蓬莱城が高松駅に戻ってきても、未だ大豊駅は来ておらず、大豊駅以外の駅が揃っていた。
最上は狩方衆を引き連れて、偵察結果の報告へと高松駅の領主のもとへ行き、他の者達は操車場で待機となった。
「偵察段階でその有様とは、大丈夫なのかね。」
高松駅の領主は渋い顔で最上に問いかける。他人任せの癖に大変失礼ではあるが、高松と三島は顕金駅の次に多度津入りする予定なのだから当然の反応と言える。
「寧ろカバネリと接敵する前に状況が判明したのは良いことですよ。火攻めをして参りましたので、多少見通しがよくなっているかと。阻塞や掩体壕の準備は進んでおりますか?」
「ものは言いようだな。うちと三島が設置する分は準備できておる。」
カバネリが何処から襲撃してくるかわからない以上、海門のように保線しつつ範囲を広げることは出来ない。守備範囲を広げてカバネリに突き崩されるのは避けたいのだ。守る範囲は小さい方が良い。とはいえ駿城の防衛の為には阻塞や掩体壕は必須である。蓬莱城が引き入れる高松や三島の駿城は、陣地を守る為に阻塞や掩体壕を持ち込み設置しなければならない。
阻塞や掩体壕を設置し、掃射筒で固めてしまえばカバネリとてそう簡単に攻め入ることは出来ない。カバネリがいかに身体能力に優れようが、耐久性が並外れていようが、噴流弾が絶え間なく降り注ぐ中を突破するのは至難の技である。
蓬莱城が高松駅に戻ってから3日が過ぎた頃、大豊駅が自走臼砲を引き連れて高松駅に戻ってきた。
全ての駅の城主が集まり軍議が開かれ、作戦の確認が行われた。
「俺も城主なのに。」
蓬莱城の城主ではあるが、吉備土は最上に軍議への参加を断られ、操車場で待機になっていた。最上は軍議に来栖と瓜生を連れて行ったのだ。
「仕方ないだろ。領主や家老が相手じゃなくなったって言っても、厄介な相手なのは間違いないんだし。」
「まあ確かに俺では役には立たないどころか足を引っ張るか…。」
雅客からの返答にしょんぼりとしながら吉備土は相槌をうった。
吉備土も自覚はあるのだ。
自分は最上と合わないし、他の駅の城主と渡り合えるような口の上手さは持ち合わせておらず、かといって立場は城主だから発言には責任が伴ってしまう。吉備土の発言で言質など取られるわけにはいかないのだ。どの駅の城主も自分達の損害を少なくしたい。どの発言を拾って顕金駅に不利益を与えてくるかわからない。みんなが仲良く手を取り合って、助け合っていきましょうとはとはならないのだ。
作戦開始が3日後に決まり、最上が少し疲れた顔で戻って来た。吉備土は最上をじっと見た後、嫌がられるのを承知で最上に寄って行った。最上は最初怪訝な表情をしたが、吉備土からの用件を聞いて目を丸くした。
吉備土の用件は、多度津においてどこまでの損害を想定しているかの確認である。反対するつもりではなく、心の準備をするためだと言う。撤退時に指揮官でありながら、足を引っ張った自覚があるためだ。
「どういう心境の変化だ?」
「今回最上様が指揮を取れなくなったら、後方の指揮は間違いなく俺です。ただでさえ来栖も貴方も前線にいて不在の可能性が高い。俺次第で、顕金駅が多大な不利益を被ることになるのは俺にもわかります。いつも通りじゃ駄目だってわかります。」
最上はちらりと周囲を見るが、雅客や来栖も驚いた顔をしており、誰かに促されて出た台詞では無いようである。
「多度津の損害は考慮しないのはわかりました。各駅の命の優先順位を教えて下さい。磐戸駅でも金剛郭でも沢山見捨てました。余裕がない時は見捨てていたのに、時々勝手に余裕があるって判断して噛みついてました。貴方が無駄に犠牲を出してる訳じゃ無いのはわかっているのに。申し訳ありませんでした。」
吉備土が深く頭を下げたことで、最上は更に驚いた。菖蒲、吉備土、生駒は最上とものの見方が違う。命の価値の見方が違う。仕方がないことであるし、丁寧に説明する相手としても認識してはいなかった。
「教えたとして見捨てられるのか?」
「見捨てます。見捨てなかった皺寄せで、顕金駅の誰かが死ぬのはごめんです。」
「わかった。ここで話す事じゃ無い。着いてこい。来栖、雅客、瓜生、糸賀、一之瀬も来い。」
最上に声を掛けられた面子は、蓬莱城の執務室へと着いて行き、最上からの指示を受けることになった。来栖、瓜生は、そもそも前衛の指揮を普段から任せているし、判断基準はそこまで心配していないが、今回は他駅との都合があるのだ。
その日の夜、最上は来栖をちょいちょいと呼び付けた。
「吉備土のあれはなんだ?お前達が嗾しかけた訳ではないんだろう?」
「いや。己も驚いた。」
「お前がへばってたのが効いたか?」
「それよりお前が水を浴びに行った時に火付けの話になったからだと思う。」
「火付けって言うなよ。火攻めだ。火攻め。確かに噛みつかれたがいつもと特別変わらんだろう。」
「瓜生に噛みつかれていた。」
「ふーん。でもなんで今日?」
「さぁ。」
最上も来栖もこれだとピンとくるものはないが、吉備土が覚悟を決めるというならば否やはない。まして6駅相手に内輪揉めをしている場合ではないのだ。
一方吉備土は艦橋で、最上に渡された資料を読んでいた。
「で?どうしたんだ?」
「どうしたって…いや、まぁ…雅客の言いたい事はわかる。」
雅客が吉備土に探りを入れていた。特に吉備土がおかしな行動をするとかを疑っているわけではない。だが最上と吉備土の今までを見てきた者は、吉備土の歩み寄りに驚いていたのだ。
「瓜生にさ。死人出してまであの駅を綺麗なまま確保したい理由があるのかって聞かれただろう?」
「ん?そうだな。」
「瓜生は死人が出るのが前提なんだよ。わかってた筈なんだ。死ぬんだ。誰かしら。」
「…。」
「なんだ今更って思ってるよな。」
「…まぁ…。」
「でも甲鉄城が府中駅の手前で死人を出す以外で、最後に戦って死人が出たのっていつだ?」
「克城かな。」
「あの時はさ、菖蒲様も来栖も無名も甲鉄城から離れてただろう。最上様は参加しなかったけど、参加できる状態でもなかった。最上様もいっぱいいっぱいだった。金剛郭以降は戦っても死人も出なくなって、海門でも最上様が生駒にやられた怪我くらいだ。顕金駅奪還も思ってたより簡単に済んで、八代も石見も小田もずっと簡単だった。」
「そうだなぁ。」
「俺が強いわけじゃないのに。勝手に余裕感じてたんだよ。余裕がない時は、自分と周りの事に必死で必要以上に助けようとかしない癖にな。初めてワザトリと戦ったときなんか人死が出ても、誰かを責めたりしなかった。余裕がなかったからだ。純粋に生き残ったことを喜んだ。段々最上様に多くを求め過ぎてた。わかりやすく悪ぶってた最上様に責任押しつけて、自分達は強くなった気になって、菖蒲様や生駒の言う理想に共感してた。」
「まあ、そうだな。最上様も態々そういう立ち回りしてたのもあると思うけどな。」
「瓜生にああ言われた後、周りを見たらみんな冷めた目をしてた。そりゃそうだ。火付けしたからなんだよ。次は偵察で出てた面子が無事に済むとは限らない。死ぬかも知れない。来栖も無名も生駒も。今まで死ぬなんて思ってなかった面子が。まだカバネリを相手にもしてないのに、なに下らないことにこだわってたんだろう。」
「…俺は来栖と最上様なら来栖をとる。でもお前や生駒と最上様なら、今度は最上様をとるよ。綺麗事だけじゃ誰か死ぬ。」
「ああ。わかってる。余所の駅の誰かを助けて、顕金駅の誰かが死ぬのは嫌だ。今回も克城の時と同じだ。最上様に余裕がない。今日だって、余計な口出しをしない来栖と瓜生を連れて行ったのに疲れた顔してただろ。俺が余計な手間かけたりしたら蹴っ飛ばしてくれ。」
「お?容赦なくいくぞ?」
「そうしてくれ。」
雅客は吉備土を見てふふふと笑い、吉備土は居心地が悪そうに資料に目を落とした。
ホモ君:急になに?怖っ。
吉備土:ホモ君が府中駅手前でばっさりやられたり、実は政も経験はほぼ経験なしと知った。高松駅では道元が駆けつける様な状況だったと聞いて、来栖はカバネリと戦う事なく戦線離脱。自分は撤退時に実害はなかったとはいえ足を引っ張り、軍議から戻ってきたホモ君が疲れた顔してるの見たらもう駄目だった。やめる。綺麗事言うのはやめる。
雅客:キックスタンバイ。任せろ!
吉備土は、劇的な場面ではそこまで思考を回さないし、お人好しなので基本的に善良な行動を選ぶ。
そもそもホモ君が、来栖を同列に置いたことで意見できる環境にしていた事、吉備土と近い倫理観の菖蒲が主軸だった事、なんだかんだ死人が出ないことで周りを助ける余裕があると思っていた事が今までの態度の原因。
事情を知り、よく見て、よく考えて、ただ押しつけていただけと実感を得た感じ。戦うことも、金銭面も、仕事も自分達と違って出来るからって押しつけたのが、戦力面はまだしも政においてはスペシャリストでもなんでもなくて、ちょっと頭が良いだけの子供だという事実。