【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

140 / 153
南海道 14

阻塞や掩体壕を設置した翌日、無名、来栖、瓜生を主軸に、来栖の配下の武士と狩方衆は操車場へと出発した。

 

操車場内にあるトロリーを確保するためである。トロリーを確保に向かった無名達が、トロリーを操車場の外に運び出した時、カバネの大群に襲撃される事になった。

 

「雅客!信号弾!」

 

来栖の声に即座に反応し、雅客が合図として信号弾を打ち上げる。

 

「操車場にて信号弾!」

 

「こちらもカバネが来るぞ!」

 

同時刻に拠点にもカバネが襲撃を始め、生駒が前衛をしつつ防衛戦が開始された。

 

操車場では、カバネの襲撃に際し無名と瓜生が主にカバネの相手をしており、来栖は他の武士同様蒸気筒でカバネに対応していた。というのもそういう事前の取り決めがあったからである。

 

「大西は間違いなく、私を殺す自信はあるだろう。無名殿も接近戦はまだしていない。だが、生駒と無名殿がカバネリである事は察しているだろうな。」

 

「まあカバネリならカバネリの感知は出来るだろうね。莊衛もいるし。」

 

「来栖の実力はバレていない筈だ。私があちら側なら、まずカバネリを片付けたい。無名殿と来栖と瓜生で一度出てもらう。基本的には瓜生と無名殿で交戦してくれ。」

 

「あ?忠犬は戦わねぇのか?」

 

「無名殿が好井を追う場合に、残るカバネリに対応してもらうが、それまでは基本的に大人しくして油断を誘う。好井は一度無名殿に頭を撃ち抜かれているが、無名殿が大西あたりを相手にしていれば、狙撃の出来る無名殿を狙って来る筈だ。狙撃手は邪魔だからな。」

 

「それって私が撃たれない?」

 

「勿論狙われるだろう。だがこちらの戦力を、向こうが把握しきれていないうちでなくば、好井は迂闊に出てこない。」

 

こちらが先にカバネリを捕捉出来ない以上、他のカバネリはどうあれ、好井は早めに落としておかねば、来栖や無名の運用に支障が出る。そして多度津側も指揮官か狙撃手は落としておきたいはずなのだ。莊衛がいる以上こちらの戦力も割れていそうなものだが、瓜生曰く

 

「忠犬がいくら強かろうが、人間である以上莊衛は興味ねぇよ。」

 

とのことであった。

金剛郭まで行動を共にしていた来栖も

 

「恐らくカバネとカバネリにしか興味が無いと思う。ひたすら無名の鵺を見る事ばかりに執心していた。」

 

とのことであったので、多度津側が来栖の容姿や強さを正確に把握している可能性が低くく、対して無名や生駒は容姿や強さは筒抜けと考えられる。強い上に狙撃の出来る無名は、最優先で狙ってくる筈なのだ。

 

一番狙われると分かり切っている無名を、拠点から離すことで好井を引っ張り出すのだ。

 

カバネの襲撃が始まって暫くして、操車場側にはカバネリが現れた。

 

「大西ってやつか?」

 

「おじいちゃんだから、多田って人じゃない?」

 

瓜生と無名が、カバネを倒しながらひそひそと会話をする。

 

「無名。ここで大西を使わない理由がない。どこかにいる筈だ。」

 

「カバネリ2人と狙撃手ぅ…。」

 

雅客からの忠告に、無名はげんなりしながら周囲を警戒する。好井が出て来なければ、来栖の戦力を秘匿する為、無名と瓜生で相手にしなければならないのだ。

 

「瓜生はカバネをお願い。私はおじいちゃんの相手するね。」

 

「さっさと殺すなよ。狙撃手が出てこなくなる。」

 

「はぁい。」

 

多田と無名は、当然のように無名が優勢で交戦が始まった。しかし来栖が前衛に出てない為、カバネの動向にも注意を払わねばならず、そこまで手加減をせずとも決定打には欠ける状況である。

 

「無名!左だ!」

 

瓜生の声に反応し、無名が引くと大西が左方から切り掛かってきていた。

 

「あっぶな。女の子によってたかって恥ずかしくないの?」

 

「非重はお前が傑作だと言っていたのでな。普通の女子の扱いはせぬ。」

 

大西は顔色を変えず、多田と共に無名に攻めかかる。

 

 

 

一方拠点側はカバネの大群に襲撃されており、掃射筒の射撃音が絶えず響いていた。生駒が撃ち漏らしに対応する中、最上は蓬莱城の車上に待機しており、流民上がりの武士達も軒並み車上で望遠鏡や双眼鏡を覗き込んでいた。

 

「いました。恐らく好井です。」

 

山田が遥か先の好井を捕捉した。

 

好井はかなり離れた位置の鈴鳴り櫓の上に陣取っており、ライフリングした蒸気筒でも射程範囲外である。勿論好井も拠点側から捕捉されたとしても、射程範囲外とわかっていてその位置についたのだろう。

 

「距離凡そ8町。」

 

「射程範囲内だな。まあ後は私の腕次第ということだが…。自信がないな…。」

 

最上は車上で狙撃用の蒸気筒を構えていた。好井は拠点から8町も距離をとっている為、こちらを警戒していない。無名とその周囲のみに警戒しつつ、好機を待っているのだ。

 

 

 

「おじいちゃん頑張りすぎぃ!」

 

無名は大西と多田を相手に手こずっていた。大西は来栖のちょっと下と最上が評していたのもあり、中々強く油断は出来ない上、多田が大西の隙を尽く埋めてくるのだ。大西が無名を弾き飛ばし、無名とカバネリの距離が空いた。

 

(まずい!狙撃される!)

 

大西達から距離が出来れば、誤射の可能性は低くく狙撃をするには好機である。無名が警戒を高めた瞬間、鈴鳴り櫓の鐘が鳴り響いた。

 

「無名!」

 

歩荷からスピンカートリッジの蒸気筒が投げ渡され、来栖が大西と多田の前に踊り出た。無名は蒸気筒を受け取ると鐘の音が鳴った方角へと走り出した。大西と多田は、来栖と数合刀を交えた後、多田が手投げ擲弾のようなものを来栖に投げつけた。来栖が後退すると、大きな爆発音と煙が発生し、煙が引く頃には大西と多田の姿は消えていた。

 

 

好井は突然の狙撃に動揺していた。

高松駅らの拠点としている場所からは遠く離れており、鈴鳴り櫓に登る前から周囲を警戒し、登った後も操車場以外に人影はなかった筈なのだ。

 

だが、完全に不意を突いた一撃にも関わらず、好井から大きく外れ鈴鳴り櫓の鐘への狙撃である。相手の精度は高くはない筈と、移動するよりスコープで相手を探すことを優先した。無名は大西と多田が抑えているのだから、先にもう1人の狙撃手を片付けるべきと判断したのだ。方角的に拠点側からの狙撃だが、蒸気筒の射程内に人影がない。

 

再度狙撃され、今度は先程より近い手摺が跳ね飛んだ。そこで初めて拠点から直接狙撃されたことに気がついた。

 

(届くのか⁉︎あの位置から⁉︎)

 

狙撃の精度は低いが、いつまでも一方的な射程範囲内にいる訳にはいかないと、好井は櫓を降りようと、北側の梯子に足を掛けたが、好井の意識はそこで途絶えた。

 

「まず1人。」

 

心臓を撃ち抜かれ落下していく好井を、少し離れた民家の屋根の上で、蒸気筒を構えたままの無名が眺めていた。

 

 

「好井が落ちたな。しかし私の狙撃は大外れにも程がある。無名殿が討ってくれて良かった…。」

 

最上は狙撃用の蒸気筒を近くにいた一之瀬に渡し、未だカバネの殺到する前衛に入ろうと刀を抜いた。

 

一番カバネが殺到しているのは北側であるが、先頭に駐車している蓬莱城の面子が上手くやっており、そこまで押し込まれてはいない。東側はどうだろうかと視線を移すと、東側から悲鳴が上がる。三島の陣営が食い破られている。

 

最上が急いで東側へと向かうと、そこにいたのは木村である。少々俯いたまま、ゆらゆらと体を揺らしている。

 

「木村殿?」

 

最上が小さく上げた声に反応し、木村が顔を上げた。目はギラつき、金属被膜のような物が少し絡みついているように見てとれる。

 

(暴走か?)

 

最上が刀を構えた瞬間、木村が最上に突っ込んできた。だが異様に速い。最上は受け流すのが間に合わず、大きく吹き飛んだ。最上が起き上がるより早く木村からの追撃が来る。追撃で更に最上が吹き飛ぶ。

 

(大西より強い!)

 

最上はまともに打ち合うことすらさせてもらえない。木村の目は血走り、正気とは到底思えない。周囲で武士達がわぁわぁと騒いでいるが、最上はそちらに気を払う余裕が一切ない。その様子を見た蓬莱城から信号弾が打ち上がり、警笛が鳴らされる。最上が袈裟斬りをぎりぎり受け流したと思った瞬間、木村からの蹴りが最上の胴に入った。瞬時に後ろに跳ぼうとしたが間に合わず、吹き飛ばされて掩体壕に叩きつけられた。

 

「っ!ゔっ…おぇ…え。げほっ…。」

 

激痛で起き上がることも出来ず、うずくまったまま嘔吐した。

 

三島の武士達が掃射筒を木村に乱射するが、木村はその悉くを避け、掃射筒を撃っていた武士を斬り殺す。一度陣形を崩された以上、個別に掃射筒を撃っても密度が低ければ、木村には当たらない。蓬莱城の警笛が鳴り響く中、生駒が東側に着いた時には、三島の武士達は急いで後退していく者と、掃射筒を乱射する者で大混乱となっていた。

まだ襲いくるカバネに対応する為か、三島の鎮守砲が撃たれ、遠くでカバネが吹き飛び、車上からは防衛線に掃射が降り注ぎ、カバネの行手を阻んでいる。

 

木村を見た生駒は、黒血漿だと悟った。一方最上は黒血漿を打たれた者を見たことがなかった。

 

最上が掩体壕に寄りかかりながら、よろよろと起き上がると、木村の目が最上を捉えた。

 

「最上さん!逃げて!」

 

最上が転がるように回避すると、木村の突きが掩体壕に突き刺さり、木村は回避した最上を目で追った。

 

「俺が相手だ!」

 

生駒の大声で、木村の目は生駒へと向く。掩体壕の陰から一之瀬が最上を回収しているのが、生駒から確認できた。

 

(俺が此処を守らないと!)

 

一之瀬は最上を抱えて、蓬莱城まで後退していく。

 

「待て。…生駒…だけじゃ無理だ。も…戻る。」

 

一之瀬は最上が、苦しそうに言った言葉を無視して蓬莱城へと急いだ。生駒だけでは無理であるのは、一之瀬にも一目瞭然であるが、最上を戻したところで死体が増えるだけである。動きの制限されない屋外で、回避すらままならず、動けなくなった時点で継戦させる訳にはいかないのだ。三島の武士などいくら死のうが一之瀬の知ったことではないし、生駒はカバネリなので多少の怪我は我慢してもらいたい。

 

「一之瀬。…下ろせ。」

 

「お静かに。気がつかれます。」

 

「…っ。」

 

一之瀬に、一切下ろす気がないとわかり最上は口を閉じた。

 

蓬莱城に到着し、最上は治療を断って車上に上がった。狙撃用の蒸気筒を手に取り、生駒と木村へと向ける。生駒は木村に押されており、切断こそ免れているが、既にいたるところに切り傷が刻まれている。

 

警笛は未だ鳴り響いているが、操車場からはどんなに急いでも、まだ時間がかかる。

 

木村は獣めいた動きこそするが、武士として染み付いた動き故か、時折間合いを切って構え直す。狙撃で殺す必要はない。動きを阻害できれば、生駒はまだ時間を稼げる。最上に狙撃の腕があれば仕留めてやりたいところだが、動く相手を仕留めるまでの腕は持ち合わせていない。無名のような神業は不可能である。

 

じりじりと生駒と木村の交戦を観察する。

 

 

 

操車場では無名が合流した瞬間、けたたましい警笛が聞こえ、信号弾が見えた。鎮守砲の砲撃音までしており只事ではない。

 

「おいおい。仔犬と野良カバネリがいてなんだってんだ。」

 

「急いで戻るぞ。」

 

「先行していい?」

 

「駄目だ。大西と多田がどこに行ったか分からん。単独行動するな。」

 

来栖達からすれば、大西、多田、好井がこちらに来ていた以上、拠点を襲撃するであろうカバネリは木村しかいない。木村の剣の腕は大西に劣るというし、生駒と最上がいて対応出来ない事態がわからない。確かに2人ともカバネリとやり合うには少々心許ないが、そもそも掃射筒が複数待ち受ける陣地を食い破るのは容易ではない。怪我をしてしまえば、生駒や最上でも対応できる筈なのだ。

 

 

生駒は必死に戦っていた。最上と違って吹き飛びはしないが、どんどん負傷が増えていく。間合いの内に入れたと思ったら、すぐに間合いを切られてしまうため、まともに攻撃が当たらない。まだ掃射筒に取り付いて機会を窺っている武士達もいるが、下手に撃てば自分達が標的となるのがわかっているからか、援護は望めそうにない。生駒の肩口をざっくり斬った後、木村は一度間合いを切った。正眼に構えようと、やや下を向いていた剣先がスッと上がる。正眼の位置まで上がり切る直前、木村の頭が撃ち抜かれた。

 

脳を損傷したことと、狙撃の衝撃で木村はふらりとよろめき、それを好機と見た三島の武士達から、掃射筒と蒸気筒の弾が降り注ぐ。数発は当たるが、木村は弾丸を刀で弾き始めた。掃射筒を撃っていた者達がおよび腰になった瞬間、掃射筒についていた2人が斬り殺された。生駒が直ぐに木村に向かい、生駒と木村が交戦する。数合打ち合うと、木村が間合いを切った瞬間、再度狙撃で木村の頭が撃ち抜かれた。その隙に生駒が攻勢に出るが、討ち取れる程ではない。木村が生駒と距離を取った後、ぐるりと蓬莱城の方を見た。

 

木村の頭を2度撃ち抜いた最上は、スコープ越しに木村と目が合った。その瞬間スコープから木村が消える。

 

「来るぞ!下がれ!」

 

最上の怒声で、蓬莱城の面子は蜘蛛の子を散らすように場を空ける。防衛線の維持の為に、あまり遠くには離れられないが、可能な限り最上から距離をおいた。

 

(よくて相討ちだな。)

 

最上は自分の生存を諦めた。なにせ剣筋こそそこまでではないが、速さも臂力も桁違いなのだ。

 

(うーん。相討ちも高望みだろうか。)

 

蓬莱城の車上に現れた木村は、すでに負傷が治っており、生駒も三島の駿城の方から走ってきているが、間に合いそうにない。

 

最上はいっそ気分が良かった。何に気を払うわけでもなく、ただ一撃に全力を注げばいいのだ。

 

同時に踏み切ったが、僅かに木村の方が速い。だが最上は一切気にしなかった。自分の身体に刀が食い込もうと、木村の心臓に刀を差し込めさえすれば良い。それ以外は全て些事なのだ。

 

互いの間合いに入る寸前、木村の刀がハバキの一寸先からへし折れた。狙撃である。

 

木村の刀の刀身が失われたことで、最上は斬られることなく、木村の心臓に刀を突き入れた。木村が絶命したのを確認し、狙撃のあった方角を見ると、スピンカートリッジの射程ぎりぎりと思われる位置にある蒸気管の上に無名の姿が確認できた。最上の顔がそちらに向いたことに気がついて、蒸気筒を片手で掲げてひらひらと軽く振った後、蒸気管からするりと降りて姿が見えなくなった。

 

「かっこいいな。惚れそうだ。」

 

「「え"っ⁉︎」」

 

木村を討ち取ったことで武士達が歓声を上げる中、最上がぽつりと呟いたのを聞いて、声の届く範囲にいた吉備土と糸賀が勢いよく振り返った。

 

「生駒。すまんが、三島が立て直すまで東側を頼んでいいか?」

 

「はい!わかりました!」

 

吉備土と糸賀の反応には気が付かず、最上は生駒に指示を出し、生駒は指示を了解して蓬莱城から離れていく。

 

「吉備土殿。指揮を。糸賀も。最上様にやらせるおつもりか?」

 

「あっ!あぁすまん!」

 

「悪い!」

 

最上を車内に引き込みにかかる一之瀬が、吉備土と糸賀をじとりと睨みつける。最上は一之瀬に素直に従って、車内に引っ込んで行く。自立歩行をしているが、腹部に手を当てて、眉間に少しばかり皺を寄せているところを見るに、まだ腹が痛いようである。




無名ちゃんのスーパーアシストがなかったらホモ君死んでました。

対してアシスト失敗したホモ君。本当だったら、ホモ君が初撃で好井を討つのが理想でしたが、保険として無名もスピンカートリッジをすぐ使える様にしてました。保険が役に立ったね!


本日の更新はここまで。
明日で終わりまでいける予定。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。