菫は元上侍の屋敷に移り、武士達も長屋からそちらの屋敷に移って行った。
菫は石炭を売った収入を得るまでは、仕事をするとして繕い物などを引き受け、武士達も役人として学びながら内職をこなしていった。
来栖の配下から八代駅に派遣される5名の当番が組まれた。派遣されると鍛錬以外は勉学に励むよう言われているので八代駅派遣は勘太郎塾と呼ばれている。
使用人も信用のおける者をということで、甲鉄城上がりの者だけで当番を組むことになった。最上のところからの見習いは例外としているが、城に上げても良いだろうと判断できた2人が隔月単位で行くことになった。八代駅から帰ってきたら城に上がれることになったのだ。
最低限の整備はせねばなるまいと、蒸気鍛治でも当番が組まれることになり、こちらも隔週交代での派遣となる。整備の仕事がない時は少しずつ各設備の整備をすることになっている。
人員の搬送は当初の予定と異なり、甲鉄城か蓬莱城で行う。八代駅の駿城は基本的には八代駅に常駐させておきたいからである。八代駅の駿城は人員交代の週とずらして石炭を隔週で顕金駅へと届けることになっている。こうすることでどちらかの駿城が毎週行き来することになるので、食糧などの物資の受け渡しが容易になるのだ。
八代駅の駿城は月に2往復、甲鉄城と蓬莱城のいずれかで月に2往復といった具合である。
最低限の人員でと計画した話で、沢山の人間が八代駅へと派遣される当番に組み込まれたことから、菖蒲は反省した。ここまで人が派遣されるとは思っていなかったのだ。よく考えたらわかる話ではあったが、勢いだけで進めてしまったのが良くなかった。
瓜生や阿幸地はある程度わかっていたが、まわせないようなら家老組が絶対許可しないのはわかっていた。愉快犯みたいなものである。
道元達はその辺りについての文句は、なにも言ってこなかった。勿論報告や伺いはくるが、文句はないのだ。菖蒲の望みをなんとか形にすべく、彼方此方に奔走して都合をつけていたのを知っているので、道元あたりがチクリと言ってくるのではと思っていた。
思い起こせば、顕金駅を脱出してすぐの葬儀の件もあわや全滅、海門の件も最上の負傷と甲鉄城の損傷があったが、最上の反対を跳ね除けて押し通した後、最上は特になにも言ってこなかった。
葬儀では因縁じみた内容だが阿幸地が、海門の件はこの間道元からチクリと言われたが、今回の件は誰も何も言ってはこない。
自分が押し通せば、反対していた者は黙って仕事をする。後から文句も言わぬ。お父様もそうだった。会議で反対意見が出ていても、ことが終えた後にお父様に文句を言う者などいなかった。領主なのだから当然だ。意見を求められれば忠言はするが、ことが終わった後に文句を言うなど不敬と言われてしまう。
これはいけない。あれだけ反対しておいて不満がないわけがない。朝議の場では面白がっていたが、両手を挙げて賛成するような話ではなかったのは流石にわかる。調子に乗りすぎた。困っている者がいると放っておけない。だが困っている者を助けて一蓮托生は自分がしていい選択ではない。
「…はぁ。あとで静に相談しよう。」
菖蒲は1人で反省しても、建設的な考えが出てこないので、後で菖蒲に厳しいことを言ってくれる静に助言をもらおうと決意した。
八代駅は炭鉱の町であり、顕金駅より元々の食糧の自給率が低かった。とりあえずは派遣員全員で100もいないことから、駅内の畑を使えばある程度は自給が可能であるが最初は顕金駅からの持ち出しに頼り切りとなる見通しである。最上達が行ったときに、秋に植えられる野菜などの種まきなどは、急いでしたものの暫くは駿城への食糧支援も不可能であることから、八代駅に立ち寄った駿城は、最低限の整備を行って速やかに顕金駅へと送り出すことが決まった。まあ道中のカバネは凡そ討伐済であるし、人員の搬送時も討伐予定であるのでなんとかなる見通しである。初回派遣される武士達には領主の屋敷の池の清掃が命じられた。その内池に川魚が入るのだなと武士達は察した。
八代駅は属領であり代理の領主は勘太郎であるが、正式には菫が領主の為派遣されている期間の給金は八代駅から出すことになっている。勘定方は余計な計算が増えて泣いたし、菫や菫の配下の武士達も帳簿に四苦八苦する未来がある。
道元と最上はこれを機に幾つかの決裁が手を離れた。まだ完全に管理職の者達に任せられるわけではないが、2人になっても仕事は今までの三分の二になった。
今まで、本来管理職が処理すべき仕事が10の内5が回ってきていたものを2程度になるように調整した。単純に2といってもピラミッド型を10分割した内の上位の2なので仕事は圧倒的に減ったのである。
勘太郎という事務戦力は減ったが、道元達の仕事も減った。今まで倒れそうなくらい頑張った甲斐があるというものだ。
来栖以下の武士達がひいひい言っているのを見てほくそ笑んでいる。
勘太郎も派遣先は暇なので、武士達はさぞ勉強が捗ることだろう。
八代駅は顕金駅の属領となり、顕金駅は石炭採掘の純利益の3割を得る。
菫や菖蒲がもっと手強ければ、良くて派遣員等の経費込みで3割だっただろうが、最上はかなり譲った様に見えてそうでもないのである。何せ派遣員の費用は八代駅持ちであるので、当初予定していた連合軍とは比べものにならない利益率であった。
まあ堅将が存命であれば4割を下回ることはなかったので、菖蒲に甘いのは確かである。
八代駅での採掘再開については、周囲の駅に蓬莱城で訪問した際に知らせることになっているので、そのうち八代駅に直接買付けに来る駅もあるだろう。
八代駅で八代の武士達は、凡そ半数ずつが交代で警備に着くことになる。そこから半々で跳ね橋につくのである。一応顕金駅でも検閲所担当者と訓練もさせたのでなんとかなるだろう。
万が一の際に備えて領主の館にはトロリーを常駐させ、いざという時はトロリーで操車場へと向かえるようになっている。馬も2頭置いておくことで、領主の屋敷に滞在する全員が至急避難できるようになっている。親鍵は勘太郎が管理するため、勘太郎が操車場へ行き着かねば、八代の武士達は駿城で逃げることも不可能である。
「なんとか目処がつきましたな。利益もかなりありますし、多少危険が伴うことを除けば良い結果でした。」
「そうだな。再興を先延ばしにできたのはよかった。うちに余裕があって、八代とうちだけで再興を目指した場合、諸々の経費を考えたら役人の給金はうち持ちで3割が良いところだったからな。経費すら持たずに3割は美味しい話だったな。」
「連合軍ともなれば経費込みで2割が良いところでしたしね。」
「多少の危険も蓬莱城で周辺のカバネを狩っておりますし、今後範囲を広めて今年中に、出雲のカバネを減らせれば大した危険もありますまい。」
「出雲の各駅には、噴流弾や手投げの擲弾や掃射筒も早く行商してしまおう。軽量化した蒸気筒は多少遅れても良い。行商は最上君に任せよう。」
「心得ております。各駅がカバネを殺せるようになり、蓬莱城が出雲を凡そ平定してしまえば、八代駅はなんら危険なく利益をあげられます。顕金駅の属領であれば他駅も嘴を挟むこともないでしょう。菫殿達が政ができるようになるまで再興もありませんから、ただただ利益を産む地となりましょう。」
家老3人衆は道元の執務室に集まって言葉を交わす。
「石炭の安定供給も得られたし、本格的に出雲平定といこうか。」
「そうですね。とりあえず私は出雲の各駅を行商しつつ、契約分の流民の受け入れと越冬の為に食糧を得て参ります。蓬莱城は基本的には顕金駅と八代駅周辺を周り、甲鉄城が戻った時には多少遠征をする形といたしましょう。まだ駿城が一城も長期間駅にない状況は民人も不安でしょうからね。」
「各駅がカバネを殺せるようになれば、他地域の者達に宣伝にもなります。多少設計図が広がったところで生産量はうちが一番でしょうから、買い付けにくる駅も増えるでしょう。それなりに広まるころには、軽量化した蒸気筒や新たに開発される武器も売れるようになるでしょうしね。」
家老3人衆の会話を部屋の隅で聞いている服部は遠い目をしながら思った。
(やっぱりこの人達怖い…。)
連合軍だった場合
炭鉱の利益
八代駅 4割(炭鉱以外の復興費用に
大体消える)
顕金駅 2割
他駅1 2割
他駅2 2割
役人は八代駅以外で占めるので八代駅はお飾り領主。他駅は流民を突っ込んできますので労働力は多少確保できます。
菖蒲様はこの2割を放棄しようとしてました。
「させぬ。」by家老3人衆
八代駅と顕金駅で復興
八代駅 7割(4割は炭鉱以外の復興費用で
消える上、残りの3割で人を雇
わなければ政どころか生活す
ら回せない。)
顕金駅 3割
復興で金は必要なので3割が良いところ、その上役人から民人まで派遣しないと何もかも回らない。顕金駅から回しても足らないし、顕金駅も人手不足。復興資金を考えると役人の給金は顕金駅持ちじゃないと無理。ホモ君が初期費用作り出してた甲鉄城と違って、初期費用0からなのでかなり無理ゲーな復興。不良債権抱えた形で顕金駅があっぷあっぷする。
今回の想定で領主が菖蒲ではなく堅将の場合
八代駅 4割(復興のために貯める)
顕金駅 6割
戦力も食糧も役人も採掘人も大概うちなんだからうちの利益が多いのは当然だよなぁ?文句があるなら流民になったら?別に協力する義理もないしな。後々他の駅と共同で奪還して、共同管理したっていいんだよ。
ヤクザ感あるけど、菖蒲様と違って慈善事業はしないと思うので。