朝には雨は上がり快晴であった。
甲鉄城は引き続き、障害物撤去の作業である。
早朝に無名と生駒を各方面に出して、カバネを感知させた結果、かなり残存しているカバネは少ないとのことである。昨日と同じ体制で人員を割り振ることとなった。
甲鉄城は障害物の撤去が、午前中には終わるだろうとの見込みの為、その後は駅内を周回してカバネの掃討をすることになっている。
甲鉄城が出発した後、雅客は少し離れたところで俯いている最上の様子を窺っていた。瓜生も空気を読んでか最上には近寄らない。
「最上様大丈夫でしょうか…。」
倉之助が雅客に声をかける。
「昨日だって、撤退指示も戦闘も的確だった。まあ撤退はこっちの不手際で叶わなかったけどな。」
「…そういうことではないんですけど…。」
「わかってるよ。だけど何も出来ない。俺達は共感してやることすら出来ないだろ。そりゃ昔馴染みの顔もいるけど、俺達は下侍仲間がいる。あの人には昔馴染みの奴なんて1人も甲鉄城にいないじゃないか。俺はさ、甲鉄城に避難したばっかりのころ、同乗の上侍が最上様だけで良かったとか思ってたよ。よく考えたら最低だよな。」
「…私も思ってました。」
「最初の頃、最上様はたぶん結構気を遣ってただろ。駅にいた頃なら歯牙にも掛ける必要がなかった来栖を立てて、蒸気鍛治や民人と無駄な衝突をしないようにしてた。自分と親しい奴が1人もいない中で、学がない俺達に代わって嫌な役だってやってくれてた。それなのに呑気に他に上侍いなくて良かったとか思ってたよ。」
「…。」
「初日の夜に、躊躇わずに10人斬れたの気にしてたんだ。友人か知人か知らないけどな。今回も躊躇わなかった。でも前回と違うわ。たぶん今回の奴ら仲良かったんだろ。年頃も近いし…。俺はもしお前らがカバネになったら、躊躇わずに殺せる自信ねぇよ。」
「…私もです。」
雅客と倉之助がしんみりとしていると、近くにいた他の武士達も会話を聞いて気まずそうにしている。心当たりがあるのだろう。そんな中、最上から雅客に声がかかる。
「雅客。ちょっといいか?」
「はいはい。なんです?」
「これどう思う?」
何かの設計図のようだが、雅客にはわからない。
「なんです?これ。」
「踏んだら爆発する爆弾。」
「あんたそんなに爆破好きでしたっけ⁉︎何を黙々としてるのかと思ったら‼︎」
「鈴木殿の設計図読み込んでた。」
「あっ!そう‼︎」
「なんだ爆破魔。また爆破するのか?」
空気を読んだ瓜生までやってきた。
「踏んだら爆発する爆弾の企画書がきたから見てただけだ。地面に埋めて使うらしい。駅内には危険だから設置しないが、良くないか?武士を常駐させずにカバネを防げる。鳴子と違って知らせるだけじゃなくて侵攻も阻める。」
「よかったですよ。駅内に仕掛けられたらどうしようかと。」
「で?どう思う?」
「駅外なら…まぁいいんじゃないですか?」
「おい。甘やかすな。俺達前衛が間違って踏みかねないだろうが!埋めるんだろ!地面に!」
瓜生が吼えた。
「目印つけるとか。」
「戦闘中にそんな気を払えねぇ。」
「決まった地点に沢山並べるとか。」
「一発で死ななきゃとどめさしに行かなきゃならねぇのにそんなところ行けるか。」
「カバネ相手ならいっそ埋めなくても。」
「草が繁ったら見えねぇだろ!」
「運用方法要検討。っと。」
鈴木の企画書らしきものに朱書きを入れている。
操車場にはカバネがちらほら来たのみで、昨日のような襲撃はなかった。
甲鉄城は駿城の軌間の線路をほぼ全開通させ、午後から駅内を周回しながらカバネの掃討をしていた。甲鉄城にはカバネの感知ができるカバネリがいるので、線路沿いから少し離れていても問題なく掃討できた。
夕刻になり、甲鉄城が操車場に戻りお互い報告し合う姿は明るい。
途方もなく感じていた顕金駅奪還が、誰にも近く感じている。
食事時も奪還したらあれをしたい、これをしたいと話が盛り上がっている。
「最上。城の制圧をしたいのですが駄目でしょうか。」
一昨日来栖が提案した城の奪還の相談を菖蒲がする。
「…。無名殿が斥候をしていただけるなら、状況に応じてしてもいいかもしれませんね。」
「斥候?いいよ。」
「では、斥候の結果大量のカバネがいなければそのまま制圧ということで。その後カバネ討伐が完了するまでは、城は封鎖してしまいましょう。ですが甲鉄城は城へは乗り入れられません。制圧面子を編成する必要があります。トロリーを2台出しましょう。それでも参加できるのは20名くらいです。」
「20名ですか。」
「菖蒲様。無名殿。来栖の3人は確定として連れて行けるのは17名です。」
「最上は来て頂けますか?」
「菖蒲様がお望みとあらば。」
甲鉄城を操車場に残す都合上、吉備土と生駒は瓜生と残りになった。間を取り持つために雅客と倉之助と仁助も残りである。
なにせ瓜生は吉備土や生駒とは相性が悪いので、余計な問題は起きないに限る。瓜生が皮肉めいた発言をしても、最上との掛け合いを聞き慣れている雅客と倉之助。武士達の中で一番落ち着きのある仁助の3人をつけておけば大丈夫だろうとの判断である。
城には菖蒲、来栖、最上、無名、樵人、歩荷、服部などの武士総勢18名と蒸気鍛治の手を借りたいときのため、鈴木、巣刈を編成した。
菖蒲が城の図面を取り出したが、城の図面など流出などしようものなら一大事の為、大した書き込みはない。
そこに菖蒲と最上が、あれこれと書き込んでいく。来栖は菖蒲の護衛ではあったが、城を自由にうろうろ出来る身分ではなかった為、2人が書き込むのをただ眺めている。
対して最上は堅将付きの上侍であったことから、一部の者しか知らない出入り口や通路などを把握していたので次々に書き込みをしている。
5枚にわたる図面への書き込みが終了し、菖蒲と最上が城の内部について参加面子に説明をした。最初の頃は必死に覚えようとしていたが、途中から殆どの者が脱落した。城の造りは蒸気技術まで導入されており複雑だった。
最終的には、万が一部隊を分ける時には菖蒲の班と最上の班で分かれるということになった。城で迷子になられたら非常に困るので。
翌朝、城の制圧面子はトロリーに乗り込んで城に向けて出発した。
最上が先導し、城の中を進む。
カバネがいれば殺していき、最下層は出入り口を念入りに塞いで周る。
下の階から隅々まで練り歩いていく。
「お城にもあんまりいないね。」
無名があちこちきょろきょろしながら感知結果を告げる。
「いないに越したことはないな。おい。樵人。そこに手をつくなよ。説明を忘れたか?」
昨日の城の説明で罠のあるところなどを説明されたが、一回じゃ覚えられなかったのだ。当然である。
カバネが発動させてしまっているものもあるが、まだ生きている罠も存在している。
時折見つけるカバネを殺しつつ進む。菖蒲などは大体顔見知りの為、悲しそうに来栖や無名が討伐するのを見ている。一体だけ、最上が来栖に譲ってほしいと申し出て殺したカバネもいた。名前は呼ばなかったが、知り合いなのだろう。最上は悲しそうにはしなかったが、そのカバネから短刀を回収していた。
城の中には、自害したのだろう武士の遺体も何体かあったため匂いが酷い。
顕金駅は夏に堕ちた為、半分以上白骨化しているが、丸一年も経過していない為腐肉に塗れている。
最上が、最上階手前の廊下で亡くなっている武士の遺体を見て立ち止まった。数秒黙祷を捧げた後何も言わずに進んで行った。
とうとう天守の最上階に着いた。
最上階にはカバネも居らず、武士の遺体もなかった。菖蒲が最上階から顕金駅を見渡す。
「お父様。ただいま帰りました。」
菖蒲の涙声が寂しく響いた。
勝手に四方川家の城カラクリ屋敷みたいにしてすみませんでした。
本当は分断しようかと思ったんですが、シリアス中にやったら不味いかなって思ってやめましたw