八つ時の菖蒲の執務室に静が饅頭を持って入ってきた。顕金駅ではサトウキビの栽培はしていないし、再興途中であり財政にも余裕がないため、砂糖は殆ど手に入らない。そのため大体八つ時に出てくるとすれば、山菜などを包んだおやきなどであった。
「菖蒲様。休憩のお時間です。」
菖蒲が卓の上を片付け、静が饅頭と茶を卓の上に置いた。
(今日は何の山菜かしら。)
菖蒲はまた山菜のおやきだろうと思って饅頭に小さく口をつけた。すると口の中に甘味が広がった。
「っ⁉︎…静!甘いです!これはどうしたのですか⁉︎」
「先日収穫された栗を使用した栗の餡が入っております。」
「流石に栗はわかります!ですがこれは栗だけの甘さでは…。」
「なにやら最上様が水飴を作られたそうなので、鯏様がそれを使ってお饅頭を作ってくださいました。」
「最上が?水飴を?…えっ⁉︎作れるのですか⁉︎」
「そのようですよ。まあそれはさておき、久しぶりのお饅頭ですからごゆっくりどうぞ。」
静はすっと下がって行った。
菖蒲は久しぶりの甘味を誰にも邪魔されることなくゆっくりと味わった。少し甘さは控えめではあるが、顕金駅に戻ってから久しく口にしていなかったお饅頭に舌鼓を打つ。
夕刻に菖蒲は最上の執務室を訪ねた。
「菖蒲様?どうされました?」
「最上。本日は最上のおかげで美味しいお饅頭が食べられました。ありがとうございます。」
「いえ。喜んでいただけたなら幸いです。」
「と…ところで、水飴を作ったと伺いましたが、よく作れましたね。」
「ああ…。馬鈴薯と大根で作れますよ。」
「えっ⁉︎馬鈴薯と大根⁉︎」
「まあ大量生産は無理ですが。丁度うちの庭に作った畑にあったので。」
「最上は凄いですね。」
「前に聞いたことがあっただけですよ。武器の行商が軌道に乗れば砂糖ももう少し買えますから、その時はちゃんとした饅頭を作って貰えますよ。」
「いえ。充分嬉しかったです。ですが私だけ甘味をいただいてしまって、少し申し訳ないですね。」
「それはよかった。一応阿幸地殿には作り方を教えたので、少量は民人にも出回るようになると思いますよ。嗜好品か薬扱いでしょうから高価には変わりありませんけど。現状馬鈴薯と大根は水飴を作るよりそのまま消費する方が多いでしょうね。」
「そうですか。民人も早く甘味を口にできるようになるといいのですが。」
「今はこの間の柿で、干し柿も作っているようですから大丈夫ですよ。アケビなども出回ったようですしね。」
「そういえば私もアケビやヤマボウシをいただきました。干し柿ですか。良いですね。」
「やはり駅の外に収穫に行けるのは大きいですね。冬になったらあまり恩恵はありませんが。駅内ではさつまいもも栽培中ですから、そのうち干し芋でも作るでしょうね。」
「干し芋もいいですが、その前に焼き芋ですね。」
「そうですね。楽しみです。ところで菖蒲様。そろそろ夕餉のお時間では?」
「あらいけない。静に怒られてしまいます。それではここで失礼致しますね。最上も早く家に帰って休むのですよ。」
「はい。これが終わったら帰宅致します。」
菖蒲はにこりと笑って退室して行った。部屋に控えていた服部は黙ってその様子を見ていたが、菖蒲が退室した後口を開いた。
「砂糖。高いですもんね。」
「そうなんだよ。だから早めに備前くらいまで討伐を進めたいんだがなぁ。」
「山間部ばかりですから中々大変ですね。まずは南下が先ですかね?」
「そうなるだろうな。まあ備後あたりでも砂糖の値は少し落ち着くとは思うが、安いに越したことはない。むしろ讃岐で大量に仕入れて、帰りがてら売り歩くのも悪くない。何処の駅でも砂糖は高く売れるからな。」
「暫くはやめてくださいよ。それ絶対長旅じゃないですか。」
「利益は絶対上がるんだがなぁ。」
「いくら仕事が減ったとはいえ、そんな長旅してたら道元様が過労で死にます。」
「家老だけに?」
「面白くありません。」
「悪かった。」
くだらないやり取りをしている内に、最上が仕事を終えたため、服部が書類を受け取り下がっていった。
本編で砂糖菓子出した私が言うことじゃあないんですが、あの世界で砂糖がまともに出回ってるのすごいなって思います。
この度ホモ君に水飴を錬成してもらいました。