予定では4日前帰還予定であった甲鉄城がまだ戻って来ていない。積雪の影響で予定を過ぎるのはよくあることであるため、最初は楽観的であった顕金駅の者達であるが、4日目ともなると不安がつのる。甲鉄城は伯耆の国まで行商に出ていたのだが、元々積雪を考慮した日程を組んでいるため、ただでさえ通常日程よりも長い日数で予定していた。
通り道である宍道駅まで行き着いていれば、道元の鳩を使って手紙の1つも届きそうなものであるが、それもなく4日も過ぎてしまっている。しかし蓬莱城を迎えに出すこともできないのは、甲鉄城の現在地がわからないからである。蓬莱城まで何日も駅を空けるわけには行かないのだ。
「甲鉄城は大丈夫でしょうか。」
朝議の場で菖蒲が甲鉄城の安否を口に出す。甲鉄城の城主は最上であるため、同情心などから余計なことに手を出して、日程を遅らせるとも思えないことから来栖は特に心配はしていなかった。
「未だ文の一つもありませんが、城主は最上です。狩方衆もおりますから滅多な事にはなっていないでしょう。もしかしたら雪崩などで線路が不通などは考えられますが。」
純粋な戦力であれば蓬莱城が断然上であるが、有事の対応力であれば甲鉄城の方が上である。最上のこともあるが、拠点を持たず克城で過ごしてきた狩方衆は、顕金駅の武士達よりも駿城について多岐にわたる知識があるのだ。
結局出雲の除雪やカバネ狩りや、八代との行き来をしなければならない蓬莱城を出すわけにもいかないため、朝議では特に建設的な案が出ることなく終了となった。
積雪の影響で甲鉄城の速度は遅くなるがそれはカバネも同じである。カバネとて積雪の中通常通りの動きは出来ない。それこそ融合群体でもなければ積雪の中、甲鉄城を強襲するのは難しいのである。
さらに2日が過ぎた時、宍道駅から伝書鳩が飛んできた。日程を大幅に過ぎたことの謝罪と人員装備共に異常は無いこと、宍道駅には滞在せずに戻るとの内容のみであり遅れた理由の記載はなかった。
2日後、甲鉄城が顕金駅に帰還した。
検閲の後、最上が城へと上がり事の顛末を報告した。
伯耆の国へは積雪の影響を少しでも抑えるため、山間部ではなく海沿いの線路を選択していた。甲鉄城は出雲を抜けるまでは順調に進んでいたのだが、目的地の米子駅の手前で切り離され置き去りにされた車両とかち合ったのだ。進路を塞がれた甲鉄城は置き去り車両のカバネを掃討した後、置き去り車両を牽引して出雲の給水塔まで戻り、置き去り車両を最後尾に牽引しながら米子駅に向かう事となった。
給水塔まで戻る際、後退していくしかなく最後尾車両が先頭車両へとなった為、排雪板がかなり簡易的であったことから1日を要した。給水塔で最後尾の排雪板を外し置き去り車両を連結して再出発したものの、進んだ先で今度は置き去りにしていったであろう先頭車両まで線路上で停車していた。停車している駿城はカバネにより全滅していたため掃討をしたのだが、再度牽引して給水塔まで戻る必要が出てきたのだ。先頭車両が無事なら甲鉄城が間に挟まる形で進行できたのだが、残念ながらカバネを振り切ろうと無理をしたのか窯の調子が悪かった。ただでさえ積雪をかき分けねばならない為、窯の調子が悪い駿城を先頭にするわけにもいかず、再度の後退を余儀なくされたが置き去り車両の最後尾に排雪板を取り付けなければ、最後まで後退できるか怪しいところであったので、簡易の排雪板の取り付けをしてから給水塔まで後退した。
給水塔で前後が分断されていた駿城を連結し、甲鉄城を先頭にして牽引して再出発までに4日を要した。
積雪の為低速運行を強いられているのに、お荷物の駿城一城を抱えることとなった甲鉄城は、米子駅に着いたのが予定を5日過ぎてしまうことになった。
回収した駿城は米子駅の駿城であり、食糧調達の帰りだったようで積載された食糧は殆ど無事であったため、米子駅の領主からは大歓迎を受ける事ができた。甲鉄城の面子は遅れを少しでも少なくするため、急いで連結作業を進めて最低限の休憩で米子駅まで向かったことから疲労で実演販売どころではなかった。実演販売こそしなかったものの、最上は武器と塩や木材や炭などを売りつけ、米子駅に一日滞在した後、甲鉄城は帰路に着いたのだ。
「最上。お疲れ様でした。」
「慰労のお言葉痛み入ります。以前の石見駅や此度の米子駅の件を考えれば、余所の国の駅は余力をジリジリと削られている状態です。雪解けの頃には兵器の販売範囲拡大が必要となるでしょう。」
現状の出雲の国はカバネの数が少なく、噴流弾や掃射筒などの兵器も出回っていることから駿城の往来も活発になりつつあるし、周辺の国から出雲へと来る駿城も多くなっている。カバネも駿城の移動に釣られて出雲に入った後討伐されているのか、周辺の国も出雲との境辺りはカバネが少なく感じる。
しかしそれは周辺の国に、カバネへの対抗手段があるから生じた結果ではない。故に兵器の販売範囲を拡大し、自衛能力を上げさせる必要があるのだ。出雲の国は二城がかりで守護している状況だが、周辺の国まで二城で守るのは不可能である。かといってもう一城建造しても人が足りない。八代の方にも人を割いているので現状の運用が限界値なのだ。
余所の駅に元武士の流民がいれば引き取ってもいいのだが、流民の中に元武士は中々いない。主君を守って死ぬのが武士なのだ。流民となる生き恥を晒す者が多くないのは当然である。顕金駅には流民上がりの武士が少しばかりいるが、全員最上の配下となっている。菖蒲の護衛であった来栖とその来栖の配下の武士達と違い、最上は堅将付きであったので主君を守れず生き恥を晒していると言える為、まだ劣等感を抱きにくかろうという配慮である。総領であった菖蒲は無事である為、流民上がりの者とは条件は違うのだが、心情的に来栖より最上の方が近いのは確かである。さらに言えば、来栖の配下は元々の経緯から結束も固い。その上菖蒲を守り通し再興まで果たしており、生き恥を晒していた者からすれば眩しすぎるのである。
とまあ人が足りぬという事情故、兵器の販売範囲の拡大が目下の課題となった。
甲鉄城の面子は休暇が言い渡され、最上以外は解散となった。最上は溜まった仕事を片付けるために執務室へと行き書類をさばいた。
「現状ではこれ以上の日数がかかる遠出は無理だな。武士達が仕事を十全にこなせればもう少し余裕もできるが…。というか家老二人が無理なんだよ。服部。家老しないか?」
「できる訳ないでしょう。最近は皆さんも少しずつ余裕が出てきたようですから、もう少し決裁権を下ろしても大丈夫じゃないですかね。」
「ふむ。そうするか。9割片付けてくれればもう少し余裕ができるな。奉行所にいる流民上がりの武士も勘定方に上げるか。なにやら民人で自警団を作ったようだし多少奉行所から人が減ってもなんとかなるだろう。」
「倉之助が喜びますね。年末は死にそうになってましたから、是非増員してあげてください。ですが流民上がりの方々は算盤できるんですか?」
「特段得意という訳ではないだろうができるようだぞ。それに奉行所の和気藹々とした雰囲気が、居心地が悪いようだし丁度いいだろう。」
「あぁ。確かに肩身が狭いかもしれません。その点勘定方は修羅場になってることが多いですし、効率重視だからいいかもしれませんね。」
現在顕金駅において大きな諍いはおきておらず、武士の総数が極端に少ない事を理解している民人達が自警団を組織した。自警団も六頭領の天祐和尚以外がそれぞれ10人規模で組織したもので、多少力に自信のある民人程度の集まりの上私刑は認められていない為、取っ組み合いの喧嘩の仲裁程度なら担当してくれるのだ。必然的に奉行所は仕事が減り、割と人員を持て余し気味であった。対して勘定方は顕金駅が再興すればする程仕事が増えるため、奪還当初から少しずつ人を増やしていたが未だ人員は足りていない。
「流民受け入れでもう少し諍いがおきると思ったが、想定よりはおきなかったな。」
「余所の駅からそのまま引越したならまだしも、流民を経験してますからね。働く場所もなければ食糧もない状態からうちにきたら天国ですよ。六頭領も上手いこと差配してくれてますから。」
「殺さなくてよかった。六頭領。」
「…怖い。」
「これからもきりきり働いて貰おう。適度に美味しい思いをさせれば、多少無茶なことをやらせてもこなすんだから優秀だよ。武士達じゃこうはいかん。」
「悪かったですね。使えなくて。」
「だが六頭領はカバネは殺せんからな。適材適所だ。」
出雲の国は蓬莱城と甲鉄城によりカバネが激減したことで交易が盛んだが、余所の国は出歩く駅と引き篭もる駅に分かれている。引き篭もる駅も食糧生産を産業としている駅以外は、最低限外に出ることを強いられている。駿城を二城所有していればまだマシだが、一城のみの駅などは出る出ないで揉めるらしい。運行表を金剛郭が決めていた時は、定期的に行き来があった駅も今や駿城が立ち寄らない駅もあり、どれだけ揉めても出ざるをえず、今回の米子の駿城のように全滅すれば命の優先順位を決めなくてはならなくなる。食糧生産を主とした駅以外では、自駅の食糧を賄い切れないところが多いからだ。
そもそもカバネを殺せないのが前提なのだ。金剛郭が崩壊したことで嫌々ながら運行表に従っていた駅が尻込みしている。立ち寄る駿城からどこどこの駅がカバネにのまれたと聞くたびに追い詰められているだろう。下手をすると駿城の立ち寄りすら拒む駅も出てきかねないため、早急にカバネを殺す手段を広めて、流通を活性化する必要がある。
「今年は道元様にも出て頂くか。」
「道元様ですか?」
「蓬莱城で余所の国の最大の駅と同盟なり結んでいかねばな。うちだけでやれる範囲は限られているだろ。最盛期の顕金駅の規模の半分でも維持していればもう少しやれるんだが、いかんせん民人に対して武士の比率が低すぎる。もう少し武士が欲しいな。有志の民人も頑張ってくれているから、そちらを育成して武士に引き上げた方が早いかな?」
「蓬莱城の民人なんかは随分手練れになりましたしね。」
「うん。武士に引き上げてもう一城建造するか。八代の行き来くらいなら前衛なしで問題ないし、八代のおもりがなくなるだけで楽になる。いやその前にもう少し流民を引き取るか。城主は流石に今の武士から出して…。道元様に相談しよう。…仕事が増えた。」
「道元様と最上様の思いつきで、新しい仕事が発生するのはいつものことじゃないですか。」
「春に向けて組織再編の案を検討しないとな。」
「その前にこれ片付けてくださいね。」
「わかってるよ。」
服部にせっつかれながら最上は仕事を片付けた。
服部は上三役の秘書ポジです。
ガッツリ一城建造するつもりはないです。奪還作戦時に掩体壕として使用した車両を中心に組み上げられます。つぎはぎ城w
走りゃいいんだよ。の精神。