【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

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八代駅回。ちょっと長くなります。


八代駅の縁者

「八代駅の領主の縁者が名乗り出たってよ。今日謁見してるらしい。」

 

「うわぁ。道元様と最上様に圧力かけられてるのか。可哀想に。」

 

雅客の家に樵人が情報を持ってきた。欲を言えば詳細を知ってそうな城務めの面子も欲しいところである。

 

「お邪魔します。」

 

「おっ倉之助の声だな。」

 

「これは詳しく聞けそうだな。」

 

いつも武士達は勝手に上がってくるので、特に出迎えの必要はない。足音が近づいてきたが、2人分あるようだ。

襖が引かれ雅客達が顔を向けると、そこに居たのは倉之助と最上であった。

 

「邪魔するぞ。」

 

「最上様⁉︎何事ですか⁉︎」

 

最上は大変不機嫌そうな顔をしている。とりあえず、雅客は茶を入れることにした。

雅客は夕食後使用人を帰すことにしているので、茶を出すなら自分でやるしかないのだ。

 

「私が入れてきますよ。湯呑みは適当に選ばせてもらいますね。」

 

「おう。悪い。」

 

倉之助が流石の気遣いで、スッと厨の方へ消えて行った。むすりとした最上は勝手に席につく。

 

「それで?ご機嫌麗しくないようですが、欲しがっていた八代駅の縁者が名乗り出たから、ご不満なんですか?」

 

「違う。今の我々には八代駅に割く人員などほぼない。縁者が取り仕切ってくれるならそれに越したことはないんだ。」

 

「なら何がご不満で?」

 

「圧力かけられなかった…。」

 

「えっ⁉︎道元様と最上様が⁉︎どんなやばい奴が来たんです⁉︎というかあんたらが圧力かけられなかったような奴がいるのに、城から出てきちゃって良いんですか⁉︎」

 

「齢10の女子だった。」

 

「はっ?」

 

「齢10の女子に道元様と私が圧力かけるわけにはいかんだろう!正直に言えばいくつだろうと関係ないのだ!むしろ足元見てやれるんだ!来栖みたいな忠犬めいた奴にぎっしぎしに圧力かけたかった‼︎」

 

「とんでもねぇなこの人。鬼畜だよ。」

 

「でも絶対菖蒲様が齢10の女子に圧力かけるの良しとするわけないだろ!」

 

「そりゃそうでしょうよ。」

 

「むしろ女児に圧力かけたかったって言う最上様に引いてますよ我々。」

 

「海門と一緒だ!慈善事業だ!糞食らえ!」

 

「凄い荒れてるじゃん。」

 

「こんな荒れてるの初めてじゃないか?」

 

「10の女子と来栖みたいな忠犬が政できるわけないだろうが‼︎しかも手勢は50そこそこだ!碌な人材はいなそうだし、うちにおんぶに抱っこで奪還する気か⁉︎あの娘ダメ元で再興とか言ったぞ絶対に‼︎菖蒲様は乗り気だし‼︎」

 

最上が卓を両手で叩きながら突っ伏した。

 

「…確かにそれはそう。」

 

「えっ?奪還自体は良いとしても、その後どうするんだ?無理では?」

 

「奪還だってなぁ。無料じゃできんのだぞ。いくら出費すると思ってる?」

 

「ああ…。というかそこまで無理なら菖蒲様をお止めするべきでは?共倒れは流石に嫌です。」

 

「方向性は修正した。一応な。」

 

「だったら何が問題です?」

 

「海門と一緒ですよ。」

 

倉之助が湯呑みを4つ盆に乗せて戻ってきた。

 

「海門と?」

 

「連合軍にするんですって。」

 

「なるほど。他の駅にも付き合わせると。」

 

「ん?どこが音頭を取るんだ?八代?」

 

「うちだよ‼︎取れるわけないだろ八代に‼︎ほぼ流民の体でやって来たぞ‼︎」

 

「えぇ…。」

 

「うちが音頭取るのに、他が利権をさらってくって何⁉︎くそぉ…。」

 

「倉之助。最上様酔ってる?」

 

「素面ですよ。」

 

「…そうかぁ…。」

 

「道元様は?」

 

「菖蒲様を説得してます。勘太郎様と書類を積み上げて。」

 

「道元様も本気じゃん。でも方向性決まったのに何を説得するんだ?」

 

「利権の話と、期間の話です。」

 

「うちがそもそも周りの駅をあんな風に巻き込めたのは、四方川の威光と、顕金駅の特異性と、道元様の半年の準備期間あってこそだ。八代駅にはどれもない。炭鉱の権利くらいしか差し出せる物がない。うちが流民の受け入れを条件にしたから同じ条件は使えんし、その手札なんか切っても八代じゃ支えきれん。炭鉱の権利を切り売りしきれば今度は八代が保たない。完全に周囲の駅で割譲してお飾り領主が関の山だ。海門の最低な場合の再現だな。」

 

「うわぁ。…期間とは?」

 

「うちは20日を目安に奪還を計画したが、それだって人数をうちだけに抑えた計画だ。そんな日程だってやるならかなりの食糧が必要だった。連合軍じゃ人数は嵩むし、うちの普段の戦い方じゃ他駅はついてこられない。連合軍にする以上は体裁は整えなければならん。足並みを揃えると時間もかかる。ほぼ流民状態の八代の縁者に用意出来るとでも?今年はうちが周囲の駅から買い上げているから、周囲の駅だってそこまで余裕があるわけじゃない。立ち寄る駿城にも食糧を提供したりするわけだからな。」

 

「ということは?」

 

「今年の奪還は諦めろってことだ。」

 

「なるほど。その説得は最上様は居なくて良いので?」

 

「利権の一切を投げるおつもりなら、献策致しかねますって言って出てきちゃったんですよ。」

 

「うわぁ…。」

 

「大丈夫なんです?」

 

「大丈夫ではないなぁ。だが何度も言っているが、慈善事業じゃあないんだよ。うちだってかなりかつかつなんだ。1人くらい匙を投げなきゃ菖蒲様も考え直すまい。意外と頑固だからな。私が投げても道元様達がいるから菖蒲様は問題ない。」

 

「計画的に匙を投げてきたってことですか?」

 

「一応な。」

 

「道元様や勘太郎様ではダメだったんですか?」

 

「道元様も勘太郎殿も八代駅のあの状況は見ていないし、カバネとの戦い方にも明るくはない。奪還作戦を立てるなら私だろう。純粋に殺すだけなら来栖でも構わないが、糧食やら物資の都合もある以上は適任は私だ。なら献策に適した私が投げるのが一番効果はある。忠誠を疑われるのは嫌だが…はぁ。」

 

最上は深いため息を吐いた。

 

「家老職退いて審議司でもしようかなぁ。」

 

「待って待って!」

 

「何言ってるんですか⁉︎」

 

「いやそもそも私が家老の役割してる時点でどうかと思うがな。人材不足を喧伝してるようなものだぞ。そのくらいうちは拙い状態だと認識してほしい。あー。疾風に乗って駅中を疾走したい。」

 

「現実逃避やめてください。」

 

現実逃避しながら、ちびちび茶を啜る最上を3人は微妙な顔で眺めることになった。

 

 

一方城では、

 

「菖蒲殿。先程申しました通り、まず今年中の奪還は無理です。そこはご理解いただけましたか?」

 

「ええ。ですが連合軍にしては八代に炭鉱の権利が殆ど残りません。せめてうちの分だけでもと…。」

 

「奪還後、あの者達に政ができるならうちだけが協力して、少しばかりの利権を頂戴する形で良かったのです。ですが到底政を上手く出来るとは思えません。うちとて役職相応の仕事ができている者がどれほどおりますか?顕金駅に余裕があれば、役人を十人程度派遣してもよかったでしょうが、うちに手放せる余裕はありますか?」

 

「…ありません。」

 

「であれば各駅から共助してもらうよりありません。取り戻したから人だけ貸してくれとはいきません。連合軍として取り戻した後、利権を割譲するために人を派遣させる。このくらいしか出来ないのですよ。」

 

「ですが…。」

 

「信賞必罰ですよ。何事も功績を上げたら賞が必要です。」

 

「はい。」

 

「うちが協力するなら利権は必要です。先程見せました通り顕金駅の財政も潤沢ではありません。菖蒲様の御心は理解出来ますが、出費は補填せねばなりません。甲鉄城では最上君が随分と財を都合していたようですが、再興にあたりそういう次元ではなくなっております。来栖君以下の武士達が納得しても我々は納得致しかねます。海門でのことは伺いましたが、あそこも今頃苦労はしているでしょう。ですが元々の民人が400以上はいるのでしょう?まぁなんとかならない程ではない。八代は学も碌にない者が50そこそこしかいないのですよ。うちの六頭領のような者もいないではありませんか。」

 

「しかし顕金駅にも八代の民人はおります。誰もが故郷に帰りたいものではありませんか。」

 

「あの娘がせめて菖蒲殿程の齢であればそうでしょう。それか顕金駅に居着く前ならばそうでしょう。既に生活基盤の整い始めたここから出て、先行き見えぬ幼い領主に着いて行きたい者がいかほどいるか。まして今の今まで名乗り出ておりませんでした。そしてうちにいるのは八代駅に置き去りにされた民人ですぞ。民人も複雑な心境になるでしょうな。」

 

「利権を取らねば叔父様も納得できませんか。」

 

「勿論です。菖蒲様。私からすれば、海門でこれといった利益を上げていないことすら気にかかっておりました。しかし最上君が何も言わないのであれば、私が言うことではありません。ですが今回は利権を取らぬなら、最上君は献策致しかねるとのこと。最上君を今の職から落とすのか、利権を取るかよくお考え直しください。」

 

「何故最上の職が関係あるのですか?」

 

「家老が仕事を投げる覚悟で進言したのです。その意見を無視するなら、もうお前は要らぬと言うことです。」

 

「暴論ではありませんか⁉︎」

 

「ですが最上君はそのつもりで投げております。最上君がどうあれ我々は仕事を続けます。最上君1人いなくともどうとでもなります。一晩よくお考えください。朝議の場でお伺い致します。」

 

「…わかりました。」

 

道元と勘太郎は資料の束を回収して、退室して行った。

 

「…来栖。どうすべきだと思いますか?」

 

「最上は今まで四方川家の為に尽力して参りました。あれが利権を取らぬなら献策しかねるというなら、利権を取る方が良いでしょう。」

 

「そうですね。」

 

「ですが、道元様達はともかく最上は甘い方だと認識しております。」

 

「?」

 

「ですので何か考えてみましょう。己だけでは足りません。助力を請いましょう。」

 

「どなたにですか?最終的に行き着くのは政の話です。あの3人から反対されてることに対抗するとなると、顕金駅にはいらっしゃらないのでは?」

 

「暫しお待ちいただけますか?」

 

菖蒲が頷くと来栖はスッと下がって行った。

 

 

翌朝、朝議の場にて各所の代表が集められ昨日の八代駅の親族の件が説明された。昨日の騒動を伝え聞いた者たちはどうなるのか、はらはらとした心境で窺っている。大体の者は上層部の空気に困惑しているが、何故か一部の者は能天気そうな表情を浮かべている。

 

「菖蒲様。お決まりになりましたか?」

 

「はい。」

 

道元の問いかけに、菖蒲は昨日と打って変わって明るい表情で返事をした。

家老を担っている3人衆は、おや?と疑問に思った。昨日迫った決断で表情が明るくなるとは思えないからだ。

 

「まず八代駅の奪還時期についてですが、今年中に八代の者と我々で奪還します。」

 

「「「!?」」」

 

「そして八代駅を我が顕金駅の属領とします!」

 

3人衆は理解が追いつかないのか、反論することなく虚をつかれた顔で話を聞いている。

 

「最上!これが私の出した答えです!どうですか?」

 

「は…。いえ!今年中は無理だと説明があったかと⁉︎属領?無茶を仰らないで下さい!共倒れと説明したはずです!」

 

最上は取り繕う事なく焦った表情で反対する。道元と勘太郎は未だ呆然としている。

 

「八代駅に人が住まねば良いのです!」

 

「何をおっしゃっているのか全くわかりません!再興するなら人が住まねば不可能です!」

 

「再興せねば良いのです!」

 

「菖蒲様⁉︎再興しないならなぜ奪還するのです⁉︎八代の姫は再興を希望していたはずですが⁉︎」

 

「奪還の後、炭鉱の採掘のみ復興します。駅の警備は八代の者の一部が行います。採掘にだけ通えば良いのです!通う際は八代の駿城を使います。その他の八代の者達は当分顕金駅に住んでいただきます!再興は数年後に目指しましょう!」

 

「は?」

 

最上が完全に固まっていると、隣に座る道元が大きい笑い声を上げた。勘太郎も身体を震わせて笑いを堪えている。朝議に参加していた阿幸地や瓜生も、声は上げないものの完全に笑っている。

 

「はっはっはっは!菖蒲殿!一本取られましたな!八代駅はあくまで壁に囲まれた出勤先と言うことですか!」

 

「そうです。八代の者達には政が出来るようになるまで、顕金駅で役人見習いをしてもらいます。それまでは八代駅はあくまで出勤先。政の必要はありません。駅には最低限の者のみを置き、それ以外の者は採掘期間を除き、皆顕金駅に帰宅していただきます。」

 

「…出勤先?…役人見習い?」

 

最上は未だ理解が追いつかない。

 

「これではダメでしょうか?」

 

菖蒲が困った顔で首を傾げた。

 

「はっはっは。いや参りましたな。最上君いい加減追いついてきたまえ。」

 

道元が最上の背をばんばんと叩き、最上が目を白黒させる。

 

「要はただの採掘場所として奪還して採掘に通うという事ですか?跳ね橋の上げ下げの人員のみを残して?」

 

「そうです。」

 

道元の反応から自信を取り戻した菖蒲が、自信ありげな表情で返事をする。

 

「ただの出勤先では収入は顕金駅に全部入りますが?」

 

「あっ!」

 

しまった!という顔をした菖蒲に最上も笑う。

 

「まあいいでしょう。…ふっ。」

 

「わっ笑わないで下さい!」

 

「…ふふっ。失礼。では収入の6割は顕金駅で。」

 

「だっダメです!1割です。」

 

「それでは利益になりません。養う分や教育費もあるのですよ。では5割で。」

 

「将来的に八代駅にはお金が必要です!2割で!」

 

「4割。これ以上は譲れませんな。」

 

「ええっと。…あっ!八代の者に蘭学に明るい者がいます!蘭学の教示を頼むということで!3割で!」

 

「ほう…蘭学…。では3割で。」

 

菖蒲は3割に落ち着いたことで、表情をパッと明るくして満面の笑みで来栖を見た。

 

(もしや来栖の助言なのか?)

 

来栖は身体の前で拳を握って力強く頷き、はっとしたように顔を染め目線を逸らした。

 

斯くして八代駅の奪還についての大まかな方針が決定した。

 

 

朝議の後、最上は来栖を捕まえた。

 

「それで?誰の入知恵だ?随分大胆な案だったが。」

 

「八代の者達は勿論だが、瓜生と阿幸地だ。」

 

「あの娘やはり強かだな。…しかしすごいの捕まえてきたな。」

 

「最上の阿呆面を拝みたくないかと誘った。」

 

「おい!だからあいつらあんなに笑ってたのか!」

 

「それ以外に奇策を出せそうな奴が思い至らなくてな。」

 

「よくもまあ…。奇策の自覚はあるんだな。余所者の瓜生と、あまり深くは噛ませたくない阿幸地殿だが良いさ。お前がそこから意見を引っ張り出したことの方を評価しよう。私の阿呆面目当てだとしてもなぁ。」

 

「よかった。家老職の3人が激怒する可能性もあったからな。」

 

「そう思っていながら踏み切ったのか?菖蒲様は意外と思い切りがいいな。」

 

「昨夜席を外したのがお前だったからいけるかと思ってな。」

 

「私だから?」

 

「あの時匙を投げたのが道元様ならたぶん試さなかった。お前はなんだかんだ甘いじゃないか。下手に絆されんように外したんだろう?万が一道元様が激怒したら最上が助け船を出してくれるだろうと思ってな。」

 

「えぇ…。そういう捉え方だったのか…。」

 

「違ったのか。」

 

「違うが。…まあいいか。後で細々詰めねばならんことがある。臨時の領主は勘太郎殿か私のどちらが行くかとかな。」

 

「臨時の領主?」

 

「おい。いくら最低限しか人を置かないとしても必要に決まってるだろう。余所の駿城だって立ち寄るんだから。」

 

「⁉︎」

 

「お前…朝議で細かく話を詰められたらどうするつもりだったんだ。」

 

「瓜生に最初から勢いよく行けと言われた。下手に自信なさげだと詰められるから一気に説明しきれと。」

 

「あの野郎。穴だらけなのわかってるじゃないか。」

 

「そんなにか。」

 

「臨時の領主もそうだが、立ち寄った駿城は生きてる駅だと思って寄るんだぞ。甲鉄城で旅してた時に、立ち寄った駅が炭鉱しか生きてなかったら困ったに決まっているだろうが。顕金駅まで頑張れと言おうにも山間部を抜けるんだぞ。高地からのカバネの襲撃だってあるんだ。なんの補給もなしとは行くまい。」

 

「それもそうだな。」

 

「本当に勢いだけだったんだな…。」

 

最上は呆れた表情ではあるが、怒ってはいない様子なので来栖はそっと息を吐いた。

 




ホモ君達・ホモ君が協力しないぞ!良いのか?ホモ君が協力しないと作戦立案が難しいぞ!

来栖達・絆されないように席を外したのかな?これはまだチャンスあるぞ!

直接言わないと全く伝わってない現実。ちなみに瓜生と阿幸地には伝わってます。

瓜生達・勢いで突き崩せ。利益が出るなら釣れる可能性ある。結構穴だらけではあるけど、家老3人衆はたぶん乗る。ダメだったら知らん顔しよ。

連合軍パターンの利益無しでホモ君が家老職を降りた場合、各方面多少縮小すればなんとかなります。諸々1年くらい遅れが出ますが崩壊まではしません。道元様が優秀なので。
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