【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

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小説から
来栖父が出雲の国一の剣士とのことだったので今の島根の東側辺りが顕金駅

映画から
最初のあらすじ?のところで金剛郭から画面が引いていくとき京都の辺りっぽいのでその辺が金剛郭
海門は地図的に今のギリギリ富山か新潟

半年どこ行ってたのかわからないけど南下してるから帰り道だと思ってます。顕金駅陥落から1年以内に帰るんじゃないかな?

以上の想定で書いております。ご容赦ください。


海門決戦

金剛郭崩壊から約半年。

甲鉄城は飛騨山脈を越えるため、北陸の要衝海門に向かっていた。

5年前カバネにのまれた海門は通行不能となっており、今は海門を手に入れんとする北陸連合軍が戦場にしていた。

 

「本当に向かうのですか?」

 

最上がやる気がなさそうに問う。

 

「戦力を募っているとのことですから。それに北陸の要衝が人の手に戻れば喜ばしいばかりです。」

 

「甲鉄城はいつから傭兵業を開始したので?」

 

「まあ!時々立ち寄る駅で戦力の提供はしてきたではありませんか。」

 

「それは立ち寄った駅から利益を得るためで、慈善事業ではありませんよ。海門を取り戻したとして、顕金駅に直接の恩恵はないではありませんか。周囲の駅ならまだしも、北陸では顕金駅奪還の際にあまり期待できませんし。」

 

「最上。」

 

来栖が最上を睨みつける。

 

「わかったわかった。悪かった。」

 

最上は両手を顔の高さまで挙げて降参の意を示した。

 

「往生際が悪いですよ。」

 

カラカラ笑いながら雅客が最上に声をかける。

 

「利にならないことは嫌いでな。」

 

「知ってますが菖蒲様がそういう方でないのはわかっているでしょうに。」

 

「顕金駅奪還のために山陰まで来いとは流石に言えん。遠征費用が馬鹿にならない。本当に利益がない。しかも連合軍とか…海門の領主が仕切ってるならまだしも、他の駅の奴らだろう?利権争いとかに巻き込まれたくないしなぁ。」

 

「未だかつて無いほどにやる気がありませんな。」

 

「最上。」

 

「もう黙りますよ。」

 

最上は再度来栖に睨まれ黙ることにしたようだ。

 

(いつもなら、なんだかんだ利益に繋げてきてたのに、よっぽど利益がないんだな。)

 

「もうすぐ海門に着きます。皆さん。よろしくお願いしますね。連合軍の方々への挨拶は、私と来栖。あと最上。お願いできますか?」

 

「それは勿論。どんな相手か見ておかぬことには、何も始まりませんから。」

 

 

海門へと到着し、菖蒲達は挨拶のため下車して行った。

 

「最上様があんなあからさまに嫌がるの珍しいな。」

 

「確かにな。でもよっぽど利益がないんだろ?」

 

「今までだって結構利益がない場合があった気がするがなぁ。別に人助けが心底嫌いって訳でなし。」

 

「利権争いがどうとかいってたな。うちはどうせ噛まないのに巻き込まれるか?」

 

普段から使っている車両に武士達が集まり艦橋での最上の様子を話題にしていた。

 

暫くして服部から集合の指示が伝声管を通して送られてきた。武士達は艦橋についてたじろいだ。

最上が笑顔である。背中に炎が立ち昇っているかのように感じる怒気を激らせての笑顔である。

まだ生駒達が来ていないため、吉備土は来栖にそっと近づいた。

 

「何事だ?」

 

「連合軍の者達に子供はすっこんでろと…。それから終わるまでずっとあれだ。」

 

「わぁ。」

 

最上は普段から態度がでかい上、服装も所作も見れば立場がある者だとわかるからか、今まで態度で舐めていますと示されることはあっても、はっきり子供はすっこんでろなどと言ってきた者はいなかった。ただでさえ乗り気でなかったのに、この扱いで更に機嫌を損ねたらしい。

生駒達も艦橋に入ってきて最上を見て二の足を踏んでいた。

菖蒲から北陸連合の作戦の概要が伝えられた。前線は北陸連合が、後方のカバネの掃討は甲鉄城が担当し、後方のカバネの掃討が終われば前線と合流とのことであった。

各地で活躍したため、甲鉄城のカバネリは広く知られるようになっていたし、現場での混乱を避けるためにカバネリについて説明したが、かなりの嫌悪感を示されたとのことであった。

嫌悪感を示されたことがないとは言わないが、やはり気分のいいものではない。

 

 

翌日、作戦開始時に無名は鈴木に何やら試作機を渡されていた。無名は試作機の運用にうってつけである。

武器の性能に多少の難があっても技量で補えるし、不測の事態でもとりあえず着剣さえしておけばカバネを殺せるからだ。

作戦の都合上、万が一の際カバネに噛まれても問題ない生駒と無名は単独での突出を許し、武士は後方の掃討が終わったら前線までは甲鉄城で行くことになった。

 

「いつもより気迫があるな。」

 

最上が前に出て、武士達が援護をするのはいつも通りであるが、今日は憂さ晴らしをしているようでいつもより少し前に出ている。だが援護の範囲内から出ないあたりが最上らしい。

 

「後方のカバネは掃討しました。速やかに乗車してください。前線と合流します。」

 

菖蒲の指示に従い武士達は甲鉄城に乗車した。

 

「今日はずっと刀を使っているようですが大丈夫ですか?」

 

最上は刀を使うが、来栖とは違い蒸気筒と半々がいいところだ。

 

「問題ない。筒の方がいい場合はちゃんと使うさ。」

 

まだ鬱憤は晴れていないらしい。

 

「皆さんで前線を支援してください。」

 

菖蒲の指示が伝声管から飛ぶ。

 

「行くとしようか。」

 

「無理せんで下さいよ。」

 

「しつこいぞ。基本的に私は突出はしない。」

 

確かに、初めてワザトリと戦った時と金剛郭以外で、無理をしたことも、突出したことも見たことはない。

 

「それは失礼。」

 

「雅客。お前も子供扱いか?」

 

「違いますよ。」

 

雅客は最上にじろりと睨まれた。

甲鉄城が停止し、武士達は外に飛び出した。

来栖の姿は早々に見えなくなったが、最上は突出することなく相変わらず援護の範囲内でカバネを殺していた。暫く刀で戦っていたが、急にバックステップで後退してきた。

 

「なにかありましたか?」

 

「いや。まだなんとも…。持ち替える。」

 

なにやら煮え切らない返答であるが、特に前衛がいないとならない場面でもないため、今は気にしないことにした。少し離れたところが、盛大に爆発したため、雅客と最上はちらりとそちらを窺ったがすぐに視線を戻して戦闘を継続した。

 

「無名殿達かな?」

 

最上がぽつりと呟いた。

 

 

暫くして見当たる範囲にカバネは居なくなり、発砲音なども届かなくなった。

 

「カバネはいないぞ!」

 

「我々の勝利だ!」

 

連合軍から声が上がる。最上は状況が終了したことから生駒か無名を探すことにした。

 

「少し離れる。」

 

そう言い置いて雅客達から離れていった。

 

「はっ?えっ?ちょっと…。」

 

雅客の声が虚しく響いた。

 

 

最上が生駒を見つけた時、生駒は連合軍の兵に絡まれていた。珍しくはない光景だったので特には助けに入るつもりはなかった。何せこれからもいくらでも起こり得る事だからだ。自分達で対処できなければならない。

 

「生駒。聞きたい事がある。」

 

最上が声をかけると、兵達は言いたいことは終わっていたのか、素知らぬ顔で去って行った。

 

「どうしました?」

 

「カバネと交戦中にカバネが何かに反応した瞬間があった。なにかわかるか?」

 

カバネリはカバネの気配を感じ取ったりするため、先程感じた違和感を一応確認することにしたのだ。

 

「何かに反応とは?」

 

「いや明確になにとまでは…。ただ視界の端に急に行動を変えたように見えた奴がいたってくらいなんだ。」

 

「なるほど。関係あるかはわかりませんが、ここのカバネは統率が取れているように思います。」

 

「統率?」

 

「はい。欲を満たすために血を吸うより、人を殺すことを目的としているような動きをしていた奴がいます。それに今足跡を追い始めたばかりですが、足跡が一直線なものが多いように感じます。」

 

「ふむ。嫌な話だな。もし関係あるなら、我々にはわからない方法で指示を出してるってことになるじゃないか。カバネは強靭で数もいるが、脳が足りんからマシだったのに、見えもしない指揮官がいるとなれば最悪だな。」

 

「それと…その…」

 

「なんだ?言え。」

 

「調子が悪いんです。頭が時々痛んで…。」

 

「感冒とか言わんよな?」

 

「ここに来てからです。それに無名も調子が悪いみたいで。」

 

「カバネリだけがかかる病気でなければ、見えない指揮官の合図をお前達も受け取っている可能性はあるな。内容が不明ならただ邪魔なだけだが。」

 

「指揮官の合図…。」

 

「可能性の話だ。確定事項にするな。それとその調子の悪さがどう出るかわからん。あまり単独で動くな。」

 

「わかりました。…あの。足跡を追ってもいいですか?」

 

「構わない。指揮官の合図があるかは置いといても、統率が取れているかどうかは確認しておきたいしな。」

 

 

侑那と巣刈が甲鉄城の消耗具合を見ていると、なにやらしゃがみ込んでいる生駒と最上を発見した。

 

「どうした。生駒。」

 

「珍しいね。生駒と最上さんが一緒にいるの。」

 

「ちょっとそこで一緒になったから、一緒に調査してたんだ。」

 

「調査?」

 

生駒が巣刈と侑那に、見えざる指揮官以外の説明をしている中、最上は行進とまでは言わないものの、目的を持って移動したであろう統率のとれたカバネの足跡を見ていた。

 

(これはやはり指揮官はいるな。だが前線にそれらしいのはいない…。となるとやはり放送のようなものがあるんだろう。それを生駒や無名殿が受信しているのか?後方から指揮できるとか嫌な相手だな。)

 

 

 

甲鉄城は連合軍本部の海門駅の操車場へと戻ってきた。

 

「ただいま戻りました。菖蒲様。」

 

「おかえりなさい。来栖。」

 

姿を消していた来栖が徒歩で帰ってきた。菖蒲に迎えられ赤面している。

 

(心配はしてなかったが、単独で戦地を駆けまわり、徒歩で帰って来た上であの余裕。来栖はやっぱりカバネリ換算でいいな。単独運用できるのはありがたいし。)

 

最上は来栖を人間として扱うのをやめた。

来栖が赤面後菖蒲の前から立ち去り、入れ替わるように海門衆の雲母がやってきて菖蒲と吉備土が対応している。和気藹々とした雰囲気である。

 

(今晩中に菖蒲様にご報告しておくか。)

 

夜、菖蒲に用意された部屋に武士達と訪れ、生駒と昼間話した内容を報告した。

 

「見えざる指揮官?」

 

「統率が取れた行動?」

 

武士達は最上からの報告に困惑していた。

 

「あくまで推測の域を出ませんが、そうとしか考えられないためご報告させていただきました。」

 

「わかりました。ですが、作戦を指揮しているのは北陸連合軍の方ですから、どうでしょうか…。」

 

「恐らく相手にされないでしょう。故に作戦会議の場ではなく、今ご報告させていただきました。北陸連合軍の作戦の全容はまだ聞いておりませんが、後方の守りを怠っている以上、先程の件は気が付いてはいないかと。ですので失敗することを考慮しておいた方が宜しいかと。」

 

「わかりました。」

 

「それと来栖。指揮官がいるならば後方とて安全ではない。甲鉄城から離れすぎるな。甲鉄城の守備が薄くなるのは看過できない。カバネリは当初のまま多少突出しても構わないが、お前は出来るだけ菖蒲様から離れるな。いつ不測の事態になるかわからんからな。」

 

「承知した。」

 

「生駒が海門に来てから調子が悪いとのことです。生駒がいうには無名殿も調子が良くないとのことですので、カバネリ2人は気にかけておいた方がいいでしょう。」

 

「調子が悪い?」

 

「頻繁に頭痛がするようです。あれらは普段、カバネの気配を感じ取ったりしておりますから、もしかしたら見えざる指揮官の合図か何かを受信している可能性もあります。」

 

「わかりました。報告ありがとうございます。」

 

「不確定事項ばかりとなりましたが、報告は以上となります。それではお休み中のところ失礼致しました。」

 

武士達は菖蒲の部屋を退室した。

 

「もしかして昼間急に下がってきて、蒸気筒に持ち替えたのって関係あります?」

 

雅客は昼間の最上の行動を思い出して口に出した。

 

「そうだな。確証は全くなかったから言わなかったが、急に行動を変えたように見えたカバネがいたから、とりあえず下がることにした。初見殺しみたいなカバネとか出てきたら嫌だしな。私は来栖ほど強くないんでね。」

 

「なるほど。」

 

その日はそれ以降なにもなく、穏やかな夜を過ごすことになった。

 

 

翌朝、菖蒲が来栖達を伴って会議の場に向かっていると生駒が遠くから同行したいと申し出てきた。無名が引きとめているようだが、それを振り切って菖蒲達に合流した。後ろから巣刈まで着いてきていた。

 

「無名殿はいいのか?何か引きとめていたが?無名殿に体調の確認はしたか?」

 

「いやなんか渡したい物があるとかだったので、後にしてほしいと伝えました。体調は聞きませんでした。後で確認しておきます。」

 

「頭痛はするか?」

 

「さっきもありました。でも継続してるというよりは、単発で痛みがあります。」

 

「頭痛の時間は長くはないのか?」

 

「結構短いですね。」

 

「うーん。指揮官からの合図ではないんだろうか。」

 

「最上。昨日の報告の件ですね。」

 

「そうです。でもちょっとわからないですね。カバネが短い合図を複数判断できるとは思えません。人間なら符号でやり取りもしますが、カバネがするとは思いたくありませんね。」

 

「最上さん。報告していてくれたんですか?」

 

「しない理由がない。それと生駒。寝癖直しておきなさい。」

 

「あっ!はい。」

 

生駒の頭痛の件を話しているうちに会議のための天幕に着いた。

 

「いよいよ最終段階だ。第五区画を奪還したことにより、晴れて自走臼砲鳴神を射程距離まで乗り入れることが可能性になった。これで城に取り付くカバネの巣を一網打尽にすることができる。」

 

信濃の玄路軍の者が朗々と説明し、会議の場が湧く。

 

「鳴神さえ来ればこっちのものだ。」

 

「武蔵では三千ものカバネを蹴散らしたというぞ。」

 

(なんで自軍の兵器の話なのに伝聞調なんだ。遠征していたとも思えんし、武蔵の国製なのか?売り文句なら多少盛っていても不思議じゃないんだが…融合群体一体やればそれくらい稼げそうではあるから嘘だとまではいわないが…まあ四八式よりは威力があるということだな。)

 

最上は盛り上がる連合軍を冷めた目で眺めている。

そんな中来栖が菖蒲に桜餅をすっと差し出し、菖蒲に断る仕草をされている。

 

(会議中に食わそうとするな。終わってからにしろ。お馬鹿め。菖蒲様が関わると思考能力が落ちるのはなんなんだろうな…。)

 

越後の虎落などは会議中に桜餅を食っていたが、菖蒲は括りとしては武士ではあるが淑女であるので会議中に食うわけがない。

 

「鳴神の到着及び作戦の決行は4日後の予定だ。我々玄路軍と虎落殿の部隊が、鳴神と共に第三区間まで進入し海門城を砲撃する。甲鉄城は最前線で保線の護衛を務めてもらう。海門衆は強化線の敷設のため200人を動員せよ。よろしいな。雲母殿。」

 

(玄路軍と虎落軍が手柄を上げて、我々と海門衆は捨て駒ってことだな。わかりやすい奴らめ。正直海門衆の損害はどうでもいいが、うちの損害は軽微にせねばな。)

 

「しかし昨日も多くの部下が負傷しました。」

 

「保線作業はいつも駿城より前に出ざるを得ません。危険を顧みずに…「何を言う!」

 

海門衆も流石に耐えかねたか反論を始めたが虎落が机を叩き声を荒げる。

 

「もうすぐ雪解けとなれば動きやすくなるのは我々だけではない。奪った領地も取り返されかねんのだぞ。」

 

「ご協力いただこう。あなた方の故郷を守るためだ。」

 

(たとえこいつらの作戦が物凄く上手くいっても、絶対に顕金駅奪還には関わらせないようにしよう。まあ。上手く行くとは「その奪った領地から攻められたらどうしますか?」

 

(うわっ馬鹿!こいつに黙っているように言っておくのを忘れてた。)

 

最上は頭を抱えるかわりに数秒目を閉じた。

生駒は前に出て地図を机に広げた。

 

(もうとりあえず生駒に説明させよう。どうせ採用されんだろうが説明を遮ったらそれはそれで面倒臭いし。玄路と虎落が座っていて、菖蒲様が立っているという力関係がなぜわからんのか…。)

 

生駒はカバネの足跡が連合軍の前線基地をまっすぐ目指していること、後方の第六区画からも伸びていることを説明した。

 

(第六区画。それは初めて聞いたな。昨日調査したのか?)

 

「我々の把握していない路からカバネが呼び込まれているかもしれない。後方にも兵力を割くべきです。まずは俺に調査に行かせて下さい。」

 

(説明自体は悪くないんだが…こいつらが我々を…ましてやカバネリを信じる訳がない。)

 

会議の場が静まり返る。

 

「愚かしいカバネどもにそんなことができるわけがない。呼び込んでいるものがいるとすれば、お前自身と思う方が道理だが。」

 

「「⁉︎」」

 

「玄路様!」

 

「だから言ってるじゃないか!この海門のカバネはおかしい!俺たちを殺しに来てるんだ!きっと命令している舵取りがいる。いいから俺に調べさせろ!」

 

(ああ。作戦を否定されると激昂するのはどうにかならんもんか…。まあでもいつもより激しいな。調子が悪いせいか?)

 

生駒の怒りに周囲は慄いた。生駒に玄路軍のものが掴みかかると、丁度頭痛が襲ってきたのか頭を押さえて崩れ落ちた。巣刈がすかさず近寄り声をかける。

 

「また頭痛か?少し休め。」

 

「休めるわけないだろ!一刻も早くここを抜けて「無茶言うなよ。」

 

まだ興奮している様子の生駒を巣刈が嗜めるが、玄路から声が上がる。

 

「軍議の場に相応しくない者がいるようだな。」

 

「申し訳ありません玄路様。戦い続きで昂っているのです。」

 

「どうして謝るんです!」

 

「黙れ生駒!」

 

菖蒲が謝罪を入れるが、菖蒲にまで盾突き始めたのを来栖が遮る。

 

(これ以上は駄目だな。)

 

「菖蒲様。生駒を連れて退室します。」

 

「わかりました。頼みます。」

 

「巣刈も来い。」

 

最上は生駒の腕をとって巣刈にも声をかける。巣刈は無言で頷き着いてきた。天幕から少し離れたところで生駒が最上の腕を振り払う。

 

「どうしてですか⁉︎最上さんも菖蒲さんもわかってるはずじゃないですか⁉︎」

 

「おい。やめろって。」

 

「お前はまず自分の意見を否定されたときに激昂するのをやめろ。次に菖蒲様の立場はあいつらより低く置かれている。菖蒲様だけお立ちになっているのがわからなかったか?そして甲鉄城だって乗り始めの頃は、カバネリがカバネを呼ぶだの言われてただろうが。我々には信用がない。最後に今のお前は克城の時の私の立場だ。あの時お前達は私の話を聞いたか?」

 

「…聞きませんでした。」

 

「我々には納得できても、あいつらには納得できないんだ。わかるな?」

 

「…わかります。」

 

「ならいい。とりあえず調査に行くんだろ。私が付き合う。今のお前は冷静じゃない。頭痛で苛立っているのか知らないが1人で行動するな。」

 

「はい。」

 

 

 

生駒と最上は準備のため、生駒が使っている部屋にきていた。最上が出入り口脇で腕を組んで待っていたところ、暖簾をくぐって無名が入ってきた。

 

「生駒。さっきの…あっ。」

 

「…すまん。外す。」

 

「ありがと。」

 

無名の雰囲気から、最上は席を外すことを選んだ。

 

「生駒。外で待つ。」

 

「はい。」

 

生駒から応えもあったので、外に出て向かい側の壁に背をつけて待つことにした。

 

(出歯亀する気はないが、これ以上離れるわけにも…声は聞こえんしいいだろう。)

 

(さて調査したとしてあいつらが信じるとは思えない。まずは海門衆に声をかけるか…。地の利はあいつらにあるし、菖蒲様と挨拶をしていた態度からして話くらいは聞くだろう。しかし玄路どもは可能な限り自分達は無傷で、海門衆は削り切って終わりにしたいんだろうな。鳴神分玄路の方が優勢か?6対4…いや7対3くらいは利権を持ってきそうだな。虎落より玄路の方が頭が良さそうだし。要衝だし喉から手が出るほど欲しいだろうよ。)

 

なにやら内容はわからないが、大きな声を出しているようだ。

 

「また興奮してるのか?ただの痴話喧嘩じゃないだろうな…。」

 

最上はため息を吐いて出入り口に近づいた。階段に足をかけようとしたところ、無名の背中が視界に広がった。

 

「はっ?」

 

最上は間一髪で回避したが、無名ごと外に出てきた生駒は唸り声を上げてふらついている。

回避した際に生駒の背後をとれたため、顔は確認出来ないが確実にカバネに寄っている。

 

(これはまずい!血が足りてなかったのか⁉︎)

 

最上が柄で沈めてしまおうと、刀に手をかけようとした時、小路から玄路兵が蒸気筒を持って出てきた。

 

「いやがった!」

 

「動くな。」

 

生駒の視線が無名から玄路兵に移り、生駒が玄路兵に襲いかかろうとしたのを、無名が阻止したが今度は無名を押し倒した。

無名を押し倒した際に路地から部屋の中に入ってしまったため、最上も慌てて後を追う。

殺さずに昏倒させるためには刀が必要だが出入り口付近は狭く、刀が柱に食い込みかねないため、咄嗟に生駒の腕を掴んで引き離そうとした。

カバネリの臂力を完全に忘れて。

 

「生駒!」

 

片腕を両腕で抱え込むように引き、声をかけた瞬間最上の両足が地から離れた。

 

「あっ!ぐっ⁉︎」

 

引き離そうと引いた腕をそのまま後ろに振り抜かれ、斜め後ろにあった柱に激突し、最上はそのまま意識を落とした。

 

「最上さん!」

 

無名が最上を呼ぶが反応はない。どこかを切ったのか血の匂いがする。一瞬生駒の視線が最上に向きそうになったが、揉み合っている最中のため生駒は無名をそのまま取り押さえた。

無名が泣いているのを見てか、生駒の目に光が戻る。

無名が泣きながら生駒に話し続けていると生駒は完全に正気に戻った。

 

「無名。」

 

生駒が無名に声をかけようとしたところ、玄路兵が部屋に飛び込んできて路地に連れ出された。そこへ菖蒲が来栖と吉備土を伴って駆けつけた。

 

「生駒!お前はなんだ⁉︎」

 

菖蒲を下げ、来栖が生駒に確認する。

金剛郭の時から来栖が生駒にしている確認方法である。

 

「来栖。俺は…「邪魔をすればお前達も撃つ!」

 

生駒が返答をしようとしたが、玄路兵が来栖達に蒸気筒を向ける。

 

「待ってくれ!提案がある。俺を…俺を独房に入れてくれ!3日間監禁して発症しなければ、危険はないと判断する決まりのはず。逃げも隠れもしない俺に時間をくれ!」

 

生駒の要求に対し、現場にやってきた玄路が許可を出したため、生駒は連行されて行く。無名が押し倒されていた部屋からふらりと出てきて菖蒲の外套の裾を引いた。

 

「無名!鳴神作戦までには戻ってくる。それまで待ってるんだ!わかったな!」

 

生駒が声をかけるが、無名は生駒には顔を向けず菖蒲の外套の裾をさらに引いて部屋へと誘導する。

 

「どうしたのです?」

 

「最上さんが…。」

 

「そうだ!最上がついていたはずでは!」

 

菖蒲の外套を引き部屋に連れ込もうとしていることから、中にいるのだろうと来栖が中を覗くと頭から血を流して倒れている最上を発見した。

 

「っ⁉︎…無名。生駒は噛んだのか?」

 

何より大切なことを確認する。噛まれていれば最上を殺さなければならない。来栖は刀に手を掛けた。やり取りを見ていた吉備土は菖蒲や駆けつけていた鰍達を下がらせる。

 

「噛んでない!振り払って…それだけ…」

 

「そうか。」

 

来栖は刀から手を離し、部屋の中へと入って行った。

来栖は倒れている最上の肩を叩き声をかける。以前最上から頭を打った人間を揺さぶるのは危険と教えられたため、肩を叩き声をかけるにとどめた。 最上からの反応がないため、負傷部位を確認しようと身体の向きを変えたところこめかみあたりがざっくりと切れて出血していた。鰍の手を借りて応急処置をした後、吉備土が背負い最上が使っている部屋へと向かった。無名は手当てを終えた鰍と先にその場を離れていた。

 

「うっ…。」

 

寝台に最上を降ろしたところで意識が戻ったようだ。

 

「吉備土。仁助を。」

 

「わかった。」

 

「最上。わかりますか?」

 

吉備土は退室していき、菖蒲が最上の眼前で手を振る。

 

「…菖蒲様?何故?」

 

最上はぼんやりとしており、状況を理解できていないようだった。

 

「なにがあった。説明しろ。」

 

「…?」

 

来栖が端的に質問するが、最上が困惑しているのが伝わってくる。

 

「覚えてないのか?どこまで記憶がある。」

 

「天幕から生駒を連れ出して…巣刈と別れて、生駒の部屋に…無名殿が来て……?…わからない…。」

 

「そうか。」

 

そこへ吉備土に呼ばれた仁助が救急箱を持って入ってきた。

仁助は武士達の中で年長で感情の振れ幅の小さい落ち着いた男であったので、最上が簡単な医療技術を引き継いでいた。

最上曰く、本職でも無いのに1人でやってられん。とのことだった。

こちらに向かいながら、吉備土から説明を受けたのか特に質問することなく、最上に近づいてこめかみに当てていた布を取り払った。

傷口の汚れは現場で流してきたため、目立った汚れはない。額からこめかみを通り耳の近くまでざっくりと切れ、まだ血が出ている。

 

「3寸くらい切れてますね。」

 

「縫うしかあるまい。」

 

意識がはっきりしてきたのか、仁助の言葉に最上が返す。仁助が準備をしている間に菖蒲に退室を促し、菖蒲は吉備土を伴って部屋から出て行った。

 

「そうだ。来栖。生駒はどうした?」

 

「玄路軍に拘束された。」

 

「えっ?なにがあった?」

 

「己たちはお前からそれが聞きたかったんだがな。」

 

「さっ。縫いますよ。」

 

仁助が針を構えている。最上は無言で懐から手拭いを出して咥えた。

仁助がちくりちくりと縫っている時、最上は布団をぎゅうぎゅうと抱き込んで耐えていた。

縫い終わると、縫っていた仁助も縫われていた最上もぐったりしていた。

 

「来栖。そも私はどこで見つかった?」

 

「生駒の使っている部屋の、近くの部屋だな。」

 

「なら、調査に出る前だな。巣刈に事情を説明して情報の精査を依頼してくれ。海門衆の雲母にも声をかけるように言ってくれ。地図にない情報もあるかも知れない。危険だから勝手に調査には行くなとも。」

 

「わかった。無名からも話を聞かんとな。」

 

「鰍に依頼しろ。お前が直接はちょっと…。」

 

最上は気を失う前の記憶が無名が来たところまでしかないので、生駒と無名がどんな状態か覚えていない。万が一男女間の諍いが原因だったら目も当てられないので来栖にそう指示した。

 

「…?わかった。」

 

来栖は疑問には思ったようだが了承して退室して行った。

 

「仁助。助かった。流石に自分の額は縫えんからな。もういいぞ。」

 

「いえ。頭を打ったら経過観察が必要と言ったのはあなたです。今日は私と倉之助で様子を診ます。」

 

「そうか手間をかける。」

 

 

翌朝、艦橋には海門衆も集まり作戦会議をしていた。

 

「なんだって?地下通路…」

 

「ええ。海門城の天守から延びています。村人をカバネから逃がすために、かつて景之様の命で作られた。」

 

「景之…駒井景之殿か」

 

「ご城主様ですね。」

 

「そうです。海門を思い、自ら戦陣に立たれた。いい方だった。」

 

「その地下通路と鉱山時代のトロッコ用の坑道が繋がっているらしいんです。第六区画のカバネはここから来ていた可能性が高い。つまりは全て生駒の読み通りだった。俺たちに調査に行かせて下さい。鳴神作戦が始まる前の今しかないんです。」

 

「私が案内します。」

 

巣刈が珍しく熱くなって、調査に立候補しており、雲母がそれにのった。

 

「しかし危険な道行きです。よろしいのですか?」

 

菖蒲が雲母に確認をとる。

 

「私にも確かめたいことがあります。すまんが保線を頼む。」

 

なにやら思うところがあるようで、雲母は調査に行くことが決定し、部下に保線作業の指揮を依頼していた。

意見がまとまったところで、菖蒲が皆を激励する。

 

「私も行く。」

 

姿を消していたらしい無名が艦橋に姿を現し、巣刈や鰍が心配しているが無名の参加が決定した。

同行する武士の選定は仁助、樵人、歩荷となったが

 

「私も行こう。」

 

最上まで手を挙げた。

 

「大丈夫なのか?」

 

来栖が確認をとる。何せ昨日頭部を強打し傷口を縫ったばかりだ。今もギリギリ目を塞がない程度に包帯が巻かれている。

 

「私も気になることがある。それに武士の中で一番調査に向いてるのは私だ。無理するつもりはない。仁助もいるし問題ない。」

 

「経過観察しかできないので、当てにされても困ります。」

 

「まあそういうな。」

 

最上は珍しく押し切った。

 

 

調査隊はトロリーに乗って坑道の入り口まで、間もなくというところで無名が最上に話かけてきた。

 

「ねぇ。」

 

「なんだ?」

 

「あの時生駒を殺さないでくれてありがと。」

 

「…?すまないが無名殿が来た後あたりから記憶がなくてな。」

 

「そうだったんだ。あの時最上さん生駒を殺せる位置にいたよ。でも殺すんじゃなくて止めに来てくれた。まあ…だから怪我しちゃったんだけど。」

 

「そうか。状況を覚えてないからなんともな。次は殺すかも知れん。礼を言われることじゃない。」

 

「うん。…でもありがと。」

 

「…はぁ。どういたしまして。」

 

最上と無名がそんなやり取りをしているうちに、坑道前に到着した。

 

「坑道はもう塞がれているじゃないか。」

 

坑道の入り口は土砂などに埋もれ、完全に封鎖されていた。

 

「あっちはどうでしょうか。」

 

並行している一段下がった位置の線路を雲母が示した。入り口を覆っている草を取り除くと開閉可能そうな扉が出てきた。

 

「隠してあった?」

 

「バカな⁉︎カバネにそんなことができるか?」

 

樵人が扉に近づいて行き確認したところ、扉を覆っていたのはカバネの金属被膜であった。

無名がなにか感じとったか、枷紐を弛めたとき、遠くから汽笛が聞こえてきた。

遠目に大きな砲を乗せた駿城が見てとれた。他の駿城も動き出しているのが坑道側からも確認できる。

 

「作戦を開始するのか?」

 

「どういう事だ?」

 

調査隊に動揺が走る。

 

「ただでさえ成功するか分からん作戦だというのに、予定を勝手に繰り上げて態々成功率を下げるとは馬鹿なのか?」

 

最上が毒を吐いていると、トロリーが近づいてきた。玄路兵が降りてきて蒸気筒を向けてくる。

 

「なにやってんだ?出撃だぞ?まさかカバネと相談つけに行くんじゃねぇだろうな。キチいな。おい!」

 

「はぁ…。出撃だって?予定の繰り上げの伝達を怠ったお前達のせいだろうが。カバネと相談?愚かなカバネには策を弄することなどできないのがお前らの見解じゃなかったか?そんなカバネと相談?難癖つけるにしても一貫性をもてよ。脳みそ入ってんのか?」

 

最上が毒を吐き切った瞬間、金属被膜で覆われた扉が、カバネの唸り声と共に叩かれた。

 

「離れて!」

 

無名が鋭く指示を出し、扉の前にいた者達が逃げていく。扉が軋み、カバネの光が扉の隙間から覗く。衝突音が響き、金属被膜が砕け始め、さらに続いた衝突音で完全に扉が開放され、中からカバネが雪崩れ出てくる。

甲鉄城の面子は線路脇に避難していたが、玄路兵は扉正面を陣取っていたままだったので、カバネにのまれてしまった。

玄路兵がやられている間に法面を上り避難しきれたが、無名が反対側に取り残されている。

 

「無名!早くこい!」

 

巣刈が無名を呼ぶが無名がこちらにくる気配はない。

 

「舵取りがいるって生駒が言ってたんでしょ!ならそいつを私が叩くよ!」

 

「無名!」

 

巣刈の呼びかけも虚しく、無名はカバネが出てきた扉を潜って見えなくなってしまった。

 

「巣刈!撤収だ。今我々だけで無名を追うのは危険だ!」

 

「だが!」

 

「いっそ生駒を回収に行くぞ!」

 

最上は巣刈を無理矢理トロリーに乗せた。可能な限りとばして戻っていると、伝令とかち合った。伝令は生駒の回収指示を伝えたため、そのまま生駒のツラヌキ筒を回収後、生駒のいるはずのところへ向かったが、もぬけの殻であった。

 

「脱走してるじゃないか。」

 

砕けた鎖を握りながら、最上がしかめ面をしている。

 

「まあいい。どうせあいつのことだ。天守に向かうだろう。坑道のカバネもある程度はけただろうから、坑道から天守へ向かう。その前に甲鉄城だ。」

 

「はい。」

 

トロリーで甲鉄城直近まで行き歩荷を降ろし伝令とした。

 

「さっさと行くぞ。」

 

「最上様。大丈夫なのですか?」

 

「いざというときに前衛なしでどうするつもりだ?カバネリ2人にすぐ合流できるか分からんのだぞ。」

 

「…わかりました。」

 

トロリーで坑道まで戻り、坑道内に侵入した。金属被膜が張り巡らされていたり、無名が発動させたのか罠らしき跡があった。

 

「統率が云々の話じゃないな。完全に策士がいるぞ。やだやだ。さっさと回収しよう。」

 

時折現れるカバネをトロリー走行中は蒸気筒で、罠などの確認のため停車した時は最上が斬り殺しながら進んだ。

 

「止まってください。」

 

巣刈の呼びかけでトロリーは停車した。

 

「穴が空いてます。かなり新しい。もしかしたら無名か生駒が落ちたかも知れません。確認してきます。」

 

「わかった。気をつけろよ。」

 

巣刈がポーチから出した縄を使って穴を降りていく。

 

「ふぅ…。」

 

「最上様。」

 

「大丈夫だ。少し疲れただけだ。」

 

仁助が最上の体調を確認していると、穴の中から声が響いた。

 

「生駒!そこか!」

 

トロリーに乗っていた一同が安堵の息を吐く。

 

「発見したみたいだな。」

 

「ですね。」

 

2人を引き上げた後、トロリーをなんとか穴の向こう側へと移動させ、さらに進んで行く。

 

「最上さんその怪我どうしたんですか?」

 

「お前にやられたんだが?」

 

「えっ?」

 

「本当だよ。私を押し倒してたとき。最上さんのこと吹っ飛ばしたんだよ。最上さんが出血した後も、噛んだりはしてないけど。」

 

「へぇ。理性を失ってたらしいが、野郎の血より無傷の女の子か、理性的…いやある意味本能的なのか?」

 

「すみませんでした!やめてください!」

 

「最上様。あんまり苛めたら可哀想ですよ。」

 

「そうだな。」

 

カバネリ2人と合流したため、最上は蒸気筒に持ち替えて援護に回った。巣刈が地図を見て誘導し、線路の切り替えを無名が狙撃で行った。

トロリーで行ける限界まで進行した後、徒歩で海門城に侵入した。

狭い坑道と違いどこからカバネが来るか分からないため、最上は蒸気筒を襷掛けにし、刀をいつでも抜けるようにしておいた。

 

「ここが天守?」

 

「おい。あれはなんだ。」

 

仁助が指差した先には青い光が見てとれた。樵人は懐から双眼鏡を取り出し確認する。

 

「青い繭に…子供か?」

 

その台詞を聞いた雲母が樵人の肩に手をかけた。

 

「見せてくれ。」

 

樵人が双眼鏡を貸すとすぐに覗き込み

 

「間違いない。」

 

と呟いた。

最上は樵人の斜め前から肉眼で青い光を確認していたが、青い光よりも下にきらりと光る何かを確認した。雲母から双眼鏡を渡してもらおうと、雲母の方へ一歩踏み出した瞬間。先程まで頭があった位置を何かが通り抜け、後方で甲高い音がなる。狙撃されたのだ。一瞬固まったがすぐに声を上げた。

 

「狙撃だ!下がれ!」

 

追撃に一撃飛んできたものの、張り巡らされている金属被膜に当たり、こちらまでは届かなかったため、全員来た道を速やかに引き返した。

 

「頭が吹き飛ぶところだった…。」

 

げっそりした顔で最上が呟く。

 

「よく避けられましたね。」

 

「無名殿や来栖と一緒にするな。偶然動いた瞬間に撃たれただけだ。双眼鏡を借りようと動いただけで、一瞬遅かったら頭撃ち抜かれてたよ。」

 

「流石に撃ち抜かれたら私ではどうにもできません。」

 

「私だって無理だ。」

 

仁助と最上で軽口を叩いていると雲母が天守を見つめたまま呟いた。

 

「やはり景之様だ。あの奥にいる。」

 

「駒井景之?」

 

「しかし彼は「死んではいない。あの時彼は自らの首を絞めて生還していた。」

 

「それじゃあ生駒と同じ。」

 

「カバネリってことか?」

 

「5年前景之様は海門を守るために戦い生還したが、幕府の武士は彼をカバネと恐れ銃を向けた。私もその時そこにいた。そして景之様は自らの娘の深雪様をも噛んだ。カバネにしてでももう一度生かそうと…。」

 

最上は少々呆れた顔で、雲母の顔を見た。

 

「雲母殿。そこまで理解していたのなら、我々がカバネリ2人を連れて来た時点で、景之殿がカバネリである可能性が非常に高いことはわかっていたな。玄路や虎落はまだしも我々に一言あっても良かったのではないか?」

 

「だが…景之様がこんなことをなさるなど、信じたくなかったのだ…。」

 

「はぁ…。ということはあの青い光は深雪殿か?」

 

「ああ。双眼鏡で確認した。」

 

青い光を見ていた生駒が無名に声をかける。

 

「あの光は見覚えがある。確か無名も…。」

 

「うん。あの子は黒煙の心臓になったんだよ。そしてカバネの群れが怖がる心をあの子に集めてる。」

 

「じゃあこの城ごと黒煙になるっていうのか?」

 

「そうだよ。巣が自分達を守ろうとして黒煙になる。もう張り裂ける寸前だよ。」

 

巣刈が想像でき得る展開を口に出し、無名が答える。

 

(カバネはウイルスによるものだというのに、時々精神面の部分が強く作用するのはなんなのだろうか…。それに結局景之殿が指揮をとれる理由もよくわからんのだが。カバネリは本来カバネに襲われるのではないのだろうか。あまり水を差さん方がいいんだろうなぁ。)

 

「そしてもうすぐ荒れ狂って全部を壊そうとする。何もかもを。私には分かるんだよ。「おい。違うよ。馬鹿。同じにはならないだろ。今度は止めるぞ。俺たちで。」

 

恐怖からか肩を抱えて縮こまる無名を、生駒が元気付ける。

 

「きっとあの光やカバネの恐れが不穏な気配になってみんなを不安にさせていたんだ。」

 

「そうだね。抑えよう。あの舵取りを。海門を破壊なんてさせない。」

 

(どっちも殺すって意味でいいんだろうか?張り裂ける寸前だというなら、カバネリを殺したら爆発して融合群体になるんじゃなかろうか…。少なくとも娘はカバネだ。殺さなければなるまい。それでカバネリを手懐けるのは無理だろ。やっぱり両方殺すってことかな?うーん。もうとっくに私の手の負えない範囲にきてるから、口を出すのもなぁ。)

 

仁助と樵人は最上が何か考えているのには気がついていた。菖蒲や来栖がいれば恐らく意見を聞いているだろう。

だがこの愁嘆場のような状況で確認していいものか悩んでいた。いずれにせよ相手はカバネリ。カバネリ2人のやる気を削ぐわけにもいかないし、黙っていることを決めた。この状況で克城の焼き直しはごめんである。

仁助も樵人も大正解であった。

 

砲撃でもしているのか城が断続的に揺れる。周囲のカバネ達の唸り声が強くなった。

 

「唸りが強まっている。」

 

「まずいぞ。」

 

仁助と樵人が焦りを露わにしたとき、雲母が飛び出した。

 

「景之様!戦いをおやめください。このままではあなたの愛した海門も滅びてしまいます。」

 

雲母が言い切った瞬間狙撃されたようだ。

 

(肩か。臣下を殺すのを躊躇ったか?)

 

「それでよいのですか!景之様ぁ!」

 

生駒が飛び出し、雲母の前に躍り出た瞬間、再び狙撃。

 

「今だ!無名!」

 

無名が飛び出し狙撃を返す。狙撃していた蒸気筒が落ち、途中の板に突き刺さる。

 

「当たった!」

 

仁助が声を上げ、無名はカバネリの驚異の身体能力で、張り巡らされている金属被膜を駆け上がる。

対して景之も蒸気筒のところまですぐに移動して、外れた管を取り付け構える。流れるような動きである。しかし無名の方が速かった。無名と景之が激突する。

状況は見えないが、剣戟の音や打撃音、発砲音が忙しなく響く。

 

(なにをどうしたら2人で戦ってあんな色々な音がなるのか…。)

 

無名が不覚をとったか弾き飛ばされたのが遠目に見えた。雲母はいつのまにか視界から消えており、生駒は金属被膜に手足をかけてよじ登って行くのが確認できた。

 

「おい。全員撤収だ。」

 

「ですが!」

 

「無名殿が張り裂ける寸前だと言っていただろう。景之殿を殺したら、融合群体になるに決まっている。そしたらここは崩壊するぞ。ただの人間の我々はすぐに死ぬ。死にたくなければ走れ。」

 

「はい!」

 

全員が全速力で後退を開始した。逃げ始めて少しして、カバネの悲鳴が響き渡り城が大きく揺れ、瓦礫がバラバラと降り注ぐ。

離れたところで雲母が落下する景之の手をとり支えていた。

 

「雲母さん!」

 

巣刈が足を止めて雲母を呼ぶが、最上が無理矢理腕を引く。

 

「殉じさせてやれ。」

 

なんとか全員が山の斜面まで逃げた時、とうとう融合群体が立ち上がった。雄叫びを上げ、腕を高く挙げて振り下ろした。

衝撃波が斜面にいる者達を襲う。

融合群体は身体を引きずりながら斜面を下って行く。

汽笛が最上達に届いた。

 

「あっちだ急ぐぞ!」

 

最上が先導でカバネを斬り捨て、山を駆け降りていく中、何故か来栖とすれ違ったため振り返った。

 

「はっ?」

 

「最上様!前!前見て!」

 

危うく金属被膜に引っかかるところであった。

 

 

最上達がたどり着いて、少しして来栖がカバネリ2人を連れて戻って来た。

巣刈は中に入ったと思ったら他の車両に移動して居なくなってしまった。

 

(急ぎすぎて、おいて行ってしまったのは申し訳ないが、無名殿を抱えているとはいえ、カバネリの生駒が人間より遅いとは思わなかった…。反省しよう。)

 

「これで全員だ。揃ったぞ!」

 

修蔵が伝声管にむけて叫ぶ。

甲鉄城が後退を開始する。山の斜面が崩れて来ているため、断続的に線路ごと揺れている。

衝撃が車体に走る。融合群体に捕まったようだった。先頭車両に身体を乗り上げ取りついている。先頭車両が融合群体の重さに耐えかねて軋みを上げる。

 

侑那が動揺する菖蒲達に声をかける。

 

「つかまって下さい。速度を上げて甍隧道にぶつけます。しかしスイッチバック手前で減速できるかどうかですね。」

 

「吸着ブレーキは⁉︎」

 

菖蒲は作戦の途中で使っていた吸着ブレーキを思い出した。

 

「あっ…やってみましょう。巣刈聞こえる⁉︎」

 

侑那は伝声管で巣刈を呼ぶ。

 

『はい。』

 

「悪いけどもう一仕事。スイッチバック前で急制動をかけるよ。制動距離は?」

 

『六百尺14秒ってとこですかね。』

 

「わかった。全車同時にブレーキをかける。そっちが先頭だから合図だして。」

 

『わかりました。』

 

侑那と巣刈で打ち合わせが済んだことから、菖蒲は伝声管で全車に指示を出す。

 

「皆さん。この後汽笛が5秒間鳴ってから急制動がかかります。車内の手すりにつかまって下さい。」

 

指示が流れた後、車内の者達は手近な手すりなどにつかまった。

融合群体の叫び声が甲鉄城全体に響いた後、汽笛がけたたましく鳴り響く。

隧道に入る直前、四八式鎮守砲が火を噴いた。融合群体は真正面にいたことから、顔にあたる部分に直撃しのけぞった。のけぞった瞬間に甲鉄城は隧道に高速のまま突入し、先頭車両にしがみついていた融合群体は、隧道入り口に激しく激突した。

先頭車両から融合群体が離れて、すぐに急制動がかかり、固定されていない物などが進行方向へと吹き飛んで行く。激しいブレーキ音が響き車輪からは激しく火花が散る。

次第に減速していき、行き止まりギリギリで停車した。

隧道入り口に叩きつけられた融合群体は砕け散り光の粒になって海門に降り注ぐ。

 

 

融合群体に殆どのカバネが取り込まれ消え去ったことから、海門の掃討は当初の予定より早く終わることとなった。海門の民人に見送られ甲鉄城は海門から離れていく。

 

「人的損害無し。出費は多少嵩んだものの、玄路と虎落が作戦失敗で、虎落も利権に殆ど口出し出来ず、海門の者達に殆どの利権が渡った。利権問題で一番小賢しそうな玄路は消えてくれたし最高の結果だったな。菖蒲様は運をお持ちだな。まあうちに直接の利益がないのは変わらんが。顕金駅を再興したら交易する相手として恩を売れたのは悪くない。」

 

最上は上機嫌であった。海門は要衝であるため、信濃や越後に握られるとあまりよろしくなかったが、推し進めた作戦が失敗し殆どの利権得る事ができなかった。信濃などほぼ全滅したことから、交渉役すらまともにおらず、越後に頼み込んで送って貰うことになった。

 

「あったでしょう。人的損害。」

 

憮然とした表情で雅客が言う。

 

「待て。聞いてないぞ。誰だ?負傷程度を報告しろ。」

 

最上が振り返ると、雅客が最上を指差していた。

 

「あんたのそれです。」

 

「ああ。これ。でもこれやったの生駒なんだろう?海門での損害ではないと思うがね。まあいいさ。女子でもあるまいし……っ!これで二度と女装はせんですむな!」

 

「なに喜んでるんですか…。」

 

「お前らもしてみるか?女装。苦しいし、バレたら女装趣味を自称せねばならなかった私の苦しみが分かるぞ。」

 

「いやです。」

 

「しかしカバネもカバネリもよくわからんままだな。結局なぜ景之殿がカバネを指揮できたのかわからないままだ。美馬とて使役していた訳ではなかった。血で釣ったりしていただけだ。深雪殿があんな用兵ができるとは思えんし、やはり指揮してたのは景之殿だったんだろう。」

 

「それそんなに重要ですか?」

 

「カバネリがカバネを使役できたら、楽に殺せるじゃないか。うちにはカバネリが2人もいるんだから。」

 

「変なことさせないで下さいよ。」

 

「せんよ。また額を割られたくないしな。」

 

「そういえば、あんたが頭撃ち抜かれなくてよかったですよ。仁助達から聞きました。もう少しで死ぬところだったと。」

 

「ああ、あれ。いや偶然助かった。しかしあんな遠くから正確な狙撃。素晴らしい狙撃技術だったな。無名殿も負けていないが。」

 

「なに呑気なこと言ってるんですか?」

 

「なんだ?ちゃんと来栖は残して行ったじゃないか。私が死んだとして、まあ多少困るだろうが、この半年でお前らに色々引き継いでるだろう。意外となんとでもなる。顕金駅を奪還した後の再興とて道元様さえ引き込めばなんとかなる。道元様は私より上手だからな。」

 

「そういうことじゃないんですがね。あんた自己評価が低くはないですか?」

 

「別に低くはないが?低かったら菖蒲様に着いて回らんよ。そもそも低く見積もってないから、ちゃんと知識の引き継ぎをしてるんだが?」

 

「あんたのそういうとこ嫌いです。」

 

「そうか。あっ!そういえば鳴神はどうだった?」

 

「一発しか撃ってないのでどうとか聞かれても…。」

 

「なんだ。満を持して登場したのに一発か。まあ遠目で見た限り大きすぎて邪魔だなあれは。通行できる場所が限られるだろう。それにあの口径じゃあ装填も時間かかるだろうしカバネ向きじゃないな。武蔵ではどういう運用したんだろうか?」

 

「邪魔…。確かに装填は時間かかったみたいですけど、なんで武蔵です?」

 

「武蔵じゃ三千のカバネを蹴散らしたとの前評判だったらしいからな。融合群体でもやったかね。速射性に欠けるし照準合わせるのが遅そうだからあまり平地向きでもない。囮でも置いて集ってきたのを諸共吹き飛ばせば結構いけるか?」

 

「発想が怖い。」

 

 

そのころ、甲鉄城の外では春が訪れていた。

 




ホモ君はリズム感皆無なので踊りませんw

「最上様w嘘でしょ!来栖も出来てるのにw」

「うるさい。」

北陸連合のその後は捏造です。
どう考えてもお人好しでは無さそうな奴らが、陣頭指揮をとっていたのでたぶんなんか利権とかあるだろうと、利権の話をしてました。あんまり深く考えないで下さい。

これ一本で本編くらいの文字数になってしまった。
しんどかったです。
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