【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

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南海道 19

無名と生駒は、お弁当を飲んで回復に努めていた。黒血漿を使った大西は強く、そう簡単には討ち取れない。だが大西を来栖達の方に任せる訳にはいかない。

 

来栖は良いとしても、最上が大西にまともに対応出来るとは思えないのだ。無名の状況から考えて、来栖ですら一方的にやられる可能性すらある。生駒と瓜生の2人がかりで、やっと無名の援護ができるくらいなのだから、最上1人で来栖の援護は無理がある。

 

城から1発の信号弾が打ち上がった。カバネリを1体討ち取った合図である。

今回の作戦にあたり、信号弾の合図を変更していた。

 

1発は討ち取った合図で、2体討ち取った場合は2発間を開けて上げる。2発同時が救援要請である。多度津では、救援要請に1発打ち上げるのを使っていた為、1発のままだと救援が必要な状況が相手にも知られてしまうからだ。変更したことによって、救援が必要な状況に追い討ちをかけに来た者は、討伐を終了した者にぶち当たるのだ。

 

「拙いな。」

 

「何が?」

 

瓜生は、信号弾を見て苦い顔をしており、無名は首を傾げた。

 

「大西とやらがあっちにいっちまう。忠犬はまだしも仔犬ちゃんは死ぬぞ。」

 

「あっ!」

 

本来なら、フリーになった来栖達のところに、大西が行くのは構わないはずであったが、大西の強さを考えたら来栖達の方に行かれるのは拙いのだ。

 

無名も生駒もとりあえず回復したことから、大西をこちらに呼び込む為に信号弾を打ち上げた。

 

 

最上達は信号弾を打ち上げた後、何か応えがあるか少しだけ待機していた。

最上達は城内にいる為、先に信号弾を上げた形だが、もし無名達が大西を討ち取っていれば、信号弾が1発上がるはずなのだ。

 

「ん?3発同時?救援要請は2発同時だし…。なにか想定外が起きたか?」

 

「どうする。」

 

少し間を開けて2発の信号弾も打ち上がった。救援要請である。大西を討ち取るなら来栖の手を借りるべきと判断したからだ。

 

「2発。よし。あちらに向かおう。我々が東雲殿と多田と交戦したのだから、あちらは大西だ。多田の所在がわからんが、大西を先に落とすに越したことはない。」

 

最上と来栖がこんな会話をしていた頃、大西はより目を引いた上、近い無名達の元へと向かっていた。

 

「お前らここにいろ。俺はちょっと、仔犬からの頼まれごとを片付けてくる。」

 

瓜生は狩方衆5人を連れて、無名達が避難した場所から出て行ってしまった。瓜生は、金剛郭で狩方衆を連れ歩き、甲鉄城まで避難してきたくらいには危機管理が出来ている。恐らく大西に見つからぬように、慎重に動くだろう。

 

来栖が先頭を走り、間に武士と狩方衆を挟み、殿を最上が請負い無名達のもとへと急ぐ。また2発の信号弾が打ち上がる。

 

「おいおい。本当に拙いみたいだな。」

 

「無名が苦戦するのか。どれほどの強さだろうか。」

 

「お前ちょっと喜んでないか⁉︎」

 

来栖は無名が二度も上げた救援要請に昂っていた。最上と違って薬による興奮ではない。

 

無名達の位置から凡そ10町ほどの距離に来た時、多田がカバネを引き連れて襲撃をかけてきた。カバネをその辺でひっかけて集めてきたようだ。

 

「来栖。先に行け。」

 

「待て。むしろ己が残ってお前が行くべきでは?」

 

「馬鹿言え。どう考えても彼方がお前だろ。大西相手じゃ瞬殺だぞ。私が!この爺は絶対に抜かせん。さっさと行け。」

 

「わかった。任せる!お前達はここに残りカバネの排除だ。」

 

来栖は多田の相手を最上に任せ、武士達をおいて先に進んだ。正直単騎で駆け抜ける方が早いのもある。

 

「お主が儂を抜かせぬと?舐めたことを。先程も無様に逃げ回っていただけの癖に笑わせる。」

 

「無駄口叩くなよ。同じ場所に居ながら主君を殺された癖に。」

 

「糞餓鬼が。」

 

「冥土に片足突っ込んだ爺がよく吠える!」

 

最上と多田が激突する。武士達は周囲のカバネに対応しながら、2人の戦いを観察するがやはり最上が押され気味だ。そんな中狩方衆の3人だけが最上と多田に蒸気筒を向けたままだ。

 

「口だけか!小僧!」

 

狩方衆の1人が笛を短く数度吹くと、4回目の音がした瞬間最上が頭を下げ、そこに蒸気筒が撃ち込まれる。多田の頭に3発連続で当たり、多田が仰け反った。最上は、展開していた左手の弓矢を多田の胴体に撃ち込んだ。

 

「小賢しい!」

 

多田の刀が猛威を振るう。最上が捌いていると再度笛の音が鳴る。4回目で最上は左に飛んだ。多田は頭に飛んでくると思っていた弾が胴体に着弾したことに驚いた。最上が左手を後ろに回し指を二本立てた。

 

「小細工を!」

 

「はっはっはっ!」

 

怒り狂う多田に対して、最上は笑い飛ばしながら刀を捌いていく。また笛の音が聞こえ今度は2回目で蒸気筒が火を吹いた。4回目で飛んでくると思っていた弾が、2回で頭に飛んできた上、最上は避けもしなかった。最上の身長が低い上体勢も低くしていた為、多田の方が頭一つ分上なのだ。頭が一瞬仰反るくらいでは、討ち取れる程の隙にはならない。最上が多田に猛攻を仕掛けるが受け切られている。

 

「軽いぞ!それで勝てると思うのか!」

 

更に笛の音がなる。今度は長音だ。多田は最上に視線を向ける。合図がなんであれ、最上が避けるならそれに着いていけば良いだけの話なのだ。音が途切れた瞬間、最上の後ろの3人以外の狩方衆から十字砲火が飛ぶ。最上は一切避けていない。

 

「気狂いめ!」

 

「信用しているだけだ!」

 

多田はこれで全方位に気を配らなければならなくなった。最上を見ていても避ける時と避けない時がある。笛の音が2回鳴った瞬間最上が右に飛び、多田の胴体に2発着弾する。多田も、周囲の来栖の配下の武士達も、笛の音の規則性がさっぱりわからない。狩方衆がいくら鬱陶しくとも、最上を無視して殺しに行く事は出来ない。再びの長音が鳴り響き、多田が周囲に注意を払うも何も飛んでこず、最上からの斬撃で左手が飛ぶ。

 

「さあ!腕が飛んだぞ!」

 

「粋がるな!息が上がっているぞ!」

 

多田の指摘通り、最上の息は上がっている。なにせ多田と高速で打ち合い続けているのだ。まともに息つく暇もない。それどころか、めちゃくちゃ骨折部分が痛いのを我慢している。泣きそうなくらいには痛い。また笛の音が鳴る。短音が何度もなるが4回を越えても鳴り続ける。丁度10回目で最上の頭が下がるのを見て、多田が下段を斬り払うが最上は上に飛んだ。11回目の後、多田の足に弾が飛び3発中1発が命中する。

 

「くっ!」

 

「足元がお留守だなぁ!」

 

「小僧ぉっ!ゔっ!」

 

多田が急に胸を押さえて苦しみ、最上は後退して距離をとる。

 

「やっと効いたか。はぁっ…致死量の3倍は入ってたんだが。…はぁはぁっ…回復の為に循環が早くなるなら、もっと早く効くと思ったが…意外と遅いな。」

 

「もしや…毒か。貴様には武士の矜持がないのか。」

 

「あっはっは!面白い事を言う!カバネリなんて、外法の術を使ってる貴様にだけは言われたくないな!」

 

最上が駆け出し猛攻が多田を襲う。毒が回った身体では満足に動けないのか、右手を刎ねられ心臓に刀を突き入れられた。

 

「貴様らも…道連れに…。」

 

最上が多田を討ち取った。カバネを撃ちながら様子を窺っていた武士達が、わっとわき、狩方衆が信号弾を打ち上げる。

 

「はぁー。はぁはぁっ…つ…疲れた。うっ…痛い。うぅ〜。」

 

最上が、脇腹を押さえてその場にしゃがみ込んだ。少し息を整えてから立ち上がり、カバネを殺す為に再び駆け出した。蒸気筒の装備一式のない最上は、いつもより少し速く戦場を駆け抜ける。ワザトリが一体紛れていたが、投網砲を使って直ぐに捕獲して心臓を貫いた。

 

暫くしてカバネも討ち取り切った。最後のカバネを歩荷が討ち取って直ぐに最上は座り込んだ。

 

 

「…し…しんどい。はぁはぁっ…痛いし…。鎮痛剤…はぁはぁっもって来れば良かった。」

 

ひいひいと呼吸をしている最上を見て、武士達は心配ではあるが何も出来ることはない。

 

「最上様。あの笛の音はなんです?」

 

「…はぁっ…あぁあれ。はぁはぁ…ちょっと待て。…はぁ。」

 

「あれは元々決めた合図で撃っているだけですよ。」

 

最上の代わりに狩方衆から返答があった。

 

「でも避けたり避けなかったりとか、ばらばらじゃなかったか?」

 

「1回目は頭2回目は胴体を狙うとか、長音は十字砲火、長音1回目は撃つ、2回目は撃たない3、4回目は撃つとか色々決まってるんですよ。参加する者は全ての規則性を覚えた者だけです。避けるかどうかは最上様と瓜生様に一任してます。」

 

「うへぇ。出来る気がしねぇ。」

 

「府中駅の件から始めた合図ですから、全員必死に覚えましたね。」

 

「お陰で多田を討ち取れた。はぁ…訓練で何回もゴム弾撃ち込まれた甲斐があったよ。はぁっ…あの爺はしっかり考える頭があるから、面白いくらい引っかかってくれたな。きっと規則性を考えてたんだろうが無駄な労力だ。ワザトリ相手だと、我々が引かずに援護を受けられるってくらいしか、利点がないからあまり使わなかったが、やっと日の目を見たな。」

 

「覚えてから訓練やったんじゃないんですか?」

 

「何もしてない時ならまだしも、戦いながらだと一瞬思案してしまうとかあるし、慣れるまでアザだらけだったよ。瓜生と衝突したりとかもあったしな。」

 

「さぁ。来栖を追うとしますか。」

 

「いや。彼方もそんなにせんで終わるだろう。なにせ無名殿と来栖の2人がかりだ。あの2人が揃って無理なら、行っても死体が増えるだけだ。こっちは退路の確保に入ろう。」

 

「退路って…。」

 

「私は知ってるぞ。金剛郭といい、海門といい、こういう戦場になったら崩壊するんだ。」

 

「極論すぎでは?というか本丸は崩壊しないって言ってませんでしたっけ?」

 

「二度あることは三度あるだ。融合群体が離れただけじゃ、本丸は崩壊しない。融合群体が暴れた上、多田は一旦姿を消していた。道連れとか言っていたし、なにかあるだろうな。駅そのものに大損害を負わせる様な手が。お前らが多田の立場なら、せめて私たちだけでも道連れにしたいだろ。」

 

武士達は困惑したが、やけに自信に溢れた最上に押されて半数が蓬莱城へ向かい、半数で蓬莱城を待機させる場所の確保に向かう。

 




基本は4回(頭、胴体が交互)、指示があった時だけ笛の音2回が2回(頭、胴体が交互)入る。2回を終えたら11回(足元)が一度入って4回に戻る。長音は1、3、4回目は十字砲火を撃つ、2回目は撃たない。長音を挟むタイミングは位置取りの問題もあるので狩方衆の判断。避ける避けないの判断は最上と瓜生。他にも3回とか5回パターンとかはあるけど大体こんな感じ。読まれない為に複雑化したので覚えるのが大変だったし、めちゃくちゃあざだらけになった。

最初はモールス信号的な合図を考えてましたが、純粋に回数の方が騙しやすくて良いなと思って回数になりました。全く分からない合図より、相手が手の内を読もうと思える程度の合図の方が引っかかるので。

狩方衆しか援護出来ないし、最上と瓜生しかこの援護は受けられないので、甲鉄城でもたまにしか使わない。練習が大変な割に役に立ってなかった。狩方衆も最上も内心めちゃめちゃ喜んでる。
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