「本日はカバネが駿城に取り付いたまま検閲所に入ってしまった想定で訓練を実施する。3人一組で内1人を指揮官にせよ。検閲所の審議司を決めるための審査でもある。指揮官には応問があるのでそのつもりで。」
武士達は30人いる為、十組できる計算である。30人の中で一番年嵩の武士が、年長者から10人選びその下に2人ずつつける案を出し採用となった。
応問は指揮官のみ呼び出され、訓練のために駐車されている甲鉄城の中で1人ずつ行われた。城主役の道元が中々に意地の悪い要求などをして、どう対応するかを確認したのだ。道元、最上、来栖、吉備土が採点をそれぞれ手持ちの資料に書き込んでいく。
10人の応問が終われば、次は実技である。二組を一班として実施し、一回りしたら二組の組み合わせを入れ替える。
武士達は訓練用に開発されたゴム弾を撃つが、カバネ役の前衛組は無手で、武士達の腰部に差し込まれた手拭いを抜くことで殺害認定である。なにぶん手加減が下手そうな者がいるので、安全の為その設定となったのだ。避難する民人役として、手の空いている民人などに時間を区切って参加してもらう。民人も手拭いを付けるのでカバネ役は民人も殺すことができる。
一班目は実技審査のやり方がわからないため、前衛組から好きな相手を選ぶことができたことから、一班目は最上を選択した。
武士達からすれば、前衛組最弱は最上なので当然の選択であったが、この訓練では臂力はあまり必要ないので、来栖より少しばかり速い最上は、厄介な方なのだが指名した者達は気がつかなかった。
訓練が始まってすぐに最上は民人3人から手拭いを抜き取った。
民人を背にして武士達へと向かう。蒸気筒を全員に向けられたが、背後に民人がいる為指揮官が撃つなと怒声を上げている。最上はそのまま指揮官に突っ込み手拭いを抜き取った。
もう1人の武士から手拭いを抜き取ったところで、もう1人の指揮官から発砲の指示が飛ぶ。手拭いを抜き取ったばかりの武士を盾にした後、がなる指揮官へと駆け出した。距離が近い為焦って引き金を引き狙いが甘い。殆どが外れである。銃口の向きから当たりそうな一発だけを、引き金を引くタイミングに合わせて避け、擦り抜けざまに指揮官と横にいた武士の2人から同時に手拭いを抜き取った。
最上はそのまま後退し、民人らから手拭いを抜き取っていく。残された武士2人が右往左往している間に、民人全員から手拭いが抜き取られた。その後武士達も手拭いが抜き取られ、あえなく全滅となったのだった。
「蒸気筒も刀も持ってないと身軽で良い。」
そこらに投げ捨てた手拭いを拾いながら最上が笑う。
応問と同じようにそれぞれが採点されていく。
「カバネはカバネでもワザトリじゃないですか⁉︎無理無理!」
「民人にゴム弾当たったら大事故ですよ!何考えてるんです⁉︎」
一班目の武士から批難が上がる。
「入り込むカバネがワザトリじゃない保証はないし、実際の現場にも民人はいるぞ。甲鉄城に乗っていた者達なら避難するのも早いが、余所の駿城の民人が速やかに避難するとは思うなよ。避難の指示を誰も出してなかったな。避難させないなら、民人諸共撃ち殺すくらいのつもりでいないと駄目だ。さて二班目は頭を回せよ。全滅したくなければな。」
四班目まで全滅が相次いだ。五班目は生駒がカバネ役であった。生駒は弾を避けるとか、故意的に民人を背にしたりしないので、武士半数を犠牲に討ち取られた。
生駒はそもそも気持ちで実力の上下が激しく、そこまで気分が乗ってない時は弾を避けるなどできないし、民人が訓練とはいえ撃たれるのは嫌だと思って、正面から挑むので討ち取れたのだ。
その後3巡程する頃には、武士達もだいぶ慣れてきた。前衛組も何も本気でかかってくるわけではないので、ちらほら討ち取るのに成功し始めた。
応問も慣れてくれば、毅然とした態度で対応できるようになってきて、5巡程して訓練兼審査は終了となった。
人間である前衛組の3人はあちこちに痣を作ったが、今後の駅の防衛の為であるので致し方ない。
「あそこまでやる必要あんのかよ。あいつらも言ってたがワザトリかっつうんだよ。」
瓜生が自分の痣を確認しながら最上に問う。
「生駒が偶に言ってるだろ。無名や来栖より遅い。とかって。あれと一緒だよ。実際カバネが入り込んだ時に、余裕を持って対応してもらうためだ。我々より速いカバネも早々いないだろ。それに武士達は指揮をされるのに慣れすぎたからな。どうしようもない状況でも、自分達で責任持って指揮することにも慣れてもらわねば。」
「では道元様のあれもそういうことか?あの応問は己もやりたくない。」
「そうだな。道元様相手に毅然とした態度を取れるなら、大体大丈夫だろう。礼義さえきちんとしていれば、必要以上に謙ることはない。審議司が城主にやり込められると困るからな。お前らは見下されることに慣れすぎた。前でいうところの上侍と同じ立場にいることに、慣らしておかなければ舐められる。」
「ふむ。凡そ10年で染み付いた意識を変えるのは中々難しいな。」
「そうだろうが、顕金駅を守るには必要なことだよ。応問の訓練はまたやるとしよう。戦うより苦手そうだったしな。」
くすくすと笑う最上を見て、来栖は心の中で審議司候補に合掌した。
訓練中誤って撃たれた民人には小遣い程度の金子が支給された。無傷の民人から俺も当たれば良かったなどと軽口も出ていたのは余談である。
たぶん戦うより、城主に対する対応の方が大変だと思うんですよ。普通は駅でそれなりに偉い人が城主してると思うので、城主上侍VS審議司上侍とかだったと思ってます。年始の挨拶のために参勤してた時は領主も来たでしょうから、審議司も実力は置いといて、それなりの地位の武士をつけなきゃいけなかったんじゃないかなと。
顕金駅には下侍ばっかりなので、しっかり覚えたら手抜きとかせずに愚直にこなしてくれそう。