【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

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金もなければ医者もいない。いつもギリギリな甲鉄城からお送りします。


【小話】お医者さん2

「最上様‼︎来て下さい‼︎」

 

「何事だ?」

 

「早く早く!」

 

倉之助が最上の手を引いていく。厩舎車両で女性が蹲り、生駒と無名がついていた。女性は妊婦のようで、足元には水が広がっている。

 

「何事…って馬鹿!呼ぶのは私ではなく女性陣だ!生駒!鰍殿にお産だと伝えろ!人を集めさせろ!人選は鰍殿に任せろ!倉之助!隣の8両目から男どもを追い払え!7両目にでも詰めておけ!」

 

最上から悲鳴のような怒声で指示が飛ぶ。

 

「「はいっ!」」

 

生駒と倉之助がばたばたといなくなる。

 

「私はどうしたらいい?」

 

「とりあえず腰でもさすっていてやれ。準備が整わなければ出来ることもない。」

 

暫く無名が声をかけながら、女性の腰をさすっているのを最上は少し離れて観察していた。

 

「あの。こちらへ。」

 

8両目から女性が顔を出した。無名と最上で女性を支えながら8両目へ移動すると、お産のための場の準備が進められていた。8両目中央には布が張られており、布より後方を使うようである。妊婦を下ろし布の向こう側へ抜けると、丁度鰍や鯖が8両目に入って来たところだった。

 

「あっ!もう場所できてる!最上様がしたんですか⁉︎」

 

「まさか。私は8両目から男共を追い出せと倉之助に指示しただけだ。」

 

「助かります。」

 

「男どもにやらせることは何かあるか?」

 

「いえ。もう女達で間に合ってますので。」

 

「そうか。では失礼する。」

 

最上が8両目から出ていった。

来栖が武士を連れて7両目に来ていた。

 

「最上。何事か?」

 

「生駒と倉之助に聞いてないのか?お産だ。解散!」

 

「お産っ⁉︎倉之助!」

 

「すっすみません!」

 

「ほら散った散った。ここを通る女性陣の邪魔だ。」

 

桶や布を持って駆け込んできた女性陣を武士達が避ける。

 

「じゃあ一日がかりか。」

 

「もう少しで山道に入るぞ。」

 

仁助や樵人は年嵩なだけあり落ち着いている。

 

「山道か…。カバネに警戒せねばか。8両目には無名殿がいる。落ち着いている仁助と樵人を7両目につけて我々は他の車両だ。」

 

「わっ…わかった。」

 

来栖は人選に対して何も言わず引き返して行った。

 

「最上様。落ち着いてますね。」

 

「そうでもない。だから2人に任せる。」

 

最上は結構びびっていた。それなりにいいところの出であるし、弟妹もいないので、お産に立ち会ったことはおろか、まともに妊婦を見たこともない。

 

「最上様!」

 

「っ!どうした?」

 

8両目の扉が勢いよく開き、大声で最上が呼ばれた。最上はもう離れるつもりでいたため大層驚いて数センチ飛び上がった。

 

(おおっ。怖気付いてる。)

 

(一寸跳ねたな。)

 

「あの娘は予定日をかなり過ぎているので赤子が大きい可能性があります。初産ですし難産の可能性が高いものですから緊急のために待機していてもらうことは可能ですか?」

 

「…どちらかしか助からない場合の話か?」

 

「そうです。」

 

「…わかった。」

 

最上の様子を気にすることなく8両目の扉がピシャリと閉まる。

 

「や…やるしかないが…できるか?」

 

珍しく最上がおろおろと狼狽えている。

 

「できないなら断った方が良いのでは?」

 

「その場合は母子共に死ぬだけだ。駄目で元々で声をかけてるだろう。と…とりあえず準備してくる…。」

 

(今までで一番怖気付いてるな。)

 

(珍しく15らしい反応だ。)

 

最上は医者ではない。医学書などから知識を得たり、医者から聞き齧った内容を知っているだけだ。女達もわかっている。だが母親が出産中に亡くなった場合や、赤子が死んでいた上で母親も危なくなった場合、一か八か腹を裂く可能性がある。駅ではそういうことがあったと聞いたことがあった。だが女達は医学はわからない。裂くなら最上以外にいないのである。

 

最上がびびりながら準備をしていると、仁助から伝声管で報告を受けた来栖がやってきた。

 

「顔色が悪いが大丈夫か?」

 

「大丈夫じゃない。がやれるのが私しかいない。警備は任せた。」

 

「それは任されなくともやるが…いや。そちらは頼んだ。」

 

「自信は全くないがやれるだけはやる。」

 

珍しくも大層怖気付いてる最上に、何をするのか一つもわからないが、気合いだけ入れておこうと背中を強く叩いた。

 

「馬鹿。痛い。」

 

「気合いは入れておいた。頑張れ。」

 

最上は準備を整え、すごすごと後方車両へと下がっていった。

 

 

妊婦の大声や女性陣の声が届く7両目で仁助と樵人は緊張している様子の最上を見守る。

 

(いつも人の生き死にを真顔で語る人とは思えんな。)

 

(なんか見てたら俺まで緊張してきた。)

 

車両の屋根にものが当たる音がした。カバネの襲撃である。

伝声管から指示が飛び、仁助と樵人は対応に奔走した。カバネの襲撃がひと段落した頃、産声が上がり8両目の扉が開く。

 

「母子共に無事です!お役目ありません!」

 

それだけを伝え、扉がぴしゃりと閉まった。

最上はその場に崩れ落ちて、息を全て吐き出すような深いため息を吐いた。

 

「よかったですね。」

 

「こりゃめでたい。菖蒲様にご報告せねば。」

 

7両目は喜びに湧いた。

 

 

 

数時間後の武士達の車両にて

 

特に何もしていないが、完全に気疲れしている最上を武士達が眺めている。

 

「なんかもの凄い怖気付いてたと聞きましたが、なにをする予定だったんですか?」

 

雅客は好奇心を抑えられずに最上に聞いた。

 

「出産中に母親が死んだ場合、母親の腹を裂いて赤子を取り出す。若しくは、赤子が死んでいて、母親が弱り切っていた場合、母親の腹を裂いて赤子を取り除き腹を閉じる。」

 

「えっ!腹を!裂く⁉︎」

 

「でなければ2人共死ぬ。」

 

「ご経験は?」

 

「ある訳ないだろ。医者ではないんだ。前者はともかく後者は、ほぼ勝算のない賭けだ。腹を閉じても生き残るか分からない。麻酔もない。環境も悪い。だがやらなければ確実に死ぬ。」

 

「そんなことになる予定だったのか…。」

 

「腹を裂く…腹を…」

 

「そりゃ怖気付いても不思議じゃないな…。」

 

「いい加減医者が欲しい。私は医者じゃないんだぞ。武士だぞ。切るのは生かすためじゃない。殺すために切るんだぞ本来なら。」

 

「医者は貴重ですからね。むしろよくそんなこと知ってましたね。」

 

「医者から話だけ聞いていた。私は医学書を少しと、医者からの話だけしかわからん素人だからな。あまり期待するな。無理なものは無理だ。西洋の人体解剖図は見たことはあるが、人間を掻っ捌いたことなどない。」

 

(普通の武士は医学書とか読まないんだよなぁ。)

(甲鉄城に医者が乗らない限りは、最上様がお医者様なのは変えられないと思う。)

(倉之助。まず最上様。ってのはやめなさい。可哀想だから。)

(まさか出産とは思い至らず…申し訳ない。)

 

この後も度々医者扱いされるのである。




もし子供が出産中に亡くなって、それでも産めなくて母親が弱って掻っ捌いた場合、母親も死にます。
無事に産まれてよかったね。ホモ君。
医者なんて駅が手放さないだろうし、カバネにのまれたばかりの駅から、避難民ガチャで手に入れるしかない結構無理ゲー。
こうやって書いてて思うのは、マジで甲鉄城は長期間旅するのかなりきっつい。お陰様でホモ君はカバネよりストレスに殺されそうです。
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