【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

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【小話】企画書

 

「最上さん!新しい企画書です!」

 

蓬莱城が出発するにあたり、吉備土に用があって操車場に来ていた最上に生駒が企画書を差し出す。

 

「試作機は無名が試す予定です。」

 

最上はぱらぱらと企画書を見て一息置いてから口を開いた。

 

「駄目だ。試作機は樵人か歩荷に試させろ。これ長距離狙撃用の蒸気筒じゃないか。海門の時の蒸気筒で狙撃仕返した無名殿じゃ参考にならん。無名殿が使ってみるの自体は構わんが、参考資料に無名殿の狙撃距離を示されても困る。」

 

「はい。」

 

生駒は少ししょんぼりしたが、それもそうかと思い直した。

無名は説明が下手である。無名が長距離狙撃に成功したとして、無名の説明では誰も習得できないのだ。

 

「今までは取り回しなどの都合があったから無名殿の方が良かったが、これは安全圏から使えるんだから武士達に試させて資料を作れ。」

 

「わかりました。」

 

武士達はこの会話を聞いて、自分達が新兵器の採用不採用を決めてしまうと知り慄いた。

 

試射の結果は散々であった。

無名は長距離狙撃に成功したが武士達で成功したものがいないのだ。

照尺ではなくスコープまで搭載したのにである。

 

「理論上十町は余裕でいけるんです!実際無名だって十町先を狙撃出来てます!」

 

「で?武士達は?」

 

「…誰も当たりませんでした。」

 

「…うーん。無名殿。コツとか説明出来るか?」

 

「だから普通に狙って撃ったら当たるでしょ!」

 

「無名殿しか使えないとなると量産は無理だな。」

 

「そんなぁ!」

 

「…とりあえず私も試射してみるか…。」

 

五町先に的を設置して試射をすることになった。擲弾発射器と同じく蒸気筒のタンクを複数連結して使う形のため、タンクをいくつか持って移動した。

 

「無名殿。見本を見せてもらっても?」

 

「はーい。」

 

無名は指をぺろっと舐めて風を確認した後、立ったままスコープを覗きこみ狙いすまして引き金を引いた。撃ち出された弾は五町先の的のど真ん中に的中した。双眼鏡で的を見ていた全員がどよめく。

 

「どんなもんよ!」

 

無名は自信に溢れた表情である。

 

「やはり無名殿の技術は素晴らしいな。次。樵人。」

 

「えっ!だから当たらないんですって!」

 

「いいからやれ。」

 

樵人は最上に言われ、渋々と狙撃筒を構える。樵人も無名と同じ格好で引き金を引いたが的にすら当たることは無かった。

 

「ちょっとぉ!ちゃんと見てる?」

 

「見てるって。」

 

「樵人。貸してくれ。」

 

「はい。」

 

最上は狙撃筒を受け取ると座り込んでなにやらスコープを覗いたり、姿勢を変えたりとゴソゴソとしている。

 

「最上さんなにやってんの?」

 

無名は至極不思議そうである。無名だけではなく見ていた者全員が首を傾げている。少しして最上が動かなくなり、黙って見ていると最上が引き金を引いた。

撃ち出された弾は的の端を跳ね飛ばした。

 

「おお!当たった!」

 

「ほら!理論は正しいんですよ!」

 

「そうかもしれんが当たらんもんは当たらんのだ。」

 

「最上さんは当たったじゃないですか!」

 

武士や生駒が騒ぐ中、最上はボルトを引いて次弾を装填した。無名以外誰も見ていない中、最上はもう一発発砲した。余所見をしていた生駒と武士達がビクつく中、無名は双眼鏡を覗いて的を確認していた。

 

「ど真ん中じゃないけどいいとこいったじゃん!」

 

その言葉を聞いてみんなで双眼鏡を覗くと、的の中央からは外れているものの、かなり中心に近いところに穴が空いていた。

 

「えっ!凄い!当たった!」

 

「ほら!当たるんですよ!」

 

「樵人。来い。座れ。」

 

最上は座っていた場所からどいて樵人を呼ぶ。樵人が最上の座っていた位置に真似をして座ると、後ろからちょいちょいと修正してきた。

 

「中央から少し右に照準をずらせ。」

 

「え?ずらすんですか?」

 

樵人は驚いて顔を上げる。

 

「こっち向くな。的を見ろ。中央からほんの少しだ。引き金はゆっくり引け。狙いはそのまま。少しもずらさないようにしながら引いていけ。」

 

ゆっくり引き金を引いていたため、樵人が意図していない時に弾は撃ち出された。弾は的中央近くに着弾した。

 

「当たった⁉︎」

 

「なんで⁉︎さっきだって狙ってたのに!」

 

全員が最上に視線を向ける。

 

「今までの蒸気筒と同じ撃ち方じゃ当たらん。無名殿は立ったまま撃っても微動だにせんから良いが、私達には無理だ。…それに今までは引き金を雑に引いてるから引いたときに銃口が少し動いている。」

 

「……?でも端くらい当たっても良くないですか?」

 

「当たらん。…あー。説明が難しいな。えーっと…。」

 

最上は首を捻って説明方法を考えている。生駒は最上が言いたいことが分かったが、どう説明したらいいかわからない。生駒は色々と書物を読んでいるため学があるのだ。角度と距離を使った計算である。山の高さなどを測るのに使う測量術の一つであるが説明が難しい。普通に計算式を教えて武士達が理解出来るとは思わない。

 

「あー。…まあいいか。樵人。ちょっと構えろ。立ったままでいい。弾は装填するなよ。」

 

樵人は立ったまま構えてスコープを覗く。

 

「今真ん中か?」

 

「はい。」

 

最上がそのままちょいと銃口を上に上げる。

 

「あっ!ちょっと!最上様。」

 

「どうだ?的は見えるか?」

 

「見えるわけないでしょ!」

 

「こういうことだ。」

 

「…ん?」

 

「今一分くらい動かしただけだぞ。それで的が見えなくなる。引き金を引いたときに一分動けば明後日の方向に行くということだ。照準を合わせてから引き金を引き切るまで、寸分たりとも動かしてはならないということだ。立ったままいつもの通り撃てば当たるわけがない。」

 

「な…なるほど?」

 

「掃射筒用の台座を使うとかさっきみたいに座るとかで固定せんと無理だな。あと引き金を雑に引くな。風にも影響されるから、その時々で調整しないとかなり難しいぞ。カバネは動くしな。しかしこれで十町先を当てる無名殿は本当に素晴らしい。」

 

「えへへっ。そうでしょ!そうでしょ!」

 

「というわけで生駒。量産は無しだ。」

 

「えっ!当たらない原因わかったのに⁉︎」

 

「相手は動くカバネだ。動かない的じゃない。実用できるまでとなれば訓練に時間がかかり過ぎるし、普段の戦い方で使えんだろ。殆ど山間部の山陰ではあまり使い道がない。有用な戦略がなければ持ち腐れだ。十町先を狙撃する必要も基本的にはない。これでは他の駅にも売れん。まあ無名殿は有効活用出来るだろうから、殆ど無名殿専用機だな。」

 

「そんな…。」

 

「だがこの技術は素晴らしい。今の蒸気筒の弾道を安定させられる技術じゃないのか?今の蒸気筒の性能を上げる方が間違いなく多くのカバネを殺せるぞ。」

 

「っ⁉︎それもそうですね!鈴木さんとそっちを煮詰めてみます!」

 

生駒はそのまま操車場方向へと走っていった。

 

「こら!生駒!片付けていけ!」

 

樵人が大声で生駒を呼び止めたがそのまま姿が見えなくなってしまった。

武士達はため息をついて狙撃筒や蒸気タンクを片付け始めた。

 

「やれやれ。生駒は根っからの研究者だな。しかし十町か。すごい性能だな。今の戦い方では活かせないのが勿体ない。殺す相手がカバネでなく、人間なら間違いなく採用なんだがな。訓練時間すら惜しくはない。」

 

「え"っ⁉︎」

 

「なんだ?」

 

「人間相手なら採用だったんですか?」

 

「そりゃそうだ。カバネは警戒しない。こちらが掃射筒を構えようが、撃っていようが構わず突っ込んでくる。だが人間は違う。純粋に人間同士ならいかに自分が負傷せず相手を殺すか考える。人間同士の戦なら指揮官が用兵するから厄介だが、これなら完全に相手の射程の外から殺せる。指揮官を狙い撃ちにできれば烏合の衆だ。十町ともなれば狙っていることすら気がつかれない。だからこそ他の駅には売りたくない。」

 

「最上さん。」

 

無名が真顔で最上を見つめている。

最上は顔の両脇に手をあげて降参の姿勢をとる。

 

「怒るな。採用しなかっただろう。大丈夫だ。使わん。それは無名殿が私物化しておけば良い。」

 

「わかった!じゃあ貰ってくね!」

 

無名は笑顔で狙撃筒を抱えて走って行った。

 

「な…なんです今の。」

 

「こ…怖ぁ…。」

 

「生駒の考えた武器を人殺しに使われたくないんだろ。」

 

「最上様よくしれっとしてられますね。」

 

「いや?私はいつだって無名殿が怖いよ。」

 

「そうなんですか?」

 

「だって無名殿は私じゃあ殺せない。来栖と違って四方川家に忠誠を誓っているわけじゃない。生駒と違って人だって普通に殺せる。生駒が嫌がるから殺さないだけだ。」

 

「そりゃそうかもしれませんが、生駒と違って暴走は無いじゃないですか。」

 

「だからこそ怖いだろ?生駒はわかりやすい合図があるが、無名殿はわからんからな。暴走した生駒を殺したとして、無名殿はその後も味方かな?」

 

「…。」

 

「じゃあ私は仕事に戻る。片付けは頼んだ。」

 

押し黙る武士達を置いて最上は立ち去って行った。

 

「いや怖い!」

 

「なんつうこと言うんだあの人‼︎」

 




ホモ君は無名がめっちゃ怖い。生駒が暴走した時、来栖も無名もいなければ自分が殺すしかないけど、無名が納得できるかわからないから。来栖程の誠実さは自分にはないので無名がどう捉えるかわからない。無名が美馬みたいな破滅願望を持たない自信がない。だからこそ民人達と仲良くさせたい。稲刈りとかの参加推奨はそういうところから。万が一生駒を自分が殺して無名に殺されても、顕金駅を壊滅させないために愛着を持たせたい。
カバネもカバネリもメンタルで性能が上昇する意味不明さがとても怖い。
生駒を殺したら鵺になるとかありそうだし、鵺にならなくても来栖すら殺せそうなスペックなので、ホモ君はいつだって無名が怖い。

それはそれとして設計図の書かれた企画書は最上の手にある。カバネを討伐しきって、カバネリが人間に戻って、人間同士が争い始めるのが早かった場合は流出するかもしれない。


無名から見たホモ君
海門で生駒を殺しにかからなかったので割と信用してる。人殺しを普通にできる人間なのはわかってるし、そこは別にどうでもいいけど、生駒がカバネを殺す為に開発した武器で人殺しの算段するのは、生駒が知ったら悲しむから嫌。普段から結構融通きかせてくれるし、生駒の話ちゃんと聞いてくれるし、瓜生とも仲良くしてくれるから嫌いじゃない。
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