どんどん日も短くなり、寒さも堪えるようになってきたころ。
各家々では火鉢や炬燵の準備が始まっていた。
最上の屋敷でも使用人らが火鉢の準備をしたり、掘り炬燵の蓋になっていた畳を外して掃除をしたりと忙しくしている。
「一之進。炭斗持ってって。」
「小太郎!火箸で遊ぶんじゃない!」
子供達も細々としたものを運ぶのに駆り出されている。
最上の家には火鉢がいくつかあるが、小さいものは運べても大きいものは女手しかないため運べない。
「あと二つ運んだら終わりなんだけどねぇ。」
「これは男手がないと無理ですねぇ。」
穴子と鯉が大きい火鉢の前で困っていると土間の方から声がかかる。
「ごめんください。」
「あらあら。誰かしら。」
鯉が着物の埃をぱたぱたと払いつつ土間へと向かう。土間にいたのは巡回中の奉行所の武士であった。
「どうされました?」
「いや。今日は炬燵開きの日でしょう?各家を回って火鉢出してこいって指示なんですよ。」
「あらあら。助かるわぁ。上がってちょうだい。」
最上の屋敷に限らず、武士達の屋敷には使用人が1人2人程度であり女手ばかりである。男手は色々な職で引く手数多であるため、男の使用人は殆どいないのだ。
「ここでいいですか?」
「ええ。助かりました。一息ついていって下さいな。」
武士達を縁側に連れて行き、鯉が下がっていく。
「庭から縁側に来ることはあっても、家の中から縁側きたの初めてだな。」
「確かに。家の中に上がることなかったしな。」
「最上様の屋敷は一之進の稽古でよく来るけど、上がる用事はないからなぁ。」
「お待たせしました。どうぞ。」
「かたじけない。」
縁側の武士達にほうじ茶が出された。
「あったまるなぁ。」
「最近はめっきり寒くなってきたものな。」
「炬燵開きしたから家に帰れば火鉢が待ってると思うと嬉しくなるな。」
「そういえば、掘り炬燵とかあるよな。使うの初めてなんだよな。」
「長屋にそんな立派なものはなかったからなぁ。」
「綿入れもいつの間にか使用人が用意してくれたし、今年の冬は初めてなことばかりだ。」
「冬に限らず初めてなことばっかりな気がするんだが。」
「確かに。道元様と最上様って休んだら死ぬの?ってくらい、少し暇ができると次のこと始めるよな。」
「すごい助かってるけどな。家老の3人なしで再興とか無理だっただろ。」
「それな。政関係がわかるの菖蒲様だけとか本当に無理だわ。誰も手伝えなかったわけだし、それこそ出雲の国の他の駅に利権取られてただろうしな。」
「家老の方々様様だな。」
「さて、そろそろ次の屋敷に行きますか!」
「八代の屋敷は行かなくて良いんだろ?」
「そりゃそうだ。男手ならいくらでもあるだろ。」
奉行所の武士達は湯呑みを厨まで下げて、巡回兼お手伝いへと戻って行った。
夜間は炭を灰の下にしまってしまうので、最上が帰宅した時には厨と自室のみ火鉢で炭が燃えていた。最上はそそくさと自室に行き、火鉢で手を温める。
「あ"ー。あったかい。」
「最上様。食事はどうされますか?」
「軽くいただきたいな。」
「分かりました。」
「出したら穴子さんは休んでもらっていい。下げるのは自分でやるから。」
「なりません。報告がてら鯉が同席致します。」
「悪いな。」
「家主が後片付けなどするものではありませんよ。」
「ふぁい。」
「欠伸をしながら返事をしない。」
「はい。」
穴子は食事を準備しに下がっていった。食事を待つ間に寝巻きに着替え、上から長丹前を着る。火鉢に当たりながらうとうとしていると、鯉が膳を持って来た。
「最上様。寝ないでくださいよ。」
「悪い。」
最上が火鉢の近くで食事を食べながら、鯉からの報告を聞く。鯉からは見習いの教育状況などの報告と、八代の屋敷の噂などの報告を受ける。
「ふーん。今のところ八代の民人は手は出さんようだな。」
「そりゃそうですよ。見捨てられたわけですから憎いでしょうが、顕金駅の暮らしを捨ててまで復讐したいかと言われればねぇ。」
「今の生活を投げ捨ててでも、殺してやりたいと思うのも普通だと思うがね。」
「最上様はあんまり実感ないかも知れませんがね。今の顕金駅はとても過ごしやすいんですよ。昔の顕金駅は限界まで人を詰め込んでたでしょう?食糧は少ないし、今みたいに肉や魚、柿や栗や山菜なんて夢のまた夢でしたよ。少なくともただの民人にはね。仕事にあぶれて盗みを働く流民なんてしょっちゅうだったのに、みんな汗水垂らして働いて食事にありつける。武士も横柄じゃないし。…堅将様はとても良くして下さっていたとは思いますけど、やっぱり怖かったですよ。いつカバネに入り込まれるかもそうですが、いつ食糧が足りなくなって飢えるのかとかがね。それに半年以上もずっと甲鉄城で守ってもらいました。甲鉄城に乗っていた者からすれば、ここより安全なところなんてありませんよ。」
「ふむ。政は上手くいっているということだな。良いことだ。」
「私や穴子さんも、八代の民人にそれとなく話を聞くことはありますけど、菫様達への恨み言より、八代が再興したら出ていかなくてはならないのかとかの方が話題に上がりますよ。」
「ふむ。特に強制的に転居させる予定はない。それとなく噂を流しておいてくれ。」
「わかりました。でも再興の時はどうするんですか?」
「出雲の国に限らず流民などいくらでもいる。万が一うちがいっぱいになり始めたら、あちらに流民を流すが、基本的には菫殿が考えるべきことだな。こちらは口に出すなよ。」
「わかっております。」
「ご馳走様さまでした。」
話も終わり、最上も食事を終えたため、鯉は膳を持って下がっていった。
(復讐の兆しは今のところなしか。良いことだな。まあ勘太郎殿が上手くやっておられるから、あの娘が死んだとて特には困らんのだが、菖蒲様の顔が曇るのはよろしくないからな。)
止まったら死ぬマグロよろしく働き続ける道元・ホモ君ペアのおかげで、顕金駅はそれなりに生活水準が高い。
一度壊滅してるので、倭文駅みたいに花火とかの文化的余裕はないけど、冬に飢えて死ぬのではとか、凍えて死ぬのではって思考には至らない程度には民人に余裕があります。それこそ万が一また駿城が突っ込んできても、操車場か城に逃げれば生き残れるだろって考える程度には、他の駅より精神的余裕があります。わざわざ外に出かけて食糧確保したり、カバネ狩りに行ってる狂った武士達がいるので。