「終わった…。」
「私も…終わり…ました。」
「もう少しで終わります!」
道元と最上は処理すべき書類が終わり卓に突っ伏した。勘太郎はもう間も無くのようだ。
見るも異様な空間に丁度食事を運んできた服部が固まる。
「もしやお二人とも終わりましたか?」
「終わったぁ!」
丁度勘太郎も処理を終え、両手を上げて後ろに倒れ込んだ。
家老の役割をこなす三人衆の、普段は見ることのできない光景である。
最初の頃はここに来栖まで巻き込まれていたが、誰にも教えている余裕がないため早々に外されていた。
武力もどうしても必要なため、有志の民人に蒸気筒を教える仕事を振られ、喜んでいたのが記憶に新しい。
菖蒲や来栖などは、奪還成功の報を伝え感謝を述べるために、甲鉄城に乗ることも何度かあったため、息抜きができていたようだがこの3人は違う。
最低限の睡眠をとり、仕事をしながら食事をしていた。移動時間すら無駄だと、城に泊り込むこと凡そ二月半。
部屋の中にはまだ書類はある。服部にはわからないが、恐らくこの3人の中で決めていた範囲が終わったのだろう。
「お疲れ様でした。食事をとって寝て下さい。」
服部の声かけに3人はのろのろと起き上がって、服部から食事を受け取っていただきます。と言って食べ始めたが、最上など食べながら半分寝ている。
「最上様。食べるか寝るかどっちかにしてください。」
「…食べる。」
食べ終えるまでに服部は4回も叱ることになった。完全に気が抜けている。
3人とも帰る気力がないのか、その日はそのまま城に泊まった。
3人同時に休むのは無理であるため、交代で休みをとるらしい。
最初は一番勤続時間の長い最上からとなった。
「最上様今日休みだってよ。」
「おっ。やっとか。邪魔せんようにしないとな。」
「あの人休みの日なにするんだろ。」
「甲鉄城でもずっと働いてた印象だからなぁ。」
「疾風に乗るところくらいしか想像できない。」
「わかる。」
最上は城で朝食を食べた後、疾風に乗って帰宅したが小夜に強請られ、小夜を乗せ疾風を走らせた。暫く走らせた後は、自宅に戻り一之進達に勉強を教えつつ読書にいそしんで午前を終えた。
「はて。やることがないな。」
「ゆっくりしてたら良いじゃないですか。」
「だらだらするのはあまり性に合わん。」
下緒は呆れた目で最上を見た。
「甲鉄城に乗る前は、休みになにをしてたんですか?」
「勉学と鍛錬。元服して堅将様に付いてからは、覚えることの方が多かったから、今程ではないが忙しかったのでな。流石に今日鍛錬は無理だな。怪我をしかねん。他で言えば、交流のあった者と出かけたり、将棋や囲碁をしたりはあったがもうおらんしな。」
「誰か誘って出掛けてきたら良いじゃないですか。」
「誘う相手がいない。…読書と詰将棋でもしよう。」
「えぇ…。」
「下緒。私のことは気にせずいつも通りにしていろ。どうせ休みは今日だけだ。明日には城に戻るしな。あっ。明日からは帰宅はする。…たぶん。」
「わかりました。」
午前中に引き続きのんびり読書をした後、詰将棋をしていたら小夜に邪魔されたため、小夜と崩し将棋に変更になった。
翌日下緒は買い物ついでに、奉行所にいる雅客に最上の休日の話をしに行った。
何故雅客かというと、町奉行につけられたころは流民もおらず、取り締まりなどをするより、暇そうだからと簡単な相談所のような扱いだったからだ。
陳情する程じゃないけどちょっと困ってるとか、みんな忙しいから聞けないんだけど、これはどうすればいいかとかの相談ばかりだった。
雅客は別に博識ではないが、その話なら誰々だな。とか思い至れば一緒に聞きにいってやったり、わからなければ阿幸地やら最上やらに聞きにいってやっていたので、甲鉄城の面子からしたら奉行所は相談所なのである。
「えっ…なにそれ寂しい。隠居した老人みたいな過ごし方だな。いやでもそうか。友人とか…。うーん。」
「16歳の休日ではないと思います。」
「それな。」
「甲鉄城の時から孤立気味なのは知ってましたけど、最上様って道元様と勘太郎様としか交流ないんですか?」
「ゔっ!」
「休むことなく約三月働き続けて、これって流石にどうかなって思ったんですけど、武士の人で仲良い人とかいないんですか?」
「お…俺か、倉之助が仲良い方かな…。」
「そうですか。じゃあダメですね。」
「駄目ってなんだ⁉︎」
「友人って感じじゃないじゃないですか。」
「そうだな!」
雅客も倉之助も割と使い勝手の良い部下の位置であり、友人ではないのは確かである。仕事なら問答無用で召集されるが、私事で呼ばれる想像ができない。雅客からすれば、割と最上と仲良くすべく頑張ってきたので、下緒から言われたことに少し傷付いた。友人の位置取りでないのは自覚しているが、他人から指摘されると傷付くのだ。
「私たちを引き取ってから、少ししたら帰って来なくなっちゃいましたし、たまの休日くらい楽しんで欲しかったんですけど…仕方ないですね。」
「うぐぐっ。」
「話聞いてくれてありがとうございました。もう戻ります。」
「…おう。気をつけて帰れよ。」
「はい。それでは。」
去っていく下緒の背を見ながら、雅客はやるせない気持ちになったので、武士達に相談することにした。
「いや無理だろ。どうにもならん。」
「将棋も囲碁も瞬殺されるわ。」
「一緒に出かけたら仕事になりそう。」
「それな。花街でも仕事してたしな。」
「もう小夜と疾風に任せよう。」
これである。
実のところ下緒と雅客の心配のしすぎである。最上は割と一人で過ごすのが苦ではないので、完全に仕事が落ち着いたら違うかもしれないが、現時点では疾風に乗ったり、のんびり読書ができれば充分であった。
下緒はこの数日後には城に上がり、静について仕事を学ぶことになり、上層部の修羅場具合に引いた。遊びに行くとかどうでもいいから、ゆっくり休んで欲しいと思い直した。
雅客的にはホモ君は上司だけど歳の離れた弟みたいなポジションとして見てます。ホモ君の方が優秀なので特に頼られたりとかないし、怒られたりとかしてるけれども心配なものは心配なので。
道元様や勘太郎がいるので、最初の頃と違い一人で嫌われ役する必要がないから、ホモ君は割とストレスフリー。
ヤベェこと考える時も、道元様というもっとヤベェ人がいるので、相談が出来るのがなにより楽。
ストレスよりも仕事量に殺されそう。