【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

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【小話】剣術

その日訪れた駿城は安芸の国の高田駅のもので、謁見の際城主に連れられた武士である田中が明らかに菖蒲と良い仲になりたいと主張していた。

 

「顕金駅の再興は喜ばしく思います。しかしながら道元様と菖蒲様のみでは政は難しいのではありませんか?失礼は承知ですが、あまり教養高い者たちが多いようには…。」

 

「いいえ。そちらに控える最上も叔父様と並び家老として政に尽力してくれておりますし、何より他の者達も充分に務めております。」

 

「おや。最上殿の名は以前はとんと耳にしたことがありませんでしたが優秀なのですな。しかし少々若すぎるのではありませんか?私は剣術において安芸の国一の侍であり、政にも精通しております。私の叔父も金剛郭に勤めておりましたので、四方川家程ではないにしろそれなりの家格であると自負しております。女性である菖蒲様には、精強で政の行える者が必要ではありませんか?勿論伴侶として。」

 

「お気遣いは嬉しいのですが、まだ再興も始まったばかりですから、伴侶までは手が回りません。」

 

「おや。忙しいからこそ優秀な伴侶を迎えるべきではありませんか?再興もよく進めることが出来ます。」

 

安芸の国からきた男の言い分も間違えてはいない。菖蒲は他の者達もよく務めているとは言ったが、事実政を担える者が足りていないのだ。それに菖蒲の伴侶となる者が武を伴わぬなどは許されない。

 

しかしこの男でなければならない理由もない。菖蒲はどう断ろうかと笑みを浮かべながら思案していると、道元から助け船が出された。

 

「ほう。安芸の国一ですか。それはそれは。では是非、顕金駅一の侍である九智来栖君とお手合わせ願いたいものですな。」

 

「九智と申されましたか?まさかあの出雲の国一とうたわれた九智殿のご子息ですかな?」

 

「そうです。安芸の国一の田中殿であれば問題ありますまい。」

 

「御冗談を。顕金駅一と言えばカバネリとやらと同等と伺いました。流石に人外のカバネリなる者と同等と言われますと、恥ずかしながら私では役不足でしょう。しかしながら九智殿に次ぐ腕前はあると思います。九智殿には是非カバネ討伐に尽力していただき、私が菖蒲様の身の安全を御守りするというのはどうでしょう。」

 

出雲の国中でカバネリの活躍は話題となっており、それと同等であると来栖の噂も出回っているのだ。流したのは道元と最上であるのだが。対して最上は政治面武力面の両方で特に目立ってはいない。政治面では道元の名声を、武力面ではカバネリが実力を見せつけ、カバネリと同等である来栖の噂を流しているからだ。出雲の国の中で最上の立ち位置は道元の配下で、カバネに積極的に立ち向かうイカれた武士の1人でしかない。瓜生と共に運用しており、多数のカバネに単独で挑む等という狂った真似はしていない。

 

「謙虚ですな。では最上君などどうでしょう。現状最上君が来栖君に次ぐ実力者です。最近は政で忙しくしておりますので、安芸の国一の田中殿のお相手となるには不足やも知れませんが。」

 

田中は最上を観察したが到底強そうには見えない。道元が二番手と推すならば、それなりではあるのだろうが来栖の様に精強そうにも見えず、体躯も小柄で迫力も感じない。むしろここまで自分達を案内した吉備土という男の方が余程迫力があった。顕金駅は一度カバネにのまれており、人材不足なのは知れている。役人としてちらほらと目につく武士達も、元々地位がある者達の立ち振る舞いには見えないことから、家格の高い最上を持ち上げているか、余程剣術の腕の伴わない武士ばかりなのだろうと思った。

 

「九智殿に次ぐ実力者ですか。私でお相手になれば良いのですが。」

 

田中は口ではそう言いながら、最初は少々苦戦する振りでもしてやってから、勝利を収めて九智に次ぐ実力者に勝った者として改めて伴侶の座を求めれば良いと考えていた。

 

手合わせは袋竹刀ではなく木刀が手渡された。ここにきて田中は、家格がそれなりにあるであろう最上に木刀で打ち込んでいいものか思案した。下手な怪我をさせるのはまずいのだ。袋竹刀であれば酷い打身ですむような打ち込みでも、木刀では骨折させてしまうからだ。最上は家老として紹介されているので、骨折までさせては些か角が立つ。最上の実力がわからない以上手加減が難しく、勢い余って大怪我などさせられない。

 

「木刀なのですか?袋竹刀で良いかと思うのですが。」

 

「あっ。そうですね。袋竹刀にしましょうか。」

 

最上はきょとんとした後、木刀を袋竹刀に交換し田中にも袋竹刀が手渡された。いまいちピンときていなかった様子から、田中はこれは本当に接待剣術しかしていないのではないだろうか。あまりこてんぱんにしてしまうといけないから気をつけようと思っていた。手合わせが始まるまでは。

 

手合わせが始まり一瞬で小手を打たれ、田中は袋竹刀を取り落とした。

 

「田中殿。あまり手を抜かれると困ります。気を遣っていただかなくて結構ですよ。」

 

最上は困った様に眉を若干下げてそう言った。奇抜な戦法をとるでもなく、基本的な小手を打った最上にケチをつけられるわけもなく、田中は慌てて袋竹刀を拾い上げた。

 

「いやぁ。すまない。見事な太刀筋ですな。油断しておりました。失礼失礼。」

 

田中は軽い調子で謝罪したが、心中は荒れ狂っていた。

 

(このクソガキ強いじゃないか。手加減などと言っている場合ではない。全力で叩き潰してやろう。)

 

最上は最上で田中の謝罪を微笑んで聞きながら、小手調べの一撃で袋竹刀を取り落とした田中を下方修正した。

 

(うーん。遅い。互角くらいを想定して小手調べで軽めに打ち込んだのにこれか。使えんな。)

 

安芸の国一などというものだから、来栖程とはいわないもののそれなりの強さを想定していた。下手に負けると調子に乗られてしまうし、強かったら全力でいこうかなと思っていたのだが肩透かしである。

 

仕切り直して手合わせが始まった。今度は田中が先に打ち込んできたが、本来最上は後の先を得意としている。叩きのめす気満々で面を打ちにきた田中の小手を打って脇を抜ける。振り向くと再び田中が袋竹刀を取り落としていた。田中の顔は憤怒に歪んでいた。最上が真顔で待つ中再度袋竹刀を拾い上げ、ぎちりと袋竹刀の柄が鳴るほど握りしめた後、狙ってきたのは突きである。防具をつけていない手合わせであるのに、突きなど当たれば叩きのめすどころか死にかねない。田中の体躯は来栖と同程度であり、最上がまともに受ければ死ぬ一撃である。とはいえ最上はちょいと剣先で突きを逸らして横に抜けつつ、田中の小手を強かに打った。

その後も果敢に攻めてくる田中の小手を、ひたすら最上が打ち据えるのが続き、とうとう高田駅の駿城の城主が止めるために声を上げる。

 

「田中殿!そのあたりで…。」

 

城主は田中に声をかけるが田中も怒りで我を忘れている。田中は止まらず最上の足を狙ってきた。

 

(飛んで避けたところを打ち据えてやる!)

 

最上が右足を上げたのを見て口角が上がるが、最上はそのまま袋竹刀に右足を降ろした。袋竹刀を踏み砕いてぱかりと面を軽く打った。田中の顔が真っ赤に染まるが城主が駆け込んできて田中を取り押さえた。最上がひたすら小手を打ち据えたため、田中の両腕は腫れ上がっている。

 

「田中殿!突きのみならず足を狙うとは何事ですか!」

 

剣術の大半では足を狙うのは邪道である。実戦としてはありではあるし、最上はよくカバネの足を狙っているので、顕金駅の面子としては足を狙ったくらいはどうでもいい。どちらかといえば突きの方が問題であったが、かすりもしなかったので抗議し損ねたのだ。

 

「田中殿。私は来栖に次ぐ二番手と紹介されましたが、これは武士に限ったことでして、その他のものを含めた場合前衛最弱なのですよ。大変恐縮ですが私に一撃も入らないようでは菖蒲様はお任せ致しかねます。」

 

田中は怒りに震えながら最上を見ているが、最上はどこ吹く風でうっすら笑みを浮かべて見つめ返している。

 

「最上君もういい。下がりたまえ。」

 

「承知しました。」

 

道元に声をかけられて、最上は横に来ていた武士に袋竹刀を渡して田中に背を向けた。田中は最上にひたすら打ち据えられたが決して弱くはない。樵人あたりと手合わせをすれば間違いなく田中が勝つ。田中は城主を振り払い失礼するなどと言い捨ててずんずんと立ち去った。城主は青い顔でひたすら謝罪をしていたが、菖蒲は笑って許していた。そもそも最上が不必要に煽っていたのでこちらにも非はあるのだ。城主も退散した後、菖蒲は最上に声をかけた。

 

「あそこまで一方的に打ち据えずともよかったのではありませんか?」

 

「ええ。ですがあの程度の男を送り込んできた高田駅の領主に気を使う必要もないと思いまして。私を家老と認識しておきながら、突きを選択した時点で政治面でも無能ですよ。2回目の小手を受けた時点で、素直に負けを認めていれば良いのに。」

 

最上は呆れたといった態度を隠さずに田中をこき下ろす。そもそも道元が手合わせ相手に来栖を勧めた時点でやっちまえという事なので。来栖は下侍であったので接待剣術も可能だが、以前と違い道元も最上も接待をさせる気はない。カバネリと違い正当な戦力として最強を喧伝しておきたいのだ。

 

「まあ高田駅の領主の出方を見ることにしましょう。菖蒲殿の伴侶を狙って来ていただけですから、あの程度は問題ありません。最上君は正攻法で打ちのめしただけですから、恥ずかしくて抗議もできますまい。本当に安芸の国一の実力者かもわかりかねますしな。」

 

「叔父様がそう言うのであれば大丈夫なのでしょうね。ところで田中様の叔父が金剛郭に勤めていたと言っていましたが、叔父様は面識がお有りですか?」

 

「確か勘定方にいたかと思いますが、まあ大した地位にはおりませんでした。特にお気になさる必要もありません。」

 

「そうですか。しかし高田駅とは少し距離ができてしまいますね。」

 

「問題ありません。特に高田駅を優遇したい理由もこちらにはありません。高田駅は安芸の国でも中堅程度。安芸の国も一枚岩ではありませんから、高田駅と多少距離ができても他と繋がればいいのです。関わる駅全てと仲良くしなければならない訳ではありません。」

 

菖蒲と道元の会話を聞きながら武士達は視線を最上に向ける。

最上は最後以外ひたすら田中の小手のみを狙っており、胴が空いていようが、面が空いていようがひたすら小手を打ち続けていた。普段はカバネや来栖にコロコロ転がされている印象が強く、一方的に相手を打ちのめしているのは初めて見た。

 

(最初木刀用意してたけどもしかして前腕へし折る気だったんだろうか?)

 

(いや怖ぁ…。)

 

(最上様小手に恨みでもあるのかってくらい小手しか打たなかったな。)

 

手合わせで最初に木刀を用意したのは、手合わせといえど家老である最上を出した以上、約束動作程度の手合わせのつもりだっただけである。余所の家老に本気の手合わせを望むのは、安芸の国一の実力者なら普通はありえないので。安芸の国一といっても、余所の家老を負かすなど角が立つので接待一択の筈なのだ。婿入りしたいならなおのことだ。来栖なら現状負かしたところで問題はなかったが、いくら来栖に次ぐ実力者として最上が出てきても最上は家老である。婿入り先の家老に恥をかかせる奴がいるものか。木刀で約束動作じみた手合わせをちょいちょいとして、素晴らしい太刀筋ですなで済む話だったのだ。

 

最上は家老としては若すぎる為、家老として認識していても物凄く舐められている。顕金駅がカバネに落とされていなければ、家老につくことはあり得ない年齢であるし、菖蒲ではなく堅将が領主であればまだしも、菖蒲が領主だと余程人材不足なんだなとしかとられない。だからこそ人材不足でついているだけのお飾り家老に敬意を払わない。田中が袋竹刀ではないのかと聞いた時、

 

(へえ。婿入りを狙う先の家老に打ち込む気なのか。できたら叩きのめそう。)

 

となっただけである。最初から腕をへし折るつもりで木刀を用意した訳ではない。武士達の勘違いである。

小手をひたすら狙い続けたのは元々最上は真剣でも手足を狙うのでそうなっただけである。人相手の場合頭から唐竹割りなど不可能だし、胴とて殺す分には問題ないが、そのあと尋問したい時に困るので手足を狙う。足を狙うと邪道だの卑怯者などの誹りを受けかねないので、小手一択であっただけで別に小手に恨みがある訳ではない。まあ途中からいつ音を上げるかなと小手のみを打っていたのは確かである。

 

高田駅の駿城は翌日城主が再度謝罪にきた後そそくさと出て行った。

後日他の安芸の国の駅の駿城の城主から、田中が安芸の国一の剣術使いであるという話は聞けたが、剣術はどの駅も後回しであり競い合うのも中々難しい為、高田駅一は確かだがたぶん安芸の国一程度の話であった。

来栖の父親が出雲の国一の剣士とうたわれた頃は、剣術に重きを置いていたし、駅に引きこもる前であるので国一とうたわれるのは、今そう言われるのと雲泥の差である。




そもそも菖蒲様と結婚させる気がないので、どういう選択肢を選んでも田中君は不合格なんですけどマイナス100点でした。
来栖と正面からガチバトルで勝利すればワンチャンくらいの望み(無いのと一緒。)
道元様が手合わせで出てきたら、田中君はハイパー接待剣術をしたはずなんですが、ホモ君がどう頑張っても家老に見えないのでぺろっぺろに舐められてます。外見が伴わないので認識がバグりやすい。(なんかトラップみたいだな。)

菖蒲様(若い女性のため舐められる)
道元様(老中してたので知名度カンスト)
ホモ君(若くて小柄で舐められる)

上層部の3分の2が舐められる顕金駅。勘太郎がいたら勘太郎は舐められません。やっぱり初見だと外見に偏りがち。人材不足なのはわかっているから余計拍車がかかる。
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