最上は、武士達が使っている車両で木箱を台にして書き物をしていたところ、来栖がやってきて話しかけたため書き物を中断して顔を上げた。
「菖蒲様が剣術?」
「ああ。剣術を教わりたい。とのことだった。一応一通りは学んだことはあるらしいが…どう思う。」
「教えて差し上げたらいいじゃないか。」
「己がか⁉︎」
「他に誰がいる?」
「お前とて教えられるだろうが!」
「悪いが時間がないな。お前の方が時間に余裕があるだろう。」
「だが…。」
「お前が、菖蒲様にお教えするのは嫌だというなら私がやるが。」
「嫌なわけがない!」
「なら決まりだな。菖蒲様への剣術指南は来栖が行う。以上。」
そういうと最上は書き物に戻ってしまったため、来栖は微妙な顔で戻って行った。
最上はちらりとだけ顔を上げて、近くにいた仁助に声をかけた。
「仁助。あれは何故私のところに来たんだ?来栖が言われたのだから来栖が教えるのが当然では?」
「さ…さあ。ですが主家への剣術指南となれば武士の誉れですし、本来なら上侍の方が担当していらっしゃったからではないかと。」
「いつまで上侍だ下侍だの言っているんだ。10年前の主戦派が国賊扱いになり、穏健派が上侍を名乗っていたのは知っている。たが今現在も主を守り、旅路を共にしているのは蔑まれてきたお前らだ。上侍は主を守れず、今も顕金駅を彷徨いているか死んでいるだろう。いつまでも卑屈でいるのをやめろ。顕金駅を再興できればお前達は忠臣だ。国賊などではない。」
「……はい。」
「私は上侍だった。お前達と違いそれ相応の教育を受けてきた。だからその得た権利の分、義務を果たしているだけだ。」
「はい。」
「年下らしく敬語でも使ってやれば理解できるか?」
「それは遠慮します。なんか怖いですし。」
「そうか。」
最上は書き物をしており、最初にちらりと顔を上げたきり仁助を見ることはなかった。
下侍一同は感動に打ち震えていた。こんな言葉を言われる日が来るとは誰も思ってなかった。来栖が唯一功績を上げたため、来栖が召し上げられ、自分達は来栖の配下として武士らしい働きが許されてきた。
顕金駅があんなことにならなければ、一生言われることはなかっただろうし、乗り合わせたのが他の上侍でも言われることはなかっただろう。
「ありがとうございます。」
「なにがだ。というよりお前ら、顕金駅が再興したら要職につくことになることを考えておけよ。」
「え"っ?」
「え?ではない。先程も言ったが忠臣となるんだ。忠臣に要職をやらぬ主人があるか。学がないのは知っている。学べ。それともお前ら再興後も今までと同じ仕事をしていれば良いと思っていたか?」
「…思ってました。」
「阿呆。何人余所から引っ張ってきて要職につける気だ?優秀な人間をそんなに余所から引っ張って来られるわけあるまい。」
「ゔっ…。」
「とりあえず勘定方は欲しいな。勘定を余所者に握らせたくない。」
「…。」
「来栖は兵部頭でいいだろ。防衛と勘定はどうあっても手放せん。」
「最上様はどうするんです?」
「家老も軒並みおらんのだぞ。家老達がしてた仕事を誰がやる?甲鉄城の面子では私しかいないではないか。それとも誰か自薦するかね。とりあえず道元様はなんとしても引きずり込まねば…。」
下侍一同は震え上がった。
2年前来栖が切腹覚悟で捕まえた家老。あの時、雲の上の人間だとしか思っていなかった家老を自薦。するわけがない。まして天鳥幕府で老中をしていた道元を引きずり込むというのだ。道元と並んで仕事などできるわけがない。なにせ学がないので。
「雅客やるか?「無理です!」
雅客が食い気味に拒否した。雅客が前に自分を自薦したのはそういう意味ではない。
この後来栖以外全員めちゃくちゃ算盤させられた。(商人とかから借り上げた。)
「とりあえず全員覚えて損はないからな。来栖?いらない。算盤する時間あるなら、絶対死なないようにカバネリと手合わせしてろ。」
たぶん倉之助とかは几帳面そうだからいけるのでは?
地獄の算盤教室は(死んだ場合の保険も兼ねて)何人かはずっと続く。適正がなさそうならある程度できるようになったらすぐ外していって他の適正を探します。
雅客とかは町奉行的なポジを持つことになりそう。