莊衛は、融合群体がいなくなったことで、少しずつ崩れゆく多度津の城から撤収する為、小ぶりなケースにアンプルを収め、ケースを抱き抱えた。
「おい。」
「おっ?瓜生ではないか。無名はどうした。」
莊衛が振り返ると、狩方衆を5名連れた瓜生が扉に寄りかかっていた。
「無名は今頃大西って奴あたりとやりあってるんじゃねぇか?てめぇをとんずらさせてやるから、とっとと荷物まとめろ。」
「ほぅ。お主。顕金駅についているのではないのか?」
「今はな。それなりにいい子ちゃんにしてりゃあ生活に困らねぇ。てめぇの伝手を残しておきてぇんだよ。面が割れてんのは、顕金駅の一部にだけだ。今ならつるぎの駿城にでも紛れさせてやるよ。俺達はつるぎに回収される予定だからな。」
「ふむ。悪くない。」
莊衛は、元々抱えていたケース以外に触れることなく瓜生の方へとやってきた。
「そんだけか?」
「ふん。研究資料は儂の頭の中だからな。これさえあれば充分よ。」
莊衛は抱えたケースを撫で摩る。
「ふぅん。まあてめぇの頭なら不思議ねぇか。隠滅しときたい資料は?あるなら言え。さっさと処分してずらがるぞ。」
「領主が抱えとる手記は、あまりよろしくないがそれ以外は特にないな。」
「そうかい。着替えろ。」
莊衛は瓜生から投げ渡された狩方衆の服を身に纏った。瓜生が先導し、莊衛の周りを狩方衆が囲み部屋をあとにする。
彷徨くカバネを、瓜生が殺しながら城内を進んで行く。
「領主に女をカバネリにしてやる約束してたんだって?カバネをカバネリになんて、克城じゃあ聞いた事ねぇけど?」
「わかっておるくせに。できる訳なかろうよ。」
瓜生は、振り返ることなく莊衛に話しかけ、莊衛も足を止めることなく会話に応じる。
「だと思ったぜ。そもそも感染したカバネウイルスって後からどうこうできんのか?」
「理屈上は可能だが、カバネになったら脳が死んでおるのでな。例え体内のウイルスを殺したところで、動く死体がただの死体になるだけよ。」
「無名のやつが人間に戻りてぇとかほざいてたが?その理屈ならカバネリは人間に戻んのか?」
「馬鹿馬鹿しい。カバネリは進化の形よ。態々退化する奴があるか。理屈上は人間に戻ることは可能だが、寿命は保証できんなぁ。」
心底馬鹿馬鹿しいと思った莊衛は、呆れた顔で首を横に振る。
「進化ねぇ。野良カバネリ見てると進化って感じしねぇんだがな。」
「瓜生もカバネリになってみるか?」
「ふざけんな。てめぇがカバネリになってねぇってことは、まだ安定してねぇんだろうが。賭けなんかするかよ。」
「なんだかんだ堅実だのう。」
「まぁな。だからこそ、ここにいるんだろ。」
莊衛としては、身体的にも中々強く、頭も悪くない瓜生は、素体としてそれなりに魅力的なのだ。まあ、カバネウイルスとの相性がどうかは、また別の話であるし、カバネリ化の為の薬を使うなら、女の方が親和性が高い為、強引に薦める程ではない。
「あぁ。残念だ。折角研究が進んでおったのに。野良カバネリのおかげで、誘導体を使わぬカバネリ化も、領主のおかげでカバネの使役もできておったのに。手放さなければならんとは。」
「カバネを使役できるのなんなんだよ。あの頃使えりゃ金剛郭で終わらなくて済んだだろ。」
「ここであの女を研究して、初めてわかったのだから仕方がないではないか。滅火が暴走せねばなぁ。鵺のままなら使えたかもしれん。あぁ。勿体無い。あの頃に知っておれば。」
「滅火?ここじゃ領主が使役してたんだろ?使役すんの総長じゃねぇのかよ。」
「ここの領主は、融合群体の核となった女を介して使役しておったんだ。融合群体や鵺の力の一部だな。ただし核の時でないと意味がない。誘導体を循環させる金属被膜を張り巡らせ、それにより指示を伝達する。融合群体や鵺がカバネを取り込む力の延長線じゃな。急激にカバネを取り込むと、核となった者が暴走するが、恐らく少しずつ融合群体を形成した場合にのみ使役ができるのだ。ここの融合群体は一度暴走したが、崩壊した後領主達が抱え込んだのでな。かなり緩やかに再形成が行われた。滅火も、黒血漿を数回に分けて投与していたら上手くいっただろうか。」
莊衛は、説明しながら興奮してきたのか、少しばかり声が大きくなり、話す調子も早くなる。
「おお。それだけ聞くと進化だな。まあその前提だと女しか進化って感じじゃないが。」
「そうなのだ。男は黒血漿を使っても身体強化にしか働かん。野良カバネリ。研究したいのぅ。」
「無茶言うな。流石に、あいつを誰にも気が付かれずに攫うのは無理だ。」
「確かにあれは中々に凶暴よな。」
「そういや黒血漿はカバネウイルスを活性化すんだろ?白血漿は沈静化だ。なら黒血漿を打ってないやつが白血漿を打ったらどうなる?大人しくなんなら野良カバネリも攫えるかもな。」
「急速にカバネウイルスが沈静化し、人間に近い力しか使えなくなるだろう。悪くない案だな。」
「打ち続けたらカバネリは退化すんのか?」
「理屈としてはそうだな。…時に瓜生。」
「なんだよ。」
莊衛が足を止め、瓜生が振り返る。
「お主。そんなにカバネウイルスに興味があったか?」
「克城に興味ねぇ人間がいたかよ。」
「あの頃お主は恙衆に関わらなかったではないか。」
「総長が理解してりゃあ、それで良かったからな。」
「お主まさっ」
発砲音が鳴り、莊衛は頭から血を噴き出しながら倒れ込んだ。狩方衆の1人が莊衛の頭を撃ち抜いたのだ。
「まだちょっと早くなかったか?」
莊衛を撃った狩方衆は、そのまま莊衛の心臓を撃ち抜いた。
「最上様には、疑われた時点で殺せって言われただろ。金剛郭から単独で逃げおおせた奴だぞ。」
この男、実は狩方衆の格好をした雅客である。
「監視ご苦労さん。」
「監視じゃねえよ。お前がこいつを逃がすつもりなら、俺がいたって止められないだろ。それに最上様がお前を疑ってたら、そもそもこの役目をさせてない。」
「ふん。なんでもいいけどな。さっさとこいつの持ち物回収して撤収するぞ。」
真実最上は瓜生を疑っていた訳ではない。しかしながら、顕金駅において未だ狩方衆は微妙な立ち位置であるし、いまいち情報を取れなかった場合に、隠しているのではと疑われることのないよう雅客をつけたのである。
「おっ。黒血漿と白血漿。カバネリ化の薬は無しか。まあこんなもんだろ。」
「へぇ。これが。」
莊衛が大切に抱えていたケースには、黒血漿と白血漿が2本ずつ収められていた。
「瓜生様。こちらを。」
狩方衆が莊衛の懐から、瓜生の知らない液体の入ったアンプルを取り出した。
「なんだこれ?見たことあるか?」
「いえ。初めて見ます。」
「なんだ。お前らも知らないのか。回収はしとこう。」
瓜生が摘んでいたアンプルを雅客に差し出したが、雅客は首を横に振り数歩後退する。無言の押し付けあいである。莊衛が懐にいれていたとはいえ、なんだかわからない物を持ちたくないのだ。というか莊衛の持ち物という時点で怖い。
最終的に、近くの部屋にあった文箱の中に、布を敷き詰めてアンプルを入れ、雅客が持つことになった。
瓜生はカバネと白刃戦をするし、瓜生と連携するなら狩方衆の方が上手いからである。雅客は戦々恐々と文箱を紐で縛り、布で覆って襷掛けに背負い、血漿の入ったケースを抱えて脱出する羽目になった。
もしもカバネウイルスに対して完全な治療法が見つかって、カバネリじゃなくてカバネがしっかり人間に戻れる場合、ホモ君は切腹します。
堅将様ひき肉にしちゃいましたんでね。勿論ちゃんと一区切りつけてから、ひっそり切腹します。
切腹√回避。
莊衛はしっかり死にました。カバネリになって蘇ったりもしません。アレクセイ・リヒテルかどうかは闇の中です。
ちなみにこの話、帳尻合わせから生まれたので、書き始めた当初は微塵も決めてなかった内容です。勢いって怖いね。