【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

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【小話】雪

「最上様!ゆきぃー!」

 

寝起きの最上の部屋に小夜が飛び込んで来た。今年初の降雪である。朝から冷えるとは思っていたが、深夜から朝にかけて雪が降ったようでそれなりに積もっている。顕金駅にいた時も、甲鉄城にいた時も雪などいくらでも見たというのに、いつも大人しい小夜がはしゃいでいる。

 

(はて、東山道や北陸道を移動してた時小夜ははしゃいでいただろうか。)

 

「小夜。朝餉前にはしゃぐものではありません。さあ準備しますよ。」

 

最上が寝起きで記憶を掘り返していると、鯉が小夜を連れて下がって行った。

 

(雪…。…っ⁉︎雪かき‼︎拙い。手が足りんな。各所で人手が足りんから、何処も作業効率が下がる。何より城だ。以前は下侍が一生懸命やってたが、以前より武士も極端に少ない。役人も投入せねば足りないか?)

 

かつての顕金駅では、城の雪かきは下侍の仕事であった。屋敷は使用人にやらせていたし、城は下侍がやっていたので、最上に雪かきの経験はなかった。

 

最上が、朝餉を済ませて慌ただしく城へと行くと、武士達が既に雪かきを始めており、結構広い範囲が既に終わっている。雪かきをしている武士達を見ている最上に気がついた服部が近寄ってくる。

 

「最上様。主要部分しか手が回りませんがよろしいですか?」

 

「それは構わないが、早いな。」

 

「まあ毎年やってますから慣れたものですよ。最上様は通常業務で大丈夫ですよ。」

 

「む。手伝わんで良いのか?」

 

「慣れてない人が1人増えても変わりませんよ。」

 

服部がからからと笑う。

最上にはその分書類仕事をやってもらった方がいいし、実際のところ雪かきをやったこともない最上がいても微々たるものである。

 

今の顕金駅で雪かきをした事のない人間はかなり少数派で、甲鉄城に乗っていた面子に限れば菖蒲と最上くらいである。

 

結局最上も道元も通常業務をしており、服部に確認したが城下も放っておけば民人達でやるから、各所の作業が遅れることだけ承知してくれれば良いとのことであった。

 

武士達の屋敷周辺も八代の武士や巡回の奉行所の者達が必要なところだけサクッと片付けていた。

 

「あの感じからすると、最上様も一応雪かきする気でいたんだな。」

 

「家老が雪かき。…ないな。」

 

「というかあの人やったことあるのかね?」

 

「上侍だぞ。ないだろ。」

 

「それでもやる気で来るあたり偉いよな。」

 

「甲鉄城に乗ってたのが上侍ばっかりだったら、まだ終わってなさそうだな。」

 

「そもそも道具の場所も知らんだろ。」

 

「下侍だったことが役に立つの初めてじゃないか?」

 

「おっ。そうだな。冬の間は大活躍というわけだな。」

 

武士達は道具を片付けながら笑い合う。

武士達からすれば、かつては上侍達が城に来る前に、城の雪かきを終えていなければ何を言われるかわかったものではなかったので、早く来て雪かきをするのが当然だったのだ。上侍の屋敷の辺りも同様であったが、今回は朝の段階では手が回らなかった。

道元は当然の様に遅刻してきたし、むしろ最上がちょっと早く来たことに驚いたくらいである。

 

最上が家に帰ると綺麗な雪だるまが一つと、泥に塗れた雪だるまが一つ若干溶けた状態で庭に鎮座していた。

日中は天気が良く、雪も降らなかったため2個目は溶け始めた雪で泥塗れになったのだろう。

火鉢にあたりながら、鯉が持って来た食事を食べふと気になったのが朝の小夜である。

 

「朝は随分小夜がはしゃいでいたがどうしたんだ?雪なんて甲鉄城でも飽きるほど見たと思うが。」

 

「そりゃそうでしょう。甲鉄城にいた時は雪遊びなんてできませんし、寒いし滑るし良いことなんて一つもありませんでしたからね。」

 

「寒いのも滑るのも同じでは?」

 

「そうですけど、閉鎖空間にいて大人しくしていなきゃならないだけでも気が滅入るのに、寒かったり、床が滑るようでは余計元気もなくなりますよ。ここなら雪遊びしても誰の迷惑にもなりませんし、寒くなったら火鉢や掘り炬燵がありますからね。」

 

「あんなにはしゃいでるのは初めて見た気がする。」

 

「最近少しずつ小夜も明るくなってきたってことでしょう。良いことです。甲鉄城で大人しくしてたのが年相応じゃないんですよ。」

 

「ふむ。確かに。碌に喋らなかったな。」

 

「最近は結構喋るようになってきましたよ。」

 

「それは良いことだな。」

 

「そういえば、今日は早くに出ましたけれど、結局雪かきはなさったんですか?」

 

「いや。私がついた頃には殆ど終わってたし、普通に仕事しててくれと言われた。」

 

「そもそも雪かきしたことありますか?」

 

「…ない。」

 

「では今後も今日と同じように奉行所の方々に頼むといたしましょう。」

 

「む。…やり方がわかれば出来るぞ。…たぶん。」

 

「慣れない人がやるより、慣れた人がやった方が早いですよ。それに八代の武士もまわってくれてましたし大丈夫です。」

 

「む。」

 

面倒な雪かきをやらなくていいと言っているのに、最上は少々不満そうであった。最上にとって特別やりたい作業でもないが、"出来ないでしょう?出来る人に任せましょうね。"と言われるのは面白くないのである。若干拗ねた最上を見て、鯉は意外と子供っぽいところがあるんだなと思った。

 

この冬は結局、最上が雪かきをすることはなかった。奉行所の武士や八代の武士が武士達の居住区の雪かきをして回ったからである。雪かき等で遅れる事務作業を道元と最上が処理し、武士達が雪かきをする適材適所である。

 




家庭用の手押しサイズの除雪機くらいなら作れそうなあの世界。
まだクソ暑い日があるこの時期に降雪話を書いてて変な感じです。
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