?」
「なんでもだ!」
「生駒!経過観察頼んだ!」
察した瓜生も扉を開けて、無名を抱き上げた最上を先導して行く。事を理解できていない生駒がぽかんと見送った。
「赤飯炊かなきゃ。」
雅客がぽつりとつぶやいて、歩荷がじとりと雅客を睨んだ。
「駅に帰ってから鰍にやってもらうべきでしょ。この面子に赤飯出されるのは無名が可哀想でしょうが。」
「赤飯…なん……えっ⁉︎」
生駒は赤飯のくだりでやっと理解し、顔を真っ赤に染めた。微妙な空気は最上の指示と共に吹き飛んだ。とはいえこの事態であるので、高松駅で大人しくするしかないなと全員が理解した。
一方艦橋に慌ただしくやってきた最上達は、運転士の見習いに運転を交代させ、侑那に無名を託した。だってお午の対応なんてどうしたらいいかわからないので。
「び…びっくりした…。」
「飛車角落ちだな。」
「…お前…。とりあえず大豊が来ても暫くは待機だな。」
蓬莱城は、顕金駅奪還後に建造された為、城主の執務室のスペースは甲鉄城と比べると小さくなっており、その分菖蒲と静が乗車した際、客車で寝るのを避ける為に寝室が併設されている。
菖蒲と静の使用の為の場であるので、普段は誰も使わないのだが、今回は無名に使用させることになった。
しかも今回の旅路は看護師すらも数少ない男の看護師を2人乗せたのみで、女子は侑那と無名しかいないのである。最悪の状況を想定して男ばかりにした弊害がここで出るとは思わなかったのだ。
無名ちゃんの成長は止まっているのかどうだかわからないんですが、多少遅れつつ進んでいると解釈しています。
まああのスタイルですから、早くに二次性徴迎えてそうですがそれはそれ。
吉備土は善良な感覚なだけです。江戸時代だと火付けは火罪(火あぶりの刑)という死刑です。駅制度下じゃなくても火罪なので、もっと資源の限られている駅制度下なら間違いなく死刑です。急に死刑相当のことされたからびびってる。
ホモ君「火付けって言うな火攻めだよ。カバネリも莊衛も殺しに来たのに火攻めくらいでガタガタ言うな。」
今までの、駅を奪還して復興してきた復興活動と、公益の為に死んでね。って仕掛けてる戦の違い。こうやって書くと極悪非道。