「最上。城は奪還せんのか?」
来栖から四方川家の居住区画であった、城の奪還についての意見が最上に向けられた。
「人間相手なら早々にとりたいが、カバネだからな。守るのは楽だが、万が一の際に撤退しづらい。何より城は破壊したくないのでな。可能な限り釣り出したい。」
「ふむ。わかった。」
海門の時のように城を砲撃するなどとんでもないし、可能ならこれ以上の損傷は避けたいのだ。
そこについては、武士達で文句のあるものはいない。
「これからは甲鉄城が走れる軌間の線路から障害物を取り除く。甲鉄城が駅内を自由に走れるようになれば掃討も楽になる。扶桑城はデカすぎるから後回しだがな。あれは作業車両も持ち込まんと無理だろうし、下手したら分解の必要もあるだろう。」
「障害物を取り除くのは、なにで行くんだ?トロリーか?」
「いや。甲鉄城には先頭車両にクレーンがあるだろう。甲鉄城で行ってもらう。編成は昨日と同じで良いか?」
「己は構わないが、そちらは良いのか?」
「むしろ暇してたくらいだ。こちらは構わない。」
甲鉄城は昨日と同じように民人を乗せたまま出発して行った。
「なんかさぼってる気分なんだけど。」
無名が口を尖らせて文句を言う。
「ならば周辺の掃討でもするか?甲鉄城が戻る頃に此処が無事なら良い話だ。全員でちょっと出かけても問題ない。」
「なに言ってるんですかあんた⁉︎」
「なんの問題が?とりあえず二刻くらい居なくても問題ない。戻ってきたら、無名殿がカバネを感知さえしてくれれば、甲鉄城を安全に迎え入れられるだろう。」
「よし!じゃあ行こう!」
「おい⁉︎」
雅客の突っ込み虚しく、操車場防衛面子は防衛開始後、四半刻たたずに操車場を放棄した。
「来栖に報告しますからね。」
「構わない。むしろ任を外れたのだから、私が菖蒲様に報告するが。」
「えっ?最上さん菖蒲さんに怒られる?」
「怒られない。顕金駅からカバネを殲滅する為に、拠点として確保してるのが操車場だ。カバネの殲滅が目的で操車場は手段だ。一時的に手放したとして甲鉄城が戻る前に取り戻せば、拠点としての手段を果たす以上、全く問題ない。」
「よくわかんない。」
「無名。気にすんな。子犬ちゃんが問題ねぇって言ってんだから問題ねぇんだよ。」
「わかった。」
狩方衆の兵は全く気にせず、武士達は渋い顔こそしているが、此処で怒るような者はそもそも選ばれていない。
ニ刻ほど周辺のカバネを殺し操車場へ戻ってくると、3体のカバネが彷徨いていたのみで、無名に瞬殺されて終わった。
「無名殿は一度休むと良い。」
最上に勧められて無名は掩体壕にしている車両に入り込んだ。
「お前意外と真面目じゃねぇよな。」
「融通が利くだけだ。目的を果たすのと、手段の選択は別の話だろう。」
「ああ。お前爆破魔だったな。」
「失礼な。あそこが既に焼け野原じゃなきゃやらなかったぞ。」
「普通の奴はそこに焼け野原があっても爆破しねぇんだわ。」
瓜生の後ろで、雅客が腕を組んで深く頷いている。
「目的を果たすためなら、手段は選ばない方でな。」
「確かにあんた、弱いフリもすりゃあ、総長に迎合してるフリもしてたな。」
「最終的に目的を果たす為に必要なら土下座だって出来るぞ。」
「そうかい。俺はできねぇな。」
「だろうな。私も自分自身の為なら死んでもせん。」
「へぇ。そんなにあのお姫様は魅力的かい?」
「主の宝を護るのは臣下の務めなのでね。」
「ふーん。」
(お姫様は主の宝。ね。)
午後も一刻程操車場から離れたが、無名の感知に引っかかるカバネはいなかった。操車場に戻ってもカバネはおらず、無名は大層不満そうであった。
「ねぇ。明日は甲鉄城に乗っても良い?」
「まあここで遊ばせておくのも、無名殿の無駄遣いが過ぎるしな。」
「もういっそみんなで行ったら良いじゃん。どうせここ放置するなら。」
「流石に無名殿がいないのに放置はせんぞ。」
「そうなの?」
「我々はカバネの感知はできんからな。」
「でも危なくなったら逃げるんでしょ?」
「死ぬよりましだというだけの話だがな。疲れて帰ってきて、更に拠点を制圧し直すのはみんなしたくはない。汚れるしな。」
「それもそっか。」
夕刻前に甲鉄城が戻ってきた。障害物の撤去が済んだところを地図に落としていく。
「ねぇねぇ。菖蒲さん。明日は私も一緒に行くね。」
「あら。こちらは大丈夫なのですか?」
「ものすっごい暇なんだもん。」
「カバネが全く現れない為、周囲の掃討に出ておりました。」
「最上。お前操車場を放棄していたということか?」
「そうだが、結局甲鉄城が戻る前には抑えてあるのだから問題あるまい。居残り組の戦力で再制圧出来ないような状態なら、そもそも残っていても守れていない。無名殿はカバネを感知出来る以上、操車場に潜まれることもあり得ないしな。」
「むっ。」
「無名さんがこちらに来ていただけるなら、とても助かりますが…。」
「今日だって全然いなかったし、瓜生と最上さんがいるなら大丈夫でしょ。」
「最上。どうですか?」
「昨日、今日の状況からすれば問題ないでしょう。万が一我々ではどうにもならない時は、信号弾を上げて逃げますので。」
「最上。お前な…。」
「死に物狂いで戦った上、カバネにでもなってお出迎えした方が良いならなんとしても残るが?」
「むっ。」
「わかりました。では無名さん。明日はよろしくお願いします。」
「うん。よろしく!」
無名はニコニコしながら、菖蒲の言葉に返事をした。
来栖が最上にスッと近寄り声をかける。
「で?本当に無名がいなくとも問題ないのか?」
「報告の通り、昨日今日の様子なら問題ない。状況が違えば放棄するがな。万が一放棄すると思えば、面子の入れ替えもできんし、明日は私達だけで留守番するさ。」
そもそもが瓜生と長時間組ませられる前衛は無名と最上しかいない。来栖は瓜生との相性は良くない。ちゃんと言っておけば喧嘩にはならないだろうが、わざわざ仲違いの危険の可能性をとるより、信用と実力のある来栖は菖蒲の護衛に置いておきたい。
生駒は相性が悪い上、時折酷く感情的になるので扱いにくい。何かあった時に援護の武士達が抑えられるとは思えないし、万が一の際に瓜生が殺しては納得出来ない者が多いだろう。それに拠点の放棄の判断が下手そうだ。
かといって瓜生を甲鉄城側に入れると、今度は操車場を臨機応変に放棄できないような武士も手数に入ってくる。
誰かと組ませるとなると、少々扱いにくい駒ではあるが、実力は充分ではあるので最上としては助かっている。狩方衆は元々美馬の元で戦っていたので、多少危険性の高いところに振っても大丈夫だし、感情より理論で動く。
拠点を放棄して逃げることも、生存戦略なら文句など言わない。
翌朝、無名以外は昨日と同じ面子を残して、甲鉄城は線路の障害物の排除に出発した。
雅客が最上に寄ってきて口を開く。
「これ本当に我々必要ですか?」
「私が放棄する。放棄する。などと言ってるから感覚が可笑しくなったか?戻ってきたら、奪われているかもしれない拠点を放置する奴があるか。」
「どの口が言ってんです?」
「まあ我々からすれば制圧し直せば良いだけではあるが、甲鉄城の民人はそうではない。いない間に家に空き巣が居座っているようなものだ。排除できても気持ち悪いだろう。民人達の精神負担は軽くしておきたい。暴動などはせんだろうが、精神に異常をきたされては堪らない。」
「左様ですか。」
「昨日までの地図の書き込みを見る限り、何もなければ、今日には扶桑城周辺以外は作業を終了するだろう。今日北側の障害物の排除を終えれば、甲鉄城は駅内を周回できるようになるし、カバネの掃討も楽になる。街のカバネが大体いなくなれば、城のカバネにも手が出せる。大方片付いてしまえば、あとは無名殿と生駒に探知してもらいながら仕上げをするだけだ。扶桑城は問題なければとりあえず放置してもいい。その辺りは蒸気鍛治の意見を聞こう。」
「そうですか。…しかし今日は天気が悪いですね。」
「そうだな。…これはひと雨きそうだな。」
雅客と最上が空を見上げていると、物見台にいた倉之助から声が上がる。
「城からカバネが駆け下りてきます!数凡そ100!」
「無名殿に居残りして貰えば良かった…。西側から襲撃!警戒せよ!」
最上はぽつりと愚痴を言った後指示を出した。
「最悪の場合は東門方向に撤退する!頭に入れておけ!」
操車場での戦闘が始まった。
一方甲鉄城は、障害物の撤去やカバネの掃討をしていた。
周囲に現れるカバネを殺していた無名の顔に雨粒がぽつりとあたった。
「あっ!雨降ってきた。」
「菖蒲様。中にお入り下さい。」
「いえ。皆が雨の中作業をしているというのに、私だけ中に入るわけには参りません。」
「ですが…」
「しかし雨の中の作業はやめておいた方がいいかもしれませんね。体調を崩してはなりません。今の作業が終了したら操車場に戻ると致しましょう。」
「皆のもの!現在の作業が終了次第帰投する!」
来栖から帰投の指示が出たことで、作業にあたっていた者達は作業の手を早めた。
小雨だった雨は次第に強くなり、とうとう土砂降りになった。
外に出ていた者が甲鉄城に戻った時には、全員がずぶ濡れになっていた。
「信号弾確認!操車場方向です!」
「「⁉︎」」
艦橋に緊張が走る。最上は"どうにもならない時は信号弾を上げて逃げる"と言っていた。
信号弾が上がるということは、最上と瓜生ではどうにもならないと判断したということだ。
「急ぎ戻りましょう!侑那さんお願いします。」
甲鉄城が操車場に辿りついたとき、まだ最上達は操車場にいた。
カバネに周囲を包囲され逃走が叶わなかったようだ。前衛を担当している最上と瓜生以外は、掩体壕にしている車両の上に避難して援護をしているが、掩体壕の上の武士や狩方衆には蒸気切れの者もいるようだった。
「先行するよ!」
「俺も行きます!」
無名が甲鉄城から飛び出し、それに生駒も続いた。
無名と生駒が先行して、最上達のところに辿り着くと、掩体壕の上から歓声が上がる。
甲鉄城がカバネを轢きながら、操車場へ滑り込むと、来栖や武士達も甲鉄城から出てカバネを殺し始める。
置かれた阻塞のおかげで、囲まれきってはいないものの援護が乏しい中、珍しく最上は前の方に出て戦っていた。
来栖達が掩体壕に辿り着いても下がろうとしない。随分と気が立っているように見える。ワザトリまではいかずとも、刀を振り回す武士の格好をしたカバネの刀を巻き上げ、空いた胸に刃を寝かせた刀を突き入れる。心臓を貫いてすぐ横に振り抜き、反転して次のカバネの首を飛ばし、噛みつきにきたカバネの口に腰から半ば引き抜いた鞘を噛ませ、カバネの勢いを殺さずに最上を支点として回転し、カバネが体勢を崩した時に鞘を完全に引き抜き、噛み付いた鞘ごと倒れ込んだカバネの背中に刀を突き入れた。
鞘を捨て置いたまま、次のカバネに斬りかかり、腕を切り落とした。カバネが使っていた刀を足で撥ね上げ、擦り抜けざまに、逆手でとった刀を足に突き立て、地面に縫い留めた。とどめは援護に任せるのか放置して次へ行く。
下がる様子が一切ない為、並んで戦っても邪魔にはならない来栖が近くを担当した。
操車場の制圧が終了した時には、掩体壕の上の武士達などは完全に蒸気切れであった。
掃討は終わったが、最上はまだ気が立っていることから、来栖は雅客に近づいた。
「撤退に失敗したのか?」
「ああ。実は…。」
雅客から聞いた話では、武士の一部が撤退に遅れたためとのことで、遅れた理由も丁度蒸気の充填中であったとのことであった。
「それで最上の気が立っているのか?」
確かに充填の機会は悪かっただろうが、特に反抗されたわけではない為、最上があれ程に気を立てる意味がわからない。
「いや違うと思う。…あれ上侍達じゃないか?見た事ある。たぶんそれでだと思う。」
「ああ…。確かに。」
最上は自分達と違い上侍だった。上侍が全員仲良くしていたとは思っていないが、中には来栖から見た吉備土や雅客達のような存在がいたかもしれない。
最上に視線を移すと、下を見てきょろきょろと何かを探している。
倉之助が最上の鞘を抱えて走り寄る。
最上はそれに気がつき、鞘を受け取り納刀した後、何体かのカバネを見遣り目を数秒閉じた後、扇型車庫へと引き上げて行った。
この日土砂降りはおさまる事はなく、雷鳴まで鳴り響いた。
土砂降りの中、甲鉄城が来るまで少人数で戦い続けた留守番組は、夜間警戒から外すこととなった。
顕金駅から6日目の夜が終わろうとしていた。
ホモ君が菖蒲様を主と認めてなさそうな不穏な描写がありますが、堅将様についていたので堅将様優位なだけです。
四方川家に忠誠を誓っているので菖蒲様にも当然忠誠はあります。