【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

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【小話】久手駅

出雲の駅で、現在一番顕金駅と仲が良いのは久手駅である。宍道駅ではないのだ。

 

久手駅はかつて一か八かの賭けで漁に出て、獲った魚で干物を作って売るのが主産業であった。

それが蓬莱城が来るようになって、安全に漁が行えるし、甲鉄城が行商時に干物を売り歩くので、買い付けに来る駅まで出てきたのだ。今までは命懸けであったから、数が用意出来ず中々の高値であった干物は、数を用意できるようになったことで、安価にすることが可能となり驚くほどよく売れた。

 

顕金駅は蓬莱城を派遣して、手伝いの報酬に干物を貰えるし、久手駅は死人が出ることなく、今までよりたくさん魚が獲れるお互いが得をする関係なのだ。

 

宍道駅とも勿論関係は悪くないが、久手駅ほどお互いが得をするといった関係ではない。久手駅の場合が特殊ではあるのだから仕方がない。

 

顕金駅を中心に蓬莱城や甲鉄城が出雲のカバネを狩るので、大した戦力のない久手駅の駿城も出歩きやすくなり、良いことばかりである。

まだ掃討したとは言えないが、駿城にカバネが取り付くことが極端に少なくなったことで、出雲の各駅は大層喜んでおり交易も盛んになりつつある。

出雲の駅に接する石見、備後、伯耆などから来た駿城も出雲は比較的安全だと認識したため、出雲経由で行き来する様になり、出雲の各駅は景気が良くなった。

 

先日海水を汲み上げるパイプが経年劣化で壊れた時も、甲鉄城が来た際に相談したら、直ぐに蓬莱城と材料、蒸気鍛治を派遣してきて一緒にパイプの再建まで行ったのだ。対価は塩の価格を半値にすることであった。

半額にしたところで主にかかっているのは燃料費の為、原価割れまではしないし、蓬莱城が仕入れる塩は甲鉄城が干物と共に売り歩くが、久手駅よりも多少高い値をつける。甲鉄城が行商した後は、久手駅に行けばもっと安く買えるぞ。などと宣伝までしているので他の駅が買い付けに来て駅始まって以来の好景気である。

甲鉄城からすれば、干物も塩も日持ちするため行商の足を伸ばせば売る相手などいくらでもいるし、膨大な量ではないが久手駅より高値のまま売れる。売った先で久手駅を宣伝しておけば、出雲の駅にくる駿城も増えるため出雲の景気は良くなる。出入りする駿城が増えればカバネも移動してくるが、道元達は今年は出雲を盤石にするため蓬莱城を出雲の守護に当てている。

 

久手駅からすれば定期的にカバネを狩り、漁に付き合い、パイプの修理を手伝い、干物や塩の宣伝までしてくれる顕金駅は神様のようである。

 

顕金駅からすれば漁に付き合うだけで干物が貰え、塩は半値で買い取るが塩の生産ができる海沿いの駅はそこまで多くない為、内陸部に売り歩けば確実に売れるし利益が出る。

駅制度が始まってから11年魚をまともに口にしていない民人など珍しくないし、塩は人間にどうしても必要である上、肉などの塩蔵の為にも塩は必要不可欠である。金剛郭崩壊以来引きこもっている駅も多いので、ちょっと足を伸ばすだけで飛ぶように売れる。

守るべき範囲内の久手駅と仲良くするだけで利益が出るので、仲良くしない理由がないのだ。

その他も木材や炭も馬鹿みたいに売れるので元手の安いものでとんでもなく利益が出ており、武器の類いを売るのが主目的であるが、たとえ売れずとも充分黒字であった。

 

出雲の駅は、顕金駅が役人も住民も少なく未だ発展の余地があるため、顕金駅に擦り寄ろうとするが、当初予定した流民の受け入れを終えた為、役人の登用も流民の受け入れも、基本的には停止している。道元達は役人については登用したいのが本音であるが、今の顕金駅の状況を知っている出雲の駅から引き入れるのには、二の足を踏まざるを得ない。というのも武士達の能力が追いついていないからである。まだ十全に職務をこなせない状況で、優秀な役人などを登用しては武士達は肩書きのみの役人となり、事実上優秀な役人に乗っ取られてしまうからだ。

 

顕金駅が軌道に乗る前に登用した者達は、道元が背景などを加味した上で勧誘しており、ある程度は信用できる。流民から引き上げた者は、背景が不明の者が多いので少々不安は残るものの、次席や補佐などにするつもりは当分ないので様子見の状態である。

 

そんな中久手駅は、顕金駅に役人を5人差し出すことに成功している。久手駅は顕金駅に害をなしても、なんの利もないどころか損しかしないからだ。久手駅は駅の規模が小さい為、それなりの身分の子女などが職にあぶれており、その内から戦うなど到底出来ぬような、なよやかな女性が5人選ばれた。顕金駅は元下侍が殆ど独身の為、将来的には嫁にでも貰われれば良いという考えである。女性が政に口を出すなどもってのほかといった風潮は久手駅でもあるものの、それなりの家で育った女性はある程度の学がある為、余所の駅では無理でも顕金駅ならば採用してもらえたのだ。3人は奉行所の事務仕事に、2人はそれぞれ検閲所に配置された。

 

武士達は道元達に怒られるのも怖いし、菖蒲が領主であることから女性を見下すこともなく、下世話な話嫁が欲しいので、この時代では考えられぬほど女性を丁寧に扱っている。

久手駅から来た女性は、あわよくば嫁入りするため武士達に愛想良く対応している。

 

嫁が欲しい武士と、嫁入りしたい女性で利益は一致しているのだ。

 




久手駅は実在する久手海岸辺りを想定したので、もしかしたらこれ石見の国だったかもと今更気がつきましたが、出雲の国に入れときます。
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