雅客は奉行所の書類進達のついでに、ふと疑問に思ったことを最上に聞いてみることにした。
「カバネに噛まれたら、一か八かカバネリになるか自決かしかないんですよね。」
「なんだ今更。」
最上は、先日生駒達は人間に戻れるかを聞いてきた服部のことを思い出して呆れた目線を雅客に向ける。
「いや。最上様や来栖や瓜生は生身で戦ってるわけじゃないですか。」
「お前らも生身だしそこに変わりはないだろ。まあ前衛の方が感染の可能性が高いのは確かだが。」
「万が一感染したらカバネリになるつもりってありますか?」
「ない。成功するかもわからない。いつ正気を失うかもわからない。戻れるかもわからない。そんな賭けに出る気はない。」
「でも生駒も無名も今のところ問題ないじゃないですか。」
「今はな。というか無名殿は子供。生駒も戦闘とは無縁の状態からあの強さだぞ。無名殿に才能があるのは確かだが、私や来栖がカバネになったり、カバネリになってから暴走したら殺せるのか?どの程度身体能力が底上げされるか分からんのだぞ。下手をすれば私ですら無名殿より強くなる可能性も無くはない。来栖は考えたくないな。」
「それは…そうですが。」
最上がカバネリとなり、暴走した場合来栖なら殺せる可能性は充分にあるし、無名も追加すれば間違いなく殺せるだろう。しかし来栖は別である。ただでさえカバネリと同等の戦闘力を有する来栖は絶対にカバネリにしてはならない。最上にあっても普段外に出る時は甲鉄城であり、無名も来栖もいないのだ。基本的に賭けに出るわけにはいかない。
「あともう一つ手段がある。かなり限定的だが。」
「なんです?」
「噛まれたら場所が手足の末端なら、瞬時に切断することだ。」
「切断…。」
「血液は60秒で一巡すると言われている。噛まれた瞬間瞬時に切断できれば可能性はあるな。まあ私も来栖も金属被膜刀でカバネを切ってる状態だと、刀にウイルスがついてるから刀では無理だがな。」
「それは手段の一つに入らないのでは?我々が刀を携帯しても瞬時に骨ごと切断できるとは思えません。」
「だから限定的だと言っただろ。まあ切り離せればいい訳だから、自決袋で爆破して千切るというのもありだが。」
「切断もそうですが、失血死しませんか?」
「直ぐに応急処置できなければ死ぬな。それにウイルスが回る前に切り離せたか分からんから、カバネリのどちらかが感知の為に見張りにつかねばならん。ダメだった場合にカバネになりきる前に死なねばならない。出来れば無名殿が良い。生駒はカバネリになることに賭けたがりそうだ。」
「自決一択よりは望みがありますかね。」
「ごく僅かにってくらいだがな。まあないのと同じだ。あてにするな。」
末端が感染した場合、理屈上は切断してしまえばカバネになることを回避出来る。しかし切断の機会を逸すれば感染を許してしまうし、切断後の処置を誤れば失血死が待っている。楓がいれば処置は間に合う可能性があるが、見習いの仁助や最上では生存率はかなり低いといえる。
蓬莱城では仁助、甲鉄城では最上が医者代わりであるが、最上がそれをした場合甲鉄城に処置を出来る人間はいない。刀による切断であればある程度はなんとか出来る可能性はあるが、自決袋によりちぎり取った場合は絶望的といえる。
「やっぱり生駒はカバネリに賭けますかね。」
「そりゃそうだろう。だがカバネウイルスは必ずしもすぐに発症するわけじゃない。ゆっくり時間をかけて発症する場合もある。発症に合わせて絞扼しないと、普通に絞殺することになるぞ。その場合は絞殺死体がカバネになるな。発症に合わせたとしてカバネリになるかも分からんが。」
「絞殺…。」
「それに3年前男鹿殿を殺した篠田将吾の件もある。」
「将吾の件…ですか?」
「あれは大鍛錬場の保守施設でカバネに噛まれた後、首吊り状態だった筈だ。篠田将吾はカバネリになれたか?」
「…なったとは聞いてないです。」
「首吊り状態から下さねばどうにもできなかった筈だから、下ろしはしたんだろう。だがカバネになったともカバネリになったとも聞いていない。ということは絞扼し続ければ、カバネにもカバネリにもならずに死ぬということだな。どの段階で止めるとカバネリになるのだろうな。」
「分かりません。」
「そうだ。明確な基準がない。下手をすればカバネにもカバネリにもならず、仲間を絞殺するだけということだ。カバネリの実例がいるからと余計な希望を抱くな。そして抱かせるな。感染したら自決しろ。自決させろ。私でも来栖でもな。」
「…はい。」
「身近に実例がいて、海門でも実例がいた。だからといって安易にカバネリになることを手段に入れるべきじゃない。カバネリになる条件を調べるための実験としてなら反対はせんがな。失敗すれば仲間を見す見すカバネにするか、自らの手で絞殺するかだ。その覚悟を持って実験するなら止めんよ。ただし、それを視野に入れるなら全員に意思確認をしておけ。実験台になっても良いという者だけなら試しても良いぞ。」
「実験台って…。」
「実験台だろう?検証の済んでない手段だ。一か八かなど実験以外の何ものでもないよ。覚悟がないならやめておけ。お前達にそういうのはむいてない。話は終わりだ。今の話は武士達で共有しておけ。生駒にのせられて安易に試した結果、仲間を絞殺した上カバネになりました。なんて報告はごめんなのでな。」
「わかりました。」
雅客は意気消沈したように項垂れて帰って行った。
(最近の余裕具合から自決袋の携帯を怠る馬鹿者が出ないように、指示を再徹底する必要があるかな?)
最上は道元に相談の上、後日自決袋の携帯の徹底の指示を武士達に出すことになった。
小説の暁を読んで、マジで将吾君どうなったか出てこないのでそこが知りたい。生駒のカバネリのなり方的には変色が引いたら、絞扼をやめれば良いのかもしれないですけど、引いた後ウイルスが死ぬまで絞扼し続ければ人のまま死ぬのかなって思いました。将吾君の死体は下ろしてる筈ですが、カバネになってたら大騒ぎだと思うんです。心臓を撃ち抜いてから下ろしたとは思えないんですよね。何発もぶち抜いてから下ろせる高さでも無さそうですし、熔鉱炉も距離があるからそのままドボンもないでしょうし、そういう描写もないので絞扼し続けた場合カバネにもならずに死ぬということで解釈しました。