蓬莱城が指定された場所に滑り込んだ時に、城近くの釜場が異常な蒸気を噴き上げており、彼方此方の蒸気菅がガタガタと揺れている。窯場と蒸気菅が噴き飛ぶと、隠し通路のあたりも同時に爆発し、地響きが鳴り響く。上級武士の屋敷の一部が急激に燃え上がり、駅内が火の海となった。
「あの爺さん。想像してたより過激だな。さては謁見の間に来る前から仕込んでたな。」
「えっ!本当に崩壊するのか⁉︎」
「来栖達はまだか⁉︎」
「警笛鳴らせ!」
「居たぞ!あそこだ。」
吉備土の指し示した先に、無名と生駒を抱えた来栖が見えた。カバネがちらほらと来栖達に向かって行っているが、来栖は2人を抱えている為刀を抜ける状況ではない。流民上がりの武士や瓜生達は、ひと足先に蓬莱城まで行き着いており、残すは来栖達だけである。
「行ってくる。」
最上が駆け出し来栖達に向かって行く。ぱらぱらと残るカバネを屠りながら走り続ける。
「最上!助かる!」
「お前はそのまま走れ。」
来栖達の横の建物が徐々に崩壊していく。落ちてくる瓦礫にカバネが下敷きになる。
「走れー!」
「早く早く!」
武士達が叫んでいるが、カバネリ2人を抱えた来栖ではそこまで速くは走れない。
最上が背後から来たカバネを斬り殺した時、最上と来栖の間に瓦礫が落ちた。
「最上「足を止めるな!」
来栖が振り返るが最上から怒声が飛ぶ。無名程では無いにしろ最上は身軽だ。瓦礫を足場に瓦礫を越えてきて、来栖達は完全に崩壊し切る前に蓬莱城へと行き着いた。
「発進するぞ!」
「鎮守砲!擲弾発射器用意!」
「なんでぇっ⁉︎」
最上からの指示に武士達は仰天したが、狩方衆はすぐに準備に入る。
「目標!左方鈴鳴り櫓及び蒸気菅!鎮守砲は櫓!擲弾発射器は蒸気菅だ!」
進行方向左側の鈴鳴り櫓とその周辺が線路に向かって徐々に傾いてきているのだ。蓬莱城が滑り出すがこのままでは下敷きになる。
「鎮守砲装填完了!」
「擲弾いつでも撃てます!」
「まだ撃つなよ!数え5だ!5!」
蓬莱城の走る線路は先が緩い曲がり道となっている為、今撃てば破砕された瓦礫は線路に乗る。
「4!」
鈴鳴り櫓周辺がぱらぱらと細かい瓦礫を散らしながら傾いていく。
「3!」
蓬莱城は速度を徐々に上げていく。
「2!」
曲がり道に侵入し、更に蓬莱城の速度が上がる。
「1!」
間もなく曲がり道を抜ける。
「てぇっ!」
曲がり道を抜けた瞬間、鎮守砲と擲弾発射器3丁が火を吹く。計4発が着弾し、鈴鳴り櫓とその周辺は吹き飛んだ。そのまま蓬莱城は更に速度を上げて線路を走り抜ける。南側の検閲所を抜けて、跳ね橋を渡り多度津駅から完全に脱出した。
「言っただろ。崩壊するって。」
「本当に崩壊するとは…。」
武士達は、げんなりとしながらため息を深々と吐いた。
暫く、徐々に遠ざかる多度津駅を眺めていた。燃え盛っている為、もうもうと煙が上がっている。いつまでも見ていても仕方がないと、全員が車内に戻り、それぞれ散ろうとしていたが、最上がその場で座り込んだ。
「最上様?どうしました?」
雅客が、しゃがんで最上の顔を覗き込む。
「…だるい。眠い。痛い。」
完全に薬の効果が切れたのだ。薬の件を知らない武士達は、わたわたと慌てたが、狩方衆と来栖、来栖の配下の一部は最上のドーピング行為を知っている。
「薬切れですね。」
「切れるとこんなことになるのか。大丈夫なのか?」
「何度も使わなければ大丈夫ですよ。」
「最上。治療がまだだろう。立て。」
「無理。もうここで寝たい。あたま痛い。気持ち悪い。」
「廊下で寝るな。せめて寝台に行け。」
「おきたら行く。」
「起きたら寝台に行く必要ないだろうが。」
ぼそぼそと駄々をこね始めた最上を見て、来栖はじとりと睨みつけた。
「仔犬。報告あるんだが?」
「むり。頭に入らない。あとで…あとで聞くから…。」
瓜生の報告も聞く気が一切ない。
普段、寝不足時は分かりやすく眠そうにしているが、こんな駄々をこねる姿は見たことがないため、ちょっと可哀想になってきた。力が抜けて、ぐでんぐでんの最上を吉備土が抱え上げた。
「わっ!熱もある。ここで話してても仕方がないし俺が運ぶよ。医務室に連れてったらいいのか?」
「ああ。悪いな。あと肋骨折れてるぞ。」
「えっ!骨折!気をつけて運ぶな!」
来栖は、最上に代わって指揮を取るため艦橋へと向かって行き、瓜生は報告出来ないなら、自分も休もうと客車へと引き上げて行った。
「…薬って何?怖っ…。」
融合群体の件が、どうなったかもわからないのに、座り込んで駄々をこね、ぐでんぐでんで運ばれていく最上を見て雅客は震えた。
頭が痛いとか、気持ちが悪いとか主張するだけあって、吉備土が運んでいる間も寝落ちてはいなかった。だというのに完全に脱力しており、吉備土に掴まろうとすらしない。
吉備土は、最上を医務室に送り届けて艦橋へと戻り、ぐでんぐでんの最上を思い出して笑っていた。
「なにあれ。凄いな。びっくりした。酔っ払いみたいになってたじゃないか。」
「薬切れらしいな。」
「さっきも思ったけど、薬ってなんの?体調悪かったのか?」
「いや。咳止めらしいぞ。なんか興奮剤としての効果があるらしい。」
「咳止めであんなことになるか?最上様今後咳止め飲まない方が良いんじゃないか?」
「詳しくは己も知らん。後で最上に説明させる。」
蓬莱城は現在、瀬戸大橋方面へと向かっていた。融合群体がどうなったのかがわからないからである。駿城6城と自走臼砲で、砲撃の雨を降らせたのだろうから、そこまで心配はしていないが、確認しない訳にもいかない。
最上は、少なくとも自分が役に立たなくなると分かっていたのか、侑那に瀬戸大橋に向かい、その後高松駅へと向かうように指示だけしていた。
瀬戸大橋の無事を確認し、高松駅へと向かい始める頃には夜が明け始めていた。艦橋で来栖と雅客が、それぞれ多度津の件を話していると、気まずそうな顔をした最上がするりと艦橋に入ってきた。
「最上。」
来栖の咎めるような声色に、最上は流れるように正座した。
「指揮を放り出してすまなかった。」
「それはどうでも良い。なんだあれは。本当に大丈夫なんだろうな。」
「問題ない。」
「問題しか無かった気がしますけどね。」
「あれは、疲労感が吹っ飛んで、集中力が増すだけだ。限界を越えられる。人間の範囲内でだが。お陰様で、多田ともなんとかやりあえた。まぁ反動というかなんというか…あれだ。やる気の前借りだな。」
「やる気の前借り…。」
「麻黄と言ったか?禁止だ。あんなもの。」
「用法用量を守ればただの咳止めだ。」
「なら用法用量を守れ。馬鹿者。というか発熱しとるんだろう。医務室に戻れ。」
侑那や艦橋にいた機関士達は、珍しくて面白い光景だなと思いながら、素知らぬふりで運転を続けた。
高松駅に着くまで、最上は蓬莱城の中ですれ違う者達に困ったような表情で見られたり、思い出してふふふと笑われたりしたが、子供みたいに駄々をこねたのだから、仕方ないと甘んじて受けていた。
骨折のせいで発熱はしているが、やらなければならないこともあるし、駿城の振動が骨折に響くので、のんびり寝てもいられない。
瓜生と雅客からは、莊衛の件の報告も受けた。瓜生達が中身も確認せずに、適当にかっぱらってきた書類等も複数あり、内容も確認しなければならない。
東雲の手記は最上が回収しており、莊衛が東雲らに要求した機材などが書き留められていた。
「機材が作れるかはわからんが、完成すれば融合群体狩りだな。白血漿を大量に作れば、カバネリは人に戻れる…ね。」
「理屈上はって言ってたから、本当に出来るのかは知らねぇぞ。」
「充分だ。まずは、カバネを動く死体から、ただの死体にするところから始めれば良い。ところで莊衛のことはなんて言ってあるんだ?」
「カバネに殺されたことにしてあります。」
「そうか。わかった。南海道四国連合には、死亡を確認したとだけ説明しよう。」
高松駅に着くと、操車場には、ぼろぼろになった大豊の駿城と、2両減ったつるぎの駿城を始め、全車両が揃っていた。
「全車戻っているようだな。私は報告に行ってこよう。来栖。吉備土。行くぞ。」
「えっ!俺も?…ですか?」
「嫌なら来なくていいが?」
「嫌じゃないです!行きます!」
吉備土は、多度津の件では一度も城主として軍議などには参加しておらず、今回も留守番だろうなと思っていた。
「今まで連れて行かなかったのに、どういう風の吹き回しだ?」
来栖も疑問に思ったらしい。
「別に、報告だけなら不利益被ることもないだろ。」
戦う前は、如何に言質を取られないようにするかでピリピリとしていたが、もうこの段階では気にする必要はなく、吉備土を連れて行っても問題はないらしい。
最上が報告のために高松の城に上がると、全駿城の城主が揃っていた。顕金駅は報告を終えると、殆どやることはない。なにせ道元が来た時に、事前の取り決めがなされているから、今更なにか要求することもないのだ。今回の作戦における貢献度についても飛び抜けており、なにも文句をつけられる謂れはない。
ただし、南海道四国連合同士はそうでもない。貢献度や損害率で費用の分担具合を決めねばならない。最初にある程度決めていたとはいえ、損害の具合にだいぶ差があるためだ。醜く争う南海道四国連合をただ眺めることになった。下津井駅を運用したことは、顕金駅の出費扱いの為、下津井駅も特に損はなく顕金駅に任せきりで、報告会に顔も出さない。
昼過ぎに始まった報告会は、日が暮れるまで続いたが、全く決着を見せず翌日に持ち越されることになった。
「なんですか。あれ…。我々がいる意味はありますか?」
「見てるだけなんだから文句を言うなよ。関係性を測るという意味では無意味ではない。私はあの渦中で2日過ごしたぞ。道元様のおかげで大どんでん返しをきめたがな。領主と家老じゃなくて城主同士だから、今日は中々柔らかい雰囲気だったくらいだぞ。」
「あれで?」
「あれでだ。というか来栖。お前途中から聞いてなかっただろう。」
「聞く必要があるのか?聞いても己には関係性は推察できん。大丈夫だ。お前くらいしか気がついておらんだろ。」
「嘘だろ。来栖。」
吉備土の知らない間に、来栖は中々図太くなっていたようである。
「明日はどうする?」
「己は報告書を書きたいんだが。」
「いいぞ。帰りに確認するから頑張れ。」
「吉備土はどうする?」
「不参加でも良いんですか?」
「私がいれば特に困らん。」
「じ…じゃあ不参加で。すみません。胃に穴が開きそう…。あっ…やっでも最上様発熱してますよね。」
「繊細な胃だなぁ。座ってるだけだし問題ない。薬も飲んでるしな。」
「城主って…難しい。」
吉備土は項垂れた。
一方操車場では、生駒が一際落ち込んでいた。
「生駒。なにしてんの?」
「俺。今回、全然役に立たなかった。」
多度津において、好井と大西を無名が、木村と多田を最上が、東雲を来栖が討った上、生駒はダントツに指揮がド下手なのだ。顕金駅の武士はどうにかなっても、他駅の武士はどうにもならなかった。そもそも生駒は蒸気鍛治同士ですら、円滑な友好関係を築けているわけではないし、自分でやった方が早いからと教えるのも下手なのだ。
「いいじゃん別に。」
「…良くない。」
遠くでお帰りと声がする。
「来栖達帰ってきたよ。お迎え行かないの?」
「ちょっとほっといてくれよ。」
生駒は邪険にするというよりは、意気消沈で動く気もしないといった感じであったが、無名にとっては面白くない。そもそも生駒にカバネリを殺す事を誰も期待してなかったのだ。戦力としての問題ではない。殺すという行為に生駒は忌避感があるからだ。言葉を話し、意思疎通ができる相手は、生駒にとっては人間換算なのだ。生駒以外は、必要ならカバネリですらない人間だって、普通に殺せるのだから、殺せる者が殺せば良い。
生駒はカバネリを殺すとは言わなかった。正気を失っていた木村のことすら、自分が倒せなくてすみませんと言った。本人が気がついてないだけで、殺す気がないのである。そりゃ結果も振るわないに決まっている。
「最上さぁん。生駒が落ち込んでるんだけど。」
「…何故?落ち込むような事あったか?」
「今回全然役に立たなかったぁって。」
最上達は顔を見合わせた。戦功としてあげるとすれば確かにない。首印を並べて、何人殺しましたというのは別に求めてないし、顕金駅はそういう評価方法はしていない。
「ほら城主。出番だぞ。こういうの得意だろ。」
「吉備土。行ってこい。己達が何を言っても仕方がないだろう。」
最上と来栖は吉備土の背中をばしっと叩いた。送り出された吉備土は、無名に連れられて生駒のもとへと走って行った。
翌日も報告会は長引いたが、なんとか落とし所を決める事ができ、やっと帰ることができるようになった。顕金駅は駿城も無事で、無名と生駒は怪我も治り、来栖と瓜生は大きな怪我はない。最上が肋骨を2本折ったくらいで、帰路に着くのも問題がない。
高松の領主が戦勝会を企画したが、丁寧に断ってその日の内に高松駅を出発した。南海道四国連合と違って、顕金駅は遠いのだ。もうだいぶ冷え込んできており、雪が降る日も近い。
ここにいるのが、最上ではなく道元ならば、戦勝会に参加して各駅とそれぞれ、これからについて話し合ったりするのだろう。今後を考えれば、最上とてそうするべきなのだが、あまり調子が良くないのだ。体調が悪い時に、狐と狸の相手はしていられない。下手を踏むくらいなら、さっさと帰った方がマシである。
夜間に着いたというのに、下津井駅では丁寧に扱われ、一晩お世話になる事になった。高松は元々砂糖が主産業の駅で物資は中々乏しい上、南海道四国連合が居座っていたものだから、長居しても意味がない。対して下津井は、ばんばんと流通を請け負っているため、色々な駅の物が集まり品数が多い。
買い物がしたいとの希望で、翌日の昼に出発を予定して、その日は就寝となった。
希望者は、午前中に買い物へと出かけていった。といっても買い物に出る人数はそれ程多くはなく、最上も甲鉄城の城主の執務室に居座っていると聞いて、雅客は最上の元へとやってきた。
「山本殿に会いに行かないんですか?顔くらい見せてあげればいいのに。」
「極力動きたくない。」
「もしかして、結構痛いんです?」
「へっくしっ!ゔぅ…。」
「うわっ。痛そう。感冒ですか?」
「たぶんな。だから近寄るな。」
感冒だと言うなら仕方ないと、雅客が山本に伝えに行くと、しょんぼりしていたが、すぐそばで生姜を購入して雅客に手渡した。
「すったやつお湯に溶かして飲ませてあげると良いですよ。」
「最上様のおばあちゃんかな?」
山本はからから笑って帰って行った。雅客はさっそく生姜をすって湯に溶かし最上のもとに持って行った。
「山本殿からです。」
「辛い。」
ちょっと生姜を入れすぎたのか、最上は飲んだ後べっと舌を出した。子供舌なので仕方がない。柚子皮の砂糖漬けを思い出して、ちょいと入れて美味しくいただいた。
「なんですそれ。」
「柚子皮の砂糖漬け。山本殿が作ったやつ。」
「やっぱり最上様のおばあちゃんじゃん。」
「おばあちゃん…。」
「報告書書き終わったんならさっさと寝てください。今最高戦力揃ってるんで、あんたの出番ないですから。」
「生駒によろしく言っといてくれ。」
「何故生駒?来栖ではなく?」
「そう。生駒。来栖は城主代行で忙しいから、私の分も頼んだって言っておけ。」
「はぁ…。わかりました。」
出発前に、雅客は生駒に最上からの伝言を伝えた。骨折の上、感冒の疑いの為、最上の分も頼んだと言っていたと伝えたら、何やらやる気を出していた。
現在蓬莱城と甲鉄城は連結して運行しており、高所からカバネが取り付くと、生駒が張り切って甲鉄城までやってきてカバネを排除していた。来栖は別に忙しくもなかったが、忙しいことにしとけと言われたので、そういう事になっている。
最上は、2日程大人しく寝ているとくしゃみも出なくなり、感冒の疑いはなくなったが、骨折はしているのでそのまま防衛を生駒に任せていた。駿城が大きく跳ねただけでもぴきり、寝返りでぴきり、服を着替えてぴきりと割といつでも痛いので、最上は殆ど駿城から出なかった。最上としては寝返りで痛むのが一番嫌だった。ぴきりとするたびに起きてしまうので、全く忙しくないのに熟睡できないのだ。
そんな話を雅客から聞いて、生駒は更にやる気を出して、顕金駅に着くまでひたすら頑張った。
なにをしても痛いから、なにもしたくない最上と、とにかく多度津で役に立たなかったから、役に立ちたい生駒で需要と供給がつりあったのである。
多田:罠関係は大体この人が作ったし、最後の大爆発も爆破ピタゴラスイッチみたいなのをせっせと作ってた。奥方がいなくなった時点で最後の仕込みに行ってたし、東雲が死んだ後に作動しに行った。ホモ君に勘付かれたせいで、道連れに出来なくてとっても悔しい。最期まで頭を回していたいタイプなので、黒血漿は持ってすらいなかった。持ってたらホモ君は殺せた。
なんで大西戦がないかって?
劇場版の景之殿と無名の戦闘シーンみたいなのを3人で繰り広げたからさ。速すぎて書けないよ。純粋な速度だけならホモ君も入れないことはないけど、パワー不足で相手の攻撃を綺麗に捌ききれないので、入ったら死にます。
薬が切れたらどうなるかは捏造ですね。知らないし。結果シュンケル切れたみたいな感じになった。