【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

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【小話】最上

服部に誘われて、最上は雅客の屋敷に来ていた。雅客の屋敷には樵人と歩荷が来ており、囲炉裏を囲んでいる。

 

「で?態々呼びつけて何が聞きたい?」

 

「いや。普通に交流を深めようってだけなんですが。警戒しすぎでは?」

 

「お前ら私事で誘ってきたの義原駅でくらいだろうが。そもそも私事でつるむほど仲良くもないだろ。」

 

「えっ⁉︎酷い!」

 

「まあとりあえずお茶でもどうぞ。」

 

服部がささっと人数分の茶を持って戻ってくる。

 

「そういえば、最上様ってなんだかんだ愚痴をいう割に菖蒲様に甘いですよね。」

 

「堅将様の御息女だからな。」

 

「…主ではなく?」

 

まさか主と認めていないのかと武士達の目線が集まる。

 

「主は主だが、…なんといえばいいかな。…例えば来栖に子供ができて来栖の代わりに仕事をこなすようになったら、お前らは来栖に求めてたことをそのままそっくり子供に求めるか?どうせ甘やかすだろ?」

 

「そうかもしれませんけど、ちょっと違う気がします。年齢的に俺達にとっても子供世代になっちゃいますし…。」

 

「手近な例えがそれしかない。元々お前達は、菖蒲様の護衛を命じられた来栖の配下だから菖蒲様第一だっただろう?私は堅将様がそうだ。その御息女だからどうにもな。まあ私より歳は上だが…。菖蒲様は堅将様の宝だ。堅将様をお守りすることは叶わなかったからこそ、堅将様の為にも菖蒲様のことをお守りしたい。…物理的には来栖がいれば充分だから、それ以外で尽くしたいだけだ。御心を守るのもそのためだな。道元様ともその点は合意しているから問題ないしな。」

 

「道元様からしたら可愛い姪ですからね。」

 

「それに得難い心の清らかさだからな。態々汚すこともあるまいよ。甲鉄城では閉鎖空間故に信頼できる城主が必要だった。絶対に自分達は見捨てられないって信頼してただろ。信頼はあるに越したことはない。」

 

「それはそうですね。」

 

「信頼がなかったら、いつ八代みたいに内部崩壊しててもおかしくなかった。これからとてそうだ。いつか非道なことが必要になれば、私か道元様がやれば良い。隠し通すのが基本だが、隠し通せぬならやったものの暴走として切り捨てれば良い。どちらかが消えてもどちらかが残ればどうとでもなる。」

 

「いやそれはどうなんですか?」

 

「菖蒲様が悲しみますよ。」

 

「必要なことならやるとも。100人助けるために10人を犠牲にしなければならないとして、菖蒲様は110人助けようとする。八代の件で実証されただろ?顕金駅のためなら八代など捨て置けばよかったんだ。結果として石炭を楽に手に入れられるようにはなったが、あの段階でせずともよかった話だ。甲鉄城ではそれでもよかったが、もう甲鉄城のように抱え切れる範囲ではない。駅規模で損害が出るのは無理だ。民人も流民が大半だから甲鉄城の時ほどの無茶は出来ない。次があったとして、方向修正すら無理な時は私か道元様が基点の人物を消す。その後問題があれば、実行した我々のどちらかを来栖辺りが誅すればいい。」

 

「だからって道元様や最上様を切り捨てるなんて…。」

 

「バレなければいいんだ。1人消そうが、10人消そうが公にさえならなければ問題ない。消えたことが公になっても我々がやったとバレなければ良い。それを失敗したときには我々が消えるだけだが、そう簡単に尻尾は掴ませんよ。」

 

「さらっとすごいこと言った…。」

 

武士達は引いた。

 

「ここで話した意味はわかるな?」

 

「ひえっ。」

 

「何かに気がついても口を閉じておくだけの簡単な仕事だ。」

 

「あー!やめやめ!そういう話したいんじゃないんですよ!」

 

雅客が大きい声を上げて話題を中断させたため、最上は不満気な表情を雅客に向ける。

 

「そもそも振ってきたのはお前らだろう。」

 

「こんな話題に曲がるなんて思いませんでしたけど⁉︎」

 

「そうか。」

 

「なんかこう。もっと日常的な話しましょう。」

 

「日常…大体仕事してるからなぁ。」

 

「ふぐっ!…きゅ…休日何してますか?」

 

未だ管理職の仕事を習得しきれていない武士達のせいで、道元と最上の負担が未だ多いため大半は仕事をしている。雅客は、個人的に下緒から最上の休日の話は聞いたことがあったが、少しは変わっただろうかと休日の話を聞くことにした。

 

「んー。疾風に乗るか鍛錬か読書。」

 

全く変わっていなかった。業務の負担が多少マシになったくらいで、早々変わるものでもないのである。

 

「どんな本読むんです?」

 

「ざっくりいえば算学関係と医学関係が多いな。」

 

「そういえば、なんで医学勉強しようと思ったんです?」

 

「効率よく人を殺したり、死なせない拷問方法を知るためだな。」

 

「あー!またそういう話!」

 

「雅客。うるさい。」

 

話を振ると真っ黒な方向にカッ飛んでいくので雅客は困っていた。真っ黒なところを見せてくるようになったのは、信用を得られたようで嬉しいが、私事で真っ黒な話を聞きたいわけではないのだ。

 

「そういえばこの間水飴作ったんですよね?」

 

「えっ?水飴?」

 

「その話題面白いか?」

 

「是非!」

 

服部から振られた話題に最上は微妙な顔をするが、流石に水飴から真っ黒な話題にはいかないだろうと雅客は食いついた。

 

ひと通り水飴作成の話を聞いて雅客は口を開いた。

 

「意外と子供らと上手くやってるんですね。」

 

「ん?そうか?休日くらいしかまともに会わんからよくわからん。甲鉄城にいたときの方が顔を見てた気がするな。」

 

「一緒に水飴作ったりしてる時点で仲良いと思いますよ。一之進とかは養子にするんですか?」

 

「いや?一之進と二之介は何年かしたら間違いなくうちから出す。」

 

「えっ⁉︎どういうことですか⁉︎」

 

「どうもこうもないが?一之進の父親は上侍だぞ。まあ下の方ではあったけどな。一之進の実家は押さえてあるから二之介が5つくらいになったら、使用人をつけて実家に戻す。」

 

「実家押さえてるんですか⁉︎」

 

「お前達に家の采配をしたのは私だぞ?一之進の父親も一応把握してたから押さえておいた。小太郎と小夜は特に考えてないが本人次第だな。」

 

「二之介が5つってことは一之進は10じゃないですか。可哀想では?」

 

「何故?使用人はつけるし、金銭的援助もするが?うちにいたって実家に戻ったってさして変わらんだろ?」

 

「寂しいでしょ。」

 

「使用人を住み込みにすれば問題ないだろ?」

 

「駄目だこの人。」

 

心底分からないようで、不思議そうに首を傾げる最上に雅客達は少し困ってしまった。

 

「剣術の稽古はお前らに任せるし、お前らが構ってやれば良いのでは?勿論学問の書物は私が貸すし、今と特に生活は変わらない。10にもなれば一之進もしっかりするだろう。小太郎が甲鉄城に乗ってた時は5つだっただろう。二之介も自分のことはある程度できる年齢だ。なんの問題もない。」

 

「そういう問題じゃないと思うんですが。」

 

「何かあったときに頼る先などいくらでもあるし、上侍と下侍に別れたあのあたりで、来栖や倉之助なんて7つとかだったわけだろう。金銭的にも後楯にも困らないのだから、充分恵まれてると思うんだがな。そもそも私が面倒を見る筋合いもないといえばないんだ。」

 

「…それはそう。」

 

「よし。この話題やめよう。埒が開かない。」

 

今はなんだかんだと最上が面倒を見ているからと思っていたが、確かに最上が面倒を見てやる義理はないのだ。甲鉄城では鰍が面倒を見ていたが、鰍も炊き出しをしていた女衆も、再興のために子供達をみることが出来ないからと最上が引き取ったに過ぎない。

 

「最上様。今欲しいものってなんですか?」

 

「金と役人。」

 

「違う!個人的に!」

 

「うーん。馬。」

 

「疾風はまだ若くないですか?浮気ですか?」

 

「いや。疾風の交配相手の馬が欲しい。疾風は優秀だからな。血統を残したい。できれば相手の雌もそれなりの馬だと嬉しいが。」

 

「あぁ。甲鉄城に乗ってた馬以外は、野生化し始めてたやつしかいませんもんね。来栖の馬も雄だし。」

 

「しかも生き残ったのは馬銜を噛まされてなかったやつだろう。有事に使われなかった馬だからなぁ。」

 

「野生化し始めてたのに良いのはいなかったんですか?」

 

「いまいちだな。とはいえ余所から優秀な馬を買うくらいなら、他の事に使うから今いるのから選ぶさ。」

 

「他にはなんかないんです?もっと気軽な感じの物とか、あれ食べたいとか。」

 

「…うーん。…特に思いつかないんだが。」

 

「好物とか無いんですか?」

 

「だし巻き卵。うちに鶏がいるからたまに穴子さんが作ってくれる。」

 

「へぇ。だし巻き卵。良いですね。酒のつまみにしたいです。」

 

「酒は飲めんから知らないが。」

 

「他に欲しいものとかは?」

 

「うぅん。…特に無いなぁ。もう生駒に頼んでるのもあるし、現時点は無いな。」

 

「生駒に?何を頼んでるんです?」

 

「手甲や脛当てに入れる金属板。カバネ心臓の金属被膜で、板というか網というかってやつだな。軽さ重視でカバネの刀くらいは受けられるやつが欲しくてな。態々受けたりはしないが、回避し損ねても怪我せずに済むだろう。勿論作業の賃金は私費で払うぞ。」

 

「そんなの経費では?」

 

「武士達に配備するなら経費だが、あくまで私物だからな。…ふぁ。…欲しいものあったぞ。睡眠時間。」

 

「付き合わせてすみませんでした。」

 

「それは良いが、お前らはなんか欲しいものとかないのか?」

 

「「嫁。」」

 

「…。頑張れ。応援してるぞ。よし解散。」

 

最上は雅客達に呆れた目線を向けた後、服部と共に帰路についた。

 

「うーん。最上様の欲しいもの。馬かぁ…。」

 

「しかも疾風の交配相手。」

 

「もうそんなの疾風次第じゃん⁉︎例え名馬がいても疾風がやる気になるかどうかじゃん。」

 

雅客達は顕金駅から脱出した時から、なんだかんだと世話になりっぱなしの最上になにか礼がしたいのだ。最年少の武士に汚れ役から金稼ぎまでさせて、頼りっぱなしなので何かないかと考えた。七夕の時の短冊になんて書いたかも分からなかったが、まさかの来栖が内容を知っていた。しかし短冊の内容は菖蒲の願いが叶うようにである。

 

本人に礼がしたいと言えば、間違いなく"さっさと仕事が十全にできるようになれ"と言われるに決まっている。なにかわかりやすい物とかをあげたいのだが、欲しいものが馬。しかも疾風の交配相手ときた。残念ながら出雲には馬の名産地は無いし、疾風が気に入らなければ意味がない。

 

「どうしようかね。」

 

「仕事で返すってのもなぁ。そりゃ出来るにこした事はないけど、それって別に最上様個人へのものじゃないしな。」

 

「馬は無理。仕事も違うとなるとな。道元様ならなんか知ってそうだけど、道元様に聞くのもなぁ。」

 

「とりあえず物が決まるまでは仕事を頑張るか。」

 

「だなぁ。」

 

この後ひょんなことから、甘味が好きらしいと蒸気鍛治から情報を得ることになるのだが余談である。




菖蒲様も八代の件はやらかしたと自覚してます。甲鉄城では自分の采配が基本的に受け入れられ、お金の問題は最上が片付けてくれていたので、多数の民人の生活が激変するようなことは今までなかったので、八代で自分の采配が原因で多くの人の生活が変わってしまうことを学習しました。
道元も最上も普通に人を殺せる人達であり、堅将のように非道な決断を出来るとわかっているので、人が消えたら程度によっては気が付きます。とうとうやらせてしまったとならない為にも、菖蒲様は頑張りましょう。
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