【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

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ホモ君視点です。


顕金駅脱出【裏】

扶桑城が駅内に突っ込み爆発した。

鈴鳴りが鳴り響く顕金駅。

 

来栖は菖蒲の後ろに控え、堅将と菖蒲のやり取りを聞いていた。

 

「甲鉄城を確保したら合図を撃つ。そしたらお前も来い。」

 

堅将が馬首をめぐらせ背を向けた。

 

「堅将様。顕金駅を放棄する以上物資の確保が必要です。お側を離れる御許可をいただければ、私は今から備蓄庫へ向かい食糧の確保に尽力したいと思います。」

 

騎乗した若い上侍が堅将へと進言する。

 

「確かに。甲鉄城はまだ出立の準備も整っておらん。皆幾らかの食糧は持ち寄るだろうが、食糧は多いに越したことはない。任せるぞ堀川。」

 

堅将の許可を得た堀川最上は馬首をめぐらせた後、駆け足にてその場を離れて行く。

堀川は上侍の中で1、2を争う剣術の使い手でありながら、1番の若輩である。

来栖より2つほど歳は下ではあるが元服は済ませており、堅将に侍り始めた時から先程の様に自ら進言する胆力も持ち合わせていた。

他の上侍と違い歳下であるからか、来栖に絡んできたことはない。

 

「来栖。お父様は大丈夫でしょうか。」

 

堅将の背が見えなくなって暫くして菖蒲が来栖に声をかけてきた。

 

「護衛が複数ついております。合図を待ちましょう。」

 

「…そうですね。」

 

大丈夫だろう。とはとても言えなかった。

2年前カバネに噛まれたおそれのある女が1人逃げたことによって生じた、あの事件ですら駅内は統制が取れなくなるほど荒れた。

それは堅将の不在もあるが、何より武士にカバネを殺す力がないことが、顕金駅を混乱に陥れたのだ。

殺すことができぬカバネに囲まれれば護衛などいくらいたところで変わりはないが、それをこの状態で菖蒲に伝えることは殊更に不安を覚えさせるだけでなんの利もないのだ。

 

 

 

 

堀川最上は愛馬の疾風に乗り備蓄庫になっている蔵まで疾走していた。

 

(まだこの辺りにカバネは来ていないようだな。…といっても時間の問題だろうが…)

 

甲鉄城に何人避難することができるかはわからないが、整備中で出立の準備が全くできていない以上食糧は間違いなく不足する。まして通常駿城は移動手段として存在しており、駅中の人間が乗ることは出来ないし、食糧の搬入も通常の運行に必要な分に多少上乗せされた量しか積み込まないのだ。

駿城のような閉鎖空間で飢えは大敵だ。

ただでさえカバネに襲われる恐怖から気が立っている中、飢えまで重なれば間違いなく人同士で争いが起きる。

食糧を可能な限り持ち出さねばならない。

蔵の隣には馬に取り付けることができる荷車が置かれていた。

 

(荷車か。持ち出せる量を考えれば使うべきだろうが、悪路を行くことになるだろう…やめておくか。)

 

疾風に自分が騎乗する事は考えず、可能な限りの食糧を疾風の背に積み込んだ。

 

「疾風。すまないが甲鉄城までよろしく頼む。」

 

愛馬に声をかけ先行する。

疾風から目視で確認でき、周囲にカバネがいないことを確認しつつ指笛を吹く。

疾風は指笛に反応し自分に向かい早脚で近寄ってきた。

最短距離を行きたいところではあるが、カバネとかち合っては元も子もないため、少しばかり回り道をしながら甲鉄城を目指す。

民人が逃げ出す際に放棄したであろう荷物などが道には散乱しており、荷車できていたら立ち往生していただろう。

あと少しでたどり着くという時に、小路から一体のカバネが現れた。

 

「カバネ!ここまでたどり着いたというのに!」

 

襷掛けしていた蒸気筒は使うつもりが最初から無く、刀を抜いて応戦することを決めた。

蒸気筒は複数名で運用してこそ効果があり、単独で使うには隙が大きすぎるからだ。

まだ疾風は少し離れた場所に待機しているし刀を振るには問題はない。

 

自分の剣術がカバネに通用するかが1番の問題である。

自分は九智来栖ほど埒外の剣の腕を持っているわけではない。

しかし心臓被膜以外は刀で切断可能であることは知っている。

 

(何も殺す必要はない。機動力を削ぐ。)

 

(このカバネさえ抜けばもう甲鉄城まですぐだ。後ろからくる疾風は馬である以上積極的には狙われない。)

 

カバネは両手を前に突き出しながら一直線で向かってくる。

 

(正面から受けてはならない。体格は向こうの方が上だ。胴を切るべきか?いや両断できる臂力は私にはない。)

 

右にカバネを躱しつつ体勢を下げ右脹脛を深く切り付けた。

 

(回復するにしても腱を切断すればすぐには動けまい。)

 

転倒したカバネにさらに追撃として左脚も切断する。

指笛を吹いて疾風を呼びながら甲鉄城へ駆け出した。

疾風は這ってこちらに向かってこようとするカバネの左腕を意図せず踏み砕きながら堀川を追う。

 

甲鉄城に着いた時には民人の乗車が始まっていた。

 

(多いな。これだけの民人が避難出来たことは喜ぶべき事だが私の持ち込んだ食糧も焼石に水だな…)

 

「堀川殿⁉︎ご無事だったのですか!」

 

来栖の配下の下侍から声をかけられる。

 

「僅かばかりで悪いが食糧を確保してきた。搬入を頼む。」

 

「承知しました。」

 

少しばかりむすりとした表情で承知の意を返す。

 

(九智来栖にすでに何か指示されていたのを私の指示のせいで果たせなくなった不満か、単純に上侍の若輩者に指示されるのが不満か分からないが、あまりあからさまだと他の上侍なら許さないだろうによくやる。)

 

視線を巡らせると菖蒲と来栖が乗車しようと近くのタラップに向かってきていた。

 

「菖蒲様!」

 

菖蒲の名を呼び近づいて行くと、菖蒲は目を見開き

 

「最上!よくぞ無事に甲鉄城まで辿り着きましたね。」

 

「はい。力及ばす僅かばかりの食糧となりましたが、なんとか辿り着くことが叶いました。して堅将様は何処におられますか?」

 

堅将の所在を確認すれば菖蒲も来栖も視線を落とした。

 

「まさか甲鉄城に居られないのですか?」

 

二人の表情から意味する事はそういうことだろう。

二人は黙したまま視線を逸らした。

 

「堅将様を探して参ります!疾風!」

 

自分で口に出しながら、現実的な案ではないな。と思いながらも疾風に騎乗しようとしたところ

 

「なりません!最上も速やかに甲鉄城に乗車しなさい!」

 

菖蒲の指示に従い来栖が腕をとり疾風から引き離す。

 

「しかし!「お父様からの合図はありませんでした!私たちがこちらに来るまでの道中もお会いする事は叶いませんでした。お父様の到着はギリギリまで待ちますが捜索に向かう事は許しません。」

 

反論しようとしたところ菖蒲が被せるように言い募る。

来栖が腕を掴む力を強めた。

 

「…承知致しました。乗車致します。」

 

着々と出発準備が進んでいく。

無名という少女が艦橋に入って来ているが、堅将が客人として迎えた娘であるし、菖蒲の態度からするに功績もあるのだろう。

菖蒲に対し無礼な発言や態度ではあるが、態々咎める程ではない。

 

「お父様の姿はまだ見えませんか?」

 

菖蒲が見張りをしていた服部に声をかける。

 

「カバネだ!カバネが来るぞぉ!」

 

乗車していない武士が声をあげてすぐに操車場にカバネが押し寄せる。

来栖が運転士に声をかけた後、艦橋を離れていく。

来栖が菖蒲から離れる以上自分はここから離れる訳にもいかない。

上侍の殆どが堅将の護衛等でついていた以上、甲鉄城に乗車しているのはおそらく下侍ばかりだろう。

下侍のまとめ役は来栖であり、下手に自分が指揮を取れば現場を混乱させかねない。

 

(ままならんな。有事であるのに動けば足を引っ張りかねない。)

 

暫く状況を眺めていると服部が来栖を呼び戻した。

線路上のカバネを確認しに上に上がった来栖が戸惑っているのが伝わってくる。

菖蒲も来栖の戸惑いを感じてか上に上がって行く。

来栖が菖蒲を押し留めようとしているが菖蒲は外に顔をだす。

来栖はすぐに菖蒲を押し戻し扉を閉める。

 

「来栖…でもあれはお父「違います!…あれはただのカバネです。」

 

堅将がカバネとなって線路上にいるということは菖蒲と来栖のやりとりから理解できた。

菖蒲は嗚咽が漏れぬよう口を覆いながら静かに泣き出し、来栖は俯き歯を食い縛っている。

 

(堅将様…自決も叶わずカバネになってしまわれたか…お労しい…)

 

しかし線路上にいる以上、避けては通ることは不可能であり、今艦橋にカバネを轢き殺せと指示できるのは菖蒲、来栖、そして上侍の自分しかいない。

 

(上侍も下侍も正式な位ではないが、上侍として多くの権利を得て来た。義務を果たすべきだ。)

 

「止まるな!そのまま前進せよ!線路上のカバネを轢き潰せ!!」

 

来栖が弾かれたようにこちらを見る。

言い方は悪いが、運転士はカバネを轢き殺すのも仕事の内である。運転士に止まるつもりがあったかは知らないが、カバネとなったとはいえ主君を轢き殺す以上指示は必要だろう。現在城主である菖蒲は堅将を認識してしまった。カバネとなった者を轢き殺した責任を問うような方ではないのはわかっているが、きっちりと指示を出し責任の所在は明らかにしておくべきである。

おそらく今暫く黙っていれば来栖が指示を出していただろうがそれは上侍の役割であるべきだ。

堅将を含むカバネ達を轢き潰しながら甲鉄城は進んで行く。

 

不快な音と振動を聞かぬふりをしていると、すぐに跳ね橋前まで到着するが不具合により跳ね橋が降りない。

 

(次から次へと…)

 

甲鉄城に衝撃が加えられる。

カバネに追い付かれてしまったようだ。カバネが車体に体当たりをしているようで、激しい音と共に甲鉄城が左右に小さく揺られる。

冷却水の入った水槽が損傷し、もはや一刻の猶予もない。

艦橋内が混乱している中、来栖が艦橋を出て行こうとしたため吉備士達に止められている。外に設置されている跳ね橋を下ろすためのレバーを操作しに行くと言うではないか。

確かにこのままでは埒が開かないが、下侍のまとめ役である九智来栖をここで失うのは悪手である。

 

「私が行こう。乗車している武士は下侍ばかりだろう?失うなら下侍の指揮官たる九智来栖より私の方が道理だ。」

 

全員が利を理解してか押し黙る。

来栖の横を通り艦橋を出ようとする。

 

「見てください!カバネの中に人が!!」

 

耳を疑う報告が服部から上がる。

来栖が反射式望遠鏡を覗き込む。

状況は全く分からないが、菖蒲が加勢を指示するも来栖一同が扉を開ける事を拒否していることから、加勢はせずに外にいるという者に賭けるつもりのようだ。

 

(しかし…共喰い?どういう意味だろうか…外にいるのは人ではないのか?カバネがカバネを倒し人を助ける…あり得るのか?いずれにせよ静観するしかないか。)

 

服部達は外の状況に釘付けだ。

 

「やった!」

 

歓喜の声が上がる。

跳ね橋が降り甲鉄城が発車する。外の者を回収するつもりはないようだ。

いつの間にか艦橋にいた少女が姿を消しており、来栖が雅客と歩荷を連れて艦橋を出て行き、少し遅れて菖蒲が静を連れて艦橋を出る。

 

(なにやら私の知らない事情を九智来栖は把握しているようだし、とりあえず菖蒲様と共にいれば報告が聞けるだろう。)




甲鉄城に下侍オンリーなの凄いと思うの。
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