とうとう作戦開始の日が来て、蓬莱城はひと足先に多度津駅へと入ることになった。
南側の検閲所を抜け、検閲所付近の少し開けた場所を拠点とする。
北西に線路が伸びており、その先には操車場がある。操車場は駅西側に配置されており、北側の検問所と南側の検閲所から少しばかり距離があるため、拠点としては少々都合が悪かった。
検閲所を背にすれば、脱出経路も確保できるが、操車場ではそうはいかない上に、全方位に対してカバネリを警戒しなければならず、駿城防衛に割く人員がかかりすぎるのである。
駅内は南北と東西に開けた通りが走り、駿城は走れないもののトロリーや馬車が通行できるよう整備されている。
多度津は鉱山を抱えてはいないが、工業が盛んで他から鉄を購入し、駿城の建造を請け負っていた。その為、西側は作業場が大きくとられている。東側には城があり、検閲所付近は流民街の粗末な長屋や、民人の家々が立ち並んでいる。中心地は商家や裕福な民人の家屋が建ち並び、東側は凡そ上級武士などの立派な屋敷が並んでいる。
偵察時に南側の民家等を焼いたことで、南側は焼け落ちた民家等の残骸が広がり、かなり見通しは良くなっている。中心地や東側とは少し距離があるため、焼けたのは南側のみとなっていた。
「いやぁ。見通しが良くなったな。」
最上は手庇を作って周囲をぐるりと見回した。この日最上は蒸気筒を下ろし、二本差しの格好であった。というのも武士のカバネリ相手に、いつもの前衛後衛どっちつかずな装備は向かないと判断した為だ。
カバネに塗れた多度津駅は、消火活動など出来る訳が無く、粗末な作りの長屋や民家は悉く燃え落ち、柱すらも所々残る程度の燃え尽きようである。
蓬莱城が高松や三島を引き込む為にしなければならないのは、多度津の駿城の無力化である。
侑那や生駒や機関士に確認したところ、そもそも武士が5人ではまともに動かすことすら不可能との事であるが、相手には莊衛もいるのだ。油断は禁物である。
本来なら操車場ごと、鎮守砲で吹き飛ばしてしまいたいのだが、操車場にある確証もなく、作業場やはたまた別の場所に移動されている可能性もあるのだ。目視確認をしてから無力化せねば、おちおち拠点も作れない。
駿城を無力化するため、無名、生駒、最上、及び来栖の配下と狩方衆を動員することとなった。万が一カバネリが蓬莱城にきた場合、カバネリとやり合える来栖は蓬莱城に残すことにし、本来甲鉄城に乗っている面子の指揮を瓜生に任せる事にした。
無名と最上が先頭を行き、生駒が殿となり北西に走る線路上をひたすら進んで行く。操車場に駿城を乗り付けさせない為か、線路上には障害物が多くおかれ、罠もいくつか散見される。無名と最上が解除したり、注意喚起しながらぱらぱらと遭遇するカバネを倒しつつ進行し、操車場まで行き着いた。
「罠も少なく、強襲も無し。罠は設置が追いつかなかった可能性もあるが、襲撃もされないのは何故だ。駿城をあてにしていないか、誘い込まれているのか。」
「どうかな。まあ考えても仕方がないし、ちゃっちゃと片付けちゃおう。」
警戒しながら操車場にするりと入り込むと、操車場内は死体と僅かばかりのカバネが彷徨いているだけであった。事前に聞いていた多度津の外装の駿城も操車場内に確認できた。操車場内は死体が腐敗し、酷い悪臭が漂っていた。
生駒に狩方衆を付け、駿城の無力化に向かわせ、無名と最上と来栖の配下で周囲の警戒をする。
「最上さん。東から来るよ。」
「最後までなにもなしとはいかんか。総員戦闘準備!カバネリも何処から来るか分からん!駿城に上がれ!」
操車場の正面出入り口が、ばんばんと叩かれ、ぎしぎしと音を立てて扉が歪む。
暫くは耐えたが、正面出入り口が壊れてカバネが操車場内に雪崩れ込んできた。
「擲弾投下!」
蒸気の供給の問題から、掃射筒は携行していない。手投げの擲弾がカバネの群れに投げられ、カバネが吹き飛んでいく。多数の擲弾が投下されるも、カバネが駿城に取り付き始め、無名と最上が駿城に上がらんとするカバネと交戦し、武士達も数名が蒸気筒で応戦する。
「終わりました!」
暫く応戦していると、生駒が勢いよく車上に上がってきた。
「撤収するぞ!」
最上が車上から南側に降り、無名も車上から南側を重点的に狙い撃つ。順次駿城から降り立ち、最上に続いて南側の出入り口へと向かう。最上が扉の影に隠れつつ扉を開け放つと、操車場内に弾丸が飛び込み地面にめり込んだ。
「無名殿!狙撃だ!射角が広い!高所からだ!」
無名は狩方衆からスピンカートリッジの蒸気筒を受け取った。無名の二丁の蒸気筒では射程が短いからである。無名と入れ違いに最上が後方に下がり、生駒と共にカバネに対応する。
蒸気筒が上手いという好井が近くに潜んでいる可能性が高い。
(狙撃が出来る好井を単独運用はしない筈だ。)
「生駒!他にもカバネリが来るかもしれん!警戒しろ!全員出来るだけ固まれ!」
襲いくるカバネに対応しながら最上は視線を巡らせる。
「上です!」
生駒の声に反応し、最上が後退するが振り下ろされる刀の間合いの内である。刀を掲げて受けたものの、臂力の劣る最上では受け止めきれず、ギリギリ斜めに流した。びりびりと腕が痺れる。
「っ!大西だ!」
大西はカバネリとなった武士の中で、剣の腕が一番あると聞いている。生駒など前に出そうものならだるまにされかねない。最上が大西の名を上げたことで、生駒は交代するわけにもいかず、カバネの対応を続ける。最上がそのまま打ち合うが、身体能力の底上げされた大西は来栖並みだ。最上がどんどん押されていく。必死に対応しているが、最上が討ち取られるのも時間の問題である。無名は好井をまだ撃てておらず、南側から離れられないが、最上や生駒が狙撃を代われる訳もない。
「指揮官には、早々に退場して頂こう。」
大西の横薙ぎで最上が左に吹き飛んだ。
「最上様!」
飛び出そうとした雅客を狩方衆が引き戻す。
大西が最上に追撃すべく、袈裟懸けに斬りかかる。速さは来栖と同程度。臂力は来栖以上であるが、剣筋は来栖以下である。であれば、蒸気筒を背負っていない最上には避けられる。最上は打ち合う事なく回避に専念した。打ち合うのは、自分の体勢が崩れるばかりで良い事がない。
操車場内には、カバネがまだまだ残っており、あまり大西から距離を取りすぎると、最上もカバネの群れに向かう形になるし、大西が武士や生駒を狙わないとも限らない。
暫く距離を取りすぎないように注意しながら、必死に回避に専念していると、生駒の止めきれなかったカバネが最上と大西に向かう。
「抜かれました!」
最上が大きく避けたが、大西は丁度大きく振り抜いた直後で、カバネと向き合う形となった。カバネは一番近い大西に襲い掛かり、大西に斬り殺された。
「使役しているのはお前じゃないな?」
カバネが大西に襲いかかったのを見て、最上は大西に薄ら笑いを向ける。
「そういえばお前高所から強襲したな?カバネと一緒に雪崩れ込むのではなく、別行動をしていた。カバネはお前を判別出来ないということか。」
大西はぴくりと眉を動かしたが、最上の問いかけには答えない。カバネを使役するでもなく、だんまりを決め込んだ時点で認めたも同じだ。
「襲えという指示で、カバネは我々を襲うがお前らも例外じゃない。使役している者以外は等しく襲う対象ということだな。個人の判別はつかないというわけか。」
大西と最上が睨み合う。まともに打ち合えば最上に勝機はない。時間を稼ぎ、無名が合流するのを待つしかない。
南側の出入り口から発砲音がなる。大西は最上に斬りかかった。最上は回避を続けるが周りに注意を払う余裕がなかった。元々立ち回りに少々不安のあった生駒と背中合わせで激突した。その瞬間大西から横薙ぎがくる。回避すれば生駒が両断である。生駒を背で押しつつ横薙ぎを受け止めたが、最上は目方が軽く生駒も体勢を崩したため、最上は生駒ごと吹き飛んだ。追撃が来ると、直ぐに起き上がった最上が見たのは逃走する大西であった。
「ごめん!逃した!」
無名がこちらに来た時には、大西の姿はなく、無名も好井に逃げられたと言う。
「場所が悪い。追撃は無しだ。撤退を優先する。」
最上達は狙撃に警戒しつつ駆け戻る。
無名は狙撃の警戒を、最上は先導を、生駒は殿をしつつ、カバネに追われながら蓬莱城まで駆ける。蓬莱城に行き着くと、掃射筒がカバネを薙ぎ払い、暫くするとカバネの襲撃は引いていった。
「ごめん。頭は撃ち抜いたんだけど、心臓は無理だった。」
「いや。こちらのせいで追撃しに行けなかっただけだろう。こちらこそすまん。」
蓬莱城に戻ってから、無名と最上が謝り合う。
「生駒もぶつかって悪かった。余裕がなくてな。」
「いえ。俺が気をつけるべきでした。最上さんはカバネリを相手にしてたのに…。」
生駒は基本的に乱戦には向いていない。乱戦になるなら共闘相手が立ち回りに気をつける必要がある。生駒はそもそもが一般人であるので交戦時の視野が狭いのだ。最上もカバネが相手なら、生駒にぶつかるような真似はしないのだが、カバネリ相手にそこまでの余裕はなかったのである。
「大西は来栖のちょっと下ってところだな。来栖と無名殿は間違いなく殺せる。生駒はやめた方がいいな。私と瓜生は回避に専念して時間稼ぎが精々だ。単騎戦力が来栖以下とわかったのは良かったな。」
「でも狙撃手は早めに倒したいよね。」
「そうだな。己も狙撃を気にしながら戦うのは不安がある。」
狙撃手の好井が非常に邪魔である。通常の蒸気筒の射程であるから、無名にとっては狙撃勝負に問題はない。だが、無名以外に狙撃で勝負できる者が居ないのだ。狙撃用の蒸気筒を生駒が開発した時に、採用しなかったのだから、狙撃の腕が突出していい者はいない。
(狙撃用の蒸気筒採用しとけばよかった。)
後悔しても後の祭である。
「大西対策の為にも、基本的に前衛は無名殿か来栖を主軸に3人1組とし、最低でも2人1組で運用する。無名殿は狙撃も出来るから良いとしても、来栖の時はどうするか…。」
ライフリングがある分、こちらの方が射程はあるが、射程だけあっても技術が伴わなければ意味がない。
「試射の時、最上様上手かったじゃないですか。」
「馬鹿言え。狙撃を得手としてる相手とはやりあえん。」
歩荷が狙撃用の蒸気筒の試射の件を出すが、あれは動かぬ的をじっくり狙えたから出来たことであって、狙撃手の捕捉から狙撃勝負ができるという訳ではない。
「じゃあ狙撃手を落とすまでは、無名と忠犬を組ませるしかねぇな。」
「…致し方ないか。駿城は動かせなくした以上、優先すべきは好井だな。まずは高松と三島を引き込んでしまおう。」
高松と三島の駿城を引き込むべく、信号弾が打ち上げられた。高松と三島の駿城は多度津の駿城が無力化され次第、多度津入りするために付近で待機していたのだ。
信号弾を確認した高松と三島の駿城は、蓬莱城に続いて停車し、阻塞や掩体壕を設置していく。カバネの襲撃こそあるものの、カバネリによる襲撃はなく、無事に阻塞と掩体壕の設置が完了した。掃射筒の蒸気供給のため、大型の蒸気タンクが複数掩体壕に配置された。
高松と三島の城主には、駿城無力化時の件が共有されたが、高松や三島からすればカバネリは自分達の管轄外である。自分達は拠点の防衛が担当であるとの態度を崩さなかった。
蓬莱城としても、勇み足で高松や三島に損害が出るのは本意ではないが、狙撃は拠点に撃ち込まれないとも限らず、高松や三島の面子の内、蒸気筒の腕が良い者数名にライフリングのされた蒸気筒を提供した。勿論狙撃勝負ができるとまでは期待していないものの、一方的に撃ち込まれ続けるのを避ける為である。
なんか生駒が弱いみたいな扱いになってますが、ホモ君と瓜生は敏捷性高め防御力紙、生駒は敏捷性低め防御力高めのステータスの違い。生駒は回避率が低いので、武士のカバネリはおまかせし辛い。