周辺の駅に行商に出ていた甲鉄城が戻ってきたのは、2週間後だった。
米や豆類などの日持ちする食糧を中心に買い付けてきたようだが、家畜や薬、工芸品なども買い付けたようであった。商品として持ち出した武器は売り切っており、かなり機嫌の良い最上が見られた。
武器はわざわざ他駅の者を甲鉄城に乗せてカバネを殺してみせる実演販売方式をとった。
実演で殺して見せれば、武器の性能を見せられる他、多少の恩も売れるので丁度いいのだ。前衛が活躍しても仕方ないので最上と瓜生はもっぱらカバネ誘引係である。蓬莱城と違い血入りの瓶は使わない。なにせ人間しか乗っていないし、狩方衆以外は寄せ集めであるので。最上は思う存分疾風をかっ飛ばし、瓜生は蒸気バイクをかっ飛ばした。
狩方衆は教えるのが大変上手いし、商品説明もちゃんとできるので、取引はとてもスムーズにいった。
領主と会う時は、狩方衆の中から顔が怖い奴を2人借りて行く。菖蒲が来栖と吉備土を連れているのと同じような構図だ。とはいえ顕金駅奪還時に協力した駅であるので流石に最上を舐めてかかる駅はなかった。あの道元に仕事を任された者であるから当然であった。カバネ誘引係をしてみせ、偶にカバネを斬り倒し、カバネの金属被膜を瓜生と2人で回収して周るので、甲鉄城の城主はやばい奴の認識になった。
カバネリくらい飛び抜けて特殊であればそこまでではなかっただろうが、なまじっか普通の人間であるので余計怖いらしい。この場合来栖はどちらに分類されるかは不明である。
商人も連れて行っており、材料費の殆どかかっていない毛皮や木材などの取引を任せている。売値の1割が対価であるが、自分の仕事のついでにやるだけであるので商人にはウケが良かった。商人は組合を設立したらしく、最上から依頼される物の販売の利益は組合に集約され、組合員に分配される。なにぶん商人全てが出払う訳にはいかないので、誰が行っても損をしない方法がそれだったようである。
道中も特に困りごとはなく初行商は大成功であった。
回収してきた流民はいつも通り阿幸地にへと引き継がれた。
入れ替わりで蓬莱城はカバネ討伐の旅である。他駅周辺より山間部などを担当している。
顕金駅に戻って来れば最上には書類が待っている。減ったとはいえ2週間も不在であったので、道元と来栖では捌ききれないのだ。
「来栖。悪いが明後日は雅客を連れて、甲鉄城面子と樹木の伐採に行ってくれ。」
「承知した。」
来栖の目が輝いた。よほど道元との書類処理が苦痛だったらしい。
来栖経由で話を聞いた雅客も目を輝かせた。駅外作業がストレス発散になるのは顕金駅くらいだろう。普通なら死刑宣告であるので。
来栖達が伐採した樹木は製材担当に回された。ついでに栗拾いと柿の収穫もしてきたらしく最上にもいくつか手渡された。
いっそ開墾して駅外に畑でも作ろうかななどと考えたが、顕金駅は山々に囲まれているため獣害に遭う可能性が高い。
これから冬になり作物の収穫量はガタ落ちする。外に出ても獣くらいが精々だろう。予定外に増えた約50名を含めて、顕金駅には現在凡そ1550名である。
今年は天候に恵まれ豊作であった。それは顕金駅に限らず他駅でもそうであるが、冬季ともなればどこも食糧は出し渋る。現時点では飢える想定はないが、またいつ人が増えるかわからない。なにせ菖蒲は犬猫を拾うが如く人を拾ってしまうので。
「よし!久手駅に行こう!」
久手駅とは出雲の国の中で数少ない海沿いの駅である。堀へクレーンで船を下ろして川を下り海で漁業をする珍しい駅である。曳網などで漁をするので量が見込める。ただし川の行き来でカバネに襲撃されれば、間違いなく死ぬので偶にしかやらないのだ。一度に大量にとって干物にする。
蓬莱城を派遣して、周囲のカバネ討伐と警護をして大量に干物を作らせて、後で受け取りに行こうということである。
まだ行商にも行ってはいないし、領主も小賢しい性格ではないので吉備土に任せても大丈夫だろう。大きくは無い駅なので、掃射筒は売れずとも構わない。狙いは干物である。
菖蒲や道元に相談して久手駅派遣が決定した。2人には書状を作成してもらわなければならない。流石に現地に突撃してから、吉備土が交渉できるとは思わない。菖蒲と道元の書状があれば問題なく話は進む。
カバネ討伐から帰ってきた吉備土を捕まえて、道元と概要を説明した。
一応武器の類は持たせるが、まあ売れたら良いなくらいの気持ちである。
阿幸地経由で商人を呼び出し、乾燥済みの薪や炭、石炭を任せることにした。冬季に入るため、薪や炭はいくらあっても良い。顕金駅は元々4000人越えの駅であったし、炭焼き小屋には薪や炭が大量に保管されていた。炭は現在増産させている。品質はそこそこであるが、どこの駅でも大体駅に引きこもって10年で様々な物資不足に喘いでいるので質はそこまで問題ではない。
2日程休養させた蓬莱城の面子を久手駅へと送り出した。
「最上様やっぱり商人感ありますよね。」
「何度もいうが武士だぞ私は。」
服部は書類を受け取りながら、中々に失礼なことを言う。
「ところで何で宍道駅じゃなかったんです?あそこも宍道湖あるじゃ無いですか。」
「あそこは海じゃなくって汽水湖だからな。」
「汽水湖?」
「海水が混ざってるんだ。とはいえ海と比べれば塩分濃度はかなり低い。干物の保存期間を長くするなら塩を濃くしてよく干さなければならない。大量にとっても加工するための塩が足りない。その点海沿いの久手駅ならば塩も作ってるから問題ない。宍道湖はシジミが上手いが、量と保存期間的に食糧確保の意味としては薄いな。」
「へえ。というか川魚も取れるのに、大量に干物を手に入れる必要ありますか?」
「海から離れた駅に行商に行くときに持って行く。穀類に変えてこないとな。うちも元々はそうだったが、山側は魚もまともに手に入らん。護衛してやって川魚を取りに行かせることもできるが、それは蓬莱城でいい。甲鉄城は行商が主目的だから一々付き合ってられんし、甲鉄城の面子でそういうのはちょっと不安があるからな。」
「確かに甲鉄城は寄せ集めで構成してますもんね。」
「甲鉄城で売れるものは多い方がいい。」
「やっぱり商人では?」
「やかましい。」
4日後蓬莱城が戻ってくると、掃射筒は売れずに持ち帰ってきたが、塩を大量に買い付けてきていた。薪などを売った金で買い付けたらしい。吉備土曰く、同行した商人の勧めで買い付けたとのことであった。干物のことしか考えてなかったので、すっかり塩の買い付けを指示し忘れていたが、商人が気を利かせたらしい。吉備土の後ろでにこにこしている商人には、後で少しばかり褒美をやらねばならない。
甲鉄城ならば最上がいるが、蓬莱城の場合は戦力偏重編成なので商人の手助けが必須である。
後から商人を呼びつけたところ、組合での氷室の使用権を交渉された。一年で返却予定で氷室を1棟貸し出すことにした。氷室の使用権などかなり過ぎた褒美であるが、組合への褒美であるのでこれで一年は蓬莱城に乗る商人は吉備土にあれこれ助言する義務ができた。
氷室は2棟あるが、氷室など四方川家と上侍くらいしか恩恵はなく、六頭領あたりはおこぼれに与っていたようだがその程度である。
権利を有していた上侍もいないので、一年氷室を貸したところで問題もないし、蓬莱城で商人の口を借りられる方が大きい。
氷室自体は四方川の所有物であるが、菖蒲は快く許可を出した。
菖蒲に任せるとそのままポロッと組合に1棟あげかねないので、借用状況の管理は道元と最上が行う。
出雲の国の駅への行商は甲鉄城が、各地のカバネ討伐は蓬莱城が行う。八代駅を手に入れたことで、石炭も大量に手に入るので、ガンガン走らせることが出来る。ただし蓬莱城はカバネの金属被膜を手に入れる以外実利は薄いので出費が凄い。蓬莱城の面子は知らないが、勘定方が目を疑う金額が出て行く。その分甲鉄城が金を稼がねばならない。今回の久手駅のように蓬莱城が派遣されて利益を生むこともあるが、大半は甲鉄城が稼ぐことになる。
近接戦闘をするものが多ければ金属被膜刀なども売れるのだが、なにぶんカバネ相手に近接戦闘をしようというのは、ハードルが高過ぎるので商品展開は今のところない。
腕に覚えがあり、闘争心に溢れた武士など10年前に死に絶えている。それ以降の武士は基本的に蒸気筒の操法などに注力したので、刀で戦おうなどと酔狂な者はあまりいないのである。
「私は商人じゃない」byホモ君
氷室なんて1棟あるだけすごいんだろうけど、まあその辺はご都合主義で。