【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

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ハイパーギスギス回です。


克城【裏】

最上と侑那が甲鉄城に戻って一日目。最上は殆ど立っていることが出来なかった。座っているのがやっとで倉之助が、介抱していた。

 

(四日目には金剛郭だ。それまで身体を休めておく他ない。)

 

二日目の晩の採血で問題が起きたらしい。田助なる民人の腕が切断されたと騒いでいる。民人や武士達から憤りを感じる。

 

(よくない兆候だ。後ニ日大人しくしててくれ。血液の提供者としての価値しか今の我々には無いのだから…)

 

夜が更けてきたころ、生駒の捕えられている檻に武士が集まっている。

侑那が生駒に渡している竹筒から、生駒が紙片を取り出していたのを見ていたため、なにやらコソコソしていたのは最上も把握していた。

 

克城の機関室を占拠する計画だ。

夜にだけ鍵束を下げてくる白装束から、鍵束を奪い先頭車両の機関室を占拠。機関室さえ占拠すれば美馬も手が出せない…。

吉備土達は随分乗り気のようだが、最上は賛成出来ない杜撰な計画だった為口を挟む事にした。

 

「その計画で美馬をだし抜けると思っているのか?」

 

「なんだとっ!」

 

「最上様。申し訳ありませんが、民人達の体力もこれ以上はもたないんです。やるしかありません。」

 

「四日目には金剛郭だ。それまではもつだろう。」

 

「金剛郭についたら磐戸駅の再演だと貴方も言っていたではないですか。」

 

「美馬がこちらの考えを読めないとは思えない。読まれていた場合対策されるぞ。…それに戦力差を考えろ。来栖もいない。無名殿は向こう側だ。勝てると思っているのか?」

 

「全員に勝つ必要なんてない。機関室を占拠してしまえば、美馬だって「それが浅はかだと言っている。克城内部を進んで先頭車両に行く以上、避けては通れない。倭文駅で狩方衆の強さは見たはずだ。我々が拘束されていないのは何故だ?絶対に我々に勝てる自信があるからだ。」

 

「臆病者。」

 

「なんだと。」

 

「臆病者だって言ったんだ。あんた磐戸駅でも戦わずに投降したんだってな。今も戦わない理由を探してる。」

 

「最初から勝算のない賭けにでる必要性を感じない。死人を出す覚悟はあるのか?あいつらは人を平気で殺すぞ。」

 

「最上様。…いや最上。あんたには従えない。これで何もせずに菖蒲様に何かあったら、俺たちは来栖に顔向けが出来ない。」

 

「美馬にとって菖蒲様は、我々とは違って価値がある。金剛郭までは安全の筈だ。だが、失敗すれば菖蒲様がしなくても良い選択を迫られるとは考えないのか?途中で菖蒲様が人質に取られる可能性は?」

 

「とにかく俺は生駒の計画にのる。最上。あんたは確かに頭が良い。だけど美馬に読み負けて随分と自信を失っているようだ。来栖ならこんなとき間違いなく計画にのることを選ぶ。」

 

「……。」

 

吉備土が厳しい目を最上に向けている。最上は周りを見回して確認するが、他の武士達も譲るつもりはないようだ。

 

「そうか。勝手にしろ…。忠告はした。」

 

最上はその場から離れていった。

雅客や倉之助は最上を視線で追うが、追いかける事はなくそのまま背中を見送った。

 

(反乱を起こす面子の何人が死ぬだろうか。せめて片手分ですめば良いが…。私がいながら反乱を起こさせてしまうとは菖蒲様に申し訳が立たないな。人望がないのはわかっているが、そうか…生駒以下とは…。ふふっ。)

 

最上は自分でも自覚しきれていないが、これ以上ない程に落ち込んでいた。

 

雅客は迷っていた。

 

(確かに最上様の言う通り、この計画が美馬に読まれていない保証はない。戦力も足りていない。だが何もせずに菖蒲様に何かあれば来栖に申し訳が立たないというのも本音だ。)

 

倉之助も最上には申し訳なく思っているが、吉備土がいったように、来栖がいたらきっと計画にのるだろうと思えた為引くわけにはいかない。

 

(2年前のあの事件も解決に奔走したのは来栖旗下の下侍だ。最上は所詮自分の身がかわいい上侍ということだ。やるんだ。あの時だって来栖が切腹覚悟で奔走したから解決したんだ。)

 

吉備土は自分を奮い立たせるために、最上を心の中で批難した。

武器になりそうなものを集めるため、武士達は散って行った。

 

「最上様。」

 

「臆病者の負け犬になにか用か?雅客。」

 

「どうあっても失敗すると思いますか。」

 

雅客は質問というより、確認のつもりで聞いた。

 

「だから先程口を挟んだ。私が美馬の立場なら捕虜を自由にしておかない。なら何故民人だけにとどまらず、武士まで拘束されてない。勝てる自信があるからだ。来栖がいれば拘束してたかもしれないが、拘束されてるのは生駒だけだ。カバネリは警戒しているがそれだけだ。正直に言おう。生駒は身体能力こそカバネリ故優れているが戦い方は素人だ。生駒の無力化なら、私だけでも可能性がある。美馬擁する狩方衆が負ける姿が思い描けない。車内を移動して先頭車両まで行くのに全員と戦う想定もしてないじゃないか。人死が出るぞ。あいつらが磐戸駅でしたのは虐殺だ。こちらが虐殺される可能性を誰も考えてない。…とはいえ、もう止められないのも理解した。人は時に理論より感情を優先させる。生駒には扇動者としての才能があるのかね。私にはない才能だ。成功した暁には地べたに這いつくばって謝罪してやるよ。臆病者が生意気言ってすみませんでしたってな。」

 

最上が嗤う。

 

「最上様。俺たちはそんなこと求めてません。」

 

「どうかな。生駒や吉備土はそうでもないんじゃないか?もう良いか?少しでも休んでおきたい。疲れた。」

 

最上の顔は相変わらず真っ青である。以前最上自身が言っていた通り、血はすぐには戻らない。

 

「わかりました。失礼します。」

 

(雅客はまだ敬語使うんだな。まぁ…どうでもいいか。)

 

 

三日目の夜。食事の配給の前に最後の作戦会議が行われていた。

最上は離れたところから作戦会議を眺めていたが、布にくるまったままで口を挟む気はないようだ。

参加する気はないという意思表示である。昨日の様子から参加はしないだろうと思っていたし、昨日からまともに立ち上がれるようになった人間を戦力には数えていなかった。

 

鍋を叩く音が響き、皆が作戦位置に散開する。生駒は逞生から渡された針金を使い拘束から逃れ、布を被って民人に紛れた。少しして扉が開き蒸気筒を構えた狩方衆や白装束が配給の籠を持った2人を連れて入ってくる。

生駒が白装束に話しかけた後号令を出した。号令を聞き蒸気管のバルブを数名が開いたことで車内は蒸気に包まれた。

吉備土の号令で、武士や戦える民人が一斉に襲いかかって行く。

 

反乱は順調に進んで行く。蒸気筒を取り返し、克城への侵入に成功した。

克城内部の侵攻も順調に進んでいる。

 

(やはり最上が慎重になり過ぎていただけだ。このまま機関室を抑えて菖蒲様を解放しなくては。)

 

吉備土は狩方衆と戦いながら、勝利の光景を思い描く。

生駒と逞生を先に行かせて、狩方衆の制圧に尽力する。

 

「吉備土。もう間もなくだというのに採血室にいたやつ以外、狩方衆の主力らしきやつを見てないぞ。先に行かせてよかったのか?」

 

「生駒なら大丈夫だろう。」

 

雅客の質問に高揚した気分のまま回答する。

 

(ここに至るまで主力らしきやつが殆ど居ないのは何故だ?普段から全員機関室のある1両目にいるのか?いや…きっと違う。最上様の言う通り読まれている!主力を1両目に集中しているんだ!)

 

「吉備土。2人だけじゃ危ない。生駒はともかく逞生は普通の蒸気鍛治だぞ!」

 

「そうだな。急ごう。」

 

吉備土は随分生駒を過信しているが、逞生はその限りではないだろうと名前を出せば乗ってきてくれた。

 

2両目手前までたどり着いたが扉が開かない。

 

「なんでだ。鍵がかかっている!生駒達はここを通って行ったはずだろう!」

 

銃眼から朝焼けが差し込んでくる。

 

「どうする…来っ…」

 

吉備土がいつもの癖で来栖に指示を仰ごうとした。

いつもなら来栖が、たまに最上が指揮官をしていた。今まで判断を委ねてきた相手はいない。明確な上下があるわけではないが、下侍のなかで次席は吉備土だ。今回のことだって武士に指示を出していたのは吉備土であった。

銃声が響き、銃眼から悲鳴が聞こえてくる。恐らく生駒だ。

 

「生駒だ!やはり2両目にいるんだ!」

 

「どうする!上に出るか?」

 

「無茶を言うな!上に出たところで先の車両から入れるとは限らないんだぞ!」

 

「だったら生駒達を見捨てるのか⁉︎」

 

武士達が揉める中、後から民人達も追いついてきた。

 

「逞生君達はどうしたんですか?」

 

鰍が尋ねる。

 

「2両目に鍵がかかっていて通れないんだ。俺たちが来た時には生駒達はいなかった。」

 

端的に歩荷が答える。

朝焼けの色が次第に抜けていく中、次々と民人が追いついてくるが誰にも打開策は提示出来なかった。

 

暫くして完全に日が昇り、朝焼けの色はもうない。

カチリと扉がなる。

武士達が取り付き扉を開けた。

その先に広がっていた光景は、大量の血痕と血溜まりに沈む逞生である。鰍が駆け寄り逞生に縋り付く。

狩方衆は複数人いるが、美馬と生駒の姿はない。

作戦は失敗であった。

鰍が狩方衆に激昂する。侑那や巣刈が間にそっと入ると、狩方衆も殺戮するつもりはないのか下がっていった。

 

(最上様の言った通り、失敗したな。このことで菖蒲様に不利益がないといいが…)

 

雅客は逞生を運ぶ吉備土達を眺めながら考えた。

 

 

甲鉄城側に戻ると民人達の姿が見当たらない。もぬけの殻だ。2両目の車両まで進むと、可能な限り後方に民人を下げて車両中央に佇む最上の姿があった。

 

「なんだ、お前らか。」

 

「…なにをしていたんです?」

 

「貴様は馬鹿か?作戦が失敗した時に、自ら戦いに臨んだものは仕方がないにしても、戦えぬ民人まで殺される可能性を考えなかったのか?言った筈だ。あいつらは平気で人を殺すと。交渉するためにここにいた。それだけだ。…その様子だと失敗したようだな。誰でもいい、損害を報告しろ。」

 

吉備土の質問に、怒りを滲ませながら最上が返す。

 

「生駒が行方不明。死者一名。蒸気鍛治の逞生です。軽傷者多数ですが、重傷者はいません。現時点、克城側から追撃はありませんでした。」

 

雅客が要点のみを報告する。

 

「そうか。想像より損害が軽微でよかったよ。」

 

「ふざけないで!損害が軽微⁉︎戦いもしないで!逞生君が…死んじゃったのに!」

 

「鰍やめなよ。」

 

激昂する鰍を侑那が抑える。

 

「ふざけているのはお前らだ。あいつらは我々の血が欲しいのだと言っていただろう。殺してとってもいいと言っていたらしいじゃないか。あいつらはそもそも人殺しだぞ?反乱した面子は皆殺しでもなんら不思議はなかったんだ。磐戸駅での所業をもう忘れたのか?それに私は二日目の夜に生駒達が計画を話していた時に、作戦に反対した。無理だと伝えたが聞かなかったのは生駒達だ。戦いもしないで?勝てない戦いに参加して死ねとでも?死んだ一名は残念だが、反乱の主要人物だろう。私が反対した作戦会議にもいた。勝算の低さを知らずに参加したわけじゃない。自業自得だ。」

 

「この人でなしぃ!」

 

「鰍!」

 

掴みかかろうとする鰍を侑那が抑え込む。

 

「最上ぃ!」

 

吉備土が最上の胸ぐらを掴み上げる。

 

「1人でよかっただって?」

 

「自業自得だと?」

 

戦いに参加した者たちも怒りを露わにする。

 

「吉備土!馬鹿!やめろ!」

 

雅客が止めに入るが吉備土は離さない。

 

「貴様に怒る権利があるのか?被害者面するなよ。言ったはずだ。勝算のない賭けだと。その賭けに自ら命を掛けたのはお前らだ。菖蒲様や戦えぬ民人達の命も勝手に賭けてな。」

 

「最上様ももうやめてください。」

 

雅客が最上に口を閉じるように頼む。

 

「何度だって言ってやる!よかったな!あの虐殺者ども相手に死んだのが1人で!背負う命が1人分ですんで良かったじゃないか!皆を扇動したのはお前たちだ!参加者全員分の命を背負う可能性だってあったんだぞ!下手をすれば参加してない者の命もな!」

 

最上の怒声の途中で吉備土の手が離れた。初めて見る最上の激昂にたじろいだのだ。

 

「死なせる覚悟もないくせに扇動したのか⁉︎失敗しても誰も死なずにすむと思ってたか⁉︎それとも失敗は視野に無かったか⁉︎恥を知れ!お前と生駒が死なせた「最上様っ‼︎」

 

なおも続ける最上に雅客は声を上げる。雅客の制止にやっと最上が沈黙する。周囲で怒りを露わにしていた者達も最上の勢いに押されて沈黙している。最上は体力が回復していないため疲れたのか、ため息を吐いて進行方向の車両に去って行った。

 

後方で寄り集まっていた者たちは騒ぎが収まったことに安堵の息を漏らした。

服部が民人達から話を聞くと、作戦が失敗した場合、どこまで責任を問われるかわからないため後方まで避難してほしいと言われたこと、もし狩方衆が来たら刺激しないように静かにすること、例え最上が目の前で殺されても悲鳴など上げずに大人しく狩方衆に従うことなどを指示していたことを知る。

 

雅客や歩荷は、八代駅での事を思い出していた。あの時も作戦の失敗の可能性を提示し、失敗後に備える方に注力していた。

そして八代駅の民人を下車させるとして憎まれ役を買って出たことも。

ただし今回は、本心からの激昂だろう。慎重論を唱えたところ、臆病者と罵られ、武士は誰一人従わなかった。従わなかったくせに鰍と一緒になって責め立てた。

来栖はそういう性格ではないが、指揮官にとって戦場における武士とは数字である。現在何人いて死傷者は何人か。最上は本来すべき仕事をしただけだ。武士ではない鰍が怒るのは仕方がないが、吉備土が怒るのは筋違いだ。

 

最上は自己嫌悪に陥っていた。

 

(気に障る言い方をした自覚はある。だが言っておかねばならなかった。死者が1名ですんだのは奇跡に近い。本当に皆殺しにされても不思議では無かったのだから。だが、怒鳴り散らす必要はなかった。ただでさえこちらの話など聞く気がないのに…。悪化させただけだろうな。…はぁ。やってしまった…。金剛郭を無事に抜けたら、どこかの駅で降りた方がいいんだろうな。来栖が戻ればとりあえず問題ないだろう。戻らなかった場合は…考えたくないな。カバネリも来栖も抜きで進むのはなかなか厳しいだろうな…。疲れた……。少し休もう。もう少しで金剛郭だ。菖蒲様をお護り出来なければ話にならない。)

 

雅客と倉之助が最上の休んでいる車両までやってきた。完全に対立した構図のままは拙いと思ったからだ。

落ち着いて話し合った結果、武士達は最上に謝罪する方向で話はついた。吉備土だって来栖の不在で気負いすぎていただけだし、普段は素直でお人好しの穏やかなたちなのだ。最上が時折とる偽悪的な態度と致命的に合わないだけで。

しかし雅客達がたどり着いた時には、最上は休んでいた。顔色は相変わらず悪い。金剛郭に着く前に謝罪はしたいが、作戦失敗時の責任をとるために、体調が悪い中ずっと起きていた最上を起こすのも躊躇われた。

雅客達は出直すことにした。金剛郭で最上がどのように使われるか知らないが、少しでも休ませておきたい。




大筋を決めた当初は逞生はギリギリで助ける予定だったし、仲間割れももう少しライトな予定でした。でもちゃんと書くのにアニメ見直したらこれ最初から参加してないと助けられねぇやってなってこんなことに…。
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