本日顕金駅に訪れた駿城の城主と菖蒲が面会した結果、緊急召集がかかり広間へと武士達が集まった。
「石見駅から緊急要請が参りました。銀鉱山にカバネが入りこみ、鉱夫がカバネとなってしまい、鉱山を封鎖することになってしまったそうです。鉱山の奪還の協力要請です。」
菖蒲の説明を聞きながら、そっと最上を窺うと最上の目が輝いていた。
(うわっ目がキラキラしてる。)
(銀山だからな。)
(報酬はいいだろうな。)
「鉱山内ですので、擲弾の使用はできません。それどころか場所によっては噴流弾すら使用が制限されます。入坑していた200名の内150名の行方が分からなくなっています。凡そ150のカバネがいることになります。よって今回の討伐には前衛を担当する者全員に出ていただきます。最上と来栖を出す都合上、吉備土と樵人は残っていただきます。蓬莱城に乗っている有志の民人も今回は待機として狩方衆を投入致します。鉱山の封鎖もいつまで有効かわかりません。準備が整い次第出発してください。」
菖蒲の説明が終わり、武士達は各々の準備の為に散っていった。
操車場では急いで物資の搬入が行われており、武士達の参集も終わったことから、物資の搬入が終われば出発である。最上は珍しく二本差しで来ていたのが、来栖の目に止まった。
「お前が二本差しは珍しいな。」
「鉱山内だからな。海門の坑道は広かったから良いが、石見の坑道もそうかは分からんし、下手したら蒸気筒が使えない可能性がある以上、私もいつも通りとはいかんからな。」
「ふむ。己も二本差しにした方がいいか?」
「馬鹿言え。お前はいらん。私は普段の戦い方的に狭いところに向いてないだけだ。今回は蒸気筒は持たないからな。お前はいつも通りで問題ない。刀の振れないところにいたら釣り出せ。」
「ああ。場所によっては蒸気筒の援護が受けられないとなれば、いつものようにコロコロするわけにはいかんか。」
「コロコロ言うな。好きで転がされてるわけじゃないわ。」
物資の搬入が終わり、蓬莱城は石見駅へと出発した。
「炭鉱の場合はガス突出などがよくあるが今回は銀鉱山だ。ガス突出はそこまで気にしなくて良いが、落盤等は普通に起こり得るから注意が必要だ。噴流弾は威力がでかい。雑に撃つな。一撃で仕留めるつもりで使えよ。石見駅の鉱夫から案内人を出させて、3班編成とする。来栖と武士15、私と生駒と武士15、無名と瓜生と狩方衆の組み合わせでいく。」
本来であれば、最上は無名か瓜生と組みたいところであるが、無名と組むと生駒と瓜生で組ませることになる。瓜生と組むと無名と生駒で組むことになるため少々不安なのである。生駒瓜生の組み合わせは食い合わせが悪い。無名生駒の組み合わせは問題が発生しそうで怖いのだ。カバネリ2人を組ませると斜め上にカッ飛んでくることがあるので。
来栖は単体運用で充分である。
石見駅に着き、案内役をそれぞれ1人つけて坑道内へと入って行く。
「この先20間くらいは地盤が弱いので蒸気筒はやめた方が良いかと…。」
「聞いてたな?確実に当てられる場合を除き発砲はするなよ。」
案内役の言葉を聞いて、最上は武士達に指示を出す。
「生駒。頼むぞ。」
「はい。」
生駒が先行し、後ろを最上がついて行く。先の坑道は二股に分かれており、生駒は左に進んで行く。後ろからの襲撃を防ぐため、最上が殿に移動する。少し進んだ先で生駒がカバネと会敵する。
「カバネ5体!」
「生駒!抜けさせるなよ!」
「はいっ!」
「後ろからも来るぞ!中央固まれ!歩荷!蒸気筒構えとけ!無駄撃ちはするなよ!」
「はい!」
後方からもカバネが3体むかってくる。一体目をすり抜け様に右足の腱を切断し転倒させた後、二体目の心臓に刀を突き入れる。左横から来た三体目を逆手で抜いた脇差で受け止めつつ、反転し後ろに周りこみ順手に持ち替え心臓に脇差を突き入れた。転倒した一体目は歩荷が蒸気筒で仕留めており、最上は二体目から刀を回収する。
「あっ!」
「一体抜けた!」
生駒の脇をつるはしを持った一体のカバネが抜けた。最上は武士達の脇を抜けてカバネと激突した。脇差を納刀していなかったことから刀と脇差を交差させてつるはしを受け止めたが、受け止め切れるものではない。受け止めた瞬間には脇差を避けて、すぐに脇に流したが片手持ちではカバネの臂力で振り下ろされたつるはしを捌ききるのは無理があった。刀はつるはしの頭に引っかかり最上の手を離れ壁に突き刺さったが、脇差で心臓を貫くことには成功した。
「あっぶな…。」
一言呟いて最上は壁に刺さった刀を抜こうとするも、
「えっ!嘘だろ!」
抜けない。脇差を納刀して両手で引くも抜ける気配がない。
「抜けさせてすみませんでした!」
生駒が駆け寄ってきて謝罪したが、最上はそれどころではない。
「生駒!生駒!抜いてくれ!」
「…なんでそんなことになってるんです?」
「そんなことはどうでもいい!早く抜いてくれ!次が来た時脇差だけじゃ無理だぞ!」
最上に急かされ生駒が壁から刀を抜く。
「…そんなに簡単に抜かれると傷つく。」
「えっと。…すみません。」
初っ端からトラブルはあったものの、その後は順調にカバネを討伐していった。
「もう少しで行き止まりです。」
案内役の説明通り行き止まりに行き着いたが随分と筋骨隆々なカバネがいる。
しかも生駒達を見つけた瞬間、傍に放置されているトロッコを持ち上げ投擲の構えである。
「退避ぃ‼︎」
最上の指示で全員が全力で駆け出した。トロッコには鉱石も詰まっているので生駒もくらえばただではすまない。トロッコは坑道の天井部分に接触したため想像よりは飛ばなかったが、天井部分の一部が崩落した。
カバネは再びトロッコを持ち上げた。トロッコから殆どの鉱石は出てしまっているが、まだ一部が残存している。
「退避ぃ!無理!トロッコが武器とか無理!ワザトリか!」
最上の声に全員がもう一度駆け出す。
「もういっそ出口まで連れてくか⁉︎」
「駄目です!このまま地盤の弱いところに行ったら崩落します!」
最上の提案に案内役が却下を出す。
「ちっ!生駒!次の投擲で突っ込むぞ!」
「はい!」
ワザトリがトロッコを投擲した。もうコツを習得したのかさっきよりも低空で飛んでくる。ワザトリの手を離れたトロッコを見た瞬間、最上が反転して全速力でワザトリに突っ込んで行く。
「えっ⁉︎今ですか⁉︎」
投げた瞬間とは思ってなかった生駒が出遅れた。
最上はトロッコの脇をすり抜け、ワザトリへと向かうと、ワザトリが立てかけられていたつるはしを掴み取り横にないだ。
「ちょっ!わ!」
最上はスライディングしてつるはしを避けてワザトリの股下を抜けた。ワザトリは振り返りつるはしを振り上げたため、最上は後ろに下がり間合いをとったが、つるはしはそのまま投げられた。
「きゃーっ!」
まさかつるはしが飛んでくるとは思わなかった最上から女子のような悲鳴が上がる。
その間に生駒がたどり着いて、背後からワザトリを殺した。
「最上さん!大丈夫ですか⁉︎」
「大丈夫だ。刀は死んだが。」
「えっ!」
つるはしを近距離で投げられたため、回避し切ることが出来ず、刀で少し弾いた形になったが柄が壊れたのだ。
一度壁に突き刺さった時に、人外の臂力で引かれて目釘付近に損傷が出ていたため、刀身ではなく柄がぶっ壊れたのだ。
「こんな壊れ方あるかよ。」
帰り道は脇差一本である。
刀身は鞘に差し込んで、壊れた柄と鍔は武士に預けた。
「最上様。あんな高い声出たんですね。」
「喧しい!」
歩荷に悲鳴をいじられた。
「さて生駒。私は戦力ガタ落ちだ。頼むぞ。」
「はい!」
生駒は素直に返事をする。二股に分かれた位置まで戻ると、生駒が右の坑道を覗いてから最上を振り返る。
「こっちもカバネがいるみたいですけど、どうしましょうか。」
「道中倒してきたから挟み討ちはないと思うが…多いか?」
「うーん。10はいないと思いますけど。」
「…いや無理は止めよう。脇差だけとか無理だ。急いで引き返そう。他の班に任せる。」
「ですね。」
背後からカバネが来る恐れがあるので、生駒を殿にして急ぎ足で坑道を引き返して行く。大元の分かれ道まで戻ると来栖の班が戻っていた。
「終わったか。」
「終わってない。」
「…?何故戻ってきた?」
「刀が壊れた。柄が大破してな。悪いが代わってくれ。」
「…折れたのではなく柄が壊れた?どうやるとそんな壊れ方をするんだ。」
「帰り道にでも説明してやる。とにかく継戦不可能だ。」
「ふむ。わかった。生駒。行くぞ。」
「わかった!」
来栖は最上と入れ替えで生駒達と坑道内を進んで行った。
来栖の班員と待機していると、無名の班も戻ってきた。
「あれ?最上さんだけ?生駒は?」
「いや。私の刀が壊れたから、一度引き返して来栖と変わってもらったんだ。来栖と生駒でもう一度潜ってるよ。」
「えっ?金属被膜刀折れたの?」
「刀身は無事だが、柄が壊れた。」
「ふーん。」
「なんだ子犬ちゃんは戦力外になったのか。」
「脇差だけじゃなぁ。別に無理しなきゃならない場面でもなし、安全策をとっただけだ。ワザトリも出たし散々だ。」
「へぇ。ワザトリ。だからそんな汚れてんのか?」
「凄かったぞ。トロッコぶん投げてきたからな。」
「うわっ。よく無事だったな。」
「本当にな。そっちは?」
「60そこそこだったな。無名が殆ど平らげた。」
「63だよ。ワザトリとかいなかったし余裕。」
「はぁ。流石だな。」
「でしょ!」
その後も雑談を続けていると、生駒達が戻ってきた。
「たぶんこれでカバネを掃討できたと思うがどうだろうか?」
「あー。いないと思うけど。」
「来栖の班が行ったところがよくわからないので、ちょっと行ってきます。来栖と2人で走ればそんなにしないで見てこられますし。」
「己はカバネの感知はできんからな。」
「そうか悪いな。戻ってきてた無名殿に確認をお願いしておくべきだったな。」
「大した手間ではない。生駒。行くぞ。」
来栖と生駒の2人で来栖の班が入って坑道を駆けていった。
「…はぁ。」
「なんだ子犬ちゃん。辛気臭せぇため息ついて。」
「いや。なんでもない。」
最上は先程柄と鍔を預けた武士に声をかけて、柄と鍔を受け取って懐に入れた。来栖の班にいた仁助が最上をじっと観察している。
来栖と生駒が戻ってカバネの完全排除が確認できたことから、坑道から完全に出て石見駅の領主に最上と来栖で報告をした。報酬は石見銀山の3年間純利益1割である。これは派遣前から決まっていたことであり、特に受け取る物はない。
報告を終えて蓬莱城に戻ると、既に出発の準備が整っており、最上と来栖が乗車すると速やかに蓬莱城は発進した。石見駅の領主は一晩泊まって行くことを薦めたが、前衛面子が全員顕金駅を離れていることもあり、宿泊することなく戻ることとなっていたため、丁重に断って石見駅を離れた。
各々蓬莱城で過ごしていると、仁助が最上に声をかけてきた。
「最上様。ちょっと良いですか?」
「ん?何かあったか?」
ちょいちょいと誘う仁助について、最上は艦橋から出た。誰も居ない2両目で仁助は最上の右前腕を掴んで目線の高さに上げた。
「怪我してますよね?」
「…目敏くなったな。」
最上は手甲をつけているため、パッと見ではわからないが手首を痛めていた。一度は片手で把持していたとはいえ、壁に突き刺さる勢いで刀を絡め取られ、二度目は柄に損傷があったとはいえ、至近距離から投擲されたつるはしで柄が壊れる程の衝撃を受けた。
最上の右手首は若干腫れていたことから、仁助は手甲の紐をといて手甲を外させ、手首に湿布を貼った。
「で?何を落ち込んでるんです?歩荷に聞いた感じでは特に問題はなかったように感じましたが。」
「別に落ち込んでは「そんなことないですよね?」
「…む。」
仁助の笑顔の圧力に最上は負けた。
「いや…。改めて守る戦い方に向いてないなと思っただけだ。」
「そうですか?いつも前衛をしていただいてるので、そう思ったこと無いですが。」
「私は一人で請け負うなら、同時に2体が限界だ。それ以上は援護に任せるしかない。今回は場所によっては援護も受けられないどころか、抜けさせてしまえば後衛は危ないどころではない。」
「…あの。言っときますけど、前衛できる時点で我々からすれば異常ですから。カバネリ2人や来栖と並ばんで良いんですよ。」
「っ!…それはそう。」
仁助が呆れた顔で突っ込むと、最上ははっとした顔で同意した。いつも来栖を人間扱いしてないくせに、どうして並ぼうとするのか。
「今回負傷者は最上様だけです。私に言わせれば、最上様は前衛に出てほしくないんですがね。」
「前衛最弱で悪かったな。」
「そうではなく。政が出来て、前衛が出来て、医学が出来て、融通も効くからって、自分を都合の良い駒として運用するのやめて下さい。貴方にとって便利な駒ってことは、有用な駒ってことでしょう。顕金駅の有用な駒を失うのは困ります。少なくとも今の顕金駅で一番不足してるの政の出来る人間ですからね。今回は折衝がなかったとはいえ、責任者としての同行だけでもよかったのでは?」
「…それ。やっぱり前衛の私はいらんということでは?」
「武士の矜持があるのはわかりますが、貴方が命をかけるべきところと、そうでないところがあるでしょうって話ですが?こう言ってはアレですが、石見駅程度で貴方が命をかける必要ないでしょう。」
「おぉ。言うようになったな。」
「いや。感心するところじゃないんですよ。」
「まさかお前の口から石見駅程度と出るとは思わなくてな。」
「貴方に散々お人好し共と言われて来ましたけど、我々の殆どは菖蒲様や吉備土程お人好しではないので、貴方に死なれるくらいなら石見駅などどうでも良いんですよ。道元様や貴方からすると銀山は魅力的だったのかも知れませんが、なきゃないでどうとでもなるでしょう。」
「…。」
最上は無言で目を泳がせた。
「えっ?照れてます?」
「いや、だって…。」
「…貴方の正当な評価に対する対応をしてこなかった我々が悪いんですが、こんなことで照れないで下さい。石見銀山より大切って評価で照れられると複雑なんですけど。」
「だって銀山だぞ。」
「金銭的価値から離れてくれません?信用のおける人材は金では買えないでしょう。…とりあえず艦橋なら、まだまだ元気な来栖がいますから最上様は休んでて下さい。」
最上を2両目において、仁助は艦橋に戻って行った。艦橋に戻った仁助に来栖は視線を向けた。
「どうだった?」
「手首の捻挫ですね。少し腫れてたので湿布しときました。」
「そうか。…手首。…これはまた己に仕事がまわって来るんだろうか…。」
「あー。どうでしょう。でも来栖もだいぶ仕事に慣れてきたのでは?」
「そんなすぐに最上の代わりができるようになるものか。未だに道元様と最上が何考えてるかとか全く分からん。普通に怖い。」
「流石にそこまで求めてませんよ。」
「まあ一生できる気はしないな。」
「あとちょっと落ち込んでました。」
「刀の柄を壊したからか?」
「いえ。守るの向いてないって。」
「今更では?己達も守るというより、とりあえず一撃で殺すことに全力を注いでるだけだ。最上は元々後の先狙いだし、手数が多いし、四肢の腱などを狙いにいく対人間特化の戦い方だ。全くもってカバネ向きではない。あそこまで身に付いては矯正も難しいしな。むしろあれで前衛に出てるんだから充分強いんだが。」
「へぇ。それは知らなかった。」
「あぁ。前に話したことがあったのは雅客だったか。その辺の武士が正面から向かってきて、最上がやる気なら手足ズタズタにされるぞ。」
「殺さないんですね。」
「必要なければ殺すと思うが、必要なら拷問くらいするだろうな。」
「えっ!怖い。」
「堅将様が子飼いにしてたんだぞ。そのくらいする。元服前から城をちょろちょろしてたのは見た。当主が亡くなったから面倒を見ている体で子飼いにしてたようだな。そうでなければ、あの歳で道元様と面識があるわけないだろう。」
「…だから医学の心得もあるわけですかね。」
「…かもな。」
艦橋は微妙な雰囲気になった。
石見駅から蓬莱城が戻り、各々が通常業務に戻っていく。石見駅は片道一日半。凡そ3日半不在にしていた。来栖が危惧していた最上の仕事がまわってくるようなことはなく、八代駅を属領にした後から増えた仕事を必死に片付けるだけで済んだ。現時点来栖に補佐官はいないので、緊急のもの以外は来栖が不在だとそのまま溜まるのだ。来栖は勉強になった。次席か補佐官を据えなくては今後大変なことになると。最上に申し出て、城務めの武士1人を補佐官にもらうことになった。武士達は来栖の配下であるが、通常時の人事は道元と最上に丸投げしたので誰を引き抜いて良いか分からなかったのだ。
石見駅「助けて!」
菖蒲「大変!助けなくては!」
道元・最上「銀山!銀山!」
道元「余計な崩落をさせて採掘を遅らせないようにしたまえ。」
最上「承知!」
ホモ君の本差しの柄は早急に直されました。
ホモ君は普段は本差しのみ。二本差しにすると蒸気筒も使う関係上、とても邪魔な上に重いので。脇差も生駒に金属被膜刀にしてもらってましたが、普段は床の間に置いてます。
ワザトリの基準が分からないんですが、今回のはワザトリLV2くらいな感じで書きました。(アニメの最初のワザトリ君がLV5くらいで)
臨機応変に道具を使えるか、技術が高い奴をワザトリ扱いしてます。
ワザトリって学習するより、素体の性能による気がする。じゃないと刀はまあ分かるけど、八代駅の格闘技してた奴あり得なくないかなって。何度も格闘家と戦ったとかになっちゃうので。刀とか蒸気筒持ちと戦ってもあのスキル習得せんだろ。
ホモ君の本差しがぶん取られたカバネはワザトリ扱いしてません。
銀山がガス突出少ないかはよく分からないです。炭鉱の事故ばっかり出てくるからそういう方向で書きました。間違ってたらすみません。