新しい駿城である蓬莱城が完成し試運転を終えた為、本日は出発式となっている。奪還作戦よりなにかと世話になっている宍道駅まで行き、宍道駅周辺のカバネ狩りをするのだ。
記念すべき初運行となる為、菖蒲と来栖を乗せ、カバネリ2人、吉備土、樵人、仁助、歩荷、雅客、瓜生以下狩方衆、その他武士の半数を動員することになっている。
「ということで、雅客。お前は狩方衆担当だからよろしく。上手いこと取り持ってくれ。」
「は?はぁあぁっ⁉︎」
最上に狩方衆担当を命じられた雅客は仰天した。
最上は留守番組である。留守番組唯一の前衛が、前衛最弱ではあるが駅内なので問題はない。
最上が前衛として戦わなければならないとすれば、多数のカバネが入り込んでいるかワザトリが入り込んでいるので、そもそも異常事態である。そうならないように武器の配備や検閲の見直しを実施してきた。
鈴木の開発した機関銃は掃射筒と名付けられ、跳ね橋付近や、城、操車場を担当する武士達に配備されている。
検閲所には、以前の様に審議司を配置してある。以前の審議司は、カバネに噛まれた者がいないか確認する武士達の取りまとめをしていたが、今の審議司は検閲所へ駿城が入るための判断から、万が一駿城に取りついてカバネが入り込んだ時の防衛の指揮を取るのが主な仕事である。勿論検閲の取りまとめもするが、主目的が防衛の指揮の為、武士の中から選ばれた6人が3人ずつそれぞれの検閲所に配置され、三交代制となっている。
厳しい審査の元選ばれた6名であり、検閲所担当者は全員審査に参加した為、誰もが6名を認めている。
なにせカバネ役をしたのが前衛組だったので、検閲所担当者は審査の時地獄を見た。検閲所担当者曰く一番カバネ役で優しかったのは生駒である。
出発式は朝から行われた。
「叔父様。勘太郎さん。最上。顕金駅をお願い致します。」
「こちらはお任せ下さい菖蒲殿。記念すべき初運行の成功をお祈りしております。」
道元達に見送られ、菖蒲達は宍道駅へと向かって行った。
艦橋に集まりこれからの活動の確認が行われた。
「それでは皆さん。これから我々は宍道駅へと向かい、宍道駅にて挨拶を終えた後、宍道駅周辺においてカバネの討伐を行います。カバネの誘引は無名さんにお願いします。」
「うん。最上さんからこれも預かってるから余裕余裕。」
無名が掲げるのは陶器の瓶で、奪還作戦に使用した物と同じである。
新鮮さが重要かは分からないが、新鮮に越したことはないだろうと宍道駅に着いたら、宍道駅で一度降りる商人などから血液を提供してもらう事になっており、採血は仁助が担当する。
「宍道駅から出発し、一里程の位置でカバネを誘引し討伐します。線路は東西に延びておりますので、南北に瓶を投擲する予定になっています。」
「姫さん。想定よりカバネが集まって融合群体にでもなったらどうするんだ?」
「一時的に顕金駅方向に移動しつつ、鎮守砲で散らして討伐予定です。最上曰く擲弾発射器もありますので容易だろうとのことでした。他に質問等はありますか?」
特に質問をあげる者もおらず、宍道駅に着くまで解散となった。
「侑那さん。蓬莱城はどうですか?」
「設計の段階から噛ませてもらっているので使いやすいですよ。それに総重量が軽いので速度も出ます。宍道駅までは平地の直線が多いので、甲鉄城より半刻は早く着きますよ。」
「まあ。そんなに違うのですね。使いやすいのならなによりです。」
菖蒲は機嫌の良さそうな侑那と笑顔で言葉を交わす。
一方顕金駅では、甲鉄城が分解修理にまわされていた。今までの旅路と違い部品をしっかり交換できるので、これを機に綺麗に修理する事にしたのだ。
旅路で継ぎ接ぎの部分も多い。旅の最中は足周りを優先し、車体は二の次であったのでそのあたりも手をつけられると蒸気鍛治は喜んでいた。半年以上も乗り続け、自分達の手で何もかもを手掛けてきた為、蒸気鍛治達にとって甲鉄城は思い入れが強いのだ。
顕金駅を奪還したら、至る所に駆り出され跳ね橋も蓬莱城も手掛けてきたので、甲鉄城は最低限の修理しか出来なかったが、今回蓬莱城が完成したことで、最上達から甲鉄城を徹底的に整備する権利を獲得した。
武士達がごっそりと出かけているが、検閲所や奉行所などは凡そ通常通りに武士の姿がある。城の中はかなりすっからかんだが、数日程度ならば問題ない。武士達の不在の間に、役人の1人は不慮の事故で亡くなり、使用人の1人が盗みで拘束されたが、それ以外の問題は発生しなかった。
亡くなった役人は、元々下緒達の報告から怪しい動きをしているなと目を付けていた。流民から即戦力として採用した人物であったので、引き渡しをした駅に道元が書状でその人物の背景を確認することになっている。
菖蒲達は順調にカバネを討伐していった。前衛を出す前に、有志で参加した民人に掃射筒を試させたが、中々の成果を得ており民人達にも好評だった。
宍道駅から乗車させた宍道駅の家老も掃射筒には興味深々であり、購入を希望したことから領主と相談後契約の運びとなった。前衛組を前に出してからは、前衛組の獅子奮迅の働きに家老は大変引いていた。
カバネの金属被膜はなにかと消費するので、討伐したカバネから金属被膜を回収し蓬莱城へと積み込んだ。
夕刻までカバネを狩り、宍道駅で一晩過ごして蓬莱城は帰途についた。蓬莱城の皆の顔は明るいが、雅客だけは疲れた顔をしていた。武士達と瓜生が揉めないように間に入り、仲を取り持つのに必死であったためだ。見かねた仁助も途中から手助けをしていたので、どうにか喧嘩にならずにすんだ。
瓜生の皮肉や軽口は割と核心をついていることがあるので、生駒や武士達はカチンと来やすいのである。
来栖はそんな雅客や仁助を見て、雅客と仁助を入れれば瓜生は編成可能と帳面に書付けた。
菖蒲達が顕金駅に戻ると天祐和尚が経を上げていた。何事かと天祐和尚の近くに居た道元に声をかけると、役人として働き始めた男が、事故で亡くなったことを菖蒲に報告した。夏であることから早朝のうちに火葬をすませてしまったとのことで、集合墓地に納骨するため天祐和尚に経を上げてもらっていたのだと言う。
「そのようなことが…。」
「菖蒲殿のご不在の間にこのようなことが起こり、面目次第もございません。」
菖蒲が悲しそうに目を伏せると、道元も目を伏せて謝罪をした。
「いえ。事故では致し方ありません。」
来栖は菖蒲と道元が話しているのを聞きながら、これは本当に事故か?と疑問に思った。夏ではあるから仕方ないが焼くのが早過ぎはしないだろうか。元々本日中に菖蒲は戻る予定であったのに、早朝に焼いてしまう必要はあっただろうか。
ちらりと周囲を窺うが最上の姿はない。事故でないなら最上が何か知っているだろうから後で確認することにした。
菖蒲達は納骨に立ち会った後、城へと引き上げていった。
「事故か。ほんっいったぁ‼︎」
雅客も来栖と同じところが気になって、その場で口に出そうとしたところを瓜生に後ろから蹴り飛ばされた。
「事故で死人が出たくらいでガタガタ騒ぐなよ。事故死したのが子犬ちゃん達ならわかるがよ。」
転倒した雅客は言い分はまだしも、蹴られたことに文句を言おうと顔を上げたところ、瓜生は口調では嘲笑っていたものの目付きが厳しい。
これは事故に触れるなということかな。となんとなく察した。
「そりゃ悪かったが蹴らなくても良いだろ。」
雅客は気を取り直して、ぶつくさ文句を言いながら起き上がり服についた汚れを払った。
「鬱陶しい。死んだのは流民上がりだろ。弔われるだけマシだと思うけどな。」
瓜生の言いように武士達の視線が鋭くなる。
「瓜生。もう黙れって。ほら最上様のところに報告行くぞ。恙無く終わりました。って報告せにゃならんのに、ここで揉めるのは勘弁してくれ。」
雅客は瓜生の背を押してその場を離脱した。
「おい。お前。おっさんが事故だって言ってんだから触るんじゃねぇよ。」
「いやすまん。助かった。」
2人きりになってから、瓜生が面倒くさそうに忠告してきたため、雅客は素直に礼を言った。
最上の執務室の前で、雅客達は来栖とかち合ったため一緒に執務室に入ることにした。
「最上。事故のことだが…「少し待て。もう終わる。」
最上は、書き上げた書類をヒラヒラと乾かして服部に渡した。服部は書類を受け取ると、脇に置いた盆の書類の束に重ねると盆を持ち上げ退室していった。服部の足音が遠のいてから最上は口を開いた。
「事故がなにか?」
「あれは本当に事故か?焼くのが早くはないか?」
「そうだな。道元様の使う予定の水差しに何かしていたのでな。試飲させたんだが、その後事故に遭ってしまってな。夏だし。早く焼いてしまわないと虫が湧くから仕方がなかったんだよ。」
最上はにっこりと笑ってそう言った。
菖蒲には、階段からの転落死と報告していたので、毒を自ら呷らせた後に何処かから落としたのだろう。事故ではなく完全に殺しにいっているが、道元と最上が事故だと言うなら事故なのだ。
「ふむ。事故だな。」
「子犬ちゃんよ。こいつのことちゃんと躾けておけよな。疑問がすぐに口をついて出るのよくないぜ。」
「それは失礼。だがそれの群れの頭は、お前の隣の忠犬の方なんだがな。」
来栖は何があったか把握していないが、雅客が反論しないことから瓜生に分があるのだなと理解した。
「なんで病死ではなかったんだ?」
「おや。変なことを聞く。ちゃんと遺体を発見した者もいるし、どう見ても死に至る外傷があるのだから、楓殿にお出ましいただく必要はあるまい。」
わざわざ落として死体の発見者を拵えてまで、楓を一件に関わらせたくなかったらしい。
「そういえば蓬莱城はどうだった?」
「宍道駅までの時間を半刻程短縮できた。侑那が言うには曲がり道が多いところではそこまで変わらんらしいがな。」
「まあそうだろうな。速度が出ればその分脱輪の可能性が上がるからな。…しかし半刻は大きいな。出来るだけ軽くさせた甲斐があった。掃射筒はどうだった?」
「結構うるさいな。撃ってる最中は指示が通らん。」
「それは考えてなかった。最低限の合図を決めておくか。」
雅客は普通の会話に戻った最上と来栖を見ながら、なんだかんだ来栖は清濁併せ呑めるから、最上とそれなりに仲が良いのだなと思った。
迂遠なネタばらしに立ち会えてる時点で、雅客もその枠に入るのだが本人は気が付いていない。
家老三人衆まっくろくろすけの回。