「もがみさま。なにするの?」
「ちょっと実験をな。」
最上が朝餉の片付けが終わった厨で何かしているのを、子供達が覗き見る。小夜は遠慮なく声をかけて近寄っていったが、一之進と小太郎は厨の出入り口で様子を窺っている。
「こらこら。男子厨房に入らずですよ。」
出入り口でこそこそとしている一之進達を見つけた鯉が廊下から声をかける。一之進達は、最上が厨にいるため鯉と最上を交互に窺い見た。
「あら。最上様。何をされてるのです?」
鯉がひょこりと厨の出入り口から顔を覗かせ声をかけた。
「いやなに。ちょっと実験をな。それと鯉さん。男子厨房に入らずではなく、君子、庖厨を遠ざくる也だ。別に男が厨に入るのが悪い訳ではないよ。」
「あらそうなんですか?」
「君子は憐れみ深いので、動物が捌かれる姿が見えてたり動物の悲鳴が聞こえたりする厨房に近づくことは忍び難いということだ。本来料理番とか男ばかりだろう。まあ武士の子は料理を覚えるより他にやることがあるから、厨に入ることもないといえばないのだがね。ところで鯉さん。おろし金って何処にある?」
「ははぁ。そうなんですねぇ。おろし金ならこちらですよ。」
「ああどうも。」
「やる。」
「なら手を洗って来なさい。」
小夜が手を上げて手伝いを申し出たので、手を洗って戻ってきた小夜におろし金と皮を剥いた馬鈴薯を渡してみたが、どう見ても危ない。
「小夜。やっぱりやめとこう。手をすりおろしそうだ。」
「やる。」
小夜は一生懸命馬鈴薯をすりおろしているが、目を離したら手を滑らせそうで目が離せない。ちらちら様子を窺いながら馬鈴薯の皮を剥いていると、早々に疲れたのか小夜の手の動きがゆっくりになっていく。
(疲れたら取り上げればいいか。)
と様子を窺っていると、手を洗ってきた小太郎と一之進も厨に入って来て、3人で交代しながら作業を続けた。
晒をかけたどんぶりにひたすら馬鈴薯を擦っていく。
すりおろし終わったらどんぶりの中で晒ごと絞り、別の水を張ったどんぶりに晒ごと入れて少し揉み込んでからまた絞っていった。
「で?これ何になるの?」
「こっちの液体は片栗粉になる。いや片栗じゃないから片栗粉というのも語弊があるが。」
「馬鈴薯は?捨てちゃうの?」
「いや流石に勿体ないし、米粉と混ぜておやきにでもするか。」
小太郎の質問に答えた後、どんぶりを放置して馬鈴薯の搾りかすに少し米粉を入れる。
「ふむ。これまとまるか?」
「無理じゃない?」
「たまご。」
「たまご?」
小夜が卵を一つ持ってきた。
「今日甲鉄が産んだんだよ。」
「甲鉄?」
「鶏の名前です。」
「すごい名前だな。」
「小太郎がつけました。」
小夜から受け取った卵を割り入れて混ぜる。なんとかまとまったので七輪にあみを乗せて焼いてみた。
「最上様。これちょっと焦げた。」
「少しくらい大丈夫だろ。」
4人でわちゃわちゃとしながら、七輪でおやきというか、芋餅もどきというかといったものを焼いていった。
作業している間にどんぶりの中に澱粉が沈澱したので上澄みを捨て、一つにまとめてから水を注いでまたしばらく放置する。
「次は大根をおろす。」
七輪を一之進と小太郎に任せて、最上と小夜で大根をおろした。
晒で軽く絞って搾り汁をとりわけ、大根おろしは芋餅もどきにでも乗せることにする。作業中に澱粉がまた沈澱したので、上澄みを捨てて水を入れてから小鍋に移す。
七輪が空いたので、小鍋を七輪に乗せて澱粉糊にしていく。粗熱が取れたら大根の搾り汁を入れて混ぜていく。混ざりきったら蓋をして、七輪から炭を取り出して、土間の隅に置かれているまだ使われていない火鉢の灰の中に埋めて、小鍋を炭の直上を避けて灰の上に置いて、火鉢の上に籠を被せて布で覆った。
「で。あとは夕刻だ。」
「夕刻なの⁉︎」
芋餅もどきは、昼餉に大根おろしに醤油を少し垂らして出された。
「うーん。可もなく不可もなく。」
澱粉が抜けていなければもう少し美味しいのだろうが、なにぶんわざわざ水で揉み込んでまで澱粉を抜いたので少し味気ない仕上がりである。
夕刻にまた火鉢の灰からまだ少し赤い炭を取り出して七輪に戻す。炭を少し足して小鍋を七輪に乗せひたすら灰汁を取りながら煮詰めていく。
「もう少し煮詰めた方がいい気はするが、間違いなく焦がすな…。こんなものでやめとこう。」
少々ゆるい状態で陶器の瓶に入れる。
「できた?」
「結局なに作ってたの?」
小夜と小太郎が寄ってきたので、小鍋に残ったものを匙で集めて匙ごと口に入れる。
「甘い!」
「あまい。」
少し離れて見ていた一之進も手招きで呼んで同様に口に入れてやる。
「甘いです。飴ですか?」
「うん。水飴だな。一応。本当はもう少し煮詰めた方がいいんだろうが焦がしそうだからこの辺でやめた。鯏殿に任せれば上手いことやってくれるだろう。」
小太郎と小夜が、小鍋に残った少しゆるい水飴を匙で一生懸命集めては口に運ぶ。
翌日、阿幸地に水飴の作り方を書いた覚え書きを渡してから城へと向かい、鯏に水飴が渡され栗饅頭となったのだった。量も少なく甘さは控えめであるので、元々多少甘い栗に混ぜる事でなんとか甘味となった。
鯏様様である。
「面倒だからもう作りたくない。はよ砂糖買えるようになろう。」byホモ君