城の制圧面子は自分達が出た出入り口も念入りに塞ぎ、トロリーに乗って操車場へと帰投した。
戻った頃には八つ時となっていた。
菖蒲は食欲がないとして、食事も受け取らず甲鉄城の執務室に下がって行き、静が後ろをついて行ったので任せることにした。
「最上さん!トロリーで駅内を周ってきて良いですか⁉︎」
生駒が大きな声で申告した。巣刈が城での空気を読んで、止めようとしていたのか生駒の腕を掴んでいた。
「構わないが、面子は?」
特段断る理由もなく、恐らく暇を持て余していただろうことから、最上は許可を出した。
「来栖に相談します。」
「そうか。来栖から3人ほど借りていけ。借りられなければ諦めろ。流石に一人では行かせんぞ。」
「わかりました。来栖ー!」
生駒は来栖の方に駆けて行った。
「あっ!私も行く!」
来栖は少し渋っていたようだが、無名が申し出たので、吉備土、仁助、歩荷を貸し出した。
「行ってきます!」
「日が落ち切る前には帰れ。武士達は夜目は効かんからな。」
「はい。」
生駒達は元気に出発して行った。
最上は阿幸地を捕まえて報告を聞いていた。というのも甲鉄城が障害物の撤去や周回を始めた頃に、建物の調査を頼んでいたのだ。
中まで確認することは叶わないが、外観から燃えたり、朽ちたりして立て直すしかないものなどを地図に落とすように依頼していた。
再興の際にいっそ、居住区画の整備も提案しようと思っていたので、阿幸地らを巻き込んで調査や意見の集約をしていた。
流民の段階的な受け入れも、今までのように流民街に突っ込む訳にはいかないのだ。なにせ厄介者の引き取りではなく、立派な労働力にするつもりであるので。
修蔵には意見の集約をさせており、もう殆ど終わっているらしかった。
天祐和尚には、掃討したカバネや残っている遺体の件で埋葬場所などの選定を頼んでいる。
生松には、民人の職業調査をさせておりもう最上までの報告をすませている。
最上が阿幸地から受け取った地図を眺めつつ、木箱に座っていると来栖が寄ってきた。
「何をしているんだ?」
「再興の際に、居住区画の整備を提案しようと思ってな。阿幸地殿に頼んでいた調査結果を見ている。」
「居住区画の整備…。」
「お前らは問答無用で、上侍達の居住区画に入って貰うからな。どうせ立派な家ばかりだ。使えないほど朽ちた家もあるまい。」
「は?」
「は?ではない。菖蒲様が、顕金駅脱出から奪還までをともにした武士達を、元々住んでた長屋に戻すと思っているのか?信賞必罰だ。成果に対しての賞は必要だ。」
「その辺りは何も考えてなかった。」
「わかっている。だが完全に奪還が終了したら、道元様を迎えに行き、菖蒲様と道元様を主軸に政をせねばならん。これからは、今までみたいに何も考えてませんでした。じゃあ済まさないからな。」
「うっ!」
「武士達はお前の配下だろう。まとめ役のお前が何にもわかりませんでは困るぞ。とはいえ、とりあえずお前は奪還が終わるまでは何もせんでいい。菖蒲様をお護りすることに全身全霊を注いでおけ。」
「わ…わかった。」
来栖はそそくさと最上から離れて行った。
日が落ち切る前には、生駒達が帰ってきた。特に怪我もなく表情も明るい。
「生駒。どうだった?」
「まだカバネの気配は感じますけど、殆どいないです。明日手分けして綺麗にしちゃいましょう。」
「そうか。検討しよう。」
顕金駅のカバネ殲滅は目前に迫っている。
その日の夜の作戦会議は、仕上げの打ち合わせとなった。カバネの感知ができるカバネリ2人を分けるのは当然であるが、その他の面子もすぐに決まった。
生駒の方には、最上、樵人、仁助、服部、歩荷、倉之助。
無名の方には、瓜生、雅客、狩方衆の者達である。
雅客が1人旧克城面子に入れられたのは、土地勘の問題や、何か破壊した際に報告する役が必要だからである。戦力値だけでいえば、生駒隊より無名隊の方が数倍安全なので、道案内と報告役を真っ当するしかない。
「なんで俺だけ…。」
しょんぼりしている雅客に武士達は苦笑いである。だが普段から最上にちょっかいをかけにいっている雅客くらいしか適任がいないのだ。
甲鉄城は、吉備土と残りの武士達の7割を連れて周回である。前衛なしの為甲鉄城から降りないことが条件である。甲鉄城には民人達も乗車する。
菖蒲と来栖と残りの武士達は操車場で待機である。菖蒲には、最上が阿幸地らから集めた資料を渡し、読み込んでもらうこととなった。
翌朝、生駒隊は上の区画から、無名隊は下の区画から、甲鉄城は周回へと出発した。
「あっ!あそこに1体います。」
「ふむ。うちだな。」
生駒の指差した方を見て、最上がとんでもないことを言った。
「えっ⁉︎お…俺だけで行って来ましょうか?」
「気遣いは不要だ。それより1人行動は禁止だ。」
「…はい。」
屋敷の敷地に入ると女のカバネがふらふらと彷徨っており、最上達を見て襲いかかる。最上がカバネの胸に刀を突き入れ、一撃で倒した。
「生駒。他に気配は?」
「あ…ありません。」
「そうか。次に行くぞ。」
「あのご家族の方ですか?」
生駒がした質問に、同行していた武士達は顔を顰めた。
(馬鹿!聞くなよ!)
(家にいたから家族とは限らんだろ。)
(そんなん聞いてどうすんだ!馬鹿!)
「いや。使用人の多恵さんだな。カバネになってまで、うちに控えておられたとは使用人の鑑だな。」
「えぇ…。」
最上の回答に全員微妙な顔になった。
上侍の居住区画のカバネの掃討が終了した。
「母上がいなかったな。行動力のある方だったから、別の区画にでも行ってしまわれたかな。…南西側で爆発四散させてたらどうしようかな。少々不謹慎な発言を…。まあいいか。」
「いいんですか⁉︎というか不謹慎な発言って⁉︎」
「雅客との秘密だ。後で口止めしとこう。」
最上の発言に生駒達は反応に困ったが、ここで鬱々しくされるよりはいいので触らないことにした。
(生駒。ああいうときに家族かどうかとか聞くんじゃない。)
(すみません。)
基本的にはトロリーで移動し、トロリーの線路から離れた場所は徒歩で移動して、彷徨いているカバネを殺していく。
幼児や赤子のカバネがいたが、躊躇う武士達と違い生駒と最上は表情を変えずに殺していた。幼児や赤子の場合最上は蒸気筒で殺していた。
「なんで刀じゃなくて蒸気筒なんですか?」
「一番力の入りやすい高さよりだいぶ下だし、そのまま地面に刀を叩きつけたり、刺し込んだりしたくないからだな。」
「なるほど。」
「お前だってやりにくいだろ。ツラヌキ筒じゃ。」
「そうですね。さっき噛まれちゃいましたし。」
「私はお前みたいに、気軽に噛まれるわけにいかんのでな。」
「いや気軽に噛まれてる訳では…。」
カバネの相手をしているより、移動している時間の方が長いので会話が多い。
会話をしながら進んでいると、顕金駅の象徴である大鍛錬所に到着した。
「ここも何体かいます。入り組んでるし、足場が沢山あるので上にも注意してください。」
「わかった。」
生駒隊は大鍛錬所に入って行った。
一方操車場では、菖蒲が最上の提出した資料を読んでいた。
「はぁ…。」
「菖蒲様。お疲れならばどうか休息を。」
「いえ。違うのですよ。本来ならこれを私がやらねばならなかったな。と反省していただけなのです。最上は前衛で戦いつつ、この資料を用意したのです。」
「あれは堅将様についておりましたから色々気がつくのでしょう。それに資料をまとめて上に報告することは、下の役目ですからお気になさる必要はないかと。」
「そうでしょうか。…そうだ。来栖も一緒に読みませんか?来栖の意見も聞きたいのです。」
「…拝見します。」
来栖には菖蒲や最上と並んで議論できる気がしない。ましてことが終われば道元まで議論に加わるのだ。だが最上には、今までのようになにもわかりませんでは済まさない。と言われているのでせめて資料は読んでおくことにした。
居住区画の整理、再興計画における民人の作業分配、慰霊や地鎮の為の祭事計画などの資料が積まれていた。
結果としてわかったのは、阿幸地らは頭がいいということだけだった。再興計画時は、一時的に武士達の全権を移譲するので、最上が指示してくれるのを期待することにした。
八つ時に甲鉄城が、夕刻前に生駒隊と無名隊が操車場に戻ってきた。
何故か生駒隊は全員煤まみれだった。
来栖は首を傾げた。
「なんでそうなる?」
「大鍛錬所で普段なら火が入っていて入れないところにカバネがいてな。一瞬でこれだ。炉なんて入るものじゃないな。」
最上が煤まみれの顔で答えた。
無名など生駒隊と合流してからずっと笑っていた。
「それで首尾は?」
「生駒と無名殿が感知したカバネは完全に排除した。明日は武士達も2人1組で出して、隈なく仕上げの確認だな。万が一の際は危険が伴うが、カバネリ2人が感知していないのだから大丈夫だろう。それでカバネが発見されなければ殲滅完了を宣言していいだろう。」
操車場内で、聞き耳を立てていた民人は密かに湧いた。
翌日、有志の民人も加えて、虱潰しに駅内の確認を実施。カバネの殲滅が確認された。顕金駅に入ってから10日目のことである。10日目は丁度食糧搬入日であったことから、夜は全員で飲めや歌えやの馬鹿騒ぎとなり、深夜まで六根清浄の唱和が顕金駅に響いていた。
ホモ君はもう知り合いが沢山出てくるので半ばヤケクソです。