【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

143 / 153
南海道 17

東雲は、じりじりとカバネが減らされていく現状に苛立っていた。

 

(何を捨てても共に生きると決めたのだ。)

 

青く光る繭の様なものに包まれた愛しい妻を見上げる。

 

「これ以上カバネが減ると研究にならんぞ。」

 

莊衛が近くの機械から顔を上げる。

 

「わかっておる。」

 

「それに木村と言ったか?黒血漿を使ったのに、ただの人間に殺されおって。」

 

「木村は剣の腕はそこまでではない。仕方があるまい。」

 

「馬鹿を言え。顕金駅の野良のカバネリなど元々武士ですらない。それでも黒血漿を使ったときは桁違いであった。アレも素体は興味深い。無名といい、野良といい、黒血漿を使っておきながら、今もカバネリとして普通に過ごしておる。なにが違うのか…。」

 

莊衛は最初は東雲に向かって話していたものの、途中から独り言になりぶつぶつと喋り続けた。

 

「停戦は呼びかけられぬだろうか。顕金駅からきた武士は、カバネが集まりすぎている事を気にしていただろう。これだけ減ったのだ。跳ね橋を上げてしまえば増えもしない。」

 

「東雲様。顕金駅はさておいても、他の駅の武士を何人も殺している以上、不可能かと存じます。」

 

東雲の弱音に多田が首を横に振る。

 

「いっそカバネリさえ殺せれば、他の駅を打ち払うことも可能ではないですか?」

 

「大西。あの娘っ子を儂と2人がかりで討ち取れなかったことを忘れたか。その後交戦した武士も、人間だというのに異常な強さだったではないか。来栖と呼ばれておったか?」

 

「ですが、非重殿の言う野良とやらと、堀川は間違いなく討ち取れます。堀川は木村との交戦以降、まともに白刃戦はしておりません。負傷でもしたのでしょう。」

 

「暫く放置しておけば、勝手に分かれて行動し始めるだろう。分かれ方を見て決めよう。もし堀川と野良とやらだけが残る機会があれば、一気に落としても良い。野良とやらは良いとしても、堀川を殺せば士気は落ちる。あれで家老なのだろう?人材不足が知れるわ。」

 

「小娘と来栖とやらは、私が黒血漿を使えばどうとでもなるでしょう。」

 

「馬鹿者。不確定なものをあてにするでない。…好井が討たれたのは大きいな。好井がいれば多少の無茶も通せただろうに。」

 

多度津側は瓜生の存在は認知しているものの、家老の最上、莊衛の気にしている無名と生駒、短時間とはいえ大西と多田を抑えた来栖の印象が強く、そこまで警戒はされていない。頭抜けて強くはないが、最上や生駒より強いか同程度の評価である。凡そ正解である。

 

東雲は多田と大西のそんな会話を聞いてはいたが、どうにか引いては貰えぬかとカバネ一体に文を持たせて、南海道四国連合の拠点へと送り出した。勿論カバネは殺されたが、カバネを殺した後金属被膜を回収する蓬莱城の武士が文を回収した。そもそもカバネが、一体だけでやってきたことに疑問を感じ、連合側もそのカバネを警戒していたのだ。

 

東雲からの停戦要請の手紙に高松駅の城主は激怒した。読んで直ぐに、多度津の城に鎮守砲を撃ち込むくらいには怒っている。

 

「あの小僧ぉ。ここに来て我らが引けると思うているのか。それとも此方をこけにしておるのか。」

 

人間同士の戦ならば、ある程度で譲れるが、カバネとカバネリ対人間なのだ。両者痛み分けとは考えられない。南海道四国連合側に多大な損害が出た時点で、もう引けない状態なのである。

 

数日は襲撃もなく、南海道四国連合には挑発ととられた文により、こちらから行動すべきとの気運が高まった。恐らくこちらが動けば、多度津側も放置はすまいと、軍議ではあれこれと意見が交わされる。

 

結果として、まずは操車場の先の線路を確保することが決まった。

 

来栖と生駒、来栖の配下を半数拠点に残し、それ以外の面子と高松の武士30名は蓬莱城で操車場へと向かった。初めに、北側へ抜ける線路の罠や障害物を撤去し、それが終われば、その他の線路から罠や障害物を取り除いていく。

 

カバネをこれ以上減らされては困るのか、彷徨いているカバネに遭遇するのみで、襲撃されることもなかった。それは拠点側も同じで、来栖と生駒はひたすら待ちぼうけであった。数日にわたる作業の為、交代しないかと持ちかけるも却下され、ただ待ち続ける日々である。

 

戦力的に無名と来栖は分けて運用したいし、カバネの感知を考えれば、無名と生駒も分けて運用したい。となれば無名、瓜生、最上と、来栖、生駒に分かれるのは致し方ない。罠の撤去を考えると無名、瓜生、最上の組み合わせが、蓬莱城で線路の安全確保に向かう方が合理的である。

 

無名と来栖が分かれたことで、どちらも危険ではあるのだが、相手も襲撃をするには賭けになる。黒血漿を使うと敵味方の判別がつかなくなる可能性が高い為、大西と多田の両者が同時に黒血漿を使って同一場所を襲撃する可能性は低い。

 

どちらかが黒血漿を使い、同一場所を襲撃する可能性もあるが、下手をすれば大西と多田の両者を同時に失う可能性が高い以上、東雲が踏み切るとは思えない。白血漿を使っても無名や生駒の様に正気に戻る可能性の方が低いのだ。少なくともどちらかを手放すつもりでなくてはならず、追い詰められきってはいない現状で使ってくるとは考えられない。

 

東雲が、大西や多田をまだ手放せない段階と考えられる状況で、事を進めておく必要がある。つるぎの駿城が、駅外にいる連合の駿城に伝達に行き、駅内と駅外で着々と準備が進む。

 

線路の安全確保を始めて5日、予定していた範囲内の障害物の撤去が完了した。

 

「そういえばさぁ。城の中にいるよね。カバネリじゃない人。」

 

「莊衛のことか?」

 

「違うよ。お弁当の為にも必要じゃん。」

 

「あっ!そうか!」

 

「確かに!」

 

軍議に最上と来栖が出ている間に、無名がそんなことを言って、生駒や吉備土がハッとする。瓜生は苦い顔でそんな一行を見ており、雅客は目線を逸らした。

 

最上がその想定をしていないとは思えず、かといって話題にしなかったのだから、いないものとして扱う予定だったとしか思えない。だが無名が生駒達に気が付かせてしまったのである。

 

南海道四国連合の駅からすれば、だったらなんだという話で、気がついたところで救出だなんだという話が出るとも思えない。

 

吉備土はすぐにそれに気がついたのか、渋い顔をして黙り込み、生駒はそんな思惑には微塵も気がつかなかった。

 

「生存者がいるなら助けないと!」

 

生駒は吉備土を、パッと見上げた。そして吉備土の表情に疑問を覚えた。

 

「吉備土?」

 

吉備土とて助けられるなら助けたい。だが、どこにいるかもわからない生存者の救出に人手が割けるとも思えず、連合側も、僅かばかりの生存者の為に作戦を変更するなどいい顔はすまい。そして何より、今回吉備土は仲間に死人が出るくらいなら、見捨てると宣言したのだ。

 

「生駒。諦めてくれ。偶然拾うのはあり得ても、捜索は無理だと思う。」

 

「でもっ!」

 

「来栖や無名が大西を単騎で討ち取れるかもわからない。多度津の民を助ける余裕はない。生存者を考慮すれば、今進んでいる計画を白紙に戻さなければならない。南海道四国連合を納得させることは不可能だ。…それに、多度津の民を助ける為に、誰かが死んだりしたら俺は嫌だ。」

 

「…わかりました。」

 

苦しそうな吉備土の表情で、どうにもならないことだと分かった生駒は、残念そうに頷いた。同じ意味の台詞を吐いても、最上であれば淡々とした表情であるし、言い回しが悪い事が多い為、吉備土や生駒の反感を買いやすい。最上が上侍らしさを追求したが為の悪癖と言える。

 

 

軍議を終えて、最上や来栖が戻り今後の方針を説明した。

 

3日後、南海道四国連合と蓬莱城は拠点を放棄し、確保した線路上から蓬莱城以外の駿城で、多度津の城に対して砲撃を行う。融合群体が発生すれば、狙われた駿城が融合群体を駅外へと引き連れていく。他の駿城も融合群体を追い、鎮守砲で破砕を試みる。駅外で待機している駿城も、融合群体を仕留める為に待ち受ける。自走臼砲の駿城もいる為、破砕できないとは考えられないし、瀬戸大橋をなんとしても落とされるわけにはいかない為、死に物狂いで融合群体に対応する心算なのだ。

 

駅内に残った蓬莱城は、2班編成で木村の提供した地図情報を元に、多度津の城へと進行する。カバネリが融合群体と同じ速度で移動するのは不可能である為、カバネリは駅内に残っているはずで、東雲が城に居る以上、大西と多田も城から離れられない。万が一、東雲が融合群体を追えば、無名が狙撃で東雲を殺す。

 

「融合群体引き剥がしたら、お城壊れちゃわないの?海門の時壊れちゃったでしょ。」

 

「おっ。無名殿よく気がついたな。」

 

「おい。最上。軍議でそんな事言わなかっただろう。」

 

来栖がじとりと最上を睨む。

 

「私が謁見で見た状況と、木村殿の地図の書き込みからすると、すぐには崩壊しないと思う。たぶん。」

 

「たぶんってお前。」

 

「海門と多度津では、海門の方が融合群体が取り付いていた期間が長いし、取り込んだカバネの数も違う。多度津は海門程金属被膜は多くない。あの金属被膜は融合群体の一部みたいなものなのだろう?西側はそれなりだったが、謁見に使われた東側は殆ど金属被膜はなかった。二ノ丸は崩壊するだろうが、本丸は恐らく問題ない。まあ長居は無用だがな。蓬莱城の警笛がなったら速やかに脱出しろよ。もし崩壊しなかったら、あとで臼砲でもぶち込んでもらおう。」

 

「態々壊すんですか?」

 

「うちがこっそり研究機材を持ち出せるなら、残しておきたいが流石にそうはいかんしな。残しておいて悪用されては堪らん。」

 

莊衛がいなくなったとしても、研究資料や研究機材から気付きを得る者がいないとは限らない。

 

東雲が奥方に固執したせいで失敗したが、大西と木村をカバネリにした段階までは、客観的には悪くない状況なのだ。顕金駅はカバネリの戦力を使い、急速に再興を果たし、多度津もカバネリの戦力を得てから、駿城の行き来が順調であった。側から見れば、多度津が上手く使えなかっただけなのだ。自分なら上手く使えると考える者が現れないとは思えない。

 

多度津の者と莊衛、そして顕金駅以外では、現状カバネリになる方法を知っている者はいない。カバネリの技術など広めるべきではないし、潰えてしまうべきなのだ。




書いてる途中で気がついたけど、お弁当要員必要よねって。というか海門の景之殿はどうしてたんだろうか。カバネでも齧ってたの?

まあ生存者は当然見捨てます。そんな余裕はどこにもねぇ!

高松の城主はバチくそにおこです。ストレスは人を追い詰めて、鬱々とすることもありますが、怒髪天を衝くタイプもいます。やってやるよクソが!ってなってたのに、燃料(停戦のお手紙)投下した東雲さん。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。