【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

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八代駅の縁者2

菖蒲の執務室には、道元達と来栖と吉備土達数名の武士が集まった。

 

「まずは奪還時期についてです。早くても夏の終わり頃、遅くとも冬前です。」

 

「最上。日を置く理由はなんですか?」

 

「とりあえず八代の武士達がカバネと戦えるように鍛えねばなりません。掃射筒なども教えねばなりませんからね。それに八代駅との間の山間部のカバネも出来るだけ狩りましょう。ついでに食糧も狩ってきてもらいます。予定外の50人ですから、食糧確保も同時に進めましょう。」

 

「わかりました。」

 

「それと奪還後の臨時の領主ですね。立ち寄る駿城に対する説明などもありますし、なにより我々からすれば出勤先だとしても、属領であるならばそれなりの対応が出来る領主をおかねばなりません。そう考えれば勘太郎殿か私でしょうね。…八代駅の状況から考えれば、戦力的に私が行くのが妥当で「ダメです。」えっ?」

 

「ダメです。」

 

菖蒲が最上の言葉を遮って否定し、聞き返した最上にさらに笑顔で否定を告げる。

 

「いや…菖蒲様。そうは言われましても「ダメです。」…えぇ…。」

 

菖蒲は笑顔で否定するばかりで譲る様子は一切ない。菖蒲は最上を手放すつもりがないので、なんと言おうと認めない。さらに道元が最上に追い討ちをかける。

 

「最上君が行くだって?駄目だな。齢が足りん。」

 

「うっ。」

 

「いくら顕金駅の下につくといっても、領主が齢で舐められては堪らん。能力や武力があっても純粋に見た目の威厳が足りない。」

 

「見た目の威厳…。」

 

「菖蒲殿の為に私をここに残したいのは、そういう理由だろう。何故自分に適応されないと思った?海門でも舐められたのだろう。学習したまえ。」

 

「うぐっ。」

 

「私が城主ならただでさえ炭鉱しか生きておらず、駅がまともな状態ではないのに、臨時とはいえ領主が子供とはふざけているのか?と思うが。反論は?」

 

「ありません。」

 

(最上様可哀想…。)

(うわぁ…。)

(見た目はどうにもならんからなぁ…。)

 

勘太郎がスッと手を挙げた。

 

「では私が行くということで。」

 

「勘太郎を手放すのですから、ここにいる武士達にも相応の努力をしていただきますよ。」

 

武士達は道元の言いように震え上がった。家老3人衆から1人抜けるということは、その分を誰かがやらなければならない。道元達にその余裕はとうにないことはわかっているので、本来自分達が処理するべき分を処理できるように、知識の修得が本格化するということだ。

 

「最上君。」

 

「はい。」

 

最上が書物を山程持ち上げ雅客の前までやってきた。雅客の前に一度書物を下ろし、5冊程を雅客に渡した。

 

「これの写本を今週中に作成すること。」

 

「はい。…は?今週中⁉︎」

 

「今週中。部下と手分けしても良いぞ。八代のやつにも同じことをやらせるから写し終えたら一度返却しろ。一月で覚えて貰うぞ。詳細までとは言わん。概要は抑えて貰うからな。」

 

「えっ。」

 

最上は肩書きが要職の者達に書物を配っていく。最後に来栖の前に10冊程積んで席に戻った。

 

「死ぬ気で学べ。なに。カバネと戦うよりは優しいさ。本当に死んだりせんからな。写本は一週間。暗記に一月だ。勘太郎殿がいなくなった後に、八代駅と心中したくば手を抜いてもいいが、それが嫌なら死ぬ気でやれ。」

 

「最上!己の分だけ多くはないか⁉︎」

 

「来栖。勘太郎殿が居なくなるというのはこういうことだ。今まで我々が担ってきた防衛関係の決裁をお前に回す。そのために必要な知識だ。覚えられないとは言わんよな?無理なら諦めても良いぞ。菖蒲様をお守りする為の努力が出来ぬと受け取るがな。」

 

「お…覚えてみせよう。」

 

こうして武士達の勉強の日々が始まった。写本は手の空いている者達に手伝わせて一週間で終わらせて、ひたすら暗記の日々である。時折家老3人衆が決裁書類片手に訪ねてきて、どう処理すべきかの問題を出すので、写本片手にどうにかこうにか答えを出す。間違っていればその都度指摘される為、書き付ける為の帳面が手放せない。最近は家老3人衆を見るだけで、肩書き持ちの武士達は緊張するようになった。

 

家老3人衆も、本来なら仕事が落ち着いてからするはずだった武士達の教育が前倒しになりとても忙しい。八代の者達にも学ばせなければならず、このままでは誰か倒れそうである。

 

吉備土ら蓬莱城組は、顕金駅から八代駅の間のカバネ討伐を命じられ、ひたすらカバネ退治である。八代の者達も引き連れ戦い方の指南も行う。

 

稲が頭を垂れ始め、夏の終わりが近づいてきた。

 

 

八代の縁者の娘は国見菫(くにみ すみれ)といい、八代駅の領主だった者の姪にあたる。領主や民人の一部と駅から逃れ東海道方面を彷徨う中、民人や武士達がカバネとの戦いで命を落としていったのだ。領主もその中の1人である。道元が八代駅の領主や縁者を探しているのは小耳に挟んでいたが、財政も厳しく民人を受け入れる余裕などなかった。なにせ甲鉄城と違い武力に乏しく、持ち込んだ金目の物を売り払い食いつなぐ外なかったのだ。時には車両まで鉄屑として売り払った。

 

逃げ始めた頃は、丁度駿城が出発する直前であったので、領主と菫と護衛の武士が急いで乗り込んで、万全の状態で逃げ出せたのだ。黒煙を見て線路を破壊されては堪らないと、出発の為に既に乗り込んでいた者以外の民人を見捨てて逃げ出した。取引に使う為の金子や出荷用の石炭を大量に積んでいたこともあり、立ち寄る駅で金子や石炭で食糧を得た。領主の伝手で駅に長居させてもらい、日雇いの仕事をすることもあった。暫くはそうやって過ごしていたが、半年程前に領主がカバネに殺されてから足元を見られ、金子や石炭はあれど食糧が手に入らないことも多くなり、他駅で流民となることを選んだ者や、駿城内の揉め事で死んだりと数を減らしていった。特に駿城内の揉め事は地獄のようであった。民人は常に苛立ち、後方車両は日常的に人が死んだ。武士達は菫を前方車両に押し込み守り続けた。再興を目的として守り続けたのではない。自分達が結束し続ける為には、菫が必要だったのだ。菫を守り続ける間は、武士でいられる。菫すらも失えば、自分達も後方車両の民人達のように殺し合うことになるのだろうと思ったのだ。燃料が無駄だと見通しの良いところで火を落として過ごしたり、死んだ者の私物や人が居なくなり無人となった車両を売り払い、最早これまでかと考え始めた頃、顕金駅再興の話を聞いた。武士達はせめて菫だけでもどうにかならないかと、顕金駅を目指した。民人が居なくなり、菫と武士だけとなった駿城でどうにか顕金駅にたどり着いた。燃料もギリギリであった。

 

取り戻して四月程度だというのに、顕金駅には人が溢れ活気に満ちていた。見窄らしく流民のような自分達とは比べものにならなかった。どうにか領主の謁見を頼み込まねばと思っていたら、あっさりと要望が通り驚いた。知らせを聞き検閲所にやってきたのは、元服を迎えたくらいの青年であったが、審議司の者達に指示をしていることから、位は高いのだろう。青年は見窄らしい自分達を見て顔を顰めた後、そのままで謁見させるわけにはいかないのでと身繕いを要求してきた。操車場脇に湯屋があり、無料で使わせてくれた。菫は蒸気鍛治の女が女湯へと連れて行った。武士達は引き離されることを渋ったが、青年がそら自分が人質だとばかりに武装を解いて居座った。身繕いが済むと菫と武士3人が領主と謁見することとなった。

 

自分達を案内した青年のついた席を見て、彼は随分偉いのだなと気がついた。菫がどうにか挨拶を終えて、菖蒲に尋ねられて今までの旅路を辿々しく説明した。菖蒲や護衛と見られる武士は痛ましそうな表情を浮かべているが、家老に当たりそうな壮年の武士や、駅に迎えに来た青年などは冷めた目をこちらに向けていた。

領主の菖蒲なら、菫をそれなりの待遇で受け入れてくれるのではと期待した。2人が話を終えたら菫だけでも…と考えていたら、菫は八代駅を再興したいと言い出したのだ。今まで自分を守り通した武士達に報いたいと言うのだ。護衛の1人である空木(うつぎ)は感涙に咽び身体を震わせていたが、他の護衛はそうではない。色々なものをただ切り捨ててきただけで、報いてもらえるような働きではないのだ。それに再興するにしても何もかもが足りない。菖蒲はどうやら乗り気なようであったが、壮年の武士や青年はこちらをじとりと睥睨していた。とりあえず身体を休めるようにと、菫と護衛は城への滞在を許され、駿城で待つ者達は操車場の一角を間借りすることとなった。

カバネの襲撃に怯える必要はなく、食糧も提供され武士達は安堵で泣いた。

 

護衛の1人として城に滞在する芹矢(せりや)は、菫になぜ再興などと言ったのかと問いただした。

 

「だって貴方達私を菖蒲様に預けてしまおうとしたでしょう?1人になるのは嫌。」

 

「そのような理由なのですか?」

 

「そう。だってそうしたら私だけが恨まれ続けるのでしょう?嫌よ。一緒に恨まれて。一緒に苦しんで。貴方達だけで逃げないで。一緒に生きて。」

 

芹矢はハッとした。自分達は結束の為に菫を利用した。ここで菫を八代駅の領主の姪として保護してもらい、自分達は流民扱いで顕金駅に雇ってもらえればと考えていた。

顕金駅に住む八代駅の民人も、途中で下車した民人も武士一人一人など覚えていまい。しかし菫は八代駅領主の縁者として保護されれば、一生八代駅の呪縛から逃れられない。ここに至るまで菫を利用しておいて、自分達は菫を人柱にしようとしたのだ。他の護衛もその考えに至ったのか、全員で深々と頭を下げた。

 

「貴方達だけが悪いんじゃない。でも1人にしないで。逃げないで。お願いだから…」

 

菫は泣きながら訴えた。武士達は顔が上げられなかった。




菫ちゃんは、領主の弟の娘です。領主の弟が亡くなったため、領主の元で生活してました。領主の息子は八代駅で亡くなってます。菖蒲様と違って地獄の日々を過ごしてきたので夢見る少女ではない。再興はダメ元で言いました。どうしても再興したいわけじゃなくて、武士達を逃がさない口実がそれしかなかっただけです。一緒に生きて一緒に死んで。もちろん後で来栖に呼び出されて、菖蒲達と会議した時にそれは説明しました。瓜生と阿幸地にはクソ冷たい目で見られましたが。

八代メンバーは、技能持ちの民人や武士は早めに下車して他駅で雇われる道を選んでいるので、残ってるのは甲鉄城メンバーでいうところの下侍のような学が無い奴らです。蘭学の人だけ学がありますが、政はさっぱりできないので城に上がる面子には入っていませんでした。人材に飢えてる顕金駅でなきゃ蘭学が少しわかるからって評価されなかったので、売れ残ってました。まあ顕金駅でも別にすごい欲しかったわけでもありません。菖蒲にのってあげただけ。

ホモ君が言っていた菫ちゃんの忠犬は感涙に咽び身体を震わせていた空木君です。菫ちゃんを女湯に連れてく時に、引き離されることに一番ごねたのも空木君。来栖と違ってめっちゃ強いとかでもない。ただただ菫を大好きな忠犬。


名ありのオリキャラめっちゃ増やしてごめんなさい。流石に名無しでは無理があったので。
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