菖蒲は最上からの警告を胸に美馬の前に出ていった。来栖と最上を従えていく。
「天鳥美馬様でいらっしゃいますね。四方川家の総領菖蒲と申します。」
「四方川…では、老中の。」
「老中牧野道元は私の叔父です。」
「兄様。みんなも金剛郭に行くんだよ。」
無名が話に入ったことで叔父の話は掘り下げられることはなかった。名前が出るくらいなら会話としては普通である。
そこへ生駒がやってきて、何やら無礼な態度で話し始めてしまう。抗議の声を上げた無名は、美馬により下がるように言われ、渋々下がって行った。
生駒を含めて菖蒲達は克城へと招かれた。
車内では蒸気漏れが発生しており、何故か美馬が整備をすると言い出した。生駒も手伝いを申し出た為その場に残り、菖蒲達は滅火に先導され車内を移動していく。
「ここでお待ち下さい。」
滅火は何故か先頭車両脇の通路に案内した後車内へと戻って行った。車両脇の通路など客を通す場所ではない。
「おやぁ?場違いなお姫様がいるなぁ。」
狩方衆の1人が声をかけてくる。間に入った来栖に対し刀を差し出すよう要求する。もちろん美馬の招待であるので差し出す理由はない。
「すぐに要らなくなるのに…」
小さな声で狩方衆は嗤い、背中から武器を抜いて菖蒲に切りかかる。来栖が菖蒲の背を押して避難させる。
「貴様なんのつもりだ。」
来栖の手が刀にかかる。
「おいおい。勘違いするなよ。」
狩方衆の武器の刃先には蜘蛛が捉えられていた。
「仲良くやろうぜ。仲良く。」
などと嘯いて来栖達の横を通り抜けていく。
「そっちの子犬ちゃんは護衛じゃないのか?護衛としているならもう辞めたら?全然反応が遅いじゃん?」
最上をちらりと見て去って行った。
最上は視線を下げたまま狩方衆になにも言わなかった。
「最上。何故言い返さなかった。」
来栖は最上が反応出来ない速さではなかったと判断したし、例え反応出来ていなくとも抗議して然るべき侮辱である。
「すみません。驚いてしまいまして。」
顔を俯かせながら気弱そうな声で返す。だが口元は笑っている。顔と台詞が全く合っていない。
そういう人物像でいきたいらしい。
こちらには無名がいるのにそれは無理では?と思ったが最上がやりたいようにやらせることにした。
最上は今まで一度も無名の前で本性は見せていない。生駒が来栖の技を真似た時に少し話したくらいであるので、無名の中では武士の中では偉い奴で、頭は良さそう。くらいの印象しかない。
警笛が響き渡り、カバネが倭文駅を攻めてきたとの情報が菖蒲達の耳にも入る。菖蒲達の元には美馬も滅火も現れなかった。客として招待しておきながら、外通路に放置した美馬はなにがしたかったのか3人には理解出来なかった。ともあれ美馬よりカバネである。
3人は甲鉄城に戻ることにした。
甲鉄城を西門に移動させ出撃準備をしていると、克城が跳ね橋を下させて駅の外へ出て行く。克城は外に出ると車体の一部を開き、そこから迫撃砲を撃ち込んだ後、狩方衆の各々が克城から出て戦いが始まった。
機動力のある先発が足を撃ち抜き動きを止め、後発がトドメをさす。
軍隊としての戦い方である。
戦場に融合群体ともワザトリともつかぬカバネが現れる。他のカバネを鎧のように纏っている。
無名と滅火が向かう。滅火は無名と同じ速度で移動していることからカバネリである。無名と滅火の連携によりカバネは倒された。
離れた場所で美馬が人間に刀を向けられている。
(あれは…八代駅で乗った奴だな。)
最上は菖蒲の後ろに控えながら、観察している。この戦場においては噴流弾のみを使用し、金属被膜刀は抜いていない。
男と美馬は会話でもしていたのか中々動かなかったが、男が斬りかかり一瞬で決着がついた。
美馬が男に刀を突きつけている。
「た…助けてくれぇ!」
自分から斬りかかっておきながら命乞いをし始めた。少しして美馬が男を貫いた。生駒が駆け寄り美馬に食ってかかる。生駒の主張は戦場にいるものの中で同意するものなどいないだろう。
逞生が止めに入り、さらに菖蒲が謝罪する。
(つくづく自己主張の激しい男だな。恐らく目の前で人が死ぬのが我慢ならないたちなんだろうが、程度があるだろう。自らを殺しにきた人間を殺して責められるというのは意味不明だ。)
最上は生駒の様子を菖蒲の後ろから窺う。
菖蒲の謝罪に対し美馬は金剛郭への道のりの警護を申し出る。
本日の夜には出発しなければならないため、角を立たせずに断る理由がみつけられない。断ったとして追随されれば同じである。菖蒲には受け入れるしかなかった。後ろに控える最上は口を開かなかった。
克城に甲鉄城を連結して出発することが決まった。
民人は解放者である美馬との道行きに喜びを顕にしている。
「最上。これで良かったのでしょうか…。」
「申し訳ありません。回避する手段がありませんでした。向こうの刻限が先ならまだしも、こちらの刻限の方が先でしたので例え断っても追従されただけかと…」
最上は難しい顔をしている。
「本来ならば利のない警護を申し出たのです。甲鉄城と行動を共にする必要があるのでしょう。…我々には分からない利がきっとある…。1番考えられるのは菖蒲様のお立場です。目的地が金剛郭である以上、老中の牧野様が目的のひとつかと…将軍の子息であるから目的というより手段なのか?金属被膜刀を使っていたが…」
菖蒲に進言していたはずが思案に耽り始めてしまった。
「最上。」
「っ!申し訳ありません。」
来栖が声をかけると、驚いて顔を上げ謝罪した。
甲鉄城で唯一政方面に強く、総領としての教育を受けてきた菖蒲ですら、頼りにしてきた最上が焦燥しているのが艦橋にいる者達に伝わる。
「とにかく次の駅までどうすることもできません。次の駅で離れることが出来ればいいのですが…少し考えておきます。失礼します。」
最上は頭を下げて艦橋を出て行った。
「来栖。…最上は大丈夫でしょうか。」
「己にはアレの考えはわかりません。いっそ考えていることを、理論だては置いといてすべて喋らせますか?」
「だが八代駅の時のように全て真実を語るとは限らないんじゃないか?」
吉備土は難色を示す。
「あれは目的あってのことだろう。今なら余計なことを考えている余裕はない。まあ考えを話させたところで己達がどうにかできるとは思わんが…」
「もう少し待ちましょう。次の駅まで時間があります。最上の読みなら目的は私の立場です。今事を起こす必要がありません。私は執務を片付けます。来栖。艦橋を頼みます。」
「はい。」
菖蒲も艦橋を立ち去って行った。
菖蒲は執務室にしている部屋で経費などの記録を付けていた。戸を叩く音が聞こえ顔を上げるとすでに無名が立っていた。
「無名さん?何かご用事?」
「うん。甲鉄城の親鍵を渡して。」
「えっ?」
「親鍵だよ。菖蒲さんが持ってるやつ。」
「何故親鍵が必要なの?」
「渡してくれないの?」
「無名さんが使うの?それとも誰かに頼まれたの?」
「渡してよ!そんなの良いから!」
「無名さん…。」
「菖蒲さんじゃあ私に勝てないよ。だから。ね?」
無名の手から苦無が覗く。
「渡してっ…」
「親鍵ならここに。」
侑那が声をかけて入室してくる。連結作業で使用していたなどと嘘をつき、何か別の鍵を無名の手に握らせた。
無名は親鍵をちゃんと見たことはない。侑那の説明もあり得る説明だったため、嘘には気が付かずに礼を言い去って行った。
「美馬様…ですかね?」
「そうなのでしょうね…。」
侑那も艦橋での話を聞いていた。最初の頃からずっと最上の言うことを艦橋で耳に入れてきた。今回の最上はいつもと違い、恐らく美馬に読み負けている。ここで仕掛けられたのを読めなかったのもそうだ。次の駅まで…と言っていた。次の駅までは何もないと読んでいたのだろう。目的地は金剛郭だから。
「菖蒲様ぁ!来てください!生駒が!」
逞生に呼ばれ、克城との連結部分までやってきた。逞生が銃眼を開くと生駒と無名が話していた。
「ここは任せましょう。」
無名がいる以上、現時点で出るわけにはいかない。親鍵の件がバレているのかがわからないからだ。
次第に無名と生駒の口論が激しくなり、無名が生駒を蹴り飛ばす。
無名が克城に戻ったことで逞生と菖蒲も外に出る。
「美馬。あいつは英雄なんかじゃない。あの時、あいつは笑ったんだ。」
最上は普段自分が使っている寝台に座って、美馬のことを考えていた。
(美馬と滅火は金属被膜刀を使っていた。戦略でうまく戦っている印象を受けるが、カバネリの技術と金属被膜刀…今まで聞いたことはなかった。金剛郭に行ったときもそんな話題はなかった。無名殿の熟練度からしてごく最近の技術ではない。ならば解放者と呼ばれ頼られてはいるが、技術は開示していない。カバネリはまだしも金属被膜刀は提供していても問題ない技術だ。自分達以外が対抗できることを望んでない?
美馬は勘当されていて、親も子もないと言っていた。かつて勘当した息子が他の追随を許さぬ戦力を得ていると知っていて迎え入れるだろうか…。菖蒲様に繋ぎを頼みたいのか?将軍様に迎え入れる気がないなら菖蒲様が進言しても通らないのはわかりきった話だ。…では人質?応じるとは思えない。老中の姪では弱い。
一体何がしたい?認められたいなら解放者として功績を上げ続ける方がいい。勘当した父親を殺したい?殺すだけなら謁見の権利がある者を抱き込んで、変装でもして部下として潜り込めば済む話だ。もう実行していていいくらいだ。狩方衆を組織して解放者なんて肩書きは要らない。…分からない。目的も手段も。)
ホモ君は頭良いムーブしてたけど、善人だらけの甲鉄城にいたからってだけで美馬様には勝てないです。
まあ美馬様の目的や行動基準が視聴者視点からでも割と意味不明なので読めたらおかしいんですけども。