【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

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甲鉄城【裏】

菖蒲達が操車場へ入ると出入り口まで騒めきが届く。牢を目指して進むと民人達が牢を囲んで騒いでいる。

 

(人同士が争っている場合ではありません。)

 

「おやめなさい!」

 

民人達が菖蒲の方を向き、牢の中にいる甲鉄城の者達は湧き立った。

 

「菖蒲様!よかった。ご無事で!」

 

菖蒲は民人達から目線を逸らすことなく堂々と発言する。

 

「彼らはカバネではありません。」

 

「信じられるか!」

 

「秩序を守るのがあんた達の務めだろう!」

 

民人が菖蒲に蒸気筒を向けたため、道元や道元の部下から鍔鳴りがする。菖蒲は道元達を止めるため両手を広げた。

 

「いいえ。秩序は人を守るためにあるのです。銃を向ける相手を間違ってはなりません。撃ち抜くべきは!」

 

菖蒲は前に出る。怯んだ民人の銃口が僅かに下がる。

 

「互いを疑う心です!」

 

完全に銃口が下がり切った。

操車場に張りつめていた緊張が解ける。

 

「私達は金剛郭を脱出します。一緒に行きましょう。」

 

道元が牢を開け、甲鉄城の面々は牢の外に出た。発進準備を指示されたため慌ただしく甲鉄城へ急ぐ。

菖蒲の元へ雅客が寄ってきた。

 

「菖蒲様。…最上様は…。」

 

「っ!…カバネを引き離すために囮に…。」

 

「…そうですか。」

 

「雅客。最上になにかあったのですか?詳しく聞くことが叶いませんでしたが、甲鉄城には戻れない。と言っていました。」

 

「‼︎…くっそ!」

 

雅客は菖蒲に反乱の事を説明した。そして謝罪の機を逸した為に、喧嘩別れになっている事も。

 

「そんなことが…。」

 

「最上様を探しに行くことは、許可いただけますでしょうか…。」

 

「なりません。最上には戻る意志を感じませんでした。どこまで離れたかわかりません。甲鉄城の発進準備を急いで下さい。」

 

「…わかりました。」

 

菖蒲は最上捜索の許可は出さなかった。最上に戻る意志はなく、今は甲鉄城を確実に脱出させることに注力すべきだと考えたからだ。

雅客は悔しそうにしながら下がっていった。周囲で聞き耳を立てていた者たちも視線が下がっている。

 

菖蒲には当時の事はわからない。だが磐戸駅でのこと、甲鉄城の者たちの扱い、先行きがわからぬなか菖蒲の安否がわからなかったことから、全員の気が立っていた事はわかる。最上にも余裕などなかった筈だ。というより一番余裕がなかったのが最上だったかもしれない。

菖蒲には最上に責任を押し付けるつもりはないが、最上は頭脳労働を主としていたのに、美馬に読み負け、最終的に菖蒲の身柄を奪われている。そんな中の反乱である。

菖蒲を守ることが出来ないなら、せめて民人を守らねばと考えたのだろうが、誰一人耳を傾けなかった。作戦は納得できる様な内容ではなく、反対したら臆病者と罵られ、来栖を引き合いに出された。

血を抜かれたことで体調が悪かったことも相まって、最上は残された余裕を完全に失ったのだろう。

本来激昂などするより、淡々と事実を論い相手の心を折りにいく。そんな性格である。

 

最上は甲鉄城に乗るまで、今いる武士達と交流はなかった。来栖か最上かとなれば、来栖を選ぶのは明らかであるし、最上自身が武士達を来栖の指揮下に置く姿勢を示していた。

来栖がいれば、来栖さえ納得すれば問題がなかったし、来栖は義理堅い男であるが、感情より理論をとる方が多い。最上との相性は悪くなかったため、今まで問題にはならなかった。

効率的な運用のために、来栖に指揮権を任せてきたのに、まさか不在時にすら引き合いに出されるとは思わなかっただろう。

まして、生駒にすら信用が劣っていたと証明されてしまった。蒸気鍛治達が生駒を選ぶのは当然だ。しかし武士達が1人も理解を示さなかったのは堪えただろう。

吉備土達は、来栖ならきっとこうするだろうという考えで、来栖と最上を比べて来栖をとったのだろうが、その場に来栖はいなかった以上、客観的には生駒か最上かという話である。

 

吉備土達は謝罪したいという意志を示しているが、最上はそれを知らない。

菖蒲がいる以上、決定的な対立は起こり得ないとわかっているだろうが、自分がいれば不和が生まれると思ったのだろう。

最後のあの時、最上に決断させたのはきっとそれだ。来栖不在の中、自分がいなければならないと思ったなら、きっと今も最上はここにいた。来栖や無名のように、正面から複数のカバネを打ち倒せるとは菖蒲も思っていないが、他の出入り口を探すなり、一時的に引きつけて上手いこと戻る術を考えただろう。

 

最上なりにきっと武士達を信頼していた筈だが、最上からの信頼は失われた。菖蒲を送り出したことから、まだ信用は残っているのだろう。

 

美馬と会ってから、最上は謝罪ばかりしていた。自信を失っている時に追い討ちをかけられて、信頼できる相手が誰一人いないのは如何許りか。

 

(嫌な役ばかりさせてしまっていました…。率先してやってくれるからと任せ過ぎた結果が最上の孤立…。私が不甲斐ないからなのでしょうね。)

 

 

 

一方最上は、いつまでも走り続ける体力はなく、高所に一時避難していた。

いつのまにか鵺が倒れ込んでいるのが見えた。

 

(滅火の時と同じか?…無名殿。哀れな娘だ。無名殿の七夕のときの様子から美馬がこんなことをするとは思っていなかっただろう。幼いころの刷り込みが良く効いていたのか、とても信頼しているように見えた。ああまで信頼していた相手に裏切られて使い捨てにされる…。可哀想に…。)

 

「まあ…。私にはどうしてやることもできん。だが、操車場を襲わなかったことは感謝する。」

 

倒れている鵺に遠くから一礼すると、丁度鵺が崩壊していく。

 

「しかしまだ甲鉄城は出ていないようだが、まさか操車場にカバネが入り込んでいたとかではなかろうな…少し不安になってきた…。」

 

操車場に視線を向けるが未だ動きはない。

 

「さてそろそろ移動するか。」

 

火が周囲の建物を舐める。

火に巻かれる前に移動することにした。

 

別の高台に移動して暫くして朝日が昇ってきた。

 

「大体鎮火してきたな。しかし甲鉄城はまだか?本当に大丈夫なのか?菖蒲様を送り出したのは間違いだったか?道元様がおられるから、私の合流を待つなんてことはないだろうし…。あぁ…不安だ。」

 

 

 

避難民の受け入れ作業が続く中、甲鉄城の艦橋では線路選定の会議が行われていた。

 

「地図通りなら、6番線でいける筈だけど。」

 

「その線路が生きている保証はないぞ。」

 

「でも必ず道はある。美馬は自分が脱出するための線路を残しておく筈だ。」

 

「教えてやろう。」

 

意見が交わされる中、聞きなれない声が艦橋に響き、皆が声の方向に顔を向けると、狩方衆の瓜生が入り込んでいた。

 

「取引だ。脱出路を教える代わりに、俺たちを甲鉄城に乗せていけ。」

 

「ふざけるな!」

 

「応じると思うのか⁉︎」

 

瓜生の発言に、樵人達がいきり立つが、下緒が瓜生の前に走り出てそのまま顔を張る。

下緒はなにも言わずに睨んでいたが、菖蒲に抱き止められ涙を流す。

 

「協力しましょう。彼らも苦しいのです。でなければ力づくで私達を従わせている筈です。」

 

「ありがとよ。お姫さん。礼がわりに教えといてやる。野良のカバネリとあんたの忠犬も此処に来てるぜ。子犬ちゃんも見たが逸れたのか?」

 

「っ!」

 

菖蒲の目が揺れる。

 

「生駒も来栖も生きてたか!」

 

「最上様も生きてそうだな。」

 

「なんとか回収できないか?」

 

「こちらが迎えに行くのは無理だ。向こうから来てもらわないと…。」

 

「来栖達にどうにか合流場所を伝える方法を考えなくては…。」

 

「最上様は戻られるだろうか…。」

 

生駒や来栖が来ていたことに艦橋内が湧き立つが、問題は最上である。本人に戻る気がなければどうしようもない。

 

「なんだお前ら仲間割れしてたのか。まあいい。生きている線路は13番線だ。総長はそこから脱出する予定だった。野良のカバネリに克城をぶっ壊されたから、おじゃんになった訳だが。」

 

「13番線か。こっちから迂回すれば入れるね。」

 

「放送設備は生きてるか?」

 

「生きてたとしてどうやるんだ?」

 

「巣刈君!放送のライン甲鉄城から引けないかな?」

 

「スピーカーがどれだけ生きてるかわかんねぇけど、ライン自体は引けるな。」

 

「巣刈。ここ。操車場脇にスピーカーがある。ここから別のスピーカーに流せない?」

 

「壊れ具合にもよりますけど、最悪配線さえ取り出せればいけます。」

 

皆が口々に合流するための手段を模索する。

そうこうしているうちに避難民の受け入れが完了した。

 

「それでは確認です。操車場脇のスピーカーから金剛郭内に放送を流した後13番線に進行。合流次第脱出。これでいいですね?」

 

「はい。」

 

「では作戦を開始します!」

 

「よし。巣刈!行っといで!」

 

「やっぱり俺ですよね。」

 

巣刈はワイヤーを引いて線路下に降下する。スピーカーは崩れ落ちていたので、中から配線を引っこ抜いて被膜を剥がして、甲鉄城から引いてきた音声送受信用のケーブルを接続した。接続が完了したことで放送が始まる。

 

『無名ちゃん聞こえる?来栖さん。生駒くん。最上さん。聞こえますか?私は今甲鉄城から話しています。13番線で合流しましょう。甲鉄城もそこを目指します。無名ちゃん!みんなでまってるから!最上さんも色々ごめんなさい!待ってます!』

 

放送が終わり、甲鉄城が本格的に発進の準備を整えた。

 

「甲鉄城。発進して下さい!」

 

甲鉄城が操車場から滑り出す。

来栖達は、無名が先陣を切り生駒を抱えた来栖が続く。

 

「しかし最上も残っているのか。」

 

「最上さんって強いの?死んでない?」

 

「いつから外にいるのか分からんからなんとも言えんな。別に弱くはないが。」

 

13番線を目指してカバネを倒しながら進んでいると、少し離れた高所に最上が腰掛けていた。

 

「来栖。あれ。」

 

「あの馬鹿。なにをやってるんだ。」

 

「ちょっと行ってくる!」

 

「おい!無名!」

 

無名は崩れかけた建物を足場に飛び移り最上のところまで到着した。

 

「ちょっと!放送聞いてなかったの⁉︎さっさと行くよ!」

 

「無名殿!ご無事でしたか。放送とは?反響が酷くてここからは内容はわかりませんでした。」

 

最上は無名が元に戻っているとは思っていなかったため、目を丸くして無名を見上げた。無名から見て最上は顔色は悪く、疲れ切っているようだった。

 

「13番線で甲鉄城と合流するの!早くして!」

 

「私はいけませんので置いて行ってください。」

 

「何?噛まれた?羽織の血。あんたの?」

 

「いえ。そういうわけではありません。羽織のはカバネを引き寄せるのにその辺の死体から頂戴しました。」

 

無名は最上と話しているのが面倒臭くなってきた。放送で鰍は最上に謝っていた。たぶんなにかあったのだろう。だけど無名は早く甲鉄城と合流したいのだ。無名は考えるのをやめた。鰍が待ってると言ったのだから連れ帰るだけだ。

 

「ふんっ!」

 

銃床でこめかみを一撃であった。気絶した最上を抱えて来栖の元に戻る。

 

「お前何してるんだ⁉︎」

 

「だってごちゃごちゃうるさかったんだもん。甲鉄城に行かないとか言うし。鰍が待ってるって言ってたんだから連れてくの!最上さんの事情とか知らないから!」

 

無名と来栖はそれぞれ1人づつ抱えて作業用トロッコに飛び乗った。

 

 

 

甲鉄城は13番線を走行していた。

 

「いた!無名達だ!」

 

服部から声が上がり、甲鉄城は警笛を鳴らした。

車上では布を縫い合わせた大きい横断幕を広げていた。

無名達の姿は遠く声が届くとは思わないが鰍は声を張り上げる。

 

「無名ちゃん!こっち!」

 

横断幕を広げて支えているのは、武士や蒸気鍛治のみに留まらず、民人や六頭領までいる。甲鉄城へ無名が戻ってもいいと思ってくれてるのは鰍だけではないのだ。

無名の目から涙が滲む。

 

「生駒。帰ってきたよ。先に行きな。…おおぉりゃっ!」

 

無名は生駒を抱え上げ抱きしめたあと、勢いよくぶん投げた。

横断幕に勢いよくぶつかり生駒は受け止められた。

車上が喜びに包まれていると、服部が声を上げる。

 

「第二射来ます!」

 

鈴木は慌てて生駒を連れて脇にずれた。

 

「第二射って…」

 

などと笑っていたら最上がぶっ飛んできた。横断幕を滑り落ちてきたのを倉之助が受け止める。無名と来栖がきちんと回収したらしい。意識がないあたり実力行使のようだが、事情を知っていたとしてもあの2人が最上を丸め込めるとは思っていない。無名か来栖にぶん殴られたのではと思うと少し可哀想だ。

 

すぐに無名が並行する線路を経由して甲鉄城に帰ってきた。

 

「ただいま!」

 

「おかえり!」

 

来栖も自力で無名と同じように甲鉄城へと降り立ったが、最後にバランスを崩して後ろに落ちそうになり、菖蒲に腕を引かれた。

菖蒲はそのまま手を包み込んだ。

 

「おかえりなさい。」

 

「…ただいま、帰りました。」

 

来栖の顔は真っ赤である。

 

4人を回収した甲鉄城は加速していく、甲鉄城が通り過ぎた後、線路が崩れ落ちていく。

線路だけではなく、金剛郭全体が崩壊していくのを背景に甲鉄城は金剛郭を後にした。




本編終了。ここまで呼んで下さった方は心が広いですね。ありがとうございました。
一応エピローグがあります。
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